$\quad - 17.7N_i - 12.1C_r - 7.5M_o$ (°C)
マルテンサイト分率(Koistinen-Marburger):
$f_M = 1 - \exp(-0.011(M_s - T_q))$
炭素量・合金系・冷却速度を変えてCCT図と冷却曲線をリアルタイム表示。マルテンサイト変態点・推定硬さ・組織分率を即座に確認できます。
自動車部品の熱処理設計:エンジンやトランスミッションに使われるギアやシャフトは、高い強度と耐摩耗性が要求されます。CCT図を用いて、部品のサイズ(冷却速度に影響)と材料成分から、芯部までマルテンサイトが得られる焼入れ条件を決定します。
工具鋼の開発:切削工具や金型用の鋼は、非常に高い硬度が必要です。シミュレーターで様々な合金元素(タングステン、バナジウム等)の影響を加味したCCT図を予測し、焼入れ時の変形や割れを抑えつつ最高硬度を得る組成を探索します。
溶接部の組織制御:溶接では溶接部とその周辺(熱影響部)が急熱急冷されます。母材のCCT図を参照することで、溶接後の熱影響部に硬くてもろいマルテンサイトが生成するリスクを評価し、予熱や後熱の条件を最適化します。
省エネルギー熱処理の実現:従来の水焼入れではなく、油焼入れや空冷で所望の硬度を得られれば、省エネルギーかつ変形・割れが少なくなります。目標硬度を得られる限界の冷却速度(臨界冷却速度)をCCT図から読み取り、より温和な熱処理プロセスを設計します。
このシミュレーターを使い始めるときに、特に現場経験の浅いエンジニアが陥りがちな落とし穴がいくつかあります。まず一つ目は、「冷却速度」の値の現実的な意味を理解していないことです。シミュレーター上で「100℃/s」と設定しても、実際の部品でその冷却速度が実現できるかは別問題。例えば、直径50mmの丸棒を水焼入れした場合、表面と芯部では冷却速度が10倍以上違います。ツールで理想的な組織を得られても、部品のサイズ(質量効果)を無視した熱処理設計は失敗します。
二つ目は、合金元素の効果を単純に足し算して考える誤解です。確かにAndrews式は線形ですが、元素間には相互作用があります。例えば、CrとMoを同時に添加すると、焼入れ性の向上効果は単独添加の和よりも大きくなる(相乗効果)ことが知られています。シミュレーターはあくまで標準的なモデルに基づくため、特殊な高合金鋼では予測と実測がずれる可能性がある点に注意が必要です。
三つ目は、硬さだけを見て組織を判断すること。マルテンサイト分率90%と10%では硬さが大きく違いますが、同じマルテンサイト分率90%でも、残りの10%が微細なベイナイトか粗大なフェライトかで靭性は雲泥の差です。シミュレーターの組織分率は重要な指標ですが、「硬さが合格ならOK」ではなく、想定される組織の形態まで想像することが、割れや脆性破壊を防ぐコツです。
S55C(炭素0.55 wt%)鋼において、冷却速度50 °C/sでシミュレーションした場合、Ms温度は約340°C、推定硬さはHV 450相当、HRC 42程度となります。同じ鋼を500 °C/sで急冷すると、Ms温度は変わりませんが組織がマルテンサイト優先となり推定硬さはHV 680、HRC 62に上昇します。対照的に冷却速度が5 °C/sの徐冷では、パーライト・フェライト混合組織となり推定硬さはHV 200程度に低下します。