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地熱発電・再生エネ

中低温地熱発電 Binary (ORC) シミュレーター

フラッシュには温度が足りない 100〜200°C の地熱ブラインを、二次流体(R245fa, Isobutane など)に熱交換して動かすバイナリーサイクル(ORC)の設計ツールです。ブライン条件・作動流体・凝縮温度を変えると、抽出熱量・正味出力・年間発電量・LCOE がリアルタイムで更新されます。

パラメータ設定
ブライン入口温度 T_in
°C
生産井から地表に上がるブライン(熱水)の温度
ブライン流量 ṁ
kg/s
生産井全体のマスフロー
ブライン出口温度 T_out
°C
還元井に戻すブラインの温度(シリカ析出回避の下限)
作動流体
臨界温度と GWP を自動設定
コンデンサ温度 T_cond
°C
凝縮器の冷却温度(空冷 30〜45°C、水冷 20〜30°C)
目標サイクル効率
%
設計目標として下回りたくないサイクル効率
井戸深度 D
m
生産井の平均深度(CAPEX 試算に使用)
計算結果
抽出熱量 Q_brine (kW)
カルノー効率 (%)
サイクル効率 (%)
正味発電出力 (MW)
年間発電量 (GWh)
LCOE (USD/kWh)
プラント模式図 — 地熱井 → 熱交換 → ORC ループ

左の生産井から熱いブライン(赤)が上がり、熱交換器で R245fa などの作動流体(青→紫)を蒸発させ、タービンを回します。蒸気は凝縮器で冷却され、ポンプで再加熱に戻る閉ループです。

サイクル効率 vs ブライン入口温度
作動流体別性能比較(同条件下のサイクル効率)
理論・主要公式

$$Q_{brine} = \dot m\,c_{p,brine}\,(T_{in}-T_{out}), \qquad \eta_{Carnot}=\frac{T_h-T_c}{T_h}$$

ブラインから抽出する熱量 Q(kW)とカルノー効率(T は絶対温度 K)。c_{p,brine}=4.18 kJ/kg·K は水と近似。

$$\eta_{cycle} = \eta_{Carnot} \cdot f_{fluid} = \frac{T_h - T_c}{T_h} \cdot f_{fluid},\quad P_{net} = Q_{brine} \cdot \eta_{cycle} \cdot (1 - f_{aux})$$

f_fluid ≈ 0.55(バイナリーで一般的)、f_aux ≈ 0.15(ポンプ・空冷ファン等の所内負荷)。

$$LCOE \approx \frac{CAPEX}{n_{yr}\,E_{yr}} + OPEX_{kWh}$$

25年寿命・OPEX 0.02 USD/kWh・CAPEX = depth × 5000 + P_net × 3000 USD の簡易モデル。

中低温地熱発電 Binary (ORC) — 二次流体サイクル設計

🙋
地熱発電って、温泉みたいなお湯でタービンを回すんですよね?「バイナリーサイクル」って初めて聞きました。普通の地熱と何が違うんですか?
🎓
いいところを聞いてくれた。在来型の地熱発電は 200〜300°C の高温蒸気を地下から取り出して、そのまま蒸気タービンに突っ込む「フラッシュ式」が主流なんだ。でも世界の地熱資源の 70% 以上は 100〜200°C の中低温帯で、ここをフラッシュにすると蒸気がほとんど出ない。そこで使うのが Binary(バイナリー)方式——ブラインの熱を熱交換器で R245fa や Isobutane みたいな低沸点の「作動流体」に渡して、その蒸気でタービンを回す。ブラインと作動流体の 2 ループだから「Binary」と呼ぶよ。本ツールはまさにその設計用なんだ。
🙋
なるほど、温度が低くても発電できるのは便利ですね!でもデフォルトで「サイクル効率 15.6%」って出ました。火力発電が 40%超とか言うのに比べると、ずいぶん低くないですか?
🎓
そう、それは熱力学の宿命なんだ。カルノー効率 η = (T_h - T_c)/T_h は温度差で決まるから、ブライン 150°C・凝縮 30°C だと理論最大でも 28.4%、実機ではその 55% 程度で約 15.6%。火力みたいに 1500°C で燃やせれば話は別だけど、地熱は「燃料が地下で勝手に熱を蓄えてくれている」のが利点で、効率は低くても燃料費がゼロ。だから設備利用率 90% 超で年中ベースロード運転でき、太陽光・風力にはできない安定電源になるんだよ。
🙋
作動流体に R245fa・Isobutane・n-Pentane・Ammonia と並んでいますが、どれを選べばいいんですか?プルダウンを変えるだけで結果が変わるのが面白いです。
🎓
基本はブライン温度に近い「臨界温度 Tc」を持つ流体を選ぶ。R245fa は Tc=154°C で中温域の定番だけど、GWP が 858 もあって欧州ではフェーズアウトが進んでいる。代替筆頭が Isobutane(Tc=135°C, GWP=3)——可燃性は気にする必要があるけど、HFC 規制を回避でき新設では主流になりつつある。n-Pentane(Tc=196°C)はもう少し高温向けで、世界最大手の Ormat が好んで使う。Ammonia は単独ではなく水と混ぜた Kalina サイクルとして使い、温度滑りでブラインの温度プロファイルに合わせて熱回収を上げるんだ。冰島の Husavik プラントが有名だね。
🙋
井戸の深さも入力できるんですね。深いほど熱いはずなのに、深くするとなぜ LCOE が上がるんですか?
🎓
いい着眼だね。確かに地温勾配は平均 30°C/km なので、深いほど高温資源にアクセスできるんだけど、井戸掘削費は深さの非線形関数で跳ね上がる。本ツールでは簡略化して「井戸 CAPEX = 5000 USD/m × 深度」で計算しているけど、実際は 3km を超えると掘削速度が落ちて高張力ドリルパイプも必要になり、費用は 7000〜15000 USD/m と更に上がる。ニュージーランドや日本のように 2〜3km で十分な温度が得られる地域では地熱が安く、Enhanced Geothermal System(EGS)で 5km 以上の高温乾燥岩を狙う Soultz-sous-Forêts や Habanero プロジェクトでは、まだ商用化に課題が残っているんだ。
🙋
ブライン出口温度を下げると抽出熱量が増えるはずですよね?なぜ 50°C まで下げないんですか?
🎓
物理的にはその通りで、出口を下げるほど ΔT が増えて Q_brine が大きくなる。でも実務では「シリカ析出温度」という壁がある。地熱ブラインには非晶質シリカ(SiO2)が溶けており、温度が下がると過飽和になって配管や還元井で析出・閉塞を起こす。日本の八丁原や松川では概ね 80〜90°C が下限で、これを切るとスケール対策のメンテ費が跳ね上がる。Kalina サイクルが注目される理由のひとつは、温度滑りでブラインを 70°C 程度まで冷やせるからなんだ。設計では熱回収だけでなく、化学とメンテのバランスを取るのが腕の見せ所だよ。

