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宇宙工学・軌道力学

人工衛星 軌道運用シミュレーター — RAAN/カバレッジ/日食

衛星運用エンジニア向けに、高度 h・傾斜角 i・RAAN を操作してカバレッジ半径と日食割合を試算できる運用設計版です。LEO/GEO 評価、地上局アクセス検討、電力収支の前段に。基礎概念は『軌道力学 基礎シミュレーター』、電力収支は『衛星電力バジェット』、熱設計は『衛星熱制御』を併用してください。

軌道パラメータ
高度 h (km)
km
軌道傾斜角 i (°)
°
昇交点赤経 Ω (°)
°
真近点角 ν (°)
°
計算結果
周期 T (分)
速度 v (km/s)
カバレッジ半径 (km)
日食割合 (%)
軌道

青線:軌道面 ●:衛星位置(真近点角 ν) 白波線:地上軌跡

理論・主要公式
軌道周期: $T = 2\pi\sqrt{\dfrac{(R_e+h)^3}{\mu}}$
軌道速度: $v = \sqrt{\dfrac{\mu}{R_e+h}}$
$\mu = 3.986\times10^{14}$ m³/s², $R_e = 6371$ km

人工衛星軌道シミュレーターとは

🙋
「高度」のスライダーを動かすと、衛星の動きが大きく変わるんですね!軌道の形は丸いままなのに、何が変わるんですか?
🎓
大まかに言うと、衛星が地球を一周する「時間」と「速さ」が変わるんだ。例えば高度を200kmから1000kmに上げると、シミュレーターの「軌道周期」の値が約90分から約105分に増えるよね。これは、高度が上がると重力が弱まるから、衛星は少しゆっくり回らないと地球に落ちてこられなくなるんだ。
🙋
え、そうなんですか!じゃあ「軌道傾斜角」って何ですか?0度と90度で、下の地球に描かれる線(地上軌跡)の模様が全然違います。
🎓
傾斜角は、衛星の通り道(軌道面)が地球の赤道に対してどれだけ傾いているかを表す角度だよ。0度は赤道の真上だけをグルグル回る。実務で多い通信衛星の静止軌道(GEO)はこれだ。90度に近づけると、北極と南極の上を通る「極軌道」になって、地球全体をくまなく観測できる。気象衛星や偵察衛星でよく使われるパターンだね。
🙋
なるほど!でも、傾斜角を0度にして高度をどんどん上げていくと、あるところで衛星がピタッと止まって見えました。これが静止軌道?
🎓
その通り!シミュレーターで高度を約36,000kmに設定すると、軌道周期がちょうど24時間(地球の自転周期)になる。すると衛星は地球の同じ地点の真上にずっといるように見えるんだ。これが静止軌道(GEO)の原理で、テレビの衛星放送や天気図の元になる気象観測に使われているよ。「昇交点赤経」を変えれば、地球上のどの経度の上で静止するかを決められる。

よくある質問

ケプラーの第三法則 $T = 2\pi\sqrt{r^3/\mu}$ で、$T$ を地球の自転周期(86,400秒)に設定して $r$ を逆算すると $r = ({\mu T^2}/{4\pi^2})^{1/3} \approx 42,164$ km です。ここから地球半径 $R_e = 6,371$ km を引くと、高度 $h \approx 35,786$ km となります。シミュレーターで高度を36,000 km付近に設定すると、周期がほぼ1440分(24時間)になることを確認できます。
地球は完全な球ではなく赤道方向に膨らんだ扁平体のため、衛星の軌道面は徐々に歳差運動(回転)します。傾斜角を約98°(やや逆行軌道)に設定すると、この歳差の速度がちょうど年間360°(1日約0.9856°)となり、太陽に対して常に同じ角度を保てます。これにより毎回同じ照明条件で地表を撮影でき、地球観測に最適です。
摂動とは、理想的なケプラー軌道からのずれを引き起こす外乱のことです。主な原因は地球の非球対称性(J2項)、月・太陽の重力、大気抵抗、太陽輻射圧などです。このシミュレーターは理想的な2体問題(円軌道)を計算しており、摂動は考慮していません。実際の衛星運用ではJ2摂動だけでも軌道面が1日あたり数度回転するため、定期的な軌道修正が必要です。
LEO(特に高度400 km以下)では希薄な大気による抗力があり、軌道が徐々に低下します。ISSは高度約400 kmで数ヶ月ごとにリブースト(軌道上昇)が必要です。推進剤なしの場合、高度200 kmでは数日〜数週間、400 kmでは数年〜十数年、600 km以上では数十年から百年以上軌道に留まります。スペースデブリ対策として、運用終了後25年以内の大気圏再突入が国際ガイドラインで推奨されています。

