LS-DYNA — CAE用語解説
LS-DYNA
先生、LS-DYNAってどんなソルバーですか?衝突解析で有名ですよね。
理論と物理
LS-DYNAの基本概念と支配方程式
LS-DYNAでよく言われる「陽解法」と「陰解法」の根本的な違いは何ですか?単に計算が速い遅いという話ではないですよね?
その通り、本質は時間積分の方法です。陽解法は、現在の時刻
ということは、陰解法は逆に連立方程式を解く必要があるから遅い?でも、なぜ衝突のような短時間の現象には陽解法が向いているんですか?
はい、陰解法は
支配方程式は「運動方程式」でいいんですよね?でも、流体や熱伝導も解けると聞きました。それらはどう扱うんですか?
LS-DYNAの根幹は確かにラグランジュ形式の運動方程式ですが、多物理場に対応するために「任意ラグランジュ・オイラー(ALE)」法や「粒子法(SPH)」を導入しています。例えば、流体構造連成(FSI)では、流体にALEを、構造体にラグランジュを適用し、界面でデータを交換します。支配方程式としては、流体には圧縮性のオイラー方程式
「ラグランジュ」と「オイラー」の視点の違いを、LS-DYNAのメッシュで具体的に説明してもらえますか?
はい。ラグランジュメッシュは材料に固定されて変形します。自動車衝突でボディがつぶれると、メッシュも一緒につぶれる。一方、オイラーメッシュは空間に固定され、材料がその中を流れます。ALEはそのハイブリッドで、メッシュをある程度自由に動かせ、大変形時のメッシュの歪み問題を緩和します。LS-DYNAでは*SECTION_SOLIDのELFORMで、1がラグランジュ、11がALEなどと指定します。
数値解法と実装
離散化、要素、ソルバー設定
キーワードファイルでよく見る「Hourglass control」とは何を制御しているんですか?なぜ必要なんですか?
アワグラッシングは、1点積分の低減積分要素(計算が速い)に特有の数値的不安定モードです。要素が変形せずにゼロエネルギーでグニャグニャと歪む現象。これを抑制するのがアワグラッシング制御です。LS-DYNAでは*HOURGLASSカードでタイプを指定します。例えば、IHQ=4(Flanagan-Belytschko粘性型)は衝撃問題に、IHQ=5(Flanagan-Belytschko剛性型)は弾性問題によく使われます。不適切な設定では、過剰な制御力が発生し、結果が硬くなることがあります。
「接触」のアルゴリズムで、「Nodes to Surface」と「Surface to Surface」はどう使い分けるべきですか?
「Nodes to Surface」(NTS)は、片方のサーフェス(主)の節点が、もう片方のサーフェス(従)のセグメントに接触するかをチェックします。計算コストが低いが、非対称。主サーフェスが細かいメッシュの部品に向きます。「Surface to Surface」(STS)は、両方のサーフェスのセグメント同士で接触を判定。対称性が保たれ、接触力の伝達がより正確ですが、約2倍のコスト。板金の成形解析など、両面が重要な接触をする場合にSTSを推奨します。カードでは*CONTACT_AUTOMATIC_SURFACE_TO_SURFACEなどと指定します。
材料モデルがたくさんありますが、例えば鋼材の高ひずみ率変形を扱う「MAT_PIECEWISE_LINEAR_PLASTICITY」の中身はどうなっているんですか?
MAT_24(通称)は、等方性硬化を仮定した弾塑性モデルです。入力は、密度、ヤング率、ポアソン比、降伏応力、そして応力-塑性ひずみ曲線(LCID)です。硬化則は、入力した曲線を区分的線形で補間します。式で書くと、降伏条件はフォンミーゼス
「マススケーリング」は具体的にどのカードで、どのパラメータをいじるんですか?危険な手法と言われる理由は?
*CONTROL_TIMESTEPカードのDT2MSパラメータで、最小時間ステップを持つ要素の質量を人為的に増加させ、ステップを大きくします。例えばDT2MS=-0.9とすると、ステップが10倍に。危険な理由は二つ。第一に、質量が増えるので慣性力が過大評価され、動的応答が不正確になる。第二に、増加した質量が構造の剛性に影響し、固有振動数が下がる。あくまで静的解析や準静的問題の初期段階でのみ、注意深く使用すべきです。実務では、まずメッシュ品質の改善を試みます。
実践ガイド
ワークフローとチェックリスト
衝突安全解析を始める際、前処理で絶対に確認すべき「モデルチェック」の項目を教えてください。
最低限、以下をLS-PrePostやメッシャーのチェック機能で確認します。
計算が途中で「Terminated due to mass increase」で止まります。最初に疑うべきポイントは?
まず、メッシュの大変形による極小要素を疑います。陽解法では時間ステップ
結果の後処理で、エネルギー履歴(GLSTAT)を見る時、どのバランスが理想的なんですか?
