キャビテーション — CAE用語解説
キャビテーション
先生、キャビテーションってポンプが壊れる現象ですよね? シミュレーションで予測できるんですか?
理論と物理
キャビテーションの物理的定義
キャビテーションって、教科書には「液体中で圧力が蒸気圧以下になり気泡が発生・消滅する現象」と書いてありますが、具体的にどういう状況で圧力が下がるんですか?
良い質問だ。最も典型的なのは、ポンプのインペラや船舶のプロペラの背面だ。流体が物体の表面に沿って高速で流れると、ベルヌーイの定理に従って局所的に圧力が低下する。例えば、回転数3000 rpmの遠心ポンプインペラ先端で、流速が30 m/sから急に低下する領域では、静圧が数100 kPaも低下し、水の場合、常温(25°C)での飽和蒸気圧約3.2 kPaを下回ることがある。これがキャビテーション発生の第一条件だ。
気泡が発生する圧力の閾値が飽和蒸気圧ということは、水温が高いほどキャビテーションは起こりやすいということですか?
その通り。飽和蒸気圧は温度に強く依存する。0°Cで0.6 kPa、50°Cで12.3 kPa、100°Cで101.3 kPaだ。つまり、高温の作動流体を使うシステム、例えば原子炉の一次冷却系ポンプや地熱発電のポンプでは、低温時よりもはるかに低い流速、低い回転数でキャビテーションが始まる。設計時にこれを考慮しないと、想定外のキャビテーション損傷を受ける。
気泡が潰れる時に衝撃波やマイクロジェットが発生して材料を損傷すると聞きました。その破壊力はどれくらいなんですか?
非常に局所的だが、破壊力は極めて大きい。気泡崩壊時に発生する瞬間圧力は、理論的には1 GPa(1000 MPa)を超えるとされる。これはSUS304ステンレス鋼の降伏強さ(約200 MPa)の5倍以上だ。この高圧がマイクロ秒単位で繰り返し作用するため、金属表面にピティング(孔食)を生じさせる。実際、船舶のプロペラや水力発電の水車では、数年で肉厚の数%が侵食される深刻な事例がある。
数値解法と実装
キャビテーションの数値モデリング
CFDでキャビテーションをシミュレーションする時、気相と液相をどう扱うんですか?それぞれのメッシュを別々に作るんですか?
いや、通常は「多相流モデル」の中の「オイラー・オイラー手法」を用い、各計算セルに気相の体積率(Void Fraction)
その「ソース項」の具体的な形は?また、気泡の核になるものはどう設定するんですか?
Schnerr-Sauerモデルを例にとると、蒸気の生成率(凝縮率)
計算が不安定になりそうですが、ソルバー設定で特に気をつける点はありますか?
まず、圧力-速度連成には「Coupled」アルゴリズムが推奨される。気相と液相の密度比が1000倍近くあるため、分離解法(SIMPLEなど)では収束が非常に遅いか発散する。また、時間刻みはキャビテーションのダイナミクスを捉えるために十分小さくする必要がある。インペラ1回転を360ステップで解くような非定常計算が一般的だ。スキームは高次精度(2次以上)を使い、数値拡散で気泡界面がぼやけるのを防ぐ。
実践ガイド
キャビテーション解析のワークフロー
実際にポンプのキャビテーション解析を始めるとしたら、まず何から手を付けるべきですか?
まずは「非キャビテーション条件での単相定常解析」だ。これでポンプの基本性能(揚程、効率)と圧力分布を正しく再現できるかを確認する。ここがずれていると、キャビテーション解析の結果も信用できない。使用する乱流モデルは、壁面近くの圧力勾配を捉えるためにSST k-ωモデルが良い。インペラとケーシングの間のクリアランスも忘れずにモデリングすること。これが漏れ流れと圧力場に影響する。
単相解析が合ったら、次はキャビテーションモデルをONにするわけですが、いきなり設計回転数で解析してもいいですか?
危険だ。まずは「NPSH(正味吸込ヘッド)特性曲線」を取得するための解析条件を設定する。吸入圧力を少しずつ下げ(または回転数を上げ)、キャビテーションが発生し始める限界点(NPSH3: 揚程が3%低下する点)を見つける。例えば、定格回転数で吸入圧力を大気圧から始め、5 kPaステップで下げていく。この過程で、気泡がどこから発生し、どう成長・消滅するかのプロセスを非定常計算で追跡する。
結果の評価では、どんなコンターを見れば「危険なキャビテーション」と判断できますか?
