水平平板の自然対流
理論と物理
概要 — 上面と下面の決定的な違い
水平板の自然対流って、上向きと下向きで全然違うんですか?
全く違う。加熱面が上向きだと、板表面で暖められた空気が浮力で上昇してプルーム(熱上昇流)が発生する。温められた空気がどんどん離れていくから、新鮮な冷たい空気が側面から流れ込んで、熱伝達が非常に良くなるんだ。
逆に加熱面が下向きだと、暖かい空気が板の下面に閉じ込められる。暖かい空気は軽いから上に行きたいのに、板が蓋をしている状態だね。結果として安定成層が形成されて、ほとんど対流が起きない。熱伝達係数は上面の半分以下になる。
具体的にはどんな場面で問題になるんですか?
一番身近なのはPCB(プリント基板)を水平配置したときのチップ冷却だね。チップが上面に実装されていれば自然対流で効率よく冷えるけど、下面実装だと極端に冷えにくくなる。サーバーラック内のマザーボードや、組み込み機器で基板が天井面に取り付けられるケースでは、この差が致命的になることがある。
他にも太陽熱集熱器(フラットプレート型)の上面からの熱損失評価、厨房のホットプレートからの放熱、工場天井の断熱設計なんかでも、水平板の自然対流相関式は必須の知識だよ。
支配方程式とRayleigh数
数式としてはどう表されるんですか? まずRayleigh数ってやつですよね?
そう。自然対流の強さを支配する無次元数がRayleigh数 Raだ。浮力による駆動力と粘性・熱拡散による抑制力の比を表す:
各記号の意味はこうだ:
- $g$:重力加速度 [m/s²]
- $\beta$:体膨張係数 [1/K](理想気体なら $\beta = 1/T_f$、$T_f$ は膜温度)
- $T_s$:板表面温度 [K]
- $T_\infty$:周囲流体温度 [K]
- $L_c$:特性長さ [m](後述)
- $\nu$:動粘性係数 [m²/s]
- $\alpha$:熱拡散率 [m²/s]($\alpha = k / \rho c_p$)
Ra数が大きいほど対流が激しいってことですか?
その通り。Ra数が大きい=温度差が大きい、板が大きい、粘性が小さい——つまり浮力が支配的で対流が活発になる。逆にRa数が小さいと熱伝導が支配的になって、対流はほぼ起きない。水平板上面の場合、$Ra \approx 10^7$ あたりで層流から乱流へ遷移するんだ。
Nu数相関式(McAdams・Lloyd-Moran)
いよいよ相関式ですね! 上面と下面で式が違うんですよね?
そう、McAdams(1954年)が実験的に整理した有名な相関式がある。まず加熱面上向き(Hot Surface Up):
そして加熱面下向き(Hot Surface Down):
下面のほうが係数0.27で、上面の0.54の丁度半分ですね! それに下面は乱流の式がないんですか?
いい着眼点だ。下面では安定成層のせいで対流が弱く、乱流遷移がほとんど起きない。だから1/4乗則だけで広い範囲をカバーできるんだ。係数が半分というのは、実質的に熱伝達係数 $h$ が上面の半分ということを意味する。同じ温度差でも冷却能力が半分しかない——これは設計上、非常に大きな差だよ。
ちなみに、Nusselt数から熱伝達係数 $h$ への変換は:
ここで $k$ は流体(空気など)の熱伝導率だ。
冷却面の場合は逆になるんですか? つまり冷たい板の下面が良く冷える?
鋭い。冷却面下向き(Cold Surface Down)は加熱面上向きと同じメカニズム——板の下で冷やされた空気が重くなって沈降するプルームが発生する。だから加熱面上向きと同じ相関式(係数0.54/0.15)を使う。逆に冷却面上向きは加熱面下向きと同じ安定成層で、係数0.27を使う。
| 配置 | 物理現象 | 適用相関式 |
|---|---|---|
| 加熱面上向き(Hot Up) | プルーム上昇 → 高Nu | 0.54 / 0.15 |
| 加熱面下向き(Hot Down) | 安定成層 → 低Nu | 0.27 |
| 冷却面下向き(Cold Down) | 沈降プルーム → 高Nu | 0.54 / 0.15 |
| 冷却面上向き(Cold Up) | 安定成層 → 低Nu | 0.27 |
特性長さ Lc = A/P の意味
垂直板だと板の高さが特性長さですよね。水平板では何を使うんですか?
