ライトヒルの音響アナロジー
理論:流れの方程式を音の方程式に書き直す
概要
ジェット機の音は、なぜあんなに大きいんですか?
高速の噴流が周りの空気と混ざるときの乱れが、音を出しているからだ。ライトヒルは1952年、流れの方程式を変形して、左辺を静止した空気の中の音の波の式、右辺を乱れた流れが作る音源の項に書き直した。この右辺の音源は四重極と呼ばれる形で、次元を調べると、出てくる音のパワーは速度の8乗に比例することがわかる。速度が2倍なら音は256倍、つまり24 dBも大きくなる。だから噴流の速度をわずかに下げるだけで、騒音は大きく下がる。現代のジェットエンジンは、大きなファンで多くの空気をゆっくり流して推力を出し、噴流の速度を下げて静かにしている。
ライトヒルの方程式
ρ′ は密度の変動、c₀ は静止空気の音速、T_ij はライトヒル応力テンソル(流れのレイノルズ応力、エントロピーの変動、粘性応力からなる)。右辺の2階微分が四重極の音源を表す。
8乗則と音響効率
K は実験で決まる係数、D は噴流の直径、A は噴流の断面積、M は噴流のマッハ数。亜音速の冷たい噴流に当てはまる近似。
ジェット旅客機の時代の始まりに
ライトヒルが音響アナロジーを発表した1952年は、世界初のジェット旅客機コメットが就航した年でもあった。ジェットエンジンの騒音は空港の周りで大きな問題となり、8乗則は、噴流の速度を下げることが最も効く対策であることを示した。これがのちに、多くの空気をファンで送る高バイパス比のターボファンエンジンにつながり、同じ推力でも騒音は大きく下がった。音響アナロジーは今もCFDで騒音を予測する方法の土台になっている。
計算例
例1:直径0.5 mの噴流の音響パワー
| 噴流速度 | マッハ数 | 音響パワー | 音響パワーレベル | 噴流の運動エネルギー | 音響効率 | 100 mでの音圧レベル |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 100 m/s | 0.29 | 0.02 W | 102.8 dB | 0.12 MW | 1.6×10⁻⁷ | 51.8 dB |
| 200 m/s | 0.58 | 4.9 W | 126.9 dB | 0.94 MW | 5.1×10⁻⁶ | 75.9 dB |
| 300 m/s | 0.87 | 124 W | 140.9 dB | 3.18 MW | 3.9×10⁻⁵ | 90.0 dB |
100 mの音圧レベルは、すべての方向に均等に広がると仮定した値(実際の噴流音は後方斜め方向に強い)。速度を1割下げると−3.7 dB、2倍にすると+24 dB。
例2:音を計算するための格子(300 m/s)
| ストローハル数 | 周波数 | 波長 | 格子(1波長に10セル) |
|---|---|---|---|
| 0.2 | 120 Hz | 2.86 m | 286 mm |
| 1.0 | 600 Hz | 0.57 m | 57 mm |
流れのエネルギーのたった0.004%しか音にならないのに、こんなに大きな音になるんですね。
噴流が運ぶエネルギーが3 MWと非常に大きいので、その0.004%でも124 Wになる。人の耳は10⁻¹² W/m²(1 W/m²の1兆分の1)という弱い音から聞き取れるので、124 Wは非常に大きな音だ。この小ささは、音の予測を難しくしてもいる。音の変動は流れの変動よりずっと小さいので、流れと音を同じ計算で直接求めると、数値の誤差に音が埋もれてしまう。そこで、乱れた流れの部分だけをLESなどで細かく計算して音源を求め、遠くへの伝わりはライトヒルの式やFW-H法などの積分で計算する分業(ハイブリッド法)がよく使われる。流れの計算でも、関心のある最も高い周波数の音源を解像できる格子と時間刻みが必要になる。
騒音予測の進め方
- 8乗則などの簡単な式で、騒音の大きさと速度の効果の目安をつかむ。
- 関心のある周波数から、格子の大きさと時間刻みを決める。
- 乱れの領域をLESなどの非定常計算で解き、音源を求める。
- FW-H法やライトヒルの積分で、遠くの観測点の音を計算する。
- 実測の騒音と、周波数ごと・方向ごとに比べる。
「排気の速さを1割下げたら」
ある工場の排気ダクトの出口から出る気流の騒音が、敷地の境界で基準をわずかに超えていた。消音器を追加する案もあったが、まず8乗則で見積もると、出口の速度を1割下げれば約3.7 dB下がり、基準を満たせることがわかった。出口の断面を約1割広げて速度を下げると、測定でもほぼ計算どおり騒音が下がった。大がかりな対策の前に、速度の効果を見積もることが役に立った例だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 流れと音を同じ格子で直接解く | 音が誤差に埋もれる | ハイブリッド法 |
| RANSで音源を求める | 変動が得られない | LESなど非定常 |
| 格子が粗い | 高い周波数が欠ける | 周波数から格子を決める |
| 指向性を無視 | 観測点の音を誤る | 方向ごとに評価 |
| 8乗則を超音速に使う | 過大評価 | 適用範囲を確認 |
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