Carreau-Yasuda モデル
$$\eta = \eta_0\left[1+(\lambda\dot{\gamma})^a\right]^{\frac{n-1}{a}}$$
べき乗則: $\eta = m\,\dot{\gamma}^{n-1}$
溶融温度±40°Cの範囲でゼロせん断粘度のアレニウス依存性(近似)
Carreau-Yasudaモデルとべき乗則でポリマーの粘度曲線をリアルタイム計算。ゲート圧力損失・冷却時間まで算出し、射出成形CAEの初期検討を支援する。
$$\eta = \eta_0\left[1+(\lambda\dot{\gamma})^a\right]^{\frac{n-1}{a}}$$
べき乗則: $\eta = m\,\dot{\gamma}^{n-1}$
溶融温度±40°Cの範囲でゼロせん断粘度のアレニウス依存性(近似)
ポリマー溶融樹脂のせん断速度依存性を記述する代表的なモデルです。低せん断速度域での定粘度(第一ニュートン域)と高せん断速度域でのべき乗則に従う擬塑性挙動を、パラメータ a で滑らかに接続します。
$$\eta(\dot{\gamma}) = \eta_0\left[1+(\lambda\dot{\gamma})^a\right]^{\frac{n-1}{a}}$$η: せん断粘度 [Pa·s]
η₀: ゼロせん断粘度(低せん断速度でのプラトー粘度)[Pa·s]
λ: 緩和時間 [s]。粘度低下が始まるせん断速度の目安(1/λ)を与える。
n: 流動指数。擬塑性の強さを表し、n<1でせん断稀化を示す。
a: Yasuda指数。定粘度域からべき乗則域への遷移の鋭さを制御。
$\dot{\gamma}$: せん断速度 [1/s]
円形流路(ゲート)をポリマーが流れる際の圧力損失ΔPを計算する式です。非ニュートン流体のべき乗則モデルに基づいて導出されます。
$$\Delta P = 2 \cdot \frac{3n+1}{n \cdot \pi}\cdot \left(\frac{Q}{R^3}\right)^n \cdot m \cdot L$$ΔP: 圧力損失 [Pa]
Q: 体積流量 [cm³/s]
R: ゲート半径 [mm]
L: ゲート長さ [mm]
n: 流動指数
m: べき乗則の粘度係数 [Pa·sⁿ]。計算時のせん断速度におけるCarreau-Yasudaモデルまたはべき乗則の粘度値から算出。
射出成形金型設計:ゲートサイズやキャビティレイアウトを決定する際、このツールのような計算で圧力損失を予測します。圧力損失が大きすぎると成形機の能力不足でショートショット(充填不足)が、小さすぎるとジェッティング(乱流)が発生するため、最適設計に不可欠です。
成形材料の選択・評価:異なるメーカーの同じ材質(例えばPP)でも、添加剤や分子量分布により粘度曲線は異なります。既存金型で新規材料を使用する際、粘度曲線と圧力損失をシミュレーションし、成形可能性を事前検証します。
成形条件の最適化:射出速度(流量Qに相当)を変更した時の、ゲート通過時の粘度と発熱量の変化を推定できます。これにより、焼けや分解を防ぎつつ、最短充填時間を求める条件設定に役立ちます。
CAEソフトウェアの前処理・検証:本格的な3D充填解析を行う前に、代表的なゲートでの圧力損失を簡易計算し、入力した材料データ(Carreau-Yasudaパラメータ)や境界条件が妥当かどうかを手軽にチェックする目的で利用されます。
このツールを使い始める際、特にCAE初心者がハマりがちな落とし穴がいくつかあります。まず一つ目は、「プリセット材料のパラメータは絶対的な定数ではない」という点。例えば「PC」と一口に言っても、メーカーやグレード(高流動、難燃など)によって粘度特性は大きく変わります。ツールのプリセット値はあくまで代表値。実際の成形材料のデータシートにある粘度曲線と見比べて、必要ならλやnを微調整する姿勢が大切です。
二つ目は、ゲート圧力損失計算の前提条件を見落とすこと。計算式は「完全に発達した円形流路内の層流」が前提です。つまり、実際のゲート入口部の絞り込み損失や、金型温度による壁面での固化層(フローズンスキン)の影響は含まれていません。計算値はあくまで理論上の最小圧力損失と考えるべきで、実際には1.5倍から2倍の安全マージンを見込むのが現場の知恵です。
三つ目は、冷却時間計算を過信しないこと。ツールの冷却時間は、一定温度の金型壁面への熱伝導のみに基づいた理論計算です。しかし実成形では、冷却水路の配置や流量、樹脂の結晶化発熱など複雑な要素が関わります。この計算値は「冷却のオーダーを把握する」ための参考値。例えば計算が10秒なら、実際のサイクルタイムは12〜15秒程度になることが多い、といった相関で捉えましょう。
このツールで扱っている非ニュートン流体の粘度モデルと流動解析は、射出成形以外の幅広い工学分野の基礎となっています。例えば塗料や化粧品のレオロジー。ヘアジェルをチューブからゆっくり出す時と、手に取って素早く伸ばす時の感触の違いは、まさにせん断速度依存性です。品質管理では、このツールで使うCarreauモデルと同様のモデルで特性を評価します。
もう一つは食品工学。ケチャップやマヨネーズは、ゆっくり傾けても出てこないが(高いゼロせん断粘度)、振ったり強い力を加えると流動する(せん断稀化)。これはチキソトロピーという時間依存性も伴いますが、基本となるせん断稀化挙動の理解は同じです。さらに、血液流動学(バイオレオロジー)でも、血管内のせん断速度で血液粘度が変化する挙動は、ポリマー溶融樹脂の解析と数学的に類似しています。
このように、一つのツールで学んだ「非ニュートン流体の考え方」は、材料が変わっても応用が利く普遍的な工学言語なのです。
このツールの計算に慣れて「なぜ?」が湧いてきたら、次のステップに進みましょう。まずは「レオロジー」という学問を概観することをお勧めします。特に、粘度曲線の低せん断速度域に現れる第一ニュートン域は、分子鎖が絡み合った状態での緩和現象と深く関係しています。パラメータ「λ(緩和時間)」の物理的意味を理解するには、マクスウェルモデルなどの基礎的な粘弾性モデルを学ぶと目から鱗が落ちます。
数学的な背景としては、非ニュートン流体力学におけるべき乗則の導出を追ってみてください。円管内流れの速度分布を仮定し、せん断応力のバランスから導かれる次の式が起点になります。 $$ \Delta P \cdot \pi r^2 = \tau \cdot 2\pi r L $$ ここから、せん断応力τとせん断速度$\dot{\gamma}$の関係をべき乗則($\tau = m \dot{\gamma}^n$)で結びつけることで、ツールで使っている圧力損失の式が導けます。この導出プロセスを理解すれば、式の中の「3n+1」などの係数の意味も腑に落ちるはずです。
次の実践的なトピックとしては、「金型内の多様な流路形状(長方形、薄平板)への拡張」に挑戦しましょう。円形流路の式を、水力半径の概念を使って近似する方法があります。これが理解できれば、実際の金型キャビティやランナー内のより現実的な圧力損失予測に一歩近づけます。