水平板の場合、特性長さは板の面積 $A$ を周長 $P$ で割った値を使う:
具体的な形状での値を見てみよう:
| 板の形状 | 面積 $A$ | 周長 $P$ | $L_c = A/P$ |
|---|---|---|---|
| 正方形(辺 $a$) | $a^2$ | $4a$ | $a/4$ |
| 長方形($a \times b$) | $ab$ | $2(a+b)$ | $\frac{ab}{2(a+b)}$ |
| 円板(直径 $D$) | $\pi D^2/4$ | $\pi D$ | $D/4$ |
なんで面積÷周長なんですか? 直感的にピンとこないです…
いい質問だ。水平板の自然対流では、流体は板の端(エッジ)から流入・流出する。板の中心から端までの「流体が移動する代表的な距離」を表しているんだ。面積に対して周長が大きい(=細長い板)ほど、端から近い位置が多くて流体が入れ替わりやすい。逆に大きな正方形は中心部の流体が入れ替わりにくい。$L_c = A/P$ はこの「端からの平均的な距離」をスケーリングしている。
上面・下面の流れ構造の違い
上面のプルームって、どんな形で発生するんですか?
加熱面上向き(層流域)では、板の中心付近から「きのこ型」のプルームが準周期的に上昇する。端から冷たい空気が流入し、板上を這うように中心に向かって流れ、中心付近で温まって上昇する。これが「大規模循環」を形成するんだ。
乱流域($Ra > 10^7$)になると、板全面からランダムにプルームが湧き上がる。セル構造(ベナールセルに似たパターン)が現れ、熱伝達が一気に向上する。1/3乗則はこの状態に対応している。
加熱面下向きでは全く違う。暖かい空気が板の裏側に薄い熱境界層を作るけど、浮力が板方向(上向き)に働くため流体が離れられない。ごく弱い横方向の拡散で端に向かってじわじわ流れ出す程度。だから熱伝達係数が著しく低いんだ。ただし、$Ra > 10^5$ 程度になると「テイラー不安定」に似たメカニズムで板の下にも弱い対流セルが現れ始める。
なるほど…板の向き1つで流れの物理が全く変わるんですね。
McAdamsの1954年の実験
William H. McAdamsはMITの教授で、1954年の名著『Heat Transmission』(第3版)で水平板の自然対流相関式を体系化した。彼の実験は加熱銅板(10〜30 cm角)を空気中に水平設置し、電気ヒーターで等熱流束を与えるという比較的シンプルなものだった。しかし「上面と下面を分けて整理する」という着想が画期的で、70年以上経った現在でも工学設計のスタンダードとして使われている。後年、Lloyd & Moran(1974年)が $L_c = A/P$ の定義を導入し、任意形状の板に適用できるように一般化した。
物性値の評価温度(膜温度)
相関式に代入する物性値($\nu$, $\alpha$, $\beta$, $k$, $Pr$)は膜温度 $T_f$ で評価する:
空気の場合、$\beta = 1/T_f$(理想気体近似)。水や油などでは物性表から $\beta$ を読み取る必要がある。温度差 $(T_s - T_\infty)$ が100 K以上の場合、膜温度での評価はやや粗くなるので、より精密な温度依存物性を使うべき。
等温条件 vs 等熱流束条件
上記のMcAdams式は等温面(表面温度一定)の条件で導かれている。等熱流束面(一定の発熱量)の場合は若干異なる相関式を使う必要があるが、工学的にはMcAdams式で実用上十分な精度(±15%程度)が得られることが多い。等熱流束条件ではRa数の定義で $\Delta T$ の代わりに $q'' L_c / k$ を用い、修正されたRa数 $Ra^*$ を使う場合もある。
数値解法と実装
CFD解析の基本戦略
水平板の自然対流をCFDで解くとき、どんなアプローチをとるんですか?
