粘性モデル式
Newton: $\tau = \mu \dot\gamma$Power-law: $\tau = K \dot\gamma^n$
Bingham: $\tau = \tau_0 + \mu_p \dot\gamma$
H-B: $\tau = \tau_0 + K \dot\gamma^n$
Arrhenius: $\mu(T) = A e^{E_a/RT}$
ニュートン流体・べき乗則・ビンガム塑性体などの粘性モデルをせん断応力-せん断速度図で比較。温度依存性・管内流れへの応用も計算。
せん断応力τとせん断速度$\dot{\gamma}$の関係を規定する、4つの代表的な構成式(コンスティテューティブ方程式)です。これらが流体のレオロジー挙動を決定します。
$$ \begin{align*}&\text{Newtonian:}& \tau &= \mu \dot{\gamma}\\[4pt] &\text{Power-law:}& \tau &= K \dot{\gamma}^{\,n}\\[4pt] &\text{Bingham:}& \tau &= \tau_0 + \mu_p \dot{\gamma}\quad (\text{for }\tau > \tau_0)\\[4pt] &\text{Herschel-Bulkley:}& \tau &= \tau_0 + K \dot{\gamma}^{\,n}\quad (\text{for }\tau > \tau_0) \end{align*}$$τ: せん断応力 [Pa]
$\dot{\gamma}$: せん断速度 [1/s]
μ: 粘度 [Pa·s] (ニュートン粘度)
K: 稠度係数 [Pa·sn] (べき乗則の「濃さ」を表す)
n: 流動指数 [-] (n<1でせん断稀化、n>1でせん断稠化)
τ₀: 降伏応力 [Pa] (流動開始に必要な最小応力)
μp: 塑性粘度 [Pa·s] (降伏後の流れにくさ)
多くの流体の粘度は温度に強く依存します。その関係を記述する最も一般的なモデルがアレニウス式です。シミュレーターの「温度依存性」タブで確認できます。
$$ \mu(T) = A \exp\left(\frac{E_a}{R T}\right) $$μ(T): 温度Tにおける粘度 [Pa·s]
A: 頻度因子 [Pa·s] (材料定数)
Ea: 流動の活性化エネルギー [J/mol] (粘度の温度依存性の強さ)
R: 気体定数 (8.314 J/(mol·K))
T: 絶対温度 [K]
温度が上がると指数関数の分母が大きくなり、粘度μが低下することを表しています。潤滑油やポリマー溶融体の挙動を理解する上で重要です。
食品・化粧品産業:マヨネーズ(ビンガム塑性体)は塗る時に「のび」、ケチャップ(せん断稀化流体)は振ると出やすくなります。レオロジー設計により、使い勝手(ユーザビリティ)と容器からの排出性が決まります。シミュレーターでτ₀やnを調整することで、理想的な食感や使用感を数値的に探れます。
高分子・プラスチック加工:プラスチックの射出成形では、金型内を流れる溶融樹脂(強いせん断稀化を示す)の挙動を正確に予測する必要があります。粘度の温度依存性(アレニウス式)も考慮し、最適な成形温度と圧力を決定します。CAEソフトウェアでは、このような非ニュートンモデルが標準で組み込まれています。
土木・建設材料:生コンクリートは降伏応力を持つ塑性体として扱われます。ポンプで輸送する時は流動し(τ > τ₀)、打設後は形状を保持(τ < τ₀)するという相反する要求を、配合設計で最適化します。シミュレーターの「管内流れへの応用」計算は、このような配管設計の基礎になります。
バイオ・医療分野:血液はせん断稀化を示す非ニュートン流体です。細い毛細血管と太い動脈では流動挙動が異なり、これが血栓形成や循環器疾患に関わります。人工血管や血液ポンプの設計には、べき乗則やカッソンモデルなどのレオロジーモデルが活用されています。
