k-εモデル (k-epsilon Model) — CAE用語解説

カテゴリ: 用語集 | 2026-03-28
CAE visualization for k epsilon - technical simulation diagram

k-εモデルとは

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k-εモデルって何ですか? RANSの中でも特によく使われると聞いたんですが。


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k-εモデルは、乱流の運動エネルギー $k$ と、その散逸率(dissipation rate)$\varepsilon$ という2つの量に対してそれぞれ輸送方程式を立てて解くRANS乱流モデルだ。1970年代にLaunder & Spaldingが体系化して以来、工業CFDで最も広く使われてきたモデルだよ。


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$k$ は乱流のエネルギーで、$\varepsilon$ はそれが消えていく速さ……ということですか?


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そうそう。$k = \frac{1}{2}\overline{u_i' u_i'}$ で、乱流変動速度の二乗平均の半分だ。そして $\varepsilon$ はその $k$ が分子粘性によって熱に変わる率。ざっくり言うと、$k$ が「乱流のパワー」で $\varepsilon$ が「パワーの減衰速度」。この2つがわかれば、渦粘性 $\mu_t = \rho C_\mu \frac{k^2}{\varepsilon}$ を計算できて、乱流による運動量輸送を近似できるんだ。


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なるほど。例えばビルの空調ダクト内の流れを計算するとき、乱流の影響を $\mu_t$ として取り込むわけですね。


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まさにそれ。ダクト、配管、熱交換器、自動車の外部空力——工業的な内部流・外部流の大半で k-εモデルが「まず最初に試す」モデルになっている。計算が安定しやすくて、実績データも豊富だからね。


輸送方程式

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k-εモデルの方程式ってどんな形をしてるんですか? 数式を見てみたいです。


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Standard k-εモデルの輸送方程式はこうだ。まず $k$ の方程式:

$$\frac{\partial (\rho k)}{\partial t} + \frac{\partial (\rho u_j k)}{\partial x_j} = \frac{\partial}{\partial x_j}\left[\left(\mu + \frac{\mu_t}{\sigma_k}\right)\frac{\partial k}{\partial x_j}\right] + P_k - \rho\varepsilon$$

左辺が時間変化+対流、右辺が拡散+生成+散逸だ。$P_k = \mu_t S^2$ は平均流の速度勾配から乱流エネルギーが生成される項だよ。


🧑‍🎓

$\varepsilon$ の方程式もほぼ同じ形ですか?


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構造は同じだけど、係数が違う:

$$\frac{\partial (\rho \varepsilon)}{\partial t} + \frac{\partial (\rho u_j \varepsilon)}{\partial x_j} = \frac{\partial}{\partial x_j}\left[\left(\mu + \frac{\mu_t}{\sigma_\varepsilon}\right)\frac{\partial \varepsilon}{\partial x_j}\right] + C_{\varepsilon 1}\frac{\varepsilon}{k}P_k - C_{\varepsilon 2}\rho\frac{\varepsilon^2}{k}$$

Standard k-εのモデル定数は $C_\mu = 0.09$、$C_{\varepsilon 1} = 1.44$、$C_{\varepsilon 2} = 1.92$、$\sigma_k = 1.0$、$\sigma_\varepsilon = 1.3$ だ。これらは単純なせん断流の実験データからチューニングされた値なんだよ。


🧑‍🎓

定数が5つもあるんですね。これってユーザーが変えることもあるんですか?


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基本的にはデフォルト値のまま使う。ただし燃焼や噴霧のような特殊な流れでは、$C_{\varepsilon 1}$ を微調整する研究もある。でもまずはデフォルトで計算して、実験と合わないなら別のモデル(RNG、Realizable、k-ω SSTなど)に切り替えるのが正攻法だ。


3つのバリアント — Standard・RNG・Realizable

🧑‍🎓

Standard k-ε以外に、RNGとかRealizableとか聞くんですけど、何が違うんですか?