基本はNavier-Stokes方程式+エネルギー方程式の連成解析だ。自然対流は速度場と温度場が浮力項を通じて強くカップリングしている。解くべき支配方程式は:
連続の式:
運動量方程式(Boussinesq近似):
エネルギー方程式:
ポイントは最後の浮力項 $-\rho_0 \beta (T - T_0) \mathbf{g}$。温度差が流れを駆動するから、温度と速度を同時に解かなければならないんだ。
メッシュ戦略と境界層解像
メッシュはどのくらい細かくすればいいですか? 壁面近くが重要なのは分かるんですが…
自然対流では速度境界層と温度境界層の両方を解像する必要がある。水平板の場合、温度境界層の厚さは概算で:
例えば $L_c = 0.05$ m、$Ra = 10^6$ の場合、$\delta_T \approx 0.05 / 31.6 \approx 1.6$ mm。この中に最低10〜15層のメッシュを配置する。壁面第1セルの厚さは 0.05〜0.1 mm 程度になる。
もう一つ超重要なのが計算領域の広さ。板の周囲に十分な空間を確保しないと、誘引流れ(entrainment)が阻害される。目安は:
- 板面から水平方向:板寸法の3〜5倍以上
- 上面側(プルームの上流):板寸法の5〜10倍
- 下面側:板寸法の3倍以上
領域が狭いとNu数が過小評価される。実務では「領域を2倍にしてNu数が1%以内の変化」で領域独立性を確認するんだ。
Boussinesq近似と完全圧縮性
Boussinesq近似っていつ使っていいんですか?
Boussinesq近似は「密度変化は浮力項にだけ効き、他の項では密度一定とみなす」というもの。適用条件は:
空気($T_\infty = 300$ K)なら $\Delta T < 30$ K 程度が安全圏。電子機器の冷却($\Delta T \sim 20$〜$60$ K)では適用限界ギリギリだ。$\Delta T > 100$ K の工業用途(炉、高出力電子機器)では、完全圧縮性(理想気体状態方程式)を使うべきだね。
乱流モデルの選択
乱流モデルはどれを選べばいいですか? 自然対流で $k$-$\varepsilon$ は使えるって聞いたんですけど。
自然対流の乱流モデル選択は結構難しい。標準 $k$-$\varepsilon$ は壁面近くの挙動が不正確で、自然対流のNu数を30%以上過大評価することがある。推奨順位はこうだ:
| 乱流モデル | 精度 | 計算コスト | 備考 |
|---|---|---|---|
| SST $k$-$\omega$ | 良好 | 中 | 壁面近くの解像が優秀。最も推奨 |
| $k$-$\varepsilon$(Low-Re型) | 良好 | 中 | 壁面関数なしで壁面まで解く |
| 標準 $k$-$\varepsilon$ + 壁面関数 | 不良 | 低 | 自然対流の壁面流を正確に捉えられない |
| LES(大渦模擬) | 非常に高 | 非常に高 | 研究用。プルーム動態の詳細解析 |
層流域($Ra < 10^7$)なら乱流モデル不要で、層流解析で十分だよ。
CFDの計算領域の例え
計算領域の広さは「実験室の大きさ」と同じ。水平板の自然対流実験を小さな密閉箱の中でやったら、板からの上昇気流が天井で跳ね返って結果が変わってしまう。CFDでも計算領域の境界が近すぎると同じことが起きる。「十分に広い実験室で実験している」状態を再現するために、板の5倍以上の空間が必要なんだ。
実践ガイド
PCB水平配置のチップ冷却設計
実際のPCB冷却設計で、この相関式をどう使うんですか? 例えば具体的な数字で教えてほしいです。
いい質問だね。具体例をやろう。50 mm × 50 mm のBGAチップが水平基板の上面に実装されていて、発熱量 2 W、周囲温度 25℃ とする。
Step 1: 特性長さ
$L_c = A/P = (0.05 \times 0.05) / (4 \times 0.05) = 0.0125$ m
Step 2: 膜温度の仮定と物性値
表面温度を仮に 65℃ と仮定 → $T_f = (65+25)/2 = 45℃ = 318$ K
空気物性値(318 K):$\nu = 1.75 \times 10^{-5}$ m²/s、$\alpha = 2.47 \times 10^{-5}$ m²/s、$k = 0.0274$ W/(m·K)、$\beta = 1/318 = 3.14 \times 10^{-3}$ 1/K
Step 3: Ra数
Step 4: Nu数と $h$
$Ra = 5500$($10^4$ 未満なのでやや適用範囲外だが近似値として):$Nu = 0.54 \times 5500^{0.25} = 4.65$
$h = 4.65 \times 0.0274 / 0.0125 = 10.2$ W/(m²·K)
Step 5: 表面温度の確認
$T_s = T_\infty + Q/(hA) = 25 + 2 / (10.2 \times 0.0025) = 25 + 78.4 = 103.4℃$
仮定の65℃と合わない → 反復計算で $T_s \approx 95℃$ に収束。
95℃ってかなり高いですね! もしこのチップが下面だったらもっとヤバいってことですか?
