放射エミッション解析
理論と物理
概要 — 放射エミッションとは
放射エミッションってどうやってシミュレーションするんですか? 筐体全体をメッシュ切るんですか?
いい質問だ。結論から言うと、筐体全体を一発でメッシュに切るのは現実的じゃない。PCBのパターンはmm以下の細かさだけど、3m法の試験距離は3,000mm——スケールが3桁以上違う。これを1つのメッシュで解こうとすると、数十億セルの巨大問題になってしまう。
じゃあどうするんですか?
筐体のスロットやケーブル引き出し口からの漏洩が支配的なんだ。だから実務では、PCBレベルの近傍界をまずシミュレーションして、その結果を筐体レベルのFDTDかMoMに引き渡す多段階アプローチが使われている。3m法の測定結果とのコリレーション精度は±6dBが業界標準だ。
±6dBって結構大きくないですか? 4倍の電力差ですよね。
鋭いね。電圧比で見ると2倍だ。EMCの世界では±6dBは「実用的に信頼できる」精度とされている。ケーブルの取り回しやコネクタの接触抵抗のばらつきで、量産品でも5〜10dBは変動するからね。だからシミュレーションでは6dBのマージンを持って設計するのが現実解なんだ。
放射エミッション(Radiated Emission, RE)とは、電子機器から意図せず放射される電磁波のことである。CISPR 32(情報機器)やCISPR 25(車載機器)などの国際規格で限度値が定められており、30 MHz〜6 GHz(規格により異なる)の帯域で規制される。EMC試験に不合格となれば市場投入できないため、設計段階でのシミュレーション予測が極めて重要である。
放射メカニズム — DM放射とCM放射
放射エミッションって、基板のどこから電磁波が出てるんですか? 全体からまんべんなく?
大きく2つの経路がある。ディファレンシャルモード(DM)放射とコモンモード(CM)放射だ。
- DM放射:信号電流と帰還電流がPCB上でループを形成し、微小磁気ダイポールとして放射する。放射強度は周波数の4乗に比例するから、高周波のクロック信