まず、「粘度μ」と「稠度係数K」は単位が違うので単純比較できないってことを押さえよう。ニュートン流体の粘度μの単位は[Pa·s]だけど、べき乗則のKの単位は[Pa·sn]。nが1でないと次元が変わっちゃうんだ。例えば、K=10 Pa·s0.5 の流体が「粘度10」のニュートン流体より粘いか?それは一概に言えない。せん断速度1 1/sの地点で比較すると同じだけど、速度が変わると逆転することもある。シミュレーターで両モデルを並べて、全範囲で比較する癖をつけよう。
次に、ビンガム塑性体の「塑性粘度μp」は、降伏後の「見かけの粘度」ではないという点。降伏して流れ始めた後の流れにくさを表すパラメータだけど、実際の見かけ粘度ηは η = τ/γ̇ = τ0/γ̇ + μp になる。つまり、せん断速度が低いほどτ0/γ̇の項が効いて見かけ粘度がめちゃくちゃ高くなる。チューブからゆっくり押し出すのと、勢いよく押し出すのとで感じる抵抗が全然違うのはこのためだ。実データをフィッティングする時は、低せん断速度域のデータをきちんと取らないとμpとτ0を正しく見積もれないよ。
最後に、「べき乗則のn」は万能パラメータじゃないこと。n<1のせん断稀化流体でも、せん断速度を極端に上げると分子鎖が引きちぎられたりして、結局ニュートン的な挙動に戻ることが多い。べき乗則は中間のせん断速度域を良く記述する「近似モデル」だと思っておこう。実務では、対象となるプロセス(例えば、コーティング時のせん断速度や、充填時のせん断速度)が、そのモデルの有効範囲内にあるかを常に確認する必要がある。
このツールで扱うレオロジーモデルは、高分子加工の分野では必須の知識だ。例えば、プラスチックを金型に射出成形する時、溶融樹脂は高いせん断速度でノズルを通る(せん断稀化が効いて粘度が下がり、充填しやすくなる)。その後、金型内で冷却される際の粘度の温度依存性が収縮や反りに直結する。シミュレーターで「べき乗則」と「温度依存性」を組み合わせて考える練習は、このプロセスを理解する第一歩になる。
食品工学でも広く応用されている。先ほど出た歯磨き粉(ビンガム塑性体)だけでなく、マヨネーズ、ケチャップ、ヨーグルトなどは全て降伏応力を持つ。この特性が「容器から出しやすいが、パンやお皿の上では形を保つ」という機能を実現している。また、チョコレートのテンパリング(調温)は、粘度と温度の関係(アレニウス式)を精密に制御する作業そのものだ。
さらに化粧品・ヘルスケア分野では、「塗布感」の設計がレオロジーに依存する。肌に伸ばす時は低い力でせん断稀化してなじみやすく(n<1)、しかしボトルから出す時はサラッと出て(τ0が小さい)、手の上ではドーム状に形を保つ(τ0が適度にある)という、複雑な要求を満たす設計がなされている。シミュレーターで各パラメータがグラフの形状にどう影響するかを理解すれば、こうした製品設計の根幹に触れることができる。
まず次のステップとしては、「見かけ粘度」の概念を完全に自分のものにしよう。全てのモデルにおける見かけ粘度ηは η = τ / γ̇ で定義される。この式に各構成式を代入してみるといい。例えば、べき乗則なら η = K γ̇n-1 となる。n<1ならγ̇が増えるとηが減る(せん断稀化)ことが数式的にもはっきりする。この「見かけ粘度曲線」を頭で描けるようになると、実データを解釈する力が格段に上がる。
数学的背景として、「テイラー展開」の視点を持つのも面白い。多くの非ニュートン流体モデルは、より複雑な現象を、せん断速度γ̇を変数とする級数で表現しようとする試みの一形態と見なせる。例えば、べき乗則は対数を取ると log τ = log K + n log γ̇ という直線になる。実測データの両対数プロットが直線なら、それはべき乗則でよく記述できることを意味する。この「データをどうプロットすれば線形に見えるか」を考えることは、工学研究の基本だ。
最後に、このツールで学んだことを発展させるなら、「時間依存性」に目を向けてみよう。ここまでのモデルは、せん断速度を与えた瞬間の応力だけを考えた(定常流動)。しかし、ヨーグルトをかき混ぜて放置すると元の硬さに戻るような、チクソトロピーと呼ばれる現象は、応力や粘度が「時間」によっても変化する。これが塗料の「垂れ」や「刷毛跡」といった問題に直結する。定常流動の理解が固まったら、ぜひこの時間依存性の世界にも踏み込んでみてほしい。