その通り。下面だと $Nu = 0.27 \times Ra^{0.25}$ だから $h$ が約半分の 5 W/(m²·K) 程度。表面温度は180℃超になって、半導体のジャンクション温度上限(通常125℃〜150℃)を大幅に超える。自然対流だけでは冷却不可能ということだ。実務ではヒートシンクの追加、サーマルビア、銅インレー、あるいは筐体内の気流設計で対処するんだよ。
密集実装の場合はどうなりますか? チップが隣り合っていると…
いいところに気づいた。密集実装ではサーマルウェイク(熱後流)が問題になる。上流チップで暖められた空気が下流チップの冷却に使われるため、下流チップの冷却性能が劣化する。水平板の場合は全方向からエントレインメント(誘引流れ)が入るから垂直配列ほど深刻ではないけど、チップ間隔がチップ寸法の2倍以下だと Nu 数が 10〜20% 低下するというデータがある。
太陽熱集熱器の熱損失評価
太陽熱集熱器でも使うって最初に聞きましたけど、どんな感じですか?
フラットプレート型太陽熱集熱器(1 m × 2 m)を例に考えよう。冬季の条件:パネル温度60℃、外気温5℃、$\Delta T = 55$ K。
$L_c = (1 \times 2) / (2 \times (1+2)) = 0.333$ m。膜温度 $T_f = 305.5$ K で空気物性値を評価すると:
$Ra \approx 2.8 \times 10^8$(乱流域)。上面(加熱面上向き)の相関式で:
$Nu = 0.15 \times (2.8 \times 10^8)^{1/3} = 98.2$
$h = 98.2 \times 0.0267 / 0.333 = 7.87$ W/(m²·K)
対流熱損失 $Q = h \cdot A \cdot \Delta T = 7.87 \times 2 \times 55 = 866$ W
これだけで日射 1000 W/m² の太陽光エネルギーの 43% が失われる計算になる。だからガラスカバー(温室効果)や選択吸収膜で対流損失を減らすんだ。
検証と妥当性確認
CFDの結果が正しいかどうか、どうやって確かめるんですか?
3段階の検証プロセスを踏むべきだ:
- メッシュ収束性:3段階以上のメッシュ密度で Nu 数が 2% 以内に収束することを確認
- 領域独立性:計算領域を拡大して結果が変わらないことを確認
- 相関式との比較:上記のMcAdams式でNu数を計算し、CFD結果と比較。±15% 以内であれば妥当
定番のベンチマーク問題として、de Vahl Davis(1983年)の正方形キャビティ自然対流問題がある。$Ra = 10^3 \sim 10^6$ の範囲で詳細な参照解が公開されていて、ソルバーの妥当性検証に最適だ。
FloTHERMと水平PCBの熱設計
Siemens EDA(旧Mentor Graphics)のFloTHERM 12は、水平・鉛直・任意傾斜PCBの自然対流を配置角度に応じて自動的にNu相関式を切り替えて計算する機能を持つ。Panasonicが2019年に家庭用エアコン基板の熱評価をFloTHERMで実施し、水平配置部品のジャンクション温度を実測値と±4℃以内で一致させた結果を技術報告書で公表している。この精度は、適切な相関式の選択とメッシュ設定があれば、3D CFDが実用的な設計ツールとして機能することを証明している。
実務のコツ — 反復計算を避ける方法
相関式で表面温度を求めるには「$T_s$ を仮定 → $h$ を計算 → $T_s$ を再計算」の反復が必要だが、実務では等熱流束条件の修正Ra数 $Ra^*$ を使うと一発で解ける。$Ra^* = Ra \cdot Nu = g \beta q'' L_c^4 / (k \nu \alpha)$ と定義すれば、$Nu = C \cdot Ra^{*n/(n+1)}$ の形で直接求まる。発熱量が既知(チップの消費電力等)の電子機器冷却では特に便利だ。
ソフトウェア比較
主要CFDツールの対応状況
水平板の自然対流を解くのに、どのCFDソフトがいいですか?
