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HVAC・温熱環境

室内温熱環境 PMV・PPD シミュレーター — Fanger ISO 7730

室温・放射温度・気流・湿度・着衣量・代謝量からFangerのPMVとPPDをリアルタイム計算するツールです。ISO 7730 / ASHRAE 55 のカテゴリ判定で、オフィス空調・住宅HVAC・健康施設の温熱快適性を即座に検証できます。

パラメータ設定
室温 t_a
°C
平均放射温度 t_r
°C
壁・窓・天井からの放射温度(グローブ温度計で測定)
気流速度 v
m/s
相対湿度 RH
%
代謝量 M
met
1.0 met=安静座位、1.2=オフィス、2.0=歩行、3.0=軽運動
着衣量 I_cl
clo
0.5 clo=夏服、0.7=長袖、1.0=冬服スーツ、1.5=ヘビーコート
姿勢
対流面積と熱伝達の補正に用いる
計算結果
着衣表面温度 t_cl (°C)
対流熱伝達 h_c (W/m²K)
放射熱損失 (W/m²)
PMV
PPD (%)
ISO 7730 区分
人体熱バランス可視化

代謝発熱・着衣・対流/放射の熱損失を矢印で示します。色はPMVの値(青→緑→赤)を表します。

PPD vs PMV 曲線
室温感度 — PMV vs 室温 t_a
理論・主要公式

$$PMV = (0.303\,e^{-0.036M} + 0.028)\cdot L,\qquad PPD = 100 - 95\,e^{-0.03353\,PMV^{4} - 0.2179\,PMV^{2}}$$

M=代謝量 (W/m²)、L=人体熱バランス残差。PMV=0 でも PPD は最少 5% となる。

$$L = (M-W) - H_{\text{skin}} - H_{\text{sweat}} - H_{\text{resp}}$$

熱バランス残差。H_skin=対流+放射、H_sweat=蒸発、H_resp=呼吸熱損失。

$$t_{cl} = 35.7 - 0.028(M-W) - I_{cl}\,[3.96\times 10^{-8} f_{cl}((t_{cl}+273)^{4}-(t_{r}+273)^{4}) + f_{cl}\,h_{c}(t_{cl}-t_{a})]$$

着衣表面温度 t_cl は反復計算で収束させる。f_cl=着衣面積比、h_c=対流熱伝達係数。

室内温熱環境 PMV・PPD — Fanger ISO 7730

🙋
「PMV」って空調の話でよく聞くんですけど、室温と何が違うんですか?室温 25°C と書いてあっても寒かったり暑かったりする理由がこれですか?
🎓
ピンポン正解だね。人が「暑い/寒い」と感じるのは室温だけじゃない。実は6つの要素で決まるんだ。物理側で①室温 t_a、②壁や窓からの放射温度 t_r、③気流速度 v、④湿度 RH。人間側で⑤着衣量 clo、⑥代謝量 met。例えば同じ 25°C でも、窓側で日射を受けて壁が 35°C なら放射でジリジリ暑いし、扇風機の風 0.5 m/s があるとガクッと涼しくなる。FangerはDanish Technical Universityでこの6要素を一つの指標に集約したんだ。それが PMV だよ。
🙋
なるほど〜。デフォルトの 24°C・1.0 clo(冬服)・1.2 met(オフィス)で PMV が 0.79 になりました。これって「やや暖かい」ですよね?冬服のスーツのまま 24°C にしてるのが暖かすぎるってこと?
🎓
そう、まさにそれが Fanger モデルの面白いところ。冬服 1.0 clo で 24°C は実は暑い側に振れる。試しに着衣量を 0.5 clo(夏服)に下げてみて。一気に PMV が下がって 0 に近づくはずだ。日本のオフィスのクールビズが「夏は 28°C、ノージャケット」を推奨するのも、これと同じ理屈。着衣を減らせば同じ快適度を高い室温で達成できるから、空調エネルギーを大幅にカットできるんだよ。
🙋
PPD が「予測不満足者率」って書いてありますけど、PMV=0 のニュートラルでも 5% は不満って…どういうことですか?理想的な環境なら全員満足じゃないんですか?
🎓
それが Fanger の鋭いところ。実は1,300人の被験者実験から導かれた式で、どんなに完璧に PMV=0 に調整しても、必ず 5% は「寒い/暑い」と申告するんだ。人によって基礎代謝も発汗量も違うし、その日のコンディションもある。だから「全員満足の環境」は物理的に作れない。空調の現場で「クレーマー対策」と呼んでるんだけど、PPD<10% を目標にすると 9割以上は満足、残り 1割は何をしても不満を言う、という割り切りができる。逆に PPD=20% を超えると会議室がざわつき始めるよ。
🙋
グラフを見ると、PPD vs PMV の曲線が綺麗な V字になってますね。±2 でほぼ 80% が不満。じゃあ実務では PMV を ±0.5 以内に保てばいいってことですか?
🎓
そこが ISO 7730 のカテゴリ分けにつながるんだ。Cat A(|PMV|≦0.2、PPD≦6%)は手術室や VIP 会議室のような最高水準、Cat B(≦0.5、≦10%)が一般オフィスの標準、Cat C(≦0.7、≦15%)が省エネ運転の許容範囲。例えば LEED や WELL の認証を取りたい建物は Cat A〜B を狙うし、欧州の EN 16798 もこれを採用してる。日本では CASBEE も同じ枠組みを使ってる。設計時はまず Cat B 達成を目指して、ピーク時間帯(昼休み後の負荷増など)でも Cat C に落ちない、というのが現実的なゴールラインだね。
🙋
最後に一つ。気流速度を 1.0 m/s まで上げると PMV がぐっと下がるんですけど、これって冷房を弱めて扇風機を回すのが省エネに効くってことですか?
🎓
大正解。気流を 0.1→0.8 m/s に上げると、人が感じる温度は約 2〜3°C 下がる。つまり 28°C+扇風機 ≈ 26°C+無風 と同じ快適度が得られる。空調の設定温度を 2°C 上げられればエネルギーは 15〜20% 削減できるから、シーリングファン併用が省エネ HVAC の鉄則になってる。ただし注意点は、書類が飛ぶようなドラフト(局所気流)が首や足元に当たると不快感が出る。ISO 7730 の Annex には「ドラフト率 DR」という別指標もあって、本来はそれも併用するんだよ。