主に3つだ。1. 蒸気体積率(Vapor Volume Fraction)コンター(0.1や0.5の等値面):気泡雲の大きさと位置。インペラ背面全体を覆うのは危険。2. 壁面の圧力分布:蒸気圧以下の領域(<3.2 kPa)の面積と深度。3. 気泡崩壊の位置:圧力勾配を見て、高圧域で気相率が急激に0になる場所。そこがマイクロジェットの衝撃を受ける「破壊ポイント」だ。これらを総合し、ISO 9906やHI 9.6.1などのポンプ規格で定められるNPSH許容値と比較する。
ソフトウェア比較
主要CAEソフトのキャビテーション機能
Ansys FluentとSiemens Star-CCM+でキャビテーション解析をする場合、モデルの選択肢や設定の違いは大きいですか?
基本的な物理モデルは同じだが、実装とユーザインターフェースに違いがある。Fluentでは「Multiphase Model」で「Mixture」または「Eulerian」を選び、「Cavitation」モデルとして「Schnerr-Sauer」「Zwart-Gerber-Belamri」「Singhal」などから選択する。Star-CCM+では「Multiphase」セグメント内で「VOF」や「Eulerian Multiphase」を選び、「Cavitation」モデルを適用する。Star-CCM+はモデルツリーに沿った設定が直感的で、パラメータの探索がしやすい印象だ。
専用のポンプ解析ソフトであるANSYS CFXや、メッシュの柔軟さで知られるOpenFOAMではどうですか?
CFXは「Homogeneous Multiphase Model」に「Rayleigh-Plesset」方程式に基づくキャビテーションモデルを組み込んでいる。ターボ機械用の「Frozen Rotor」や「Stage」インターフェースとの親和性が高く、ポンプ・水車業界で根強い人気がある。OpenFOAMでは「interPhaseChangeFoam」ソルバーなどが利用でき、「Kunz」「SchnerrSauer」「Merkle」などのモデルが実装されている。最大の強みはモデルやソース項をユーザが直接C++でカスタマイズできる点で、研究開発向きだ。
これらのソフトで計算した結果に、ソフト間で大きな差は出るものですか?
同じ物理モデル(例えばSchnerr-Sauer)を使い、メッシュ品質、時間刻み、収束基準を厳密に揃えれば、定量的な結果(NPSH3値、気泡雲の全体形状)はほぼ一致する。しかし、デフォルトのソルバー設定(緩和係数、スキームのブレンド率)や、気泡核のデフォルトパラメータがソフト毎に異なるため、初期設定のままでは差が出る。特に、気泡崩壊に伴う極めて局所的な圧力スパイクの予測値は、数値拡散の影響を受けやすく、ソフト間でばらつきが大きいのが実情だ。
トラブルシューティング
キャビテーション解析のよくある問題
解析を走らせると、流路全体が真っ白(気相率1)になって収束しません。どこを疑えばいいですか?
まず境界条件だ。最も多いのは「圧力出口」の設定ミス。出口圧力を「静圧0 Pa(ゲージ圧)」としている場合、計算領域全体の圧力が蒸気圧以下に引きずられ、液体全体が「沸騰」してしまう。正しくは、系の動作圧力に応じた背圧を設定する。例えば、大気圧下で動作するポンプの出口は「静圧 0 Pa(ゲージ)」で良いが、密閉系の場合はその系の動作圧力(例えば200 kPa)を設定する。初期条件の気相率も、デフォルトの0ではなく、ごく小さい値(1e-6)に設定するのが安定のコツだ。
気泡雲が発生するのですが、その形がギザギザで非物理的です。メッシュを細かくしても改善しません。
それは数値拡散の問題ではなく、おそらく「時間刻みが大きすぎる」のが原因だ。キャビテーション界面の移動速度は速い。時間刻み
実験ではNPSH3が5mなのに、シミュレーションでは7mと過大評価されます。モデルのどのパラメータを調整すべきですか?
まずは「気泡核の数密度」だ。デフォルト値(例えばFluentのSchnerr-Sauerモデルでは初期半径1.0e-6 m、数密度1.0e+13)は清水を想定している。実機の流体には微小な不純物や溶解空気が多く含まれるため、キャビテーションはより起こりやすい。数密度を1.0e+14 や1.0e+15に増やすと、キャビテーション開始点(NPSH3)は実験値に近づく。ただし、この調整は「較正」であり、実流体の物性データに基づいて行うべきだ。むやみに弄ると、気泡雲の挙動そのものが非現実的になる。
非定常計算の結果、気泡雲が一定の周期で振動しています。これは物理的な現象ですか、それとも数値的不安定性ですか?
それは「アタッチド・キャビテーション」に伴う「キャビテーション振動」や「シェディング」という立派な物理現象である可能性が高い。気泡雲が成長して流れを遮ると、その背後で圧力が回復し、雲が剥離・崩壊する。この周期はインペラ羽根の通過周波数や流路の固有振動数と関連し、構造振動や騒音の原因となる。数値的不安定性と見分けるには、振動周波数を求め、メッシュや時間刻みをさらに細かくしても同じ周波数が現れるか確認する。物理的現象なら、メッシュを細かくしても主要な周波数は変わらない。
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