主要ツールの比較を表にまとめよう。自然対流はどのツールでも解けるけど、使い勝手と精度に差がある。
| ツール | Boussinesq | 完全圧縮 | 放射連成 | 自然対流の使いやすさ |
|---|---|---|---|---|
| Ansys Fluent | ○ | ○ | ○(DO/S2S) | ◎ 設定が直感的 |
| STAR-CCM+ | ○ | ○ | ○(S2S/DO) | ◎ ポリヘドラルメッシュ |
| COMSOL | ○ | ○ | ○ | ○ マルチフィジクス連成が容易 |
| OpenFOAM | ○ | ○ | △(要追加実装) | ○ buoyantBoussinesqSimpleFoam |
| FloTHERM | ○ | — | ○ | ◎ 電子機器専用で設定最小 |
| Ansys Icepak | ○ | ○ | ○ | ◎ 電子機器筐体の専用機能 |
電子機器の冷却設計だったらFloTHERMやIcepakが楽そうですね。
その通り。FloTHERMはPCBのGerberデータを直接インポートして、チップの発熱量を入力するだけで水平板の自然対流を含む解析が走る。ただし、メッシュや乱流モデルの細かい制御が限定的だから、研究用途や高精度が求められる場合はFluent/STAR-CCM+/OpenFOAMのほうが柔軟だよ。
OpenFOAMでの設定例
OpenFOAMで水平板の自然対流を解くには、どのソルバーを使うんですか?
定常なら buoyantBoussinesqSimpleFoam、非定常なら buoyantBoussinesqPimpleFoam を使う。主な設定ポイント:
transportProperties: $\beta$(体膨張係数)、$\nu$(動粘性係数)、$Pr$、$Pr_t$ を指定gファイル: 重力方向を (0, -9.81, 0) 等に設定(板が水平になる向き)Tの境界条件: 板面はfixedValue(等温)またはfixedGradient(等熱流束)- 外部境界:
inletOutlet+totalPressureで自然な誘引流れを許可
乱流モデルは kOmegaSST を推奨。層流域($Ra < 10^7$)なら turbulenceModel を laminar に設定してOK。
ツール選定の指針
- PCB冷却の概略検討 → FloTHERMかIcepak。設定が最小で高速。相関式ベースの推定も組み込み済み。
- 汎用的な自然対流解析 → Ansys FluentかSTAR-CCM+。メッシュ品質、乱流モデル、後処理の自由度が高い。
- 学術研究・検証 → OpenFOAM。ソースコード公開でアルゴリズムの検証が可能。コスト無料。
- 構造-熱連成 → COMSOL。温度分布から熱応力まで一気通貫で解ける。
先端技術
DNS/LESによる高精度解析
最先端の研究ではどんな手法が使われているんですか?
水平加熱板の自然対流はDNS(直接数値シミュレーション)の格好の研究対象だ。Reeseら(2021年、J. Fluid Mech.)は $Ra = 10^{10}$ までの水平加熱板DNS解析を実施して、乱流プルームの発生メカニズムを詳細に可視化した。板端部から発生する大規模渦と、板中央部の「セル構造」が競合する様子が明らかになっている。
LES(Large Eddy Simulation)は、プルームの非定常挙動を比較的低コストで捉えられる。水平板では特に:
- プルームの発生間隔と空間分布の統計
- サーマルウェイクの動的挙動(PCB密集実装の評価)
- Ra数が遷移域($10^6 \sim 10^8$)での正確なNu数予測
に有効で、RANS乱流モデルでは捉えきれない非定常効果を解析できる。計算コストはRANSの50〜100倍だけど、GPUソルバー(Ansys Fluent GPU版やNekRSなど)の発展で実用的になりつつある。
共役熱伝達解析
固体側の熱伝導も同時に解くべきケースってありますか?
PCB冷却の高精度解析では共役熱伝達(CHT: Conjugate Heat Transfer)が必須だね。板自体の熱伝導率が有限だから、チップ直下とチップ間の温度が異なる。FR-4基板($k \approx 0.3$ W/(m·K))は熱伝導率が低いので、チップ直下に温度のホットスポットができ、板全面を等温と仮定する相関式アプローチでは捉えられない温度分布が生じる。
CHT解析では固体領域(基板+チップ)と流体領域(空気)を同時にメッシュで離散化し、界面で温度と熱流束の連続条件を課す。Fluent、STAR-CCM+、COMSOLいずれもCHT機能を標準搭載している。
相関式による手計算と、CHTのフルCFDと、使い分けの基準はありますか?
