Elmer FEM
Elmer FEMとは
Elmer FEMって何ができるマルチフィジックスソルバーですか?
フィンランドのCSC(IT Center for Science)が開発している汎用FEMソルバーだ。最大の特徴は、構造・熱・流体・電磁場のマルチフィジックスが1つのフレームワークで解けること。2005年にオープンソース化されて、GPLv2ライセンスで誰でも無料で使える。
CSCってどんな組織なんですか?
フィンランド教育文化省が所管する国立のITセンターで、北欧最大級のスパコン施設を持っている。Elmerは1995年にCSC内部の研究プロジェクトとして始まった。政府系の研究機関が開発母体だから、長期的な開発の安定性がある。商用ソフトのように突然開発停止やライセンス値上げのリスクが低い点が学術ユーザーに好まれている。
対応する物理分野
具体的にどんな物理現象が解けるんですか?
主な対応分野をまとめるとこうなる。構造力学(線形・非線形静解析、固有値解析、動解析)、熱伝導(定常・非定常、相変化を含む)、流体力学(Navier-Stokes方程式、Stokes流れ)、電磁場(静電場、静磁場、渦電流、マイクロ波)、音響(Helmholtz方程式)。さらにこれらを組み合わせた連成解析が得意で、例えば電磁力による構造変形と熱の同時解析ができる。
マルチフィジックスの連成ってどうやってやるんですか?
Elmerの連成はブロックイテレーション方式だ。各物理場のソルバーを順番に呼び出して、結果を他のソルバーに渡して収束するまで繰り返す。例えば誘導加熱の解析なら、「渦電流でジュール発熱を計算 → 熱伝導で温度分布を計算 → 温度による電気伝導率の変化を反映 → 渦電流を再計算」というループだ。SIF(Solver Input File)で連成順序と収束判定を指定する。
ElmerGUIとElmerSolver
ElmerGUIとElmerSolverの組み合わせってどんな感じですか?
ElmerSolverが計算エンジンで、Fortran 90で書かれたFEMコアだ。コマンドラインからSIFファイルを読み込んで実行する。ElmerGUIはQtベースのグラフィカルインターフェースで、メッシュの可視化、境界条件の設定、ソルバー設定の生成を行う。ただし本格的なメッシングは外部ツール(Gmsh、Netgen)に任せるのが一般的だ。
後処理はどうするんですか?
ElmerGUIにも簡易的な可視化機能はあるが、本格的な後処理にはParaViewを使う。Elmerの出力をVTU形式(VTKのXML形式)で書き出せば、ParaViewでコンター図、ベクトル図、流線、アニメーションなど自由自在に可視化できる。Elmer + Gmsh + ParaViewの3点セットが、オープンソースCAEワークフローの王道パターンだ。
代表的な応用事例
超伝導磁石や氷河の研究で使われているって聞いたんですが…
どちらもElmerの代表的な応用事例だ。超伝導磁石の分野では、CERNのLHC(大型ハドロン衝突型加速器)の超伝導電磁石設計にElmerが使われた実績がある。極低温(4.2 K)での電磁場・熱・構造の連成解析が必要で、まさにElmerのマルチフィジックス能力が活きる場面だ。
氷河の研究ってFEMと関係あるんですか?
Elmer/Iceという氷床・氷河のダイナミクス専用モジュールがある。氷はGlen's flow law($\dot{\varepsilon} = A \tau^n$、$n \approx 3$)に従う非ニュートン粘性流体としてモデル化する。グリーンランドや南極の氷床の流動・崩壊をシミュレーションして、海面上昇の予測に使われている。IPCCの報告書にもElmer/Iceの計算結果が引用されているくらいだ。
CAEが気候変動の研究にも使われているなんて驚きです。
他にもMEMS(微小電気機械システム)の圧電デバイスシミュレーション、建築物の空調・結露解析、生体力学(人工関節の応力解析)などでも使われている。汎用マルチフィジックスソルバーだからこそ、ニッチだけど重要な応用がたくさんある。
他のOSSソルバーとの比較
OpenFOAMやCalculiXと比べてどうなんですか?
それぞれ得意分野が違う。OpenFOAMは有限体積法(FVM)ベースのCFD専用で、流体解析の規模と実績では圧倒的。CalculiXはABAQUS互換の構造解析ソルバーで、純粋な構造解析なら機能が充実している。Elmerの強みは「1つのフレームワーク内でマルチフィジックスを完結できる」こと。電磁場-熱-構造のような3つ以上の物理の連成が必要な場面では、個別のソルバーを繋ぎ合わせるより遥かに楽だ。
弱点はありますか?
正直に言うと、個々の物理分野での機能の深さは商用ソフトに及ばない。例えば構造解析の接触問題や大変形問題はABAQUSのほうが安定しているし、電磁場解析のGUI周りはCOMSOLのほうが洗練されている。また、ドキュメントが英語とフィンランド語中心で、日本語の情報が少ないのもハードルだ。ただし、学術論文でElmerの引用数は年々増えていて、コミュニティは着実に成長している。
導入と学習の進め方
使ってみたいんですが、どこから始めればいいですか?
まずCSCの公式サイトからバイナリをダウンロードしてインストールする。Windows、Linux、macOS全部対応している。次に公式のチュートリアル集(Elmer Tutorials)を順番にやるのがおすすめだ。最初は熱伝導の定常解析から始めて、次にラプラス方程式、その後で連成解析に進む。SIFファイルの書き方を覚えるのが最初の壁だが、ElmerGUIで自動生成されるSIFファイルを読みながら理解していけば、2〜3週間で基本的な解析は回せるようになる。
商用ソフトのライセンス費を節約したい大学の研究室にはぴったりですね。
その通り。特に電磁場のマルチフィジックスを含む研究では、COMSOLのライセンスが高額だからElmerの価値は大きい。さらにElmerはFortranで書かれているから、自分でカスタムソルバーを追加するのも比較的容易だ。特殊な支配方程式を自分で実装したい研究者にとっては、これは大きなメリットだよ。
CAE技術は日々進化しています。 — Project NovaSolverは最新の研究成果を実務に橋渡しすることを目指しています。
CAEの未来を、実務者と共に考える
Project NovaSolverは、Elmer FEMにおける実務課題の本質に向き合い、エンジニアリングの現場を支える道具づくりを目指す研究開発プロジェクトです。
プロジェクトの最新情報を見る →関連トピック
なった
詳しく
報告