測定式と入力量
入力は独立な正規分布 N(μ, u²) を仮定します(GUM/JCGM 101 の代表的ケース)。
次数別の収束 — 平均シフト・u_c・歪度・尖度
各次数のテーラー多項式が持つ統計量。右端のMCが参照値(JCGM 101のモンテカルロ法)。1次では Δ・γ₁・γ₂ は常に0=正規近似そのものです。
出力分布 — モンテカルロ vs 1次正規近似
ヒストグラム=モンテカルロによる実分布。曲線=GUM 1次近似の正規分布 N(f(μ), u₁²)。ずれが大きいほど線形化が危険です。
理論・主要公式
\( y = f(\mu) + \sum_i \frac{\partial f}{\partial x_i}\delta_i + \frac{1}{2}\sum_{i,j} \frac{\partial^2 f}{\partial x_i \partial x_j}\delta_i\delta_j + \cdots \)
測定式の平均値まわりテーラー展開(δᵢ = xᵢ − μᵢ)。本ツールは4次までの全項(交差項含む)を数値微分で構築します。
\( u_c^2 \approx \sum_i \left(\frac{\partial f}{\partial x_i}\right)^2 u_i^2 \qquad \Delta = E[y] - f(\mu) \approx \frac{1}{2}\sum_i \frac{\partial^2 f}{\partial x_i^2} u_i^2 \)
左:GUMの1次(線形)不確かさ伝搬則。右:2次項が生む出力平均のシフト。非線形計測で系統的なズレとして現れます。
\( \gamma_1 = \frac{E[(y-\bar y)^3]}{u_c^3} \qquad \gamma_2 = \frac{E[(y-\bar y)^4]}{u_c^4} - 3 \)
歪度 γ₁(3次の項が主因)と過剰尖度 γ₂(4次の項が主因)。ともに0が正規分布。テーラー多項式のモーメントは12点Gauss–Hermite求積で厳密に評価しています。
会話で分かる:なぜ4次まで展開するのか
🙋GUMの式 \(u_c^2=\sum (\partial f/\partial x_i)^2 u_i^2\) でいつも不確かさを出しています。これで足りないことがあるんですか?
🎓式が線形に近く、相対不確かさが小さいうちは十分だ。だがあの式は1次テーラー展開=「測定式を接線で置き換える」近似だから、曲がりの強い式では3つのことを見落とす。平均がずれること、ばらつきの見積りが変わること、そして分布が歪むことだ。
🙋平均がずれる、というのが直感に反します。入力は平均μのまわりに対称にばらつくのに、出力の平均がf(μ)からずれるんですか?
🎓2次の項 \(\tfrac12 f''u^2\) が原因だ。例えば f=x² で x=1±0.1 なら、出力の平均は 1 ではなく 1.01 になる。上に凸/下に凸の分だけ、対称なばらつきが非対称に写像される。校正曲線が曲がっている計測器で「平均を取っても真値に収束しない」系統誤差として実務でも顔を出す。
🙋3次・4次はどう解釈すればいいですか?リクエストでは歪度・尖度と書かれていましたが。
🎓3次の項は分布の左右非対称性=歪度γ₁を作る。歪んだ分布ではk=2の区間が「95%」にならない。4次の項は裾の重さ=過剰尖度γ₂を決める。γ₂が正なら極端な外れ値が正規分布の想定より出やすい。つまり3次・4次は「拡張不確かさU=k·u_cの解釈がどこまで信用できるか」を教えてくれる量だ。
🙋では4次まで展開すれば必ずモンテカルロと一致しますか?
🎓しない場合がある、というのが実務上いちばん大事な教訓だ。例えば f=eˣ, u=0.3 では4次のu_cがむしろ1次より参照値から遠くなる。テーラー級数のモーメントは単調収束しないからだ。だからこのツールはJCGM 101のモンテカルロ参照値を常に並べて表示する。テーラーとMCがずれていたら、握るべきはMCの方だ。
🙋正規近似の妥当性バッジは何を見て判定しているんですか?
🎓モンテカルロ分布の|γ₁|と|γ₂|だ。目安として|γ₁|≤0.3かつ|γ₂|≤0.5なら正規近似は実用上安全、|γ₁|>0.5または|γ₂|>1なら区間評価はモンテカルロ(JCGM 101)でやり直すべき、と表示している。閾値は慣用的なもので、要求精度に応じて厳しくしてほしい。
高次テーラー展開による誤差伝搬とは
測定量 y = f(x₁, x₂, …) の不確かさ評価では、通常、測定式を平均値まわりで1次テーラー展開(線形化)し、感度係数と入力不確かさから合成標準不確かさを求めます(GUM: JCGM 100)。しかし式の非線形性が強い場合や入力の相対不確かさが大きい場合、線形化は出力分布の平均・分散・形状を正しく再現できません。展開を2次・3次・4次へ拡張すると、それぞれ「平均シフトと分散補正」「歪度(左右非対称性)」「尖度(裾の重さ)」という統計量の補正が順に現れます。本ツールはこの階層をひとつの画面で数値化し、どの次数の効果がどれだけ効いているかを分解して表示します。
数値計算の方法と前提条件
入力された式を安全な数式パーサで解釈し、平均値まわりの偏導関数(4次まで、2変数の場合は交差項 f_xy, f_xxy, f_xyy, f_xxyy, f_xxxy, f_xyyy を含む)を5点ステンシルの中心差分で数値的に求めます。得られた4次テーラー多項式について、独立な正規分布入力 N(μᵢ, uᵢ²) のもとでの平均・分散・歪度・尖度を12点Gauss–Hermite求積で計算します。求積は次数23以下の多項式に対して厳密なため、「テーラー多項式のモーメント」としては打切り誤差以外の数値誤差を含みません。並行して同一条件のモンテカルロ計算(Box–Muller法、既定20万標本)を行い、テーラー近似の収束状況を参照値と比較できるようにしています。前提は①入力が互いに独立、②各入力が正規分布、③式が平均値近傍で滑らか(4回微分可能)、の3点です。
実務での使いどころ
代表的なのは校正・検査の不確かさバジェット作成です。円柱体積 V=πr²h のような積・べき形の式は相対不確かさが数%を超えると2次の平均シフトが無視できなくなります。比率 R=V/I や逆数 1/x は分母側の不確かさが大きいと分布が右に歪み(γ₁>0)、k=2の包含区間が非対称になります。指数・対数応答(熱電対の起電力、減衰率、pHなど)は歪度・尖度がともに大きく、正規近似のままでは区間の信頼水準を過大評価しがちです。本ツールでMCとの乖離を確認し、危ういケースはJCGM 101のモンテカルロ評価へ切り替える、という使い分けが実務的です。
よくある誤解と注意点
「次数を上げるほど必ず正確になる」は誤解です。テーラー級数から作ったモーメントは単調収束せず、u=0.3 の eˣ のように4次で一時的に参照値から離れることもあります(本ページのプリセットで再現できます)。また本ツールの高次補正は入力が正規分布・独立であることを前提にしており、一様分布入力や相関のある入力には別のモーメント代数が必要です。相関入力・非正規入力を扱う場合は共分散項を含む拡張(GUM 5.2)またはモンテカルロ法を使ってください。さらに、絶対値やしきい値を含む式(微分不可能点をもつ式)では数値微分が破綻するため、平均値近傍が滑らかであることを確認してください。