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大きく3つのバリアントがある。それぞれ特徴を整理しよう。

Standard k-ε(Launder & Spalding, 1974):最もシンプルで収束性が良い。定数は実験フィッティング。ただし強い旋回流や大きな剥離がある流れでは精度が落ちる。

RNG k-ε(Yakhot & Orszag, 1986):繰り込み群(Renormalization Group)理論を使って定数を解析的に導出。$\varepsilon$ 方程式に追加項 $R_\varepsilon$ が入る。これが歪み速度の急変する領域で $\varepsilon$ の生成を補正するから、中間Reynolds数や穏やかな旋回流でStandardより良い結果を出しやすい。

Realizable k-ε(Shih et al., 1995):「実現可能性条件」(Reynolds応力テンソルの固有値が非負)を満たすように $C_\mu$ を一定値ではなく流れ場に応じた変数にする。さらに $\varepsilon$ 方程式自体を再導出している。噴流(ジェット)の拡がり角の予測が大幅に改善され、剥離を含む流れにも強い。


🧑‍🎓

実務だとどれを使えばいいんですか? ソルバーによってデフォルトが違ったりしますよね。


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ANSYS Fluentだと Realizable k-ε がデフォルトで推奨されている。OpenFOAMも kEpsilon(Standard)と kEpsilonRNG、realizableKE が選べる。STAR-CCM+ だと Realizable Two-Layer k-ε が人気だ。実務的には、特別な理由がない限り Realizable を選んでおけば間違いが少ない。Standardは互換性のためにまだ残っているけど、新規解析で積極的に使う理由はあまりないかな。


🧑‍🎓

例えば、工場の換気ダクトの圧力損失を計算するならどれがいいですか?


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ダクト内流れならStandardでも十分な精度が出ることが多い。でも曲がり管やT字分岐があるなら剥離が起きるから、Realizableにした方が安全だ。計算コストはStandardとほぼ同じだから、Realizableにしておくデメリットはほとんどないよ。


壁関数と壁面処理

🧑‍🎓

k-εモデルでは「壁関数」が必要だと聞いたんですが、壁関数って何のためにあるんですか?


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壁面のすぐ近くには「粘性底層」っていう薄い層があって、そこでは乱流ではなく分子粘性が支配的になる。k-εモデルはこの領域を直接解くのが苦手なんだ。なぜかというと、$\varepsilon$ の境界条件が壁面で特異性を持つから。

そこで、壁面第一セルの中心を粘性底層の外側(対数則層、$y^+ \approx 30$〜$300$)に置いて、壁面のせん断応力 $\tau_w$ と壁面近傍の速度を対数則(log-law)で結びつける。これが壁関数だよ。


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$y^+$ って何ですか? メッシュ作成でいつも気にしないといけないと聞くんですが。


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$y^+$ は壁面からの無次元距離で、$y^+ = \frac{\rho u_\tau y}{\mu}$ と定義される。$u_\tau = \sqrt{\tau_w / \rho}$ は摩擦速度だ。

壁関数を使う場合は $y^+ \approx 30$〜$300$ を狙う。逆に壁面まで解像したい(Low-Reynolds数モデルやEnhanced Wall Treatment)場合は $y^+ \approx 1$ が必要になる。


🧑‍🎓

$y^+$ が5〜25の中途半端な領域に入ってしまったらどうなりますか?


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いい質問だね。そこは「バッファ層」と呼ばれていて、対数則も粘性則もどちらも正確ではない領域だ。ここに壁面第一セルが来ると精度がガタ落ちする。最近のソルバーには「Enhanced Wall Treatment」(Fluent)や「All-y+ Wall Treatment」(STAR-CCM+)のように、$y^+$ がどこにあっても自動的にブレンドしてくれる機能がある。k-εモデルと組み合わせるなら、この機能を使うのがベストプラクティスだ。


適用範囲と限界

🧑‍🎓

k-εモデルの弱点や使うべきでない場面はありますか?


