外壁駆動雨 WDR ファサード負荷シミュレーター 戻る
建築外皮・防水設計

外壁駆動雨 WDR ファサード負荷シミュレーター

風が水平方向に運ぶ雨(Wind-Driven Rain)が建物外壁に与える負荷をリアルタイム計算します。雨量・風速・風向・建物高さ・地形・ファサード材を変えると、WDR強度、ファサード動圧、ASTM E331/AAMA 501.1 試験圧との余裕がその場で更新され、レインスクリーンやシール設計の判断材料になります。

パラメータ設定
雨量 R
mm/h
1時間あたりの降雨強度(強い豪雨は20〜50mm/h)
風速 V
m/s
基準高さ10m での自由流風速
風向
壁面に対する風の入射角
建物高さ h
m
べき乗則で高さ風速プロファイルを補正
ファサード材
外壁材種別(参考)
地形条件
外形係数 Cp が変化(海岸が最大)
相対湿度 RH
%
壁面の乾燥(蒸発)速度に影響
計算結果
WDR 強度 (L/m²/h)
平均雨粒径 D50 (mm)
終端速度 V_t (m/s)
高さ修正風速 V_h (m/s)
ファサード動圧 p (Pa)
試験合格マージン (Pa)
ファサード × 駆動雨アニメーション

風と雨粒の入射角・終端速度・壁面跡を可視化。壁の濡れ強度が WDR 強度に応じて変化します。

WDR 強度 vs 風速
地形別 Cp 比較
理論・主要公式

$$WDR = R \cdot \frac{V}{V_{term}} \cdot \cos\theta,\qquad p_{facade} = C_p \cdot \tfrac{1}{2}\rho V_{h}^2$$

R=降雨強度 (mm/h)、V=風速 (m/s)、V_term=雨粒の終端速度 (m/s)、θ=壁面法線と風の角度、Cp=外形係数(地形依存)、V_h=高さ修正風速。

$$D_{50} = 0.5 + 0.4\,(R/10)^{0.232},\qquad V_{term} = 9.65 - 10.3\,e^{-0.6 D_{50}}$$

Marshall-Palmer (1948) の中央雨粒径と Gunn-Kinzer (1949) の終端速度。降雨強度が大きいほど粒径と終端速度が増す。

$$V_h = V_{10} \cdot (h/10)^{0.143}$$

Hellmann のべき乗則で 10 m 基準風速を任意高さに補正(係数は開放地で 0.143、市街地ではより大きい)。

外壁駆動雨 WDR — ファサード防水・耐水試験

🙋
「外壁駆動雨」って、ただ雨が壁に当たるだけじゃないんですか?特別に名前を付けるほど何か違うことがあるんでしょうか?
🎓
いいところを突くね。同じ降雨でも風が無ければ雨はほぼ垂直に落ちて、外壁にはほとんど当たらず屋根や軒で受けられる。ところが風が吹いた瞬間、雨粒は水平成分を持って外壁に「ぶつかってくる」。Lacy (1965) はこれを WDR = R·V/V_t·cosθ という驚くほどシンプルな式で表したんだ。例えば降雨 25 mm/h で風 15 m/s だと、1平方メートルあたり毎時 100 リットル近い水が壁に直撃する。屋根防水と外壁防水で考え方を分ける理由はここにあるんだよ。
🙋
100リットルって、バケツ何杯分ですよね…。でもファサードってシーリングやガスケットでちゃんと止水してあるはずですよね?それでも漏れるんですか?
🎓
「ちゃんと止水してある」の試験基準が ASTM E331 と AAMA 501.1 で、137 Pa (5.5 psf) という差圧で15分間漏水ゼロが最低ラインなんだ。ところがこのツールで風速 25 m/s・建物 100 m・海岸条件にするとファサード動圧は 500〜1000 Pa を簡単に超える。試験圧の数倍の差圧がかかれば、シーリングの微小な不具合からも水は容赦なく押し込まれる。だから商業ビルでは設計圧を試験圧の 4〜8 倍に取り、それでも超える場合はレインスクリーン化を検討するんだ。
🙋
レインスクリーン? なんとなく聞いたことはありますが、普通のシーリングと何が違うんですか?
🎓
Pressure-Equalized Rainscreen と呼ぶ二層構造で、外装材の裏に通気層を作り、外装材の表と裏の圧力差をほぼゼロにする仕組みなんだ。駆動圧が消えるから雨水を押し込むエネルギーが無くなり、残るのは毛細管浸入と慣性浸入だけ。実測で 90% 以上の浸入低減が確認されていて、EQUITONE Tonality や ALPOLIC のようなパネル系では標準採用だよ。シーリングを増やすより構造で止水するわけだ。
🙋
事故事例だと、シカゴのシアーズタワーや John Hancock Tower の話を聞いたことがあります。あれは設計ミスだったんでしょうか?
🎓
John Hancock Tower (Boston, 1973) は熱応力+風圧で 60階建ての全 10,344 枚のガラスが順次脱落して全交換になった有名事例だね。Sears Tower でも 1981 年に高層階のガラス落下があった。1990 年代以降は風洞試験+WDR 解析が必須化されて、Eurocode EN 1991-1-4 と ISO 15927-3 がそれを支えている。WUFI Pro、Delphin、HAMcat のような熱湿気同時解析ソフトで Wall Assembly の 1D/2D Moisture Transport を解いて、結露と凍結融解まで予測する時代になったんだ。本ツールはその入口の概算として、設計初期に「WDR 圧 vs 試験圧」のバランスを掴むことが目的だよ。

