核種パラメータ
$B = a_V A - a_S A^{2/3} - a_C \dfrac{Z(Z-1)}{A^{1/3}} - a_A \dfrac{(A-2Z)^2}{A} + \delta$
$a_V=15.75,\ a_S=17.80,\ a_C=0.711,\ a_A=23.70,\ a_P=11.18$ [MeV]
ベーテ-ヴァイツゼッカーの半経験式で原子核の結合エネルギーをリアルタイム計算。BE/A 曲線で鉄付近のピークを観察し、核分裂・核融合がなぜエネルギーを生むのかを直感的に探求できます。
原子核の質量は、構成する陽子・中性子をバラバラにした状態の質量の合計よりわずかに小さく、この差を質量欠損 $\Delta m$ と呼びます。失われた質量はアインシュタインの関係式により結合エネルギー $E_b=\Delta m\,c^2$ として核内に閉じ込められており、原子核をバラバラの核子に分解するのに必要なエネルギーに等しくなります。
原子核を「液滴」とみなしてこの結合エネルギーを近似するのが、ベーテ-ワイツゼッカーの半経験的質量公式です。質量数 $A$、陽子数 $Z$ の核に対して、結合エネルギーは次の5項の和で与えられます。
$B(A,Z)=a_V A - a_S A^{2/3} - a_C \dfrac{Z(Z-1)}{A^{1/3}} - a_A \dfrac{(A-2Z)^2}{A} + \delta$
| 項 | 数式 | 物理的意味 |
|---|---|---|
| 体積項 | $a_V A$ | 各核子は隣接する核子と核力で引き合う。結合は核子数 $A$ に比例し、核を安定化させる最大の寄与。 |
| 表面項 | $-a_S A^{2/3}$ | 核表面の核子は隣接する核子が少なく結合が不足する。表面積($\propto A^{2/3}$)に比例して結合エネルギーを減らす補正。 |
| クーロン項 | $-a_C \dfrac{Z(Z-1)}{A^{1/3}}$ | 陽子同士の静電反発(クーロン斥力)による不安定化。陽子数 $Z$ が大きい重い核ほど効き、安定性を下げる。 |
| 非対称項 | $-a_A \dfrac{(A-2Z)^2}{A}$ | 中性子数と陽子数の差 $N-Z=A-2Z$ が大きいほど不安定。$N=Z$(対称)で最も安定になる量子力学的傾向を表す。 |
| 対項 | $\delta$ | 陽子・中性子が対(ペア)を組むと安定化する偶奇効果。偶偶核で正(安定化)、奇奇核で負(不安定化)、奇数核ではゼロ。 |
係数 $a_V,\ a_S,\ a_C,\ a_A$ は実測データへのフィッティングで決められ、おおよそ $a_V\approx 15.8$、$a_S\approx 18.3$、$a_C\approx 0.71$、$a_A\approx 23.2$ MeV 程度の値が用いられます。
核の安定性を比較するには、全結合エネルギー $B$ を核子数で割った核子あたりの結合エネルギー $B/A$ を用います。これを質量数 $A$ に対してプロットすると、軽い核で急に立ち上がり、鉄(Fe-56)やニッケル(Ni-62)付近で約 8.8 MeV/核子の最大値(ピーク)に達し、その後重い核に向かってゆるやかに低下する山型の曲線になります。
$B/A$ が大きいほど核子が強く結合した安定な核です。曲線がピークを持つことから、エネルギーが放出される2つの過程が説明できます。鉄より軽い核は核融合でより重い核に合体すると $B/A$ が増加し、その差分がエネルギーとして放出されます。逆に鉄より重い核は核分裂でより軽い核に分かれると $B/A$ が増加し、やはりエネルギーを放出します。いずれも反応後に $B/A$ がピークの鉄に近づく向きへ進むため、両方向からエネルギーが取り出せるのです。
