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核物理

核結合エネルギー計算ツール

ベーテ-ヴァイツゼッカーの半経験式で原子核の結合エネルギーをリアルタイム計算。BE/A 曲線で鉄付近のピークを観察し、核分裂・核融合がなぜエネルギーを生むのかを直感的に探求できます。

核種パラメータ

⁵⁶Fe
質量数 A
陽子数 Z
プリセット核種
各項の内訳 [MeV]
体積項 aᵥA
+882.0
表面項 −aₛA²/³
−252.2
クーロン項
−121.3
対称性項
−26.6
対エネルギー δ
+1.6
合計 B
495.4
ライブ数値
結合エネルギー B [MeV]
核子当り BE/A [MeV]
質量欠損 Δm [u]
中性子数 N
BE/A 曲線と原子核 — 鉄ピークへ向かう核融合・核分裂
BE/A 曲線 選択核種 陽子 p 中性子 n 鉄ピーク (A≈56)
計算結果
結合エネルギー B
495.4
MeV
核子当り BE/A
8.846
MeV/核子
中性子数 N
30
N = A − Z
核種の安定性
安定
(N/Z比)
結合エネルギー
理論・主要公式

$B = a_V A - a_S A^{2/3} - a_C \dfrac{Z(Z-1)}{A^{1/3}} - a_A \dfrac{(A-2Z)^2}{A} + \delta$
$a_V=15.75,\ a_S=17.80,\ a_C=0.711,\ a_A=23.70,\ a_P=11.18$ [MeV]

なぜ鉄が「最も安定な元素」なの?

🙋
先生、核融合でエネルギーが取り出せるっていうのはわかるんですが、核分裂でもエネルギーが出ますよね?どうして両方でエネルギーが出るんですか?逆じゃないの?って思って。
🎓
鋭い疑問だね。これを理解する鍵が「結合エネルギー」だ。原子核をバラバラの陽子・中性子に分解するのに必要なエネルギーのことで、核子1個あたりのBE/Aが大きいほど「安定な核」なんだ。グラフを見ると、Be-4あたりから増え始めて、鉄(A=56)付近で最大になり、その後ゆっくり減っていく山型になる。
🙋
鉄が山のてっぺんなんですね。それで、鉄より軽いものは核融合でてっぺんに近づくからエネルギーが出る、鉄より重いものは核分裂でてっぺんに近づくからエネルギーが出る、ということ?
🎓
完璧な理解!まさにそう。例えば水素の核融合(H-2 + H-3 → He-4)は、BE/Aが約1 MeV/核子から約7 MeV/核子に増える。4核子分で約24 MeVのエネルギーが出る。ウランの核分裂(U-235 → Ba-141 + Kr-92)は、BE/Aが約7.6から約8.4 MeV/核子に増えて、235核子分で約200 MeVが出る。
🙋
核融合の方が核子あたりのエネルギーは大きいけど、核分裂は一度に多くの核子が反応するからトータルで大きいんですね。ベーテ-ヴァイツゼッカーの式の「クーロン項」って何ですか?
🎓
陽子はみんなプラスの電荷を持ってるから、互いに反発し合う。その「クーロン斥力によるエネルギーロス」がクーロン項 $-a_C Z(Z-1)/A^{1/3}$ だ。Zが増えるほど大きくなる。これが重い元素ほど不安定になる原因の一つ。一方で「対称性項」は陽子数と中性子数が等しいほど安定という傾向を表す。軽い核ではN=Z付近が安定で、重くなるとN>Zの核が安定になるのはクーロン項の影響だよ。
🙋
ということは「安定の谷」という言葉も聞いたことあるんですが、N-Z平面で安定な核が谷になって並んでるということですか?
🎓
そう!N-Z図で見ると、安定な核種が細い帯状に並ぶ「安定の谷(valley of stability)」が見える。その谷から外れた核(N/Zが極端な核種)は放射性で、ベータ崩壊などで谷の方向に落ちていく。このシミュレーターの「安定の谷タブ」で確認してみて。BE/Aの大きさを色の濃さで表してあるから、どの辺りが安定か一目でわかるよ。

半経験的質量公式(ワイツゼッカーの式)

原子核の質量は、構成する陽子・中性子をバラバラにした状態の質量の合計よりわずかに小さく、この差を質量欠損 $\Delta m$ と呼びます。失われた質量はアインシュタインの関係式により結合エネルギー $E_b=\Delta m\,c^2$ として核内に閉じ込められており、原子核をバラバラの核子に分解するのに必要なエネルギーに等しくなります。

原子核を「液滴」とみなしてこの結合エネルギーを近似するのが、ベーテ-ワイツゼッカーの半経験的質量公式です。質量数 $A$、陽子数 $Z$ の核に対して、結合エネルギーは次の5項の和で与えられます。

$B(A,Z)=a_V A - a_S A^{2/3} - a_C \dfrac{Z(Z-1)}{A^{1/3}} - a_A \dfrac{(A-2Z)^2}{A} + \delta$

