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建築環境工学

建物の熱損失シミュレーター

暖房した建物が冬の外気へ逃がす熱を計算するツールです。外皮の面積・断熱性能(U値)・室内外の温度差・換気回数を変えると、壁や窓を貫流して逃げる熱と、換気で出ていく熱がリアルタイムで分かり、省エネ設計や暖房負荷の概算に使えます。

パラメータ設定
外皮の総面積 A
外気に接する壁・屋根・床・窓の合計面積
平均熱貫流率 U
W/m²K
外皮の断熱性能。小さいほど高断熱
室内温度 T_in
°C
外気温 T_out
°C
換気回数 n
回/h
1時間あたり室内空気が入れ替わる回数
室容積 V
暖房する空間の総体積
計算結果
室内外温度差 (K)
外皮(貫流)熱損失 (W)
換気熱損失 (W)
総熱損失 (kW)
熱損失係数 (W/K)
1m²あたりの熱損失 (W/m²)
建物断面図 — 熱の逃げ道アニメーション

暖かい室内から、壁・屋根・窓・床を貫流して逃げる熱(橙の矢印)と、換気で出る暖気・入る冷気(青の矢印)。矢印の太さは2つの熱損失成分の大きさに比例します。

総熱損失 vs 外気温
熱損失の内訳(貫流・換気)
理論・主要公式

$$Q_{fabric}=A\,U\,\Delta T,\qquad Q_{vent}=0.33\,n\,V\,\Delta T$$

外皮(貫流)熱損失と換気熱損失。A:外皮面積、U:平均熱貫流率、ΔT:室内外温度差、n:換気回数、V:室容積。0.33 は空気の容積比熱 [W·h/(m³·K)]。

$$Q_{total}=Q_{fabric}+Q_{vent},\qquad Q\text{-value}=A\,U+0.33\,n\,V$$

総熱損失は2成分の和で、室内外温度差ΔTに比例する。熱損失係数 Q-value は温度差1Kあたりの損失で、外気温によらない建物固有の断熱性能指標である。

建物の熱損失とは

🙋
冬に暖房をつけても、しばらくすると部屋がまた寒くなりますよね。あれって、暖房した熱がどこかへ逃げてるってことですか?
🎓
そのとおり。暖かい部屋と寒い外気の間には温度差があるから、熱はずっと外へ流れ出している。これが「熱損失」だ。だから室温を一定に保つには、逃げた分とまったく同じ熱を暖房がワット単位で補い続けるしかない。「どこから・どれだけ熱が逃げているか」を知ることが、省エネ住宅の設計でも、暖房機の容量選定でも、光熱費の見積もりでも出発点になるんだ。
🙋
熱が逃げる「道」って、具体的にはどこなんですか?
🎓
大きく2つある。1つめは貫流(外皮)損失——壁・屋根・床、そして特に窓を、熱がそのまま伝わって抜けていく分だ。各部位には「U値(熱貫流率)」という指標があって、1m²あたり・温度差1℃あたりに熱がどれだけ通りやすいかを表す。U値が小さいほど断熱がいい。貫流損失は「外皮面積 × U値 × 室内外温度差」でシンプルに出る。左のスライダーでU値を下げると、貫流損失がすっと減るのが見えるよ。
🙋
なるほど。じゃあ2つめは?
🎓
2つめは換気(漏気)損失だ。暖まった室内の空気が外へ出ていくたびに、代わりに冷たい外気が入ってきて、それを一から暖め直さないといけない。換気扇で意図的に出す分も、すきまや隙間から漏れる分も同じ。この損失は換気回数と部屋の容積に比例する。式は「0.33 × 換気回数 × 室容積 × 温度差」で、0.33 という数字は空気の容積比熱なんだ。
🙋
両方とも「温度差」が掛かってますね。寒い日ほど暖房がきつくなるのは、これが理由ですか?
🎓
まさにそれ。貫流も換気も損失は温度差に正比例するから、建物の暖房需要は天気そのままに増減する。そして2つの損失を温度差1Kあたりにまとめたのが熱損失係数——その建物が「1℃の温度差で何ワット失うか」という、断熱性能の最も簡潔な要約だ。この値を小さくするのが、断熱・高性能ガラス・気密施工・熱交換換気のすべての目的なんだ。式から見える効くレバーは2つ。U値を下げること、そして換気回数を管理することだよ。