よくある質問

WDR は風によって水平方向成分を持つ雨で、屋根ではなく外壁・サッシ・継手に直接吹き付ける降水を指します。Lacy 1965 の関係式 WDR = R·V/V_t·cosθ で量を概算し、R は降雨強度 (mm/h)、V は風速 (m/s)、V_t は雨粒の終端速度 (m/s)、θ は風と壁面法線の角度です。降雨 25 mm/h で風速 15 m/s なら 1平方メートルあたり毎時 50〜100 リットルもの水が壁に当たり、シールやガスケットの浸入・劣化の主要な原因になります。ISO 15927-3 と DIN 4108-3 で標準的な定量化手順が定義されています。
ASTM E331 は静的に 137 Pa (5.5 psf) の差圧をかけながら 3.4 L/m²/min の散水を15分行い、漏水ゼロを要求する基準試験です。AAMA 501.1 はそれを動的(プロペラ風)で行います。商業ビルでは設計圧をこの 4〜8 倍(548〜1098 Pa)に取るのが一般的で、本ツールはファサード動圧(Cp×0.5ρV²)と試験圧の余裕を Pa 単位で表示します。動圧が試験圧を超えると、現行のシール仕様では浸入リスクが高く、レインスクリーン化や試験圧の引き上げが必要です。
地表近くは摩擦で風速が落ち、高さとともに増加します。簡易には V(h)=V₁₀·(h/10)^α のべき乗則を使い、α は地表粗度で決まります(市街地で約 0.25〜0.35、郊外 0.20、開放地 0.14、海岸 0.10)。本ツールは Hellmann の係数 0.143(開放地相当)で高さ修正風速を算定し、動圧 q = 0.5·ρ·V_h² と外形係数 Cp を掛けてファサード圧 p = Cp·q を出します。Eurocode EN 1991-1-4 や日本の建築基準法施行令 87 条で公式的にはより詳細なプロファイルが定義されています。
Pressure-equalized rainscreen は外装材の裏に通気層を設け、外装材と裏面の圧力差をほぼゼロにします。これにより駆動圧がなくなり、毛細管浸入と慣性浸入だけが残るため、雨水侵入は実測で 90% 以上低減します。Drained-and-back-ventilated cavity wall(EQUITONE Tonality 等)が代表例。本シミュレーターのファサード圧と試験圧の余裕が常に小さい設計では、シール強化よりレインスクリーン採用の方が建物寿命全体の漏水リスクを下げます。

実世界での応用

高層ガラスカーテンウォールの仕様検討:東京・大阪・シンガポール・ニューヨーク等の海岸近接立地では、風洞試験と本ツールのような WDR 概算を併用して、ファサード動圧が ASTM E331 試験圧の 5〜10 倍に達するゾーン(コーナー部・最上層・吹き抜け)を抽出します。該当ゾーンはシーリング3重化・水返し金物追加・気密シール改良で対応し、それでも余裕が小さい場合は Unitized Curtain Wall の Pressure-Equalized 仕様(Schüco USC 65 等)に切り替えます。

低層商業施設の漏水トラブル診断:築 5〜15 年のショッピングモール・物流倉庫で多発する「特定方向の強風時のみ漏水」事案では、本ツールで方位別 WDR 強度を試算して、漏水箇所と一致する方角の動圧が試験圧を超えていないかを確認します。超えている場合はシーリング劣化ではなく設計仕様の不足が原因なので、再シールではなくレインスクリーン化や外装材の更新計画につなげます。