数式 物理的意味
体積項 $a_V A$ 各核子は隣接する核子と核力で引き合う。結合は核子数 $A$ に比例し、核を安定化させる最大の寄与。
表面項 $-a_S A^{2/3}$ 核表面の核子は隣接する核子が少なく結合が不足する。表面積($\propto A^{2/3}$)に比例して結合エネルギーを減らす補正。
クーロン項 $-a_C \dfrac{Z(Z-1)}{A^{1/3}}$ 陽子同士の静電反発(クーロン斥力)による不安定化。陽子数 $Z$ が大きい重い核ほど効き、安定性を下げる。
非対称項 $-a_A \dfrac{(A-2Z)^2}{A}$ 中性子数と陽子数の差 $N-Z=A-2Z$ が大きいほど不安定。$N=Z$(対称)で最も安定になる量子力学的傾向を表す。
対項 $\delta$ 陽子・中性子が対(ペア)を組むと安定化する偶奇効果。偶偶核で正(安定化)、奇奇核で負(不安定化)、奇数核ではゼロ。

係数 $a_V,\ a_S,\ a_C,\ a_A$ は実測データへのフィッティングで決められ、おおよそ $a_V\approx 15.8$、$a_S\approx 18.3$、$a_C\approx 0.71$、$a_A\approx 23.2$ MeV 程度の値が用いられます。

核子あたりの結合エネルギーと鉄のピーク

核の安定性を比較するには、全結合エネルギー $B$ を核子数で割った核子あたりの結合エネルギー $B/A$ を用います。これを質量数 $A$ に対してプロットすると、軽い核で急に立ち上がり、鉄(Fe-56)やニッケル(Ni-62)付近で約 8.8 MeV/核子の最大値(ピーク)に達し、その後重い核に向かってゆるやかに低下する山型の曲線になります。

$B/A$ が大きいほど核子が強く結合した安定な核です。曲線がピークを持つことから、エネルギーが放出される2つの過程が説明できます。鉄より軽い核は核融合でより重い核に合体すると $B/A$ が増加し、その差分がエネルギーとして放出されます。逆に鉄より重い核は核分裂でより軽い核に分かれると $B/A$ が増加し、やはりエネルギーを放出します。いずれも反応後に $B/A$ がピークの鉄に近づく向きへ進むため、両方向からエネルギーが取り出せるのです。

このピークは、安定化に働く体積項と不安定化に働く表面項・クーロン項の競合の結果として現れます。軽い核では表面項の影響が大きく $B/A$ が小さい一方、重い核では陽子数の増加によりクーロン項が急速に効いて $B/A$ を押し下げます。両者が釣り合う鉄付近で $B/A$ が最大となり、これが恒星内部の核融合が鉄で止まる(鉄より重い元素の生成はエネルギーを吸収する)理由にもなっています。

よくある質問

原子核をバラバラの陽子と中性子に分解するために必要なエネルギーです。例えばHe-4(アルファ粒子)の場合、2陽子+2中性子をバラバラにするには約28 MeV必要です。核子1個あたりの結合エネルギー(BE/A)が大きいほど安定な核種で、鉄(Fe-56)で約8.8 MeV/核子と最大になります。
Fe-56(Ni-62も実は最大)は核子当たりの結合エネルギーが最大になります。これより軽い核は核融合で、より重い核は核分裂で鉄付近に近づく変換が起きるため、両方向からエネルギーが放出されます。宇宙で鉄が豊富なのも、恒星内部の核融合反応が最終的に鉄で止まるためです(鉄以降の核融合はエネルギーを消費する)。
中程度の質量数(A = 20〜200)の安定核に対して数%以内の精度があります。ただし非常に軽い核(He-4など)や、魔法数(2, 8, 20, 28, 50, 82, 126)と呼ばれる特別に安定な核種には「殻模型効果」があり、液滴模型ベースのこの式では説明できません。より精密な計算には核構造モデルや数値計算が必要です。
核子あたりでは核融合の方が約3〜4倍大きいです。D-T核融合(重水素+三重水素→ヘリウム+中性子)は約17.6 MeV / 5核子 ≈ 3.5 MeV/核子。U-235核分裂は約200 MeV / 235核子 ≈ 0.85 MeV/核子。しかし一回の反応で動く核子数は核分裂の方が多いため、単純な反応あたりのエネルギーは核分裂の方が大きいです。
陽子数または中性子数が 2, 8, 20, 28, 50, 82, 126 になる核種は特別に安定です。これは核の「殻模型」で説明されます。原子の電子殻(閉殻が安定)と同様に、核子も閉殻配置になると特別に安定になります。例えばHe-4(Z=2, N=2)、O-16(Z=8, N=8)、Pb-208(Z=82, N=126、二重魔法数)が典型例です。

