Hexagon/MSC Software — NASTRANからマルチドメインCAEスイートへ
NASTRANの起源とMSC Nastranの誕生
MSC NastranとNX Nastranって何が違うんですか? そもそもNastranっていくつもあるんですか?
いい質問だね。まず歴史から話そう。1960年代、NASAはアポロ計画などの宇宙構造物を解析するためにNASTRAN(NASA Structural Analysis)というFEMソルバーを開発した。開発を主導したのがRichard MacNealとRobert Schwendlerで、彼らが1963年に設立したのがMSC(MacNeal-Schwendler Corporation)だ。
じゃあ、NASAが作ったものを民間企業が引き継いだってことですか?
そう。NASAのNASTRANはパブリックドメインだったから、複数の企業がライセンスを取って独自に商用化した。その中で最も成功したのがMSC社で、MSC Nastranとして独自の拡張を加えていった。1970年代にはもう航空宇宙業界の標準ソルバーになっていたよ。
MSC NastranとNX Nastranの違い
それで、NX Nastranっていうのは別物なんですか?
元は同じNASTRANだけど、UGS社(現Siemens Digital Industries Software)もライセンスを受けて独自に開発を進めた。これがNX Nastranだ。2つの違いをざっくりまとめると:
- MSC Nastran — 非線形解析のSOL400、空力弾性解析(Aeroelastic)、超要素法など高度な解析機能が充実。航空宇宙・防衛の認定ソルバーとしてBoeing、Airbus、NASAで標準的に使われている
- NX Nastran — Siemens NXとのCAD/CAE統合がシームレス。設計者が使いやすいUIで、自動車や一般機械のNVH解析に強い
入力デッキ(BDFファイル)の基本フォーマットは共通だから、ある程度の互換性はあるけど、高度な機能を使うと互換性がなくなる場合もある。
へー、元は同じなのに今は別々に進化してるんですね。会社で「Nastran使ってます」って言われたら、どっちか確認しないとダメですね。
その通り。実務では「どっちのNastranか」は最初に確認すべきポイントだよ。ライセンス体系も全然違うからね。
マルチドメイン製品ポートフォリオ
MSC SoftwareってNastran以外にもたくさん製品があるって聞いたんですけど、全体像がよくわからなくて…
MSCの強みはマルチドメインをカバーする製品群を持っていることだ。主力製品を整理しよう:
- MSC Nastran — 線形・非線形構造解析のフラッグシップ。SOL101(線形静解析)からSOL400(高度非線形)まで幅広い
- Marc — 非線形専用ソルバー。接触問題、大変形、材料非線形に特化。ゴムや樹脂の成形解析で重宝される
- Adams — 多体動力学(MBD)のデファクトスタンダード。自動車のサスペンション設計では圧倒的なシェア
- Actran — 音響解析専用ソルバー。自動車のNVH、航空機のキャビンノイズ解析に使われる
- Digimat — 複合材料のマルチスケール解析。CFRPの射出成形プロセスから構造解析まで一貫して扱える
- Patran — Nastranの標準プリ/ポストプロセッサ。歴史は長いが、最近はApex Generativeという次世代プリポストも登場
構造からMBD、音響、複合材料まで全部自社製品で揃えてるのはすごいですね。例えば自動車メーカーだと、これらをどう組み合わせるんですか?
いい視点だ。例えば自動車のドア閉まり音の品質を予測するケースだと、Adamsでドアヒンジの動力学をモデル化し、Nastranでボディの振動モードを計算し、Actranで車内の音響応答を予測する。こういうドメイン横断の連成解析を自社製品だけで完結できるのがMSCの強みだね。
Hexagonによる買収と戦略転換
2017年にHexagonに買収されたって聞きましたけど、Hexagonってどういう会社なんですか? あまり聞いたことがなくて。
Hexagon ABはスウェーデンに本社を置く、計測・センサー技術のグローバル企業だ。3Dスキャナー、座標測定機(CMM)、GPSなどの精密計測技術が本業。売上高は約50億ユーロ規模で、CAE業界のプレーヤーとしてはかなり異色の存在だよ。
計測の会社がなんでCAEソフトを買うんですか?
Hexagonの狙いは「デジタルツイン」の実現だ。計測で取得した実物データと、シミュレーションで予測した仮想データを統合して、製造品質をリアルタイムに管理する。例えば、3Dスキャンで得た実際の形状をCAEモデルにフィードバックして、公差内に収まっているかを予測する——こういうワークフローを一気通貫で提供したいわけだ。
なるほど、実測とシミュレーションの融合ってことですね。買収後、MSCの製品やユーザーへの影響はありましたか?
製品自体はMSCブランドのまま継続開発されている。ただし、Hexagonの他部門(Vero Softwareの製造CAMや、Leica Geosystemsの計測機器など)との連携が強化されてきている。ユーザーにとっては、ソルバーの技術的な変化よりも、ライセンスモデルの変更や営業体制の再編のほうが影響が大きかった印象だね。
実務での選定ポイント
うちの会社でMSC製品の導入を検討してるんですけど、他社(AnsysやAbaqus)と比べてどこが有利ですか?
MSCが特に有利なケースを挙げると:
- 航空宇宙・防衛 — Nastranは認定ソルバーとして指定されることが多く、ほぼ必須
- 自動車のNVH + MBD — Adams + Nastran + Actranの連成解析は他社では再現しにくい
- 非線形接触問題 — Marc の自動リメッシュと接触アルゴリズムは実績が豊富
- 複合材料の製造プロセス連携 — Digimatは射出成形の繊維配向をそのまま構造解析に渡せる
一方、陽解法の衝突解析(LS-DYNAの領域)やCFDは自社では弱い。そこは他社製品との併用になるね。
今後の展望
Hexagon傘下になったMSCは、今後どういう方向に進むんでしょうか?
大きく3つの方向がある。第一に、クラウドCAEへの移行。MSC Oneというトークンベースのライセンスモデルが導入されて、全製品を柔軟に使い分けられるようになった。第二に、Hexagonの計測データとの統合を進めるデジタルツイン戦略の深化。第三に、AI/機械学習をソルバーに組み込んで、最適化や応答曲面の生成を高速化する取り組みだ。
NASAのプロジェクトから始まったソルバーが60年以上経っても最前線にいるって、改めてすごいですね。歴史を知ると、今の製品ラインナップの意味がよくわかりました!
CAEベンダーの歴史を知ることは、ソフトウェア選定の判断力に直結するからね。MSC/Hexagonに限らず、各ベンダーの強みと出自を理解しておくと、「なぜこのソルバーはこの分野に強いのか」が見えてくる。実務で迷ったときに役立つよ。
CAE技術は日々進化しています。 — Project NovaSolverは最新の研究成果を実務に橋渡しすることを目指しています。
CAEの未来を、実務者と共に考える
Project NovaSolverは、Hexagon/MSC Softwareにおける実務課題の本質に向き合い、エンジニアリングの現場を支える道具づくりを目指す研究開発プロジェクトです。
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