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流体工学

タンクの排水時間(トリチェリ)シミュレーター

円筒タンクが底のオリフィスから水を排出する時間を計算するツールです。トリチェリの定理 v=√(2gh) と質量保存を組み合わせた準定常解析により、タンク径・排水口径・水位を変えると完全排水時間と出口流速がリアルタイムで分かり、排水ピットや薬液貯槽の設計を検討できます。

パラメータ設定
タンクの直径 D
m
円筒タンクの内径(断面積 A_t は π(D/2)²)
排水口の直径 d_o
mm
底面オリフィスの直径(面積 A_o = π(d_o/2)²)
初期水位 h₀
m
液面の初期高さ(オリフィスからの落差)
排出係数 C_d
縮流・摩擦損失の係数(鋭縁≈0.62、ベルマウス≈0.97)
計算結果
面積比 A_t/A_o
初期出口流速 (m/s)
初期流量 (L/s)
完全排水時間 (s)
半分まで排水する時間 (s)
排水時間の評価
タンク断面図 — 排水アニメーション

水位が下がるにつれて、オリフィスから出る噴流の速度が √h に従って落ちていく様子を示しています。下の数値が現在の水位と出口流速です。

水位 h vs 時間 t — 排水カーブ
排水時間 vs 排水口直径 d_o
理論・主要公式

$$v=\sqrt{2gh},\qquad t_{drain}=\frac{A_{tank}}{C_d\,A_{orifice}}\sqrt{\frac{2h_0}{g}}$$

出口流速 v はトリチェリの定理(=高さ h からの自由落下速度)。完全排水時間 t_drain は √h₀ に比例し、オリフィス面積 A_o に反比例。タンク径を倍にすると 4 倍、排水口径を倍にすると 1/4 になります。

$$h(t)=\bigl(\sqrt{h_0}-k\,t\bigr)^{2},\qquad k=\frac{C_d\,A_o}{A_t}\sqrt{\frac{g}{2}}$$

水位の時間変化は √h₀ から線形に下がる量の2乗。最初は速く落ち、後半ほど水位降下が遅くなる「下に凸」の曲線になります。

タンクの排水時間とは

🙋
先生、底に小さな穴が開いたバケツって、水が抜けるのにどれくらい時間がかかるか、計算できるものなんですか?
🎓
できるよ。実は17世紀にトリチェリ(ガリレオの弟子)が見つけた有名な定理があって、底の穴から飛び出す水の速さ v は √(2gh) になる。これは「水面から穴の高さまで小石を落としたときに到達する速度」とまったく同じ式なんだ。エネルギー保存から自然に出てくる結果だけど、当時としては驚きの発見だった。
🙋
えっ、水なのに石を落とした速さと同じになるんですか?じゃあ初期水位 h₀=2m なら…約 6.3 m/s ですね。デフォルト値とぴったり合ってます。
🎓
そう、√(2·9.81·2)≈6.26 m/s。完全に重力だけで決まる速度だ。あとは「単位時間に出ていく体積 = タンクの水位低下 × タンク断面積」の質量保存を書いて、h について積分すれば、空になるまでの時間が一発で出る。式が t = (A_t/(C_d·A_o))·√(2h₀/g) で、デフォルト値だと約 1648 秒、つまり 27 分半くらいだね。
🙋
あ、左で「半分まで排水する時間」だけ見ると 483 秒(8 分強)です。半分なのに全体の 3 割しかかかってない。後半のほうが圧倒的に長いんですね。
🎓
いい着眼点だ。これがトリチェリ排水の最大の特徴で、出口流速が √h で落ちるから、水位が下がるほど出ていく流量が小さくなる。前半 50% は約 29%、後半 50% は約 71% の時間を要する。実務で「あと少しなのになかなか抜けない」と感じるのはこのせいで、施工現場ではこれを見越して残水を吸引ポンプで早く抜く判断をすることもあるんだ。
🙋
排出係数 C_d ってなんですか?穴の面積に掛かる謎の係数ですけど…。
🎓
実際の流れって、穴を通る瞬間に「縮流(ベナコントラクタ)」といって流線が穴の直径よりも一回り内側に絞られるんだ。鋭く打ち抜いた板の穴だと、その縮流断面は穴面積の約 0.62 倍にしかならない。さらに摩擦損失もあるから、理論流量より少なめになる。それを補正するのが C_d で、鋭縁オリフィスで 0.60〜0.65、ベルマウスのように入口を滑らかに丸めると 0.95 以上まで上がる。スライダーで C_d を 0.62→0.85 にすると、排水時間が逆比例で短くなるのが見えるよ。
🙋
この計算って、実際の設計現場でも本当に使われてるんですか?
🎓
使われているよ。化学プラントの貯槽の緊急排出時間、雨水ピットの放流計画、温水給湯機の排水栓設計、原子力プラントのタンク水位低下シナリオの初期評価、それから昔の水時計(クレプシュドラ)の目盛もこの式で決まっている。簡単な式だけど、A_t/A_o が 100 以上で出口が大気開放という条件さえ守れば、現場の概算として十分な精度が出る。逆にこの仮定が崩れる加圧タンクやテーパタンクでは、ベルヌーイ式を一段戻って書き直すことになる。