核結合エネルギー計算ツールとは

ベーテ・ヴァイツゼッカーの半経験式は、原子核の結合エネルギー \( B \) を質量数 \( A \) と原子番号 \( Z \) の関数として次のように与える。 $$ B = a_v A - a_s A^{2/3} - a_c \frac{Z(Z-1)}{A^{1/3}} - a_a \frac{(A-2Z)^2}{A} + \delta(A,Z) $$ ここで \( a_v, a_s, a_c, a_a \) は体積項、表面項、クーロン項、非対称項の係数であり、\( \delta \) は対項である。この式により、核子あたりの結合エネルギー \( B/A \) が \( A \) に対して描く曲線は、鉄付近で最大約8.8 MeVに達する。このピークを境に、軽い核の核融合と重い核の核分裂がエネルギーを放出する物理的根拠が説明される。本ツールでは、パラメータを調整しながら \( B/A \) 曲線をリアルタイムで描画し、核反応のエネルギー収支を直感的に探求できる。

実世界での応用

産業での実際の使用例
原子力発電業界では、燃料設計企業(例:三菱重工や仏フラマトム)が本ツールを用いて、ウラン235やプルトニウム239の核分裂時の結合エネルギー変化をリアルタイムで評価。燃料棒の濃縮度や燃焼度設計の初期検討に活用し、安全かつ高効率な炉心構成の迅速なスクリーニングを実現している。

研究・教育での活用
大学の原子核物理学実験や大学院の核エネルギー工学コースで、ベーテ-ヴァイツゼッカー式の各項(体積項・表面項・クーロン項など)の寄与をBE/A曲線で視覚的に確認する教材として利用。学生は核分裂と核融合のエネルギー放出量を直感的に比較でき、安定核種の理解が深まる。

CAE解析との連携や実務での位置付け
核結合エネルギー計算ツールは、詳細な中性子輸送解析や熱流動CAE(例:ANSYS、STAR-CCM+)の前処理段階に位置づけられる。簡易的な核反応Q値や核種安定性の事前評価を行い、大規模シミュレーションの計算負荷を低減。設計変更時の迅速なフィージビリティチェックツールとして実務で重宝されている。

よくある誤解と注意点

「結合エネルギーが大きいほど原子核は安定」と思いがちですが、実際には「核子あたりの結合エネルギー(BE/A)」が安定性の指標です。総結合エネルギーだけでは核子数が多い重い核ほど値が大きくなるため、比較には注意が必要です。

「ベーテ-ヴァイツゼッカー式は全ての原子核に正確」と思いがちですが、実際には魔法数付近の核や変形核では誤差が大きくなります。半経験式は平均的な傾向を捉えるモデルであり、個々の核種の精密な値には実験データとの乖離がある点に注意が必要です。

「BE/A曲線のピーク(鉄付近)より軽い核は全て核融合でエネルギーを得られる」と思いがちですが、実際にはクーロン障壁を超えるための高温高圧条件が必要で、軽い核同士でも反応断面積が小さい場合は実用的なエネルギー源になりません。理論上のエネルギー利得と実現可能性は別物である点に注意が必要です。

使い方ガイド

  1. スライダー「A(質量数)」で総核子数を設定します。典型値は鉄56から鉛208の範囲で、質量数が大きいほど核当たりの結合エネルギー(BE/A)は減少します。
  2. スライダー「Z(陽子数)」で陽子数を指定します。Z≤Aの制約があり、中性子数N=A-Zが自動計算されます。Fe-56ではZ=26、U-238ではZ=92となります。
  3. ベーテ-ヴァイツゼッカーの半経験式により、体積項(aᵥ=15.75 MeV)・表面項(aₛ=17.80 MeV)・クーロン項(a_C=0.711)・対称項(a_A=23.70)・対項(a_P=11.18)を考慮した核結合エネルギーBEが即座に計算され、グラフに描画されます。

具体的な計算例

He-4(α粒子):A=4、Z=2の場合、本ツールの半経験式では体積項63.0 MeV、表面項-44.9 MeV、クーロン項-0.90 MeV、対称項0 MeV(N=Z)、対項+5.6 MeVで、総BE≈22.8 MeVです(軽核では半経験式が実測28 MeVを過小評価)。一方Ni-62(A=62、Z=28)では体積項976.5 MeV、表面項-278.8 MeVとなり総BE≈549.5 MeV(BE/A≈8.86)で、この安定性の差が核融合・核分裂のエネルギー源です。

実務での注意点

  1. 奇偶効果:陽子数・中性子数が両方偶数の核(C-12、O-16、Ni-58)は対項が最大で安定性が高く、計算結果で顕著なピークが見られます。
  2. クーロン項の増加:Z>50の重核ではクーロン斥力が急速に増大し、BE/Aが低下するため、核分裂が誘発されやすくなります。U-235の核分裂計算ではこの効果が支配的です。
  3. 半経験式の限界:激しく中性子過剰なRIや超重元素(Z>104)では、シェルモデルの量子効果により半経験式の予測精度が±1 MeV程度低下するため、精密測定値との比較が必須です。