よくある質問

熱損失は2つの経路の合計です。外皮(貫流)熱損失は Q_fabric = A·U·ΔT で、A は外皮の総面積、U は平均熱貫流率、ΔT は室内外温度差です。換気熱損失は Q_vent = 0.33·n·V·ΔT で、0.33 は空気の容積比熱(W·h/(m³·K))、n は換気回数、V は室容積です。総熱損失はこの2つの和で、定常状態では暖房設備が補うべき熱量と一致します。
熱損失係数は温度差1Kあたりに建物が失う熱量で、Q-value = A·U + 0.33·n·V [W/K] で求めます。これは外気温に依存しない建物固有の値で、断熱性能の最も簡潔な指標です。値が小さいほど高断熱・高気密で、暖房負荷も小さくなります。実際の熱損失は熱損失係数に温度差を掛けただけなので、寒い日ほど暖房需要が増える理由もこの式から分かります。
式から効くレバーは2つです。1つは熱貫流率Uを下げること—断熱材を厚くする、高性能ガラス(複層・Low-E)に替える、熱橋を減らす、などで外皮の貫流損失が直接小さくなります。もう1つは換気回数nを管理すること—すきま風(漏気)を気密施工で抑え、必要換気は熱交換型の換気で逃がす熱を回収します。窓は面積が小さくてもU値が大きいため、貫流損失の主役になりやすい点に注意します。
貫流損失も換気損失も室内外温度差ΔTに比例するため、外気温が室温と等しい(ΔT=0)と総熱損失はゼロになります。外気温が室温を上回ると計算上ΔTは負になり、熱損失も負—つまり外から建物へ熱が流入する状態を表します。本ツールはこの符号をそのまま扱い、暖房が不要・冷房が必要な領域として正しく表示します。

実世界での応用

住宅の省エネ設計と断熱等級:新築住宅やリフォームの設計では、外皮平均熱貫流率(U_A値)を下げることが省エネ基準クリアの中心になります。本ツールのように外皮面積とU値から貫流損失を、換気回数と容積から換気損失を分けて把握すると、「断熱を強化すべきか、気密と換気計画を見直すべきか」という設計判断の土台ができます。窓のU値を複層からトリプルガラスへ替えるだけで貫流損失が大きく動くことも体感できます。

暖房設備の容量選定:エアコン・床暖房・ボイラーの能力(kW)は、その建物が最も寒い日に失う熱量を補える必要があります。設計外気温(地域ごとに定められた厳寒値)を外気温スライダーに入れ、そのときの総熱損失を読めば、必要暖房能力の概算が得られます。能力が不足すれば真冬に部屋が暖まらず、過大なら頻繁なオン・オフで効率と快適性が落ちます。

光熱費とカーボン排出の見積もり:熱損失係数に「その地域の暖房度日(室温と外気温の差を1年分積算した値)」を掛けると、年間の暖房エネルギー量を概算できます。そこに燃料単価と機器の効率(COP)を掛ければ光熱費、排出係数を掛ければCO₂排出量が出ます。断熱改修の投資回収年数を見積もる出発点になります。

建物の熱負荷シミュレーションの事前検討:EnergyPlusやTRNSYSのような詳細な動的熱負荷計算を行う前に、本ツールのような定常の概算で「貫流と換気のどちらが支配的か」「総損失のオーダー」を当たりづけします。詳細解析の結果がこの概算と桁違いなら、入力した面積・U値・換気量・気象データのどこかに誤りがある、というサニティチェックにも使えます。

よくある誤解と注意点

まず大きな誤解が、「窓は面積が小さいから熱損失に効かない」というものです。確かに窓の面積は外皮全体の2〜3割程度ですが、窓のU値は無断熱の壁に近いほど大きく、断熱材を入れた壁の数倍に達します。貫流損失は「面積 × U値」なので、面積が小さくてもU値が突出していれば、窓が貫流損失の最大の経路になります。実際、断熱の弱い住宅では熱の半分近くが窓から逃げます。U値を一律平均で扱う本ツールは概算用であり、詳細設計では部位ごとにU値と面積を分けて計算してください。

次に、「気密を高めて換気を減らせば省エネになる」という早合点。換気損失を減らしたいからと必要換気量まで絞ると、室内のCO₂・湿度・化学物質がたまり、結露やカビ、健康被害を招きます。建築基準法で居室には0.5回/h以上の換気が義務づけられているのもこのためです。正しい解は「すきま風(意図しない漏気)は気密施工で止め、必要換気は熱交換換気で行い、出ていく暖気から熱を回収する」こと。気密と換気はセットで考える必要があります。

最後に、「この計算だけで暖房負荷が決まる」と思い込むこと。本ツールが扱うのは定常状態の熱損失だけで、実際の暖房負荷には日射による熱取得(冬は味方)、人体・家電・調理からの内部発熱、建物の熱容量による時間遅れ、地面に接する床の特殊な伝熱などが加わります。熱損失は暖房負荷の「上限側の骨格」を与えますが、日射と内部発熱を考慮すると実需要はこれより小さくなることが多い点に注意してください。本ツールは概念理解と概算のためのものです。