よくある質問

PMV(Predicted Mean Vote)は -3(寒い)から +3(暑い)の7段階で集団の平均温冷感を予測する指標、PPD(Predicted Percentage of Dissatisfied)はその環境で不満足を表明する人の割合(%)です。PPDはPMVから PPD = 100 - 95·exp(-0.03353·PMV⁴ - 0.2179·PMV²) で計算され、PMV=0(ニュートラル)でも最少5%は必ず不満を訴える、というのが大きな特徴です。完璧な環境は存在しないという前提に立ったモデルです。
Cat A は最高水準で |PMV|≦0.2、PPD≦6%。手術室や高級ホテル客室など、クレームを最小化したい空間で使われます。Cat B は推奨水準で |PMV|≦0.5、PPD≦10%。一般的なオフィスや会議室の標準値です。Cat C は許容水準で |PMV|≦0.7、PPD≦15%。エネルギー優先の建物や交通施設など、ある程度の不満は許容する空間に適用します。本ツールは入力条件から自動でカテゴリ判定を行います。
代謝量:安静座位 1.0 met(58.15 W/m²)、オフィス作業 1.2 met、ゆっくり歩行 2.0 met、軽い体操 3.0 met、ジョギング 4.0 met。着衣量:裸 0 clo、夏服(半袖シャツ+薄手パンツ)0.5 clo、長袖シャツ+スラックス 0.7 clo、冬服(スーツ)1.0 clo、ヘビーコート 1.5 clo、極寒装備 2.5 clo。同じ室温でも、冬服で 24°C と夏服で 24°C ではPMVが大きく異なります。
de Dear & Brager (1998) が提唱した、自然換気建築向けの経験的モデルです。Fanger PMVは閉鎖された機械空調空間を前提にしますが、自然換気の建物では人が窓開けや着衣調整で「適応」するため、外気温と相関する許容室温範囲が観察されました。例えば月平均外気温 25°C なら、許容操作温度は 25.5°C±3.5°C(80%許容)と広く取れます。ASHRAE 55 と EN 16798-1 で規格化されており、夏期の省エネ運転や混合モード建築でよく使われます。

実世界での応用

オフィスビルのHVAC設計とコミッショニング:大手設計事務所のオフィスビル設計では、ピーク冷房負荷時に PMV が +0.5 を超えない、暖房時に -0.5 を下回らないことを設計目標にします。Revit MEP や IES VE などのBEMソフトウェアと組み合わせ、年間8,760時間のシミュレーションで PPD ≦ 10% を満たす時間率を 95%以上にする、といった具体的な KPI で評価します。設計時のPMV予測と竣工後の実測クレーム率は強い相関があり、Fangerモデルは40年以上にわたって業界標準であり続けています。

LEED・WELL・CASBEE認証:建物の環境性能認証では、温熱快適性が必ず評価項目に入ります。LEED EQ Credit「Thermal Comfort」では ASHRAE 55 準拠(事実上 PMV/PPD)を要求、WELL Comfort Concept では PPD≦10% を年間98%以上達成することが上位認証の条件です。CASBEE では「Q1 室内環境」で PMV ±0.5 以内が満点条件。これらの認証は不動産価値・賃料に直結するため、PMV/PPD の精緻なシミュレーションが設計初期段階から行われます。