よくある質問

断面積一定の円筒タンクが底のオリフィスから自由に排水する場合、トリチェリの定理から出口流速は v = √(2gh)。タンク水位の質量保存(A_t·dh/dt = −C_d·A_o·√(2gh))を積分すると、初期水位 h₀ から完全に排水するまでの時間は t_drain = (A_t / (C_d·A_o)) · √(2h₀/g) で表されます。A_t はタンク断面積、A_o はオリフィス面積、C_d は排出係数(鋭縁オリフィスで 0.60〜0.65)、g は重力加速度です。本ツールではこの閉じた解を直接計算しています。
出口流速 v = √(2gh) は水頭 h の平方根に比例するため、水位が下がるほど流出が遅くなります。半分まで排水する時間は t_half = (A_t/(C_d·A_o))·√(2/g)·(√h₀ − √(h₀/2)) ≈ 0.293·t_drain。つまり前半は全体の約29%、後半は約71%の時間を要します。デフォルト値(D=2m、d_o=50mm、h₀=2m、C_d=0.62)では完全排水≈1648秒、半分まで≈483秒で、確かに後半が圧倒的に長いことが確認できます。
C_d は実流量と理論流量の比で、オリフィス出口で流れが収縮(縮流・ベナコントラクタ)し、摩擦損失を受けるために 1 より小さくなります。代表的な値は、鋭縁(シャープエッジ)オリフィスで 0.60〜0.65、ベルマウス入口で 0.95〜0.99、短い円筒ノズル(ボルダ管)で 0.50〜0.53。設計初期は鋭縁の 0.62 を使い、詳細設計では実機試験または CFD で同定します。本ツールでは 0.50〜0.85 の範囲を調整できるので、その感度を直接確認できます。
この閉形式解は次の準定常仮定に基づきます:(1) タンク液面の降下が出口流速に比べて十分遅い(A_t/A_o が十分大きい、本ツールのデフォルトでは 1600)、(2) 液面上は大気圧開放、(3) 出口も大気圧開放で、押し戻し圧力がない、(4) 粘性損失は C_d に集約されている、(5) タンク断面積が水位によらず一定(円筒)。テーパタンク・加圧タンク・サイフォン排水・出口後にパイプラインが続く場合は、追加の損失項やベルヌーイ式の修正が必要です。

実世界での応用

化学プラント・貯槽の緊急排出設計:薬液貯槽や燃料タンクが漏洩・火災時に内容物を安全に排出する「緊急排液(emergency dump)」では、規定時間(例:10〜15分)以内に最低レベルまで下げる必要があります。本ツールの式から逆算してオリフィス(緊急排液弁)の最低径を決めるのが第一歩で、その後に配管損失とポンプ補助を加えて詳細設計に進みます。後半の排水が遅いことを見越し、最終 1m は強制排水で抜く設計が一般的です。

雨水ピット・調整池の放流計画:都市部の雨水を一時的に貯める調整池では、下流の河川や下水管への放流流量に上限規制があります。本ツールのトリチェリ流量 Q=C_d·A_o·√(2gh) を放流ゲートの設計基準とし、満水時の最大流量が規制値を超えないようゲート寸法を決めます。地震時にゲートが急に開放された場合の時間応答評価にも、この閉形式解が初期見積として使われます。

給湯機・ボイラの排水栓設計:家庭用エコキュートや業務用ボイラには定期点検時に内部水を抜くための排水栓があります。「30分以内に空にできること」のような仕様を満たすため、本ツールでタンク容積と排水栓径から所要時間を概算します。注意点は、排水ホースの先が下にある場合、サイフォン効果で実効水頭が増し、計算より早く抜けるケースがあること。

水時計(クレプシュドラ)と理科教育:古代エジプト・ギリシャの水時計は、トリチェリの定理がまだ知られていない時代に経験的に「水位 vs 時間」の目盛を刻んでいました。等時間目盛にするにはタンク形状を非円筒にする必要があり、これがガリレオ・トリチェリの時代に厳密に解かれました。今でも理科の実験で、ストップウォッチと定規だけで本ツールの結果を再現できる優秀な教材として使われています。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「C_d=1.0 で計算してしまう」こと。教科書では理論流量を Q=A_o·√(2gh) と書くため、これをそのまま使うと実流量より約61%過大に評価され、排水時間も約38%短く出ます。実機の現場試験で「予測の 1.6 倍も時間がかかった」という失敗の大半がこれです。鋭縁オリフィスでは必ず C_d≈0.62 を入れる、円弧入口や面取りを入れる予定があるなら C_d を 0.95 まで上げて感度を見る、というように、設計段階から C_d の不確かさを織り込んでおくことが重要です。

次に、「出口に配管が続く場合にこの式を使ってしまう」こと。本ツールはオリフィス出口がそのまま大気開放であることを前提にしています。実際には底栓の下に長い排水管がついていて、その配管摩擦損失・継手損失・出口損失も加わるケースが圧倒的に多いです。この場合は v = √(2gh / (1 + Σf·L/D + ΣK)) のように損失係数を分母に入れた式を使い、実効的な C_d を 0.3〜0.5 まで下げる必要があります。配管が長いほど、トリチェリの単純式は楽観的すぎる予測を返します。

最後に、「液面降下を出口流速と同じオーダーで考えてしまう」こと。準定常仮定が成り立つには A_t/A_o が 100 以上(本ツールのデフォルトでは 1600)必要で、これより小さい比、たとえば「直径 20cm のタンクに直径 10cm の穴」のようなケースでは、液面自身の降下速度が無視できなくなり、トリチェリ式は誤差を生じます。ダム決壊や原子炉破断のように A_t/A_o が小さい流出問題は、本ツールのスコープ外で、過渡計算(ベルヌーイ式に液面速度項を残した連立微分方程式)が必要になります。