実世界での応用

通信・放送:静止軌道(GEO)を利用し、特定の地域に向けて常時同じ位置から電波を送信します。衛星テレビや国際電話の中継、GPS衛星からの信号補強などに使われています。

気象観測・地球監視:GEO衛星は広範囲の雲の動きを連続観測し、天気予報に活用されます。一方、極軌道に近いLEO衛星は地球全体をくまなく撮影し、森林火災、海氷の減少、農作物の生育状況などを監視します。

測位・ナビゲーション:GPSやみちびき(準天頂衛星システム)は、複数の衛星からの信号到達時間を使って位置を計算します。軌道の設計は、常に複数の衛星が利用者の上空に見えるように最適化されています。

科学観測・宇宙開発:ハッブル宇宙望遠鏡のような天文観測衛星は、大気の影響を受けないLEOから宇宙を観測します。また、他の惑星探査機を打ち上げる際にも、まず地球周回軌道に乗せ、そこから加速する「ホーマン遷移軌道」が計算されます。

よくある誤解と注意点

シミュレーターを使い始めるときに、特に気をつけてほしいポイントがいくつかあるよ。まず、「軌道は完全な円」という前提だ。このツールは理解を簡単にするために円軌道で計算しているけど、実際の衛星軌道の多くは楕円だ。例えば、地球観測衛星は近地点(地球に一番近い点)と遠地点で高度が数百kmも違うことがある。円軌道の計算は第一近似としては優秀だけど、実設計では楕円軌道の要素(離心率)を必ず考慮するんだ。

次に、パラメータ同士の依存関係を見落とすこと。例えば「静止軌道(GEO)は高度約36,000kmで傾斜角0度」と覚えるけど、これは地球が完全な球で、かつ他の天体の重力(摂動)が無い理想的な場合。現実には、地球は少しつぶれた形(扁平体)なので、傾斜角0度を厳密に保とうとすると、衛星は勝手に少しずつ傾いてしまう。これを防ぐために定期的に軌道制御(スラスタ噴射)が必要なんだ。シミュレーター上でパラメータをいじる時は、「この値を変えたら、他のどの値に影響が出るかな?」と考えるクセをつけよう。

最後に、「カバレッジ半径」の解釈。ツールは幾何学的に「衛星から見える地表の範囲」を計算している。でも、通信や観測の実務では、この範囲全体が均一に使えるわけじゃない。例えば、地球の端の方(地平線ギリギリ)では電波が大気で減衰したり遅延が大きくなったりする。実用的なサービス提供エリアは、カバレッジ半径よりもかなり狭くなることを頭に入れておいてね。

使い方ガイド

  1. 高度(km)を入力します。LEO衛星の場合400~2000km、GEO衛星の場合35786kmを標準値とします
  2. 軌道傾斜角(度)を設定します。太陽同期軌道は98.16°、赤道軌道は0°です
  3. 昇交点赤経RAAN(度)と真近点角(度)を入力後、「計算」ボタンを押すと周期・速度・カバレッジ半径・日食割合がリアルタイム更新されます

具体的な計算例

高度800km、傾斜角98.2°(太陽同期軌道)、RAAN=0°のLEO衛星を想定します。軌道周期は約101分、速度は7.46km/sです。地球半径6371kmを基準とする有効カバレッジ半径は約2700kmで、地上局との可視時間は1周期当たり約10分です。年間日食割合は約72%(冬至付近で最大)となり、バッテリ容量設計時に日中発電停止期間の考慮が必須です

実務での注意点

  1. 太陽同期軌道の場合、RAAN漂移率は年間約1.01°/日に設定されます。設計値から逸脱する場合は軌道傾斜角を0.01°単位で調整してください
  2. GEO衛星(高度35786km)ではカバレッジ半径は約81°視野角に対応しますが、地面局の仰角5°以上条件では実効範囲は経度±75°程度に縮小します
  3. 日食割合が50%を超える場合、地上局アクセス機会の増加と太陽電池出力低下が同時発生するため、通信スケジュール作成時に電力バジェット表を併参照してください