いい質問だ。実務的な使い分けはこう:
- 概念設計・初期検討:McAdams相関式で手計算。数分で終わる。±20% の精度。
- 詳細設計・配置最適化:FloTHERMやIcepakで3D CFD。数時間。±5〜10% の精度。
- 限界設計・規格適合:CHT解析 + メッシュ収束検証 + 実測との比較。数日。±3〜5% の精度。
コストと精度のトレードオフだね。最初から全てCFDでやると時間がかかりすぎる。相関式で「おおよその温度」を把握してから、問題のあるケースだけCFDに進むのが賢いやり方だ。
トラブルシューティング
よくある失敗と対策
水平板の自然対流CFDで、初心者がやりがちな失敗ってありますか?
何度も見てきた典型的な失敗を挙げよう:
| 失敗 | 症状 | 対策 |
|---|---|---|
| 計算領域が狭い | Nu数が相関式より20%以上低い | 板寸法の5倍以上に領域を拡大 |
| Boussinesq近似の誤用 | $\Delta T > 100$ K で精度悪化 | 完全圧縮性(理想気体)に切替え |
| 壁面関数の使用 | $h$ が30%以上過大評価 | Low-Re型モデルまたはSST $k$-$\omega$ |
| 重力方向の設定ミス | 対流が発生しない/異常方向に流れる | $\mathbf{g}$ ベクトルの向きを再確認 |
| 境界条件の不整合 | 質量保存違反で発散 | 圧力出口をtotalPressureに設定 |
| 初期温度場が不適切 | 非物理的な過渡現象で発散 | 流体を$T_\infty$、壁面を$T_s$で初期化 |
重力方向の設定ミスって、本当にあるんですか?
笑い話みたいだけど、実際めちゃくちゃ多い。CADの座標系とCFDの座標系が異なる場合や、板を傾斜させた場合に重力ベクトルの符号を間違えるケースだ。自然対流は重力が唯一の駆動力だから、向きが間違っていると全く物理的に無意味な結果になる。最初に必ず確認すべき設定項目のNo.1だよ。
収束困難時の処方箋
自然対流の解析って収束しにくいイメージがあるんですけど…
その通りで、自然対流は強制対流に比べて収束が難しい。速度と温度が双方向にカップリングしているうえ、流速が小さいから浮力項の相対的な影響が大きく、数値的に不安定になりやすい。処方箋を挙げよう:
- 緩和係数を下げる:速度の緩和係数を0.3〜0.5に、圧力を0.2〜0.3に。温度も0.7程度に下げる
- 初期条件に配慮:流体全体を $T_\infty$ で初期化し、壁面だけ $T_s$ にする。流体を $T_s$ で初期化すると初期の大きな浮力で発散する
- 非定常で回す:定常ソルバーで収束しない場合、非定常ソルバーで時間を進めて擬似定常解を得る。物理的にもプルームは非定常現象だから、定常解が存在しないことも多い
- 収束判定:残差だけでなく、モニタリングポイントでの温度・Nu数の変動を見る。残差が$10^{-4}$程度で振動している場合、プルームの非定常性が原因でそれ以上下がらないことがある。その場合は時間平均値を使う
「定常解が存在しない」って、考えてみれば当然ですよね。プルームがゆらゆら揺れてるんだから…
その通り。特に $Ra > 10^7$ の乱流域では、物理的に定常解は存在しない。定常ソルバーの「収束解」は実際には「時間平均的に安定した状態」であって、真の非定常解の平均値になっている。Nu 数を正確に求めたいなら、非定常解析で十分な時間の平均をとるのが正しいアプローチだ。
初心者が陥りやすい落とし穴 — Boussinesq近似の罠
「Boussinesq近似にチェックを入れたのに、密度を理想気体にも設定してしまった」——これは矛盾する設定で、ソルバーによってはエラーなしに走ってしまう。Boussinesq近似では密度は一定値($\rho_0$)であり、温度による密度変化は浮力項だけに反映される。密度を理想気体にするなら Boussinesq は OFF にすること。両方 ON にすると浮力が二重にカウントされ、Nu数が異常に高くなる。
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