歴史的レンガ壁の凍結融解リスク評価:WUFI Pro や Delphin に渡す境界条件としての WDR 強度を、本ツールで現地気象条件(東京で年最大 35 mm/h、台風時 60 mm/h、平均風速 8〜15 m/s)から算出します。レンガは多孔質で吸水するため、WDR 強度 × 吸水率で年間吸水量を推定し、冬期の凍結融解サイクル数と組み合わせて剥離リスクを定量化します。明治・大正期の煉瓦倉庫の保存計画でよく用いられる手法です。

BIPV(建材一体型太陽電池)パネルの防水設計:ガラス基板の太陽電池モジュールを外壁に組み込む BIPV では、モジュール周辺シールに通常のサッシより厳しい防水性能が要求されます。本ツールで該当建物の WDR 強度とファサード圧を推定し、IEC 61215 の Damp Heat 1000h と組み合わせて、25年保証期間中の浸水・電気故障リスクを評価します。

よくある誤解と注意点

最初の落とし穴は「ASTM E331 の 137 Pa をクリアすれば実際の風雨でも大丈夫」という思い込みです。137 Pa は「最低限の品質検査用の基準値」であって、台風や強風雨条件の設計圧ではありません。本ツールで分かるように、高層階や海岸条件では実環境のファサード動圧は容易に 500〜1500 Pa に達します。試験圧の 4〜8 倍を設計圧として要求するのが商業ビルの慣行で、これを怠ると 5〜10年後に大量シール打ち替えという高コスト改修につながります。Spec を書く設計者は「Test Pressure」ではなく「Design Pressure」で要求してください。

2つ目は「Cp は全方位で同じ値で良い」という単純化です。実際の建物では外形係数 Cp は壁面の方位・高さ・隅角からの距離で大きく変動し、コーナー部では本ツールの中央値の 1.5〜2.5 倍に達することが風洞試験で確認されています。Eurocode EN 1991-1-4 はゾーン A〜E に分けた Cp テーブルを提供し、コーナーの 2D 幅は建物幅の 0.2 倍 or 高さの 0.2 倍の小さい方で定義されます。設計初期は本ツールの平均的 Cp で当たりを付け、最終仕様前に風洞試験または CFD(OpenFOAM、ANSYS Fluent)で局所 Cp を確認してください。

最後は「降雨強度 R が同じなら WDR も同じ」という誤解です。Lacy 式の通り WDR は R に風速 V/V_t を掛けたものなので、同じ 25 mm/h でも風速 5 m/s と 25 m/s では WDR が 5 倍違います。日本の気象データで年間最大の WDR が出るのは「最大降雨日」ではなく「中程度の雨+台風や寒冷前線の強風」の組み合わせ日が多いです。設計時は気象台の時別データから R と V の同時確率分布を取り、99 パーセンタイル相当の WDR を設計負荷にするのが ISO 15927-3 の推奨手順です。

使い方ガイド

  1. 降雨量(mm/h)と風速(m/s)を入力してください。日本の設計基準では沿岸部で風速30m/s、降雨量50mm/hを想定することが多くあります。
  2. 建物高さ(m)と相対湿度(%)を設定します。高層建築では高さ20m以上で風速補正が顕著に作用し、WDR強度が1.5~2倍に増加します。
  3. 計算結果のファサード動圧をASTM E331の参照圧力(250Pa~1000Pa)と比較し、余裕度を確認します。石造りやALC外壁は500Pa以上の安全マージンが推奨です。

具体的な計算例

RC造共同住宅、軒高15mで降雨量40mm/h、風速25m/s、相対湿度65%の条件:高さ修正後の有効風速は約28m/sとなり、ファサード動圧は約430Paと計算されます。AAMA 501.1試験圧600Paに対して170Paの余裕確保。一方、窓枠部材にアルミサッシ(防水グレードAA)を採用した場合、試験圧300Paが基準となるため余裕は130Paと減少し、防水シーリングの劣化リスク管理が必須です。

実務での注意点

  1. 都市計画区域による地形係数の補正:市街地中心部(地形区分Ⅲ)では1.0倍、海沿い平坦地(区分Ⅰ)では1.3倍以上の風速増幅が発生し、WDR計算結果が大きく変動します。
  2. 雨粒径D50が0.5mm未満になる高風速・低湿度条件では、微細粒子が壁面隙間に浸入しやすく、通常の防水シート施工では対応不可となります。
  3. ASTM E331試験との整合性確認時、試験圧力は15分保持が基準ですが、実環境では瞬間圧力がピーク値の1.3~1.5倍に達するため安全係数1.4以上の採用を推奨します。