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機械要素設計

ボルトねじ谷部の複合応力シミュレーター

トルク法でボルトを締めると、ねじ谷部は軸力による引張応力と、ねじトルクによるねじり応力を同時に受けます。軸力・ねじサイズ・摩擦係数を変えて、合成された相当応力が耐力を超えないかをリアルタイムで確認できます。

パラメータ設定
ボルトサイズ(ISO並目)
ピッチ・有効径・有効断面積を自動設定
強度区分
耐力 σ_p(降伏相当)を自動設定
軸力(予張力)F
kN
ねじ部摩擦係数 μ_th
無潤滑鋼 0.14 前後/潤滑時 0.10 前後
座面摩擦係数 μ_b
ボルト頭・ナット下の座面摩擦
耐力に対する目標利用率
%
VDI 2230 の目安は 90%
計算結果
引張応力 σ (MPa)
ねじり応力 τ (MPa)
相当応力 σ_red (MPa)
耐力利用率 (%)
締付けトルク T_a (N·m)
許容軸力 F_max (kN)
ボルトの応力状態

締付け中のボルトは軸方向の引張(青)とねじり(橙)を同時に受けます。右はねじ谷の応力要素。色は耐力利用率(緑=余裕/赤=超過)。

応力と軸力 F の関係
締付けトルクの内訳
理論・主要公式

$$\sigma = \frac{F}{A_s}, \qquad \tau = \frac{T_{th}}{W_p}, \qquad W_p = \frac{\pi\,d_s^{3}}{16}$$

軸方向引張応力 σ と ねじり応力 τ。A_s:有効断面積、d_s:応力径=(d_2+d_3)/2、T_th:ねじトルク。

$$T_{th} = F\left(\frac{P}{2\pi} + \frac{\mu_{th}\,d_2}{2\cos 30^\circ}\right)$$

ねじ面に残るトルク。P:ピッチ、d_2:有効径、μ_th:ねじ部摩擦係数。

$$\sigma_{red} = \sqrt{\sigma^{2} + 3\,\tau^{2}}$$

ミーゼスの相当応力。これが耐力 σ_p の目標利用率以下なら締付けOK。締付けトルクは T_a = T_th + μ_b·F·D_km/2(D_km:座面有効径)。

ボルトねじ谷部の複合応力シミュレーターとは

🙋
ボルトって、締めると「引っぱられる」だけじゃないんですか?ねじり応力って何ですか?
🎓
いい質問だ。スパナでボルトを締めるところを思い浮かべて。ナットを回す力は、ねじ面の摩擦と「ねじの坂道(リード)」に逆らって軸力を生む。このとき、ねじ面の摩擦に打ち勝つためにボルトの軸そのものが少しねじられるんだ。だから締め終わった瞬間のボルトは、軸力による「引張」と、締めトルクの一部による「ねじり」を同時に受けている。これが複合応力だよ。
🙋
じゃあ、引張応力だけ見て「耐力以下だからOK」と判断すると危ないんですね?
🎓
その通り。引張だけで90%使っていると思っていても、ねじり分を足した相当応力では100%を超えてボルトが降伏している、ということが起きる。左で「ねじ部摩擦係数 μ_th」を上げてみて。ねじり応力 τ がぐっと増えて、相当応力 σ_red と引張応力 σ の差が開くだろう? 摩擦が大きいほどねじりが増える。だから締付け管理では「相当応力で耐力をチェック」が鉄則なんだ。
🙋
締付けトルクの内訳のグラフ、ピッチ分が10%しかないですね。残りは全部ムダなんですか?
🎓
「ムダ」というより「摩擦に消えている」んだ。入力したトルクのうち、実際に軸力という仕事に変わるのはピッチ分の約10%だけ。残りの約40%がねじ面の摩擦、約50%が座面(頭の下)の摩擦で熱になる。これが重要な意味を持つ。摩擦係数が2割ばらつくと、同じトルクで締めても軸力が2〜3割ばらつく。トルクレンチで締めても軸力の精度がそれほど高くないのは、この摩擦のばらつきのせいなんだ。
🙋
摩擦が読めないなら、もっと正確に軸力を出す方法はあるんですか?
🎓
あるよ。「回転角法」は座面が密着してからの回転角で軸力を管理する方法で、トルク法より精度が高い。さらに「降伏点締付け法」はわざと降伏直前まで締めて軸力を安定させる。超音波でボルトの伸びを測る方法もある。ただしどれもコストや設備が要るから、多くの現場では今もトルク法だ。だからこそ、このツールで「相当応力に摩擦のばらつきを見込んでも耐力に余裕があるか」を確認しておくことが大事なんだ。

