フリス伝達方程式
$$P_r = P_t G_t G_r \left(\frac{\lambda}{4\pi r}\right)^2$$FSPL = 20·log₁₀(4πrf/c) [dB]
ノイズフロア仮定: −100 dBm
アンテナ種別・周波数・送信電力・距離を変えてフリス伝達方程式と自由空間伝搬損失をリアルタイム計算。極座標放射パターンで指向性を視覚的に確認しよう。
FSPL = 20·log₁₀(4πrf/c) [dB]
ノイズフロア仮定: −100 dBm
アンテナ間の電力伝達を計算する基本となる「フリスの伝達方程式」です。自由空間において、送信アンテナから放射された電力がどのくらい受信アンテナで捉えられるかを表します。
$$P_r = P_t G_t G_r \left(\frac{\lambda}{4\pi r}\right)^2$$$P_r$: 受信電力 [W]
$P_t$: 送信電力 [W]
$G_t$, $G_r$: 送信・受信アンテナの利得(無次元)
$\lambda$: 波長 [m]($\lambda = c / f$, $c$: 光速, $f$: 周波数)
$r$: 送受信アンテナ間の距離 [m]
最後の項 $(\lambda/(4\pi r))^2$ は「自由空間伝搬損失」を表す核となる部分です。
伝搬損失をデシベル[dB]で表した「自由空間伝搬損失(FSPL)」です。実務ではこちらの形式で扱うことが多く、通信リンクの予算計算に使われます。
$$FSPL = 20 \log_{10}\left(\frac{4\pi r f}{c}\right) \quad \text{[dB]}$$周波数$f$が高くなるほど、また距離$r$が長くなるほど、損失[dB]が大きくなることがわかります。dB表記では、フリスの式は $P_r[dBm] = P_t[dBm] + G_t[dBi] + G_r[dBi] - FSPL[dB]$ という加算形式で簡潔に表せ、設計が容易になります。
移動通信(5G/6G基地局):都市部ではセルを小さくし、高周波数帯(ミリ波)を利用するため、高いアンテナ利得と鋭い指向性が要求されます。シミュレーターのようなツールで、ビームフォーミングの効果や最適なアンテナ配置を事前検討します。
衛星通信:静止衛星と地上局との間は距離が非常に長いため、伝搬損失が膨大です。この損失を補うため、地上局ではパラボラアンテナ(非常に高い利得)を用い、正確に衛星方向へ指向性を合わせることが生命線です。
無線LAN(Wi-Fi):家庭用ルーターの内部アンテナや、オフィスで使われる「パッチアンテナ」の設計に活用されます。広い範囲を均一にカバーするためには、適度な利得と指向性パターンの設計が重要です。
車載レーダー・センサー:自動運転を支えるミリ波レーダーは、物体までの距離と方向を検知します。ここではアンテナの指向性が分解能(どれだけ細かく方向を識別できるか)に直結するため、シミュレーションによる精密な設計が不可欠です。
このシミュレーターを使い始めるときに、特に気をつけてほしいポイントがいくつかあるよ。まず「利得が高いほど絶対に良い」という誤解だ。確かに八木宇田アンテナのように利得が10dBiを超えると、特定方向への通信距離は伸びる。しかし、その代償としてビーム幅が狭くなる。例えば、スマートフォンのような端末はあらゆる方向から基地局の電波を受信する必要があるから、むしろ全方向性のアンテナが向いている。指向性アンテナは「どこに向けるか」が命なんだ。
次に、シミュレーションは「自由空間」が前提であることを忘れないで。ここでの計算には壁や地面の反射、木々による散乱、雨の影響は一切含まれていない。実際の都市部では、同じ距離でもビル陰では受信電力が20dB以上も低下することは珍しくない。このツールの結果は「最良の条件下での理論値」と捉え、実設計には十分なマージン(例えば10〜20dB)を見込むことが鉄則だ。
最後に、パラメータ設定の落とし穴。周波数と波長はトレードオフの関係にある。フリスの式を見ると、受信電力は波長λの2乗に比例するよね?つまり、同じ距離なら、周波数が低い(波長が長い)ほど伝搬損失は小さい。例えば、2.4GHz(Wi-Fi)と28GHz(5Gミリ波)では、周波数が約11.7倍だから、損失の差は20*log10(11.7) ≒ 21dBにもなる。高周波数帯を使うなら、高い利得で損失を補う必要があるんだ。
このツールの核心である「フリスの伝達方程式」と「指向性パターン」の考え方は、実はアンテナ工学以外の様々な分野にも応用されている。まずは音響工学だ。スピーカーやマイクの指向性パターンは、アンテナの放射パターンと数学的に非常に似通っている。指向性マイクで特定方向の音を拾う技術は、八木宇田アンテナの原理と通じるものがあるよ。
もう一つはレーダー・センシング技術。自動車のミリ波レーダーは、鋭いビームを発射し、対象物からの反射波を受信して距離や相対速度を算出する。ここで重要な「レーダー方程式」は、フリスの方程式に反射断面積などの項を加えたものだ。シミュレーターで指向性を鋭くするとビームが細くなることを確認したと思うが、レーダーではこれが「角度分解能」の向上につながる。
さらに医用イメージングの分野でも応用が見られる。超音波診断装置のプローブ(探触子)は、多数の素子を配列し、各素子から発射される超音波の位相を制御することでビームを形成・走査する。これはアンテナ技術でいうフェーズドアレーやビームフォーミングそのものだ。電波と超音波では媒質は違うが、波動現象としての本質は同じなんだ。
もしこのシミュレーターに興味を持ち、もっと深く知りたいと思ったら、次のステップを踏んでみるといい。まずは「アンテナの動作原理を電磁気学から理解する」こと。ツールで選べるアンテナの違いは、導体に高周波電流を流した時にどうやって電磁波が効率的に放射されるかの違いだ。半波ダイポールの長さが波長の1/2なのは、そこで電流分布が最大となり放射効率が最高になるから、といった背景を学ぼう。
その上で、ツールの背後にある計算を「手で追ってみる」ことを強く勧める。例えば、送信電力1W、送受信アンテナ利得2.15dBi(半波ダイポール)、周波数1GHz、距離100mの条件を設定しよう。この時、受信電力$P_r$はフリスの式でどう計算できるか?波長$\lambda = 0.3m$、伝搬損失項は$(\lambda/(4\pi r))^2 = (0.3/(4\pi*100))^2 \approx 5.7 \times 10^{-8}$となる。つまり、$P_r = 1 \times 1.64 \times 1.64 \times 5.7 \times 10^{-8} \approx 1.53 \times 10^{-7}$ Wとなる。これをdBmに換算すると約-38dBmだ。シミュレーターの結果と一致するか確かめてみよう。この「手を動かす」過程で、各パラメータの影響が体感的に理解できるようになる。
次のトピックとしては、「現実の伝搬モデル」に進むのが良い。自由空間モデルの次は、地面反射を考慮した2波モデル、都市部のセルラ通信で使われるOkumura-Hataモデルなどを学ぶと、一気に実務に近づく。また、シミュレーターで単一アンテナを扱った後は、複数のアンテナ素子を組み合わせてビームを自在に制御するMIMOやビームフォーミングの技術を学ぶと、現代の5G/6Gの核心に触れることができるよ。