🎓

大きな弱点は3つある。

1. 強い旋回流: サイクロン分離器やタービンの翼間流れのように、強い旋回(スワール)がある場合、k-εモデルは渦粘性を過大評価しやすい。旋回の減衰が速すぎる結果になることが多い。

2. 大規模剥離: 建物後方のウェイク領域や、急拡大管のように大きな剥離が支配的な流れでは、剥離点の位置や再付着長さの予測精度が悪い。

3. 非等方性が強い流れ: k-εモデルは渦粘性仮説(Boussinesq仮説)に基づいていて、Reynolds応力テンソルが等方的だと仮定している。応力の非等方性が重要な流れ、例えば二次流れが卓越するダクト角部の流れでは、Reynolds応力モデル(RSM)の方が正確だ。


🧑‍🎓

じゃあ自動車のボディ周りの空力シミュレーションは k-εでいいんですか? 後方に大きなウェイクができますよね。


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実はそれ、典型的な「k-εが苦手な問題」だ。自動車の背面は大規模な剥離渦が形成されて、抗力の大部分を占める。だから自動車メーカーのCFDチームは k-ω SST や DES(Detached Eddy Simulation)を使うことが多い。一方、エンジンルーム内の冷却風の流れ配分みたいな内部流なら、k-εでも十分だったりする。問題の性質によって使い分けるんだ。


🧑‍🎓

k-εとk-ω SSTの使い分けって、結局どう考えればいいんですか?


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ざっくりした目安を言うと:

  • k-εが向いている: 十分に発達した内部流(配管・ダクト)、自由せん断流(噴流・混合層)、初期検討段階で素早く結果が欲しいとき
  • k-ω SSTが向いている: 逆圧力勾配を受ける境界層、剥離と再付着がある外部流、翼型・車体の空力、熱伝達予測が重要な場合

迷ったら k-ω SST を選んでおけば外れが少ないけど、k-εは収束性が良いから、複雑なジオメトリで「まず解を回す」段階では重宝するよ。


実務での選択指針

🧑‍🎓

まとめると、k-εモデルはどういう手順で使うのが正しいんですか?


🎓

実務的なフローはこうだ:

  1. Reynolds数を把握 → 乱流モデルが必要かどうかを判断
  2. 流れの性質を分類 → 内部流?外部流? 剥離は大きい? 旋回は?
  3. Realizable k-ε + Enhanced Wall Treatment で初期計算 → 収束性と安定性を確認
  4. 結果を検証 → 実験値やベンチマークと比較して精度が不足なら k-ω SST や RSM に切り替え
  5. メッシュ感度チェック → 壁面 $y^+$ の値を確認し、壁関数の適用範囲内に入っているかチェック

この手順を踏めば、k-εモデルで十分な問題を無駄に高コストなモデルで計算してしまうことも、逆にk-εでは精度が出ない問題に固執してしまうこともなくなるよ。


🧑‍🎓

OpenFOAMでk-εモデルを使うとき、入口の $k$ と $\varepsilon$ の初期値ってどう設定するんですか? いつも適当に入れて怒られるんですけど……。


🎓

入口境界条件の定番の推算式はこうだ:

$$k = \frac{3}{2}(U_{\mathrm{avg}} \cdot I)^2$$ $$\varepsilon = C_\mu^{3/4} \frac{k^{3/2}}{l}$$

$I$ は乱流強度(turbulence intensity)で、配管なら5%〜10%、外部流の自由流なら1%程度が目安。$l$ は乱流長さスケールで、配管なら $l \approx 0.07D$($D$は直径)がよく使われる。OpenFOAMなら turbulentIntensityKineticEnergyInletturbulentMixingLengthDissipationRateInlet 境界条件で自動計算してくれるから、それを使うのが楽だよ。


関連用語

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