エネルギーの収支が取れていることが大前提です。つまり、総エネルギー = 運動エネルギー + 内部エネルギー + 滑り界面エネルギー + アワグラッシングエネルギー が、初期の総エネルギー(ほぼ運動エネルギー)とほぼ一致すること。特に注目すべきは:
実務で「メッシュサイズ」をどう決めていますか?衝突解析の場合。
経験則とトレードオフです。自動車の衝突安全解析では、ボディ全体で平均要素サイズ5-10mmが一般的。ただし、重要な変形・折れ曲がりが発生する部位(前部クラッシュボックス、ピラー)は2-5mmに細かくします。根拠は、板厚の2倍以上の要素長を確保すること(板厚1mmなら要素サイズ2mm以上)。これより細かすぎると計算コストが膨大に。また、接触判定精度も考慮し、接触する部品同士のメッシュサイズは同程度(比率が3倍以内)にすることが、接触力の安定性に寄与します。
ソフトウェア比較
Ansys/LS-DYNA, Abaqus, RADIOSS等との違い
Ansys Mechanicalにも「Explicit Dynamics」モジュールがありますが、LS-DYNAと何が違うんですか?同じAnsys製品ですよね?
歴史とアーキテクチャが全く異なります。Ansys Explicit Dynamics(旧Autodynの技術ベース)は、Ansys Workbench環境に深く統合された「Ansysネイティブ」の陽解法ソルバーです。一方、Ansys LS-DYNAは、Ansysが買収したLSTC(Livermore Software Technology Corporation)のソルバーを、WorkbenchやMechanical APDLから呼び出す形態。前者は設定が簡単で中程度の非線形問題向き。後者は、極限の非線形(爆発、ハイパーインパクト、複雑な接触)や、業界標準の材料モデル(MAT_***シリーズ)を必要とする先端研究・開発で圧倒的な実績があります。
Abaqus/ExplicitとLS-DYNAはどちらも陽解法の雄だと思いますが、強みの違いは?
良い質問です。Abaqus/Explicitは、Dassault Systèmesの一貫したCAE環境(CAD連携から疲労解析まで)の中で、主に製造業(板金成形、ドロップテスト、緩衝包装)での使用に強みがあります。ユーザーインターフェース(CAE)が統合的で学習しやすい。一方、LS-DYNAは「ソルバー」としての性能、特に「高速衝突」「爆発」「兵器の安全性(軍用規格MIL-STD-810のシミュレーション)」「生体傷害解析」など、極めて複雑で過酷な物理現象のモデリング能力でリードしています。また、ユーザー定義サブルーチンの自由度が非常に高いのも特徴です。
Altair Radiossも衝突解析で有名ですが、LS-DYNAとの選択基準は?
Radiossも優れた陽解法ソルバーで、自動車業界(特に欧州)で広く使われています。選択基準は、企業の歴史的な使用実績と、統合環境への依存度が大きい。Altair HyperWorksエコシステム(HyperMesh, HyperView, OptiStruct)を既にメインで使っている企業では、Radiossを選択する流れが自然です。技術的には、Radiossは「ブロック」と呼ばれる並列化アーキテクチャが特徴で、超大規模モデルの並列計算効率に優れると言われます。LS-DYNAは、材料モデルの種類(約300モデル)と、極めて特殊な物理現象(電磁成形、ICFなど)への対応範囲の広さが強みです。
無料・低価格のオープンソースソルバー(CalculiX, Code_Aster)ではLS-DYNAの代用は難しいですか?
用途によります。CalculiXやCode_Asterは陰解法が主で、陽解法の実装はLS-DYNAに比べて未成熟か、存在しません。また、複雑な接触アルゴリズム、高度な材料破壊モデル、ALEやSPHなどの多物理場手法の完成度、そして何より検証・実績の蓄積が桁違いです。研究目的で基本的な衝撃問題を試す分には使えますが、自動車の衝突安全規制(Euro NCAPなど)の認証を目指す開発や、製品の信頼性保証のためには、業界標準であるLS-DYNA, Abaqus, Radiossを使用せざるを得ないのが現実です。
トラブルシューティング
よくあるエラーと対策
計算中に「negative volume in solid element」エラーが出て止まります。これは何が起きていて、どう直せばいいですか?
これは、要素が極度に圧縮またはせん断され、ジャコビアン行列式(体積に相当)が負になったことを意味します。数値的に破綻した状態。原因は主に3つ:
「termination due to shell element thinning」とは?板厚が0になるってことですか?
その通りです。シェル要素の厚さが、初期厚さに対する許容比率(デフォルトで0.1または0.01など)を下回ったために計算を停止します。これは、現実には材料が破断・剥離するような状態。エラーというより安全装置です。対策は、それが物理的に正しい現象なら(例えば板金が引きちぎられる)、*CONTROL_SHELLカードのIRNXXパラメータで、薄くなった要素を自動的に削除(ループアウト)する設定に変更します。非現実的な薄さになる場合は、材料モデル(硬化則)やメッシュサイズを見直し、局部集中変形を緩和します。
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