クールビズ・ウォームビズの定量根拠:環境省が推奨する「夏 28°C・冬 20°C」は PMV モデルから導かれています。夏服 0.5 clo・1.2 met・気流 0.2 m/s で 28°C 想定すると PMV≈+0.4(Cat B 達成)、冬服 1.0 clo で 20°C なら PMV≈-0.2(Cat A 達成)と計算でき、エネルギー削減と快適性のバランス点として理論的に裏付けられます。同じ枠組みは欧州の「冬期室温 19°C 推奨」(IEA)、シンガポールの「24-26°C オフィス推奨」など各国施策の根拠になっています。

CFD熱流体解析との連成:OpenFOAM / ANSYS Fluent / STAR-CCM+ などのCFDで室内気流・温度分布を解析した後、各メッシュ点で PMV を計算してマップ表示することが一般的になっています。エアコン吹出し口直下、窓際の放射、デスク上の局所気流など、空間内の PMV 不均一が可視化でき、ディフューザー配置やコールドラジエータ対策の最適化に直結します。Modelica や EnergyPlus でも PMV ブロックが標準実装されており、建物制御の最適化(モデル予測制御 MPC)にも組み込まれています。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「室温だけで温熱快適性を判断する」こと。日本の建築基準法や事務所衛生基準では「室温 17〜28°C」と幅広く規定されていますが、これは PMV を見ない単純規定で、実態とは大きく乖離します。例えば窓際で日射を浴びる席は室温 25°C でも平均放射温度が 32°C になり、PMV は +1 を超えて不快領域に入ります。逆に冬の窓ガラス近くは室温 22°C でも放射温度 15°C で PMV が -0.7 まで下がる。「設定温度を下げているのに暑いと言われる」「上げているのに寒いと言われる」のほとんどは放射温度の見落としです。グローブ温度計や赤外線サーモグラフィで放射の実態を測ることが、空調設計の第一歩です。

次に、「PMV モデルの適用範囲を超えた使用」です。Fanger PMV は機械空調された閉鎖空間(オフィス・住宅居室・店舗内など)の定常状態を前提に作られています。自然換気建物・スポーツ施設・露天空間・気温変動が激しい場所では予測誤差が大きく、特に高温多湿条件(PMV>+1.5)では実測との乖離が拡大します。Standard Effective Temperature(SET*)や Adaptive Thermal Comfort モデルなど、代替指標との使い分けが重要です。また、高齢者・乳幼児・温熱性疾患患者は健常成人とは熱平衡が異なるため、PMV をそのまま当てはめると低体温・熱中症のリスクを見落とす可能性があります。

最後に、「ドラフト・温度不均一の局所不快を無視する」こと。PMV は身体全体の平均的な温冷感を予測しますが、首筋に冷気が当たる「ドラフト」、足元と頭部の温度差、床の冷たさなどの局所不快感は別途評価が必要です。ISO 7730 Annex A には「ドラフト率 DR」「鉛直温度勾配」「床温度」「放射非対称性」の局所評価基準が定められており、PMV=0 でもこれらが基準外なら不満率は跳ね上がります。実測では「PMV はOKなのに苦情が止まらない」というケースのほぼ全てが、これら局所不快感が原因です。設計時には吹出し気流、コールドラジエータ、床下空調の温度プロファイルもセットで検討してください。

使い方ガイド

  1. 室温(18~28°C)、平均放射温度(15~40°C)、気流速度(0.1~1.5 m/s)、相対湿度(30~70%RH)、着衣量(0.5~2.0 clo)、代謝量(1.0~2.5 met)の6パラメータを入力します
  2. シミュレーターがFanger式によりPMV値(-3~+3スケール)を自動計算し、着衣表面温度t_cl、対流熱伝達係数h_c、放射熱損失を並行出力します
  3. PPD(予測不満足者率)とISO 7730カテゴリ(A/B/C)判定結果を確認し、-0.5≦PMV≦+0.5範囲で快適域を評価します

具体的な計算例

オフィス環境でスーツ着用(1.0 clo)、軽作業代謝量(1.2 met)の場合:室温22°C、平均放射温度22°C、気流速度0.3 m/s、湿度50%RHを入力するとPMV=-0.2、PPD=6%が算出されISO 7730カテゴリAに該当します。一方、室温26°C、放射温度28°Cの同一代謝で計算するとPMV=+1.8、PPD=82%となり不快域に移行し、気流速度を0.8 m/s に上げるとPMV=+0.3、PPD=5%まで改善されます

実務での注意点