よくある質問

フラッシュ式は 200〜300°C の高温蒸気を直接タービンに送る方式で、世界の在来型地熱発電所の主流です。一方バイナリーサイクル(Organic Rankine Cycle, ORC)は 100〜200°C の中低温ブラインを熱交換器に通し、R245fa や Isobutane のような低沸点の二次流体(作動流体)を蒸発させてタービンを回します。蒸気は閉ループでブラインと接触しないため、スケールや腐食成分を含むブラインでも運用でき、世界の地熱資源のうち中温帯(フラッシュ困難な70%以上の資源)を活用できる点が最大のメリットです。
選択の基本は (1) ブライン温度に近い臨界温度を持つこと、(2) 温度域でのサイクル効率が高いこと、(3) GWP・可燃性・毒性などの環境/安全性、です。R245fa(Tc=154°C, GWP=858)は中温域で熱力学性能が高く設備も整っていますが GWP が大きく規制対象になりつつあります。Isobutane(Tc=135°C, GWP=3)は低温〜中温向きで HFC 代替として採用例が増加。n-Pentane(Tc=196°C, GWP=4)はやや高温向きで Ormat 等が実機投入。Ammonia/H2O 混合(Kalina サイクル)は温度滑り(glide)を利用してブラインと近い温度プロファイルを実現し効率を稼ぎますが、機器が高価で実機例は限定的です。
実機の地熱バイナリーは、カルノー効率(理想可逆サイクル効率)の概ね 50〜70% を達成します。本ツールでは「fluid quality factor f_fluid ≈ 0.55」を用い、η_cycle = η_Carnot × 0.55 と推定しています。たとえばブライン 150°C・凝縮 30°C ならカルノー効率 28.4% に対し、サイクル効率は約 15.6%、ブライン抽出熱量の 15.6% が機械出力になります。そこからポンプ・送風機などの所内動力(パラサイティック・ロード)約 15% を引いた残りが正味出力です。f_fluid は実際には作動流体・タービン効率・熱交換器のピンチ・スーパーヒートに依存し、最先端機ではより高い値が得られます。
中低温地熱バイナリーの LCOE は IRENA や DOE の集計で概ね 0.07〜0.12 USD/kWh が世界平均です。井戸掘削(CAPEX の 30〜50%)と地表設備が主なコスト要因で、本ツールでは簡易的に capex = depth × 5000 + P_net × 3000 USD として、25 年寿命・OPEX 0.02 USD/kWh を加えた値を表示します。デフォルト条件(150°C・200kg/s・深度 2500m)では約 0.043 USD/kWh と試算され、これは非常に有利な条件下の数字です。実際の案件では資源リスク・許認可・送電網接続費が大きく影響するため、概算の桁感を掴むためのツールとしてご利用ください。

実世界での応用

日本の地熱バイナリー:九州電力 八丁原(大分・2MW・R114→Isopentane)、東北電力 松川(岩手・補機系として 2MW)、土湯温泉バイナリー(福島・400kW)など、火山列島の特徴を活かした中小規模バイナリーが各地で稼働しています。温泉地に近い案件は地元との合意形成が鍵で、源泉枯渇への懸念から再注入率 100% が条件になることが多く、設計時点でブライン出口温度をシリカ析出限界より高く保つ必要があります。

