計算式
表皮深さ:$\delta = \sqrt{\dfrac{2\rho}{\omega\mu}}$ (m)吸収損失:$A = 8.686\,t/\delta$ (dB)
反射損失:$R = 168 - 10\log\!\left(\dfrac{f\mu_r}{\sigma_r}\right)$ (dB)
$SE = A + R$ (A > 15 dBのとき B ≈ 0)
材料・板厚・周波数を選択するだけで、表皮深さ・吸収損失・反射損失・総SE(dB)をリアルタイム計算。周波数特性グラフで材料比較も可能です。
電磁波が導体内部に侵入するときの減衰の度合いを表す「表皮深さ」が基本となります。周波数が高いほど、また材料の電気伝導率と透磁率が高いほど、電磁波は表面にしか浸透できなくなります。
$$ \delta = \sqrt{\frac{2\rho}{\omega \mu}}= \sqrt{\frac{1}{\pi f \mu \sigma}}\quad \text{[m]}$$ここで、$\delta$: 表皮深さ (m), $\rho$: 抵抗率 (Ω・m), $\omega = 2\pi f$: 角周波数 (rad/s), $\mu$: 透磁率 (H/m), $\sigma$: 電気伝導率 (S/m), $f$: 周波数 (Hz) です。$\delta$が小さいほど、電磁波は材料内部に侵入しにくくなります。
総合的な遮蔽効果SEは、材料内部でエネルギーが熱に変わる「吸収損失A」と、表面で跳ね返される「反射損失R」の和で近似されます(多重反射の影響が無視できる場合)。
$$ A = 8.686 \frac{t}{\delta}\quad \text{[dB]}, \quad R = 168 - 10 \log_{10}\left( \frac{f \mu_r}{\sigma_r}\right) \quad \text{[dB]}, \quad SE \approx A + R $$$t$: シールド板厚 (m), $\mu_r$: 比透磁率, $\sigma_r$: 銅に対する比導電率です。Aは板厚が表皮深さより十分厚いときに有効で、Rはシールドと外部空間のインピーダンスの不整合に起因します。
電子機器のEMC対策:スマートフォンやノートPCの筐体は、内部回路が発する高周波ノイズが外部に漏れないように、また外部の電波干渉を受けないように、アルミニウムダイカストや導電性塗装でシールドします。シミュレーターで1GHz付近のSEが20-40dBあれば、多くの規格をクリアできます。
医療・測定機器:MRI装置の周辺や、心電図などの生体信号を測定する機器の周りでは、外部の商用周波数(50/60Hz)磁界を遮る必要があります。このような極低周波磁界には、シミュレーターの「ミューメタル」のように比透磁率が非常に高い材料が用いられます。
自動車の電装システム:モーターやインバーターから発生する大きなスイッチングノイズが、ラジオやCAN通信線に悪影響を与えないよう、ケースやケーブルをシールドします。ここではコストと強度から、鋼板がよく使われます。
データセンター・シールドルーム:外部からの強い電磁波(レーダーや無線局)や、内部情報の電磁漏洩を防ぐために、部屋全体を銅板や鋼板で覆います。広い周波数帯域で高いSE(例えば60dB以上)が要求されるため、材料と構造の組み合わせが重要になります。
まず、「シールド効果(SE)は大きければ大きいほど良い」という思い込みです。確かに高いSEは理想的ですが、コストや重量、加工性とのトレードオフがあります。例えば、ある機器で要求されるSEが40dBなのに、80dBの設計をすると、ミューメタルを使うなどでコストが跳ね上がります。ツールで目標周波数帯域のSEを確認し、必要十分な材料と厚さを選定する姿勢が大切です。
次に、「材料の特性値は常に一定」と考えてしまう点。シミュレーターで使う導電率や透磁率は、理想的な純度・焼鈍状態の値です。実際のアルミ押出材や鋼板は、合金組成や加工履歴で値がばらつきます。例えば、A5052アルミ合金の導電率は純アルミの約半分です。実設計では、データシートの実測値や安全率を見込む必要があります。
最後に、「継ぎ目や開口部の影響を無視した計算」 は最大の落とし穴です。ツールは均一な平板の性能を計算しますが、実際の筐体には隙間やネジ穴、ディスプレイ窓があります。ここから電磁波は容易に漏洩します。たとえ平板のSEが100dBあっても、1mmのスリットがあれば全体のSEは劇的に低下します。シミュレーション結果は「その材料の潜在能力」と捉え、実機ではシールドの連続性(ガスケットなど)の設計が本番です。
このツールの計算根幹は、「波動が導体中で減衰する現象」 の理解です。これはまさに電磁気学の核心の一つで、無線通信における導波管や同軸ケーブルの損失計算、さらには非破壊検査で使う渦電流探傷試験の原理(導電体表面近くの欠陥検出)にも直結しています。
また、伝達線路理論とも深く関連します。シールド表面での反射損失は、空気の特性インピーダンス(約377Ω)と金属の表面インピーダンスのミスマッチから生じます。この「インピーダンス整合」の概念は、アンテナ設計や基板上の高速信号線(SI:シグナルインテグリティ)における反射ノイズ低減技術と共通です。例えば、グラウンドプレーンを設けることも一種のシールドと言えます。
さらに、材料工学や熱工学への応用も見逃せません。表皮深さの式に現れる導電率は材料の純度や熱処理で変化し、透磁率は磁性材料の重要な特性です。また、吸収損失で電磁波エネルギーが熱に変わることは、IH調理器や金属の高周波加熱の原理そのものです。逆に、電子機器の熱設計では、この発熱を考慮する必要が出てくることもあります。
まず次のステップは、「多重反射補正項」の理解です。今回の近似式 $SE \approx A + R$ は、吸収損失Aが十分大きい(板厚が表皮深さの3倍以上など)場合に有効です。薄いシールドでは内部で反射を繰り返すため、補正項 $B$ を加えた $SE = A + R + B$ で計算する必要があります。ツールで板厚を極端に薄くしてグラフの変化を見ると、この影響を実感できます。
数学的には、マクスウェル方程式から波動方程式を導き、その導体内部での解(減衰波)を追うことが本質です。表皮深さ $\delta$ は、電界の振幅が $1/e$ に減衰する距離として導出されます。ここでネックになるのが複素数($j$)の扱いです。オイラーの公式 $e^{j\theta} = \cos\theta + j\sin\theta$ に慣れ、波動の位相変化も含めて理解できると、電磁気学全体が見渡せるようになります。
実務に近い次のトピックとしては、「複合材・層状シールド」の評価が挙げられます。例えば、磁性体(高透磁率)と良導体(高導電率)を積層すると、広帯域で高いSEを得られます。また、導電性ペーストやメッシュ、導電性プラスチックなど、均質な金属板以外の材料の評価方法を学ぶと、設計の自由度が大きく広がるでしょう。