よくある質問

トルク法でボルトを締めると、ナットを回す力がねじ面の摩擦とリード(ねじの傾き)に逆らって軸力を生みます。このとき、ねじ面の摩擦に打ち勝つためのトルク T_th がボルト軸にねじりとして残ります。つまり締付け直後のボルトは「軸力による引張応力」と「ねじトルクによるねじり応力」を同時に受けています。本ツールはこの2つを合成した相当応力を計算します。
軸方向引張応力 σ = F/A_s(A_s は有効断面積)と、ねじり応力 τ = T_th/W_p(W_p は極断面係数)を求め、ミーゼスの相当応力 σ_red = √(σ² + 3τ²) で合成します。VDI 2230 では締付け時の σ_red を降伏点(耐力)σ_p の 90% 程度までに抑えるのが目安です。τ は σ の 25〜35% 程度になることが多く、相当応力は引張応力単独より 10〜15% 大きくなります。
締付けトルク T_a は3つに分かれます。(1) ねじのリード分(軸力を生む正味の仕事、約10%)、(2) ねじ面の摩擦分(約40%)、(3) 座面(ボルト頭・ナット下)の摩擦分(約50%)。つまり入力トルクの約90%は摩擦で消費され、軸力に変換されるのはわずか10%程度です。摩擦のばらつきが軸力のばらつきに直結するため、トルク法の精度には限界があります。
ねじり応力は締付け直後が最大で、時間とともに一部が緩和します。また増し締めや微小な戻りでねじり分が減ることもあります。設計では「締付け直後の複合応力で耐力を超えないこと」を確認するのが基本です。一方、外力が繰り返し作用する疲労の検討では、ねじり分は通常それほど効かず、軸力変動による引張応力振幅が支配的になります。

実世界での応用

締結設計の基本検証:エンジン・圧力容器・構造接合など、ボルトの軸力を高く使う設計では、締付け直後にねじ谷部が降伏しないことの確認が必須です。本ツールの相当応力は VDI 2230 が定める「締付け時に耐力の約90%まで」という管理限界と直接比較でき、軸力をどこまで上げられるかの判断に使えます。

摩擦管理と締付け方法の選定:トルク法では摩擦のばらつきが軸力のばらつきになります。本ツールで μ_th を振ると、ねじり応力と相当応力がどれだけ動くかが分かります。ばらつきを見込むと耐力余裕が足りない場合は、回転角法・降伏点締付け法など、より精度の高い締付け方法への切り替えを検討します。

潤滑・表面処理の効果評価:同じトルクでも、潤滑や表面処理で摩擦係数が下がると軸力は上がり、ねじり応力は下がります。本ツールで μ_th・μ_b を変えると、潤滑によって「軸力アップ」と「ねじり減少」が同時に得られることが確認できます。一方で潤滑のしすぎは軸力過大による降伏を招くため、トルクの再設定が必要です。

トラブル解析:「規定トルクで締めたのにボルトが折れた/緩んだ」というトラブルでは、摩擦の想定違いが原因のことが多くあります。本ツールで実際の摩擦係数を入れ直すと、相当応力が耐力を超えていた(締め過ぎ)/軸力が不足していた(締め不足)のどちらかを切り分けられます。

よくある誤解と注意点

まず最も多い誤解が、「引張応力だけで耐力チェックをする」ことです。締付け直後のボルトはねじりも受けているため、引張応力 σ が耐力の 90% でも、相当応力 σ_red は 100% を超えていることがあります。σ_red = √(σ²+3τ²) は τ が σ の 30% でも σ より約13%大きくなります。必ず相当応力で評価してください。本ツールはこの差を結果カードで並べて表示します。

次に、「締付けトルクと軸力は比例するから安心」という思い込み。両者は摩擦係数を介してつながっており、その摩擦は表面状態・潤滑・めっき・繰り返し締付けで容易に 2〜3 割変動します。同じトルクでも軸力は大きくばらつき、最悪のケースでは過大軸力でねじ谷が降伏します。設計では摩擦の上下限を見込み、最大軸力側で相当応力をチェックするのが安全側の考え方です。

最後に、「ねじ谷の応力集中を忘れる」こと。本ツールが扱うのは有効断面の平均的な応力で、実際のねじ谷底には応力集中(係数 3〜5 程度)が生じます。静的・延性材料では局所降伏が応力を再配分するため平均応力での評価で足りますが、繰り返し荷重を受ける疲労の検討では、このねじ谷の応力集中が破壊の起点になります。疲労評価は別途、応力集中と転造ねじ/切削ねじの差を考慮した検討が必要です。