世界最大級の Ormat フリート:イスラエル発の Ormat Technologies は世界最大の地熱バイナリーメーカーで、米国(Heber, Mammoth, Steamboat)・ニカラグア・グアテマラ・ケニア(Olkaria)・インドネシアなどで累計 3 GW 超を建設。n-Pentane を多用し、空冷凝縮器でモジュラー化された 25〜50 MW ユニットを並列運転するのが特徴です。三菱パワーや東芝も同分野で機器供給を行っています。

油田随伴熱水の利用:従来は廃棄していた石油・天然ガス井からの随伴熱水(80〜120°C)を ORC で回収する事例が米国(Wyoming)・カナダで増加。掘削済みの井戸を流用できるため CAPEX が大幅に下がり、油田の脱炭素化と老朽井戸の延命を同時に実現します。日本でも JOGMEC が秋田・新潟で実証中です。

Enhanced Geothermal System (EGS):従来の地熱は天然の貯留層に依存するため適地が限られますが、EGS は高温乾燥岩(HDR)に水圧破砕で人工貯留層を作り、どこでも地熱発電を可能にする次世代技術。フランス Soultz-sous-Forêts、豪 Habanero、米 FORGE で実証が進み、誘発地震の制御が最大の課題です。商用化されれば世界の地熱ポテンシャルを 2 桁拡大できると目されています。

よくある誤解と注意点

最大の落とし穴は、「ブライン出口温度を熱回収だけで決めてしまう」ことです。本ツールでも T_out を下げれば Q_brine が増え、見かけ上は正味出力が上がります。しかし地熱ブラインには非晶質シリカ(SiO2)が高温で過飽和に溶けており、温度が下がると析出が始まります。一般に T_out をシリカの飽和温度より下げると、熱交換器伝熱面・配管・還元井に硬いスケールが付着し、数ヶ月でメンテのために運転停止せざるを得なくなります。日本の高シリカ系(200〜600 ppm)では T_out ≥ 80〜90°C が実務上の下限です。設計時には貯留層の化学分析を必ず行い、SiO2・CO2・H2S 濃度から安全な下限温度を逆算してください。

次に、「カルノー効率を超えるサイクルが作れる」と勘違いするケースです。Kalina サイクルやスーパークリティカル ORC の宣伝で「効率 30% 達成」のような数字を見ることがありますが、これは「同じブライン条件で R245fa 単純 ORC より熱回収量が増える」という意味で、サイクル効率そのものはカルノー上限を超えません。Kalina の真の利点は温度滑りによる「Q_brine の増大」であり、η_cycle ではなく η_cycle × Q_brine(=実出力)で比較する必要があります。本ツールで作動流体を切り替えても η_cycle 自体は大きく変わらないのは、まさにこの理由です。

最後に、「井戸を 1 本掘れば永続的に発電できる」と考えるのは危険です。地熱貯留層は有限のリソースで、長期運転すると圧力低下・温度低下が起こり、出力は年率 1〜3% で減衰するのが一般的です(米 Geysers の事例では稼働 30 年で半減)。これを抑えるには (1) 還元井からブラインを戻して貯留層圧力を維持する、(2) 段階的に追加井を掘る、(3) EGS で人工貯留層を補強する、といった対策が必要です。LCOE 試算には 25 年で平均出力が初期の 70〜80% に低下する前提を入れるのが現実的で、本ツールの簡易 LCOE はこれを考慮していない点にご注意ください。

使い方ガイド

  1. ブライン入口温度(80~200°C)と出口温度を入力します。大分県竜田地熱所:入口120°C、出口70°Cが標準値です
  2. ブライン流量(kg/s)を設定します。1MW級バイナリーで15~25 kg/sが一般的です
  3. 凝縮器温度(通常20~40°C)とR245fa・Isobutane・n-Pentaneから作動流体を選択してシミュレーション実行し、正味出力・年間発電量・LCOE(初期投資3000万円/MWを想定)を確認します

具体的な計算例

北海道中規模地熱井:ブライン入口135°C・出口65°C・流量20 kg/s、凝縮器25°Cでn-Pentane選択。抽出熱量Q_brine=1400 kW、カルノー効率18.2%、サイクル効率8.5%→正味発電出力119 kW。年間発電量704 MWh、LCOE 8.2 USD/kWh(設備利用率90%、運用費年200万円)。作動流体をIsobutaneに変更すると圧縮比低下により効率9.1%→130 kWに向上します

実務での注意点

  1. ブライン冷却(Δ60°C以上)は熱交換器スケール加速:シリカ析出温度を超えないよう冷却目標を設定。入口130°C超はバイナリー以上の簡易フラッシュ検討
  2. 凝縮器温度は冷却塔出口温度+接近度5~8°Cで決定。夏季40°C超なら循環冷却水か地下水冷却導入でLCOE0.5 USD/kWh改善
  3. 作動流体選択:Ammoniaは臨界温度132°Cで高効率だが毒性・漏洩規制。R245faは安全性優先・効率低下。中温資源(150°C超)はAmmonia、低温(80~120°C)ならn-Pentane推奨