磁気流体力学(MHD) — トラブルシューティングガイド
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MHD計算の典型的トラブル
MHDの計算で特にハマりやすいポイントを教えてください。
MHD特有のトラブルをパターン別に整理しよう。
1. Hartmann層の未解像で圧力損失が過小
症状: MHDによる圧力損失が理論値より大幅に小さい
原因: Hartmann層(厚さ $\delta_H \sim H/\text{Ha}$)のメッシュ解像度が不足。壁面近傍の速度勾配と電流が正確に計算できていない。
対策:
- Hartmann層内に最低5セル以上配置
- Ha = 100, $H$ = 0.1 m の場合: $\delta_H$ = 1 mm、第一層 = 0.2 mm
- Ha = 1000 の場合: $\delta_H$ = 0.1 mm、第一層 = 0.02 mm
- 壁面近傍のプリズム層成長率を1.1以下に抑える
Hartmann数が大きいほどメッシュ要求が厳しくなるんですね。
2. 電流の保存が破れる
症状: $\nabla \cdot \mathbf{J}$ がゼロにならず、非物理的なチャージアップが発生
原因: 電位のPoisson方程式の解が不十分、または電流密度の計算スキームが保存型でない
対策:
- 電位方程式の収束基準を十分に厳しくする(残差 $< 10^{-8}$)
- 電流密度のフェース値を保存型で計算(勾配のフェース中心評価)
- 壁面の電気的境界条件を確認(絶縁壁: $\partial\phi/\partial n = (\mathbf{u} \times \mathbf{B}) \cdot \mathbf{n}$)
3. 磁場のdiv Bエラー(高Rm問題)
症状: 非物理的な磁気モノポール力が発生し、プラズマの挙動がおかしい
原因: 誘導方程式の離散化で $\nabla \cdot \mathbf{B} = 0$ が数値的に保証されていない
対策:
- Constrained Transport: 磁束をフェースで定義し、正確な離散Stokesの定理で更新
- Divergence Cleaning: $\psi$ を導入し、$\partial\mathbf{B}/\partial t + \nabla\psi = ...$ で磁気モノポールをダンプ
- Powell 8-wave法: ソース項に $-\nabla \cdot \mathbf{B}$ 比例の項を追加して安定化
div B = 0 の維持がMHD計算の命なんですね。
4. 乱流モデルが不適切
症状: MHDで流れが層流化するはずの領域で乱流粘度が過大に計算される
原因: 標準 $k$-$\varepsilon$ モデルはMHDによる乱流抑制効果を考慮していない
対策:
- MHD修正付き乱流モデルを使用(Fluent MHD module に含まれる)
- LESを使用(MHD効果がスケール分解で自然に考慮される)
- DNS(可能な場合)
- Stuart数 $N = \text{Ha}^2/\text{Re}$ が $> 1$ なら、乱流を無視して層流計算から始める
デバッグの手順
MHD計算のシステマティックなデバッグ手順:
1. 磁場なし(Ha = 0) で流れ場を収束させる
2. 弱い磁場(Ha = 10程度) を印加し、Hartmann流れとの比較で実装を検証
3. 磁場を段階的に目標値まで上げる
4. 各段階で圧力損失を理論値と比較: $\Delta p_{\text{MHD}}/\Delta p_0 \propto \text{Ha}^2$ (高Ha極限)
5. 電流密度の分布を可視化し、物理的に妥当か確認
また段階的なアプローチですね。Hartmann数をゼロから徐々に上げていく。
MHDは方程式の連成が強いので、いきなり高Ha数で計算を始めると発散するリスクが高い。Hartmann流れという確立された検証問題があるのは大きなアドバンテージだ。活用しない手はないよ。
MHD CFDが発散する——ローレンツ力項の陰的・陽的処理の選択ミス
MHD(磁気流体力学)CFDで頻出する発散問題:ローレンツ力項J×BをN-S方程式に陽的(Explicit)に加算すると、電流密度Jと速度場uの連成が不安定になりCFLが非常に小さくなければ解が発散する。ハートマン数Ha>100の強磁場条件では特に顕著で、タイムステップをHa²/Re倍に小さくしないと安定しない——これが現実的な計算時間内では不可能な小ささになることがある。解決策は「陰的磁気圧力補正(Implicit Lorentz Force)」スキームを使用するか、誘導方程式(Magnetic Induction Equation)を速度場と完全連成で解く「Full MHD」ソルバに切り替えること。低Rm(磁気Reynolds数<1)の液体金属条件では誘導磁場を無視した「Low-Rm近似」が適用でき、計算を大幅に単純化できる。
トラブル解決の考え方
「解析が合わない」と思ったら
- まず深呼吸——焦って設定をランダムに変えると、問題がさらに複雑になる
- 最小再現ケースを作る——磁気流体力学(MHD)の問題を最も単純な形で再現する。「引き算のデバッグ」が最も効率的
- 1つだけ変えて再実行——複数の変更を同時に行うと、何が効いたか分からなくなる。科学実験と同じ「対照実験」の原則
- 物理に立ち返る——計算結果が「重力に逆らって物が浮く」ような非物理的な結果なら、入力データの根本的な間違いを疑う
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