熱抵抗ネットワーク
理論:熱の流れを回路で表す
概要
家の壁の断熱性能を見積もりたいのですが、断熱材の厚さだけで計算していいですか? 柱の部分もありますよね。
柱の部分を無視すると甘く見積もるね。熱抵抗ネットワークは、熱の流れを電気回路のように考える方法だ。温度差を電圧、熱の流れを電流とみなし、石こうボード、断熱材、合板、表面の熱伝達をそれぞれ抵抗として直列につなぐ。柱と断熱材が並ぶ層は並列になる。ただし並列の部分のつなぎ方で答えが変わるので、2通りで計算して幅を見るのがコツだよ。
基本の式
$t$ は層の厚さ、$k$ は熱伝導率、$h$ は表面の熱伝達係数、$U$ は熱貫流率(1 m²・1 Kあたりの熱の通りやすさ)、$A$ は面積。直列では抵抗を足し、並列では抵抗の逆数を足す。
並列部分の2つの計算法
$f$ は柱の面積の割合。平行流路法($U_{pp}$)は、室内から屋外まで柱を通る経路と断熱材を通る経路が交わらないと仮定する。等温面法($U_{ip}$)は、各層の境目の温度が面内で一様だと仮定し、横方向の熱の流れを自由に許す。実際の値はこの2つの間に入る。
フーリエとオームの間の類推
熱伝導の法則は1822年にフーリエがまとめ、電気のオームの法則は1827年に発表された。実はオームは、フーリエの熱伝導の理論を手本にして電気の流れを考えたと言われている。熱と電気の流れが同じ形の式で表せることから、20世紀の半ばには電気回路で熱の問題を解く「アナログ計算機」も使われた。抵抗とコンデンサをつないで壁や建物の温度変化を再現したのだ。今では熱抵抗ネットワークは、電子機器の放熱を素早く見積もる方法として欠かせない。
計算例:柱のある壁
層の熱抵抗
| 層 | 条件 | 熱抵抗(m²·K/W) |
|---|---|---|
| 室内側の表面 | h = 7.7 W/(m²·K) | 0.130 |
| 石こうボード | 12.5 mm・k = 0.25 | 0.050 |
| 断熱材 | 100 mm・k = 0.04 | 2.500 |
| 合板 | 12 mm・k = 0.13 | 0.092 |
| 屋外側の表面 | h = 25 W/(m²·K) | 0.040 |
柱がなければ合計2.81 m²·K/Wで、熱貫流率は0.356 W/(m²·K)。断熱材が抵抗の約9割を占める。
柱を入れた場合
| 柱 | 面積の割合 | 平行流路法 | 等温面法 |
|---|---|---|---|
| 木(k = 0.13) | 10% | 0.413 | 0.425 |
| 木(k = 0.13) | 15% | 0.441 | 0.458 |
| 鋼(k = 50、薄い板) | 0.25% | 0.363 | 1.089 |
| 鋼(k = 50、薄い板) | 1% | 0.384 | 2.010 |
木の柱なら2つの方法がほぼ同じなのに、鋼の柱だと3倍も違うんですね。
木の柱は断熱材の3倍くらいしか熱を通さないので、横方向に熱が集まる効果が小さく、どちらの仮定でも大差ない。平均の0.42〜0.45をとれば十分だ。鋼は断熱材の1,000倍以上熱を通すから、周りの熱が薄い鋼板に横から吸い寄せられる。その度合いが2つの仮定のどちらに近いかは、1次元のネットワークでは決められない。こういう『熱橋』は2次元や3次元の熱伝導解析で求めるしかないんだ。木の柱でも、柱を入れると熱貫流率が柱なしより2割前後悪くなる点は見落とせないね。
熱損失への換算
壁の面積100 m²・室内外の温度差20 Kでは、柱なし(0.356)で約710 W、木の柱15%(平均0.450)で約900 Wになる。熱貫流率の差がそのまま暖房の負荷の差になる。
使い方と限界
ネットワークが向いている場面
- 設計の初期:材料や厚さを変えたときの効果をすぐ比べられる。
- 電子機器の放熱経路:ジャンクション→ケース→放熱材→ヒートシンク→空気を直列につなぎ、どこが支配的かを見る。
- 詳細解析の検算:有限要素法の結果が桁違いでないかを確かめる。
限界
- 熱橋のように横方向の流れが強い所では、2つの計算法の幅が大きく開く。
- 温度で物性や熱伝達係数が変わる場合は、繰り返し計算が要る。
- 時間変化を扱うには、熱容量(コンデンサ)を加えたネットワークにする。
「断熱材を増やしても結露が止まらない」
断熱材を厚くしたのに、壁の一部にだけ黒いカビの筋が出る——鉄骨の柱や金物が室内側まで熱を運ぶ熱橋が原因のことが多い。熱橋の部分だけ室内側の表面温度が下がり、露点を下回って結露する。熱抵抗ネットワークで壁全体の熱貫流率を見ると問題なさそうでも、局所の表面温度は2次元の解析でないとわからない。熱損失の計算と結露の確認は、必要な精度が違う別の問題だと考えるとよい。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 柱を無視 | 熱損失を2割前後過小評価 | 並列の層として入れる |
| 1つの計算法だけ使う | 誤差の大きさがわからない | 2つで幅を見る |
| 熱橋をネットワークで済ませる | 熱損失・結露を誤る | 2次元・3次元解析 |
| 表面の熱伝達を忘れる | 熱貫流率を過大評価 | 室内外の表面抵抗を入れる |
| 接触抵抗を無視 | 電子機器で温度を過小評価 | 界面の抵抗を加える |
熱抵抗の計算を自分でも試したいです。
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