このピークは、安定化に働く体積項と不安定化に働く表面項・クーロン項の競合の結果として現れます。軽い核では表面項の影響が大きく $B/A$ が小さい一方、重い核では陽子数の増加によりクーロン項が急速に効いて $B/A$ を押し下げます。両者が釣り合う鉄付近で $B/A$ が最大となり、これが恒星内部の核融合が鉄で止まる(鉄より重い元素の生成はエネルギーを吸収する)理由にもなっています。
ベーテ・ヴァイツゼッカーの半経験式は、原子核の結合エネルギー \( B \) を質量数 \( A \) と原子番号 \( Z \) の関数として次のように与える。 $$ B = a_v A - a_s A^{2/3} - a_c \frac{Z(Z-1)}{A^{1/3}} - a_a \frac{(A-2Z)^2}{A} + \delta(A,Z) $$ ここで \( a_v, a_s, a_c, a_a \) は体積項、表面項、クーロン項、非対称項の係数であり、\( \delta \) は対項である。この式により、核子あたりの結合エネルギー \( B/A \) が \( A \) に対して描く曲線は、鉄付近で最大約8.8 MeVに達する。このピークを境に、軽い核の核融合と重い核の核分裂がエネルギーを放出する物理的根拠が説明される。本ツールでは、パラメータを調整しながら \( B/A \) 曲線をリアルタイムで描画し、核反応のエネルギー収支を直感的に探求できる。
産業での実際の使用例
原子力発電業界では、燃料設計企業(例:三菱重工や仏フラマトム)が本ツールを用いて、ウラン235やプルトニウム239の核分裂時の結合エネルギー変化をリアルタイムで評価。燃料棒の濃縮度や燃焼度設計の初期検討に活用し、安全かつ高効率な炉心構成の迅速なスクリーニングを実現している。
研究・教育での活用
大学の原子核物理学実験や大学院の核エネルギー工学コースで、ベーテ-ヴァイツゼッカー式の各項(体積項・表面項・クーロン項など)の寄与をBE/A曲線で視覚的に確認する教材として利用。学生は核分裂と核融合のエネルギー放出量を直感的に比較でき、安定核種の理解が深まる。
CAE解析との連携や実務での位置付け
核結合エネルギー計算ツールは、詳細な中性子輸送解析や熱流動CAE(例:ANSYS、STAR-CCM+)の前処理段階に位置づけられる。簡易的な核反応Q値や核種安定性の事前評価を行い、大規模シミュレーションの計算負荷を低減。設計変更時の迅速なフィージビリティチェックツールとして実務で重宝されている。
「結合エネルギーが大きいほど原子核は安定」と思いがちですが、実際には「核子あたりの結合エネルギー(BE/A)」が安定性の指標です。総結合エネルギーだけでは核子数が多い重い核ほど値が大きくなるため、比較には注意が必要です。
「ベーテ-ヴァイツゼッカー式は全ての原子核に正確」と思いがちですが、実際には魔法数付近の核や変形核では誤差が大きくなります。半経験式は平均的な傾向を捉えるモデルであり、個々の核種の精密な値には実験データとの乖離がある点に注意が必要です。
「BE/A曲線のピーク(鉄付近)より軽い核は全て核融合でエネルギーを得られる」と思いがちですが、実際にはクーロン障壁を超えるための高温高圧条件が必要で、軽い核同士でも反応断面積が小さい場合は実用的なエネルギー源になりません。理論上のエネルギー利得と実現可能性は別物である点に注意が必要です。
He-4(α粒子):A=4、Z=2の場合、本ツールの半経験式では体積項63.0 MeV、表面項-44.9 MeV、クーロン項-0.90 MeV、対称項0 MeV(N=Z)、対項+5.6 MeVで、総BE≈22.8 MeVです(軽核では半経験式が実測28 MeVを過小評価)。一方Ni-62(A=62、Z=28)では体積項976.5 MeV、表面項-278.8 MeVとなり総BE≈549.5 MeV(BE/A≈8.86)で、この安定性の差が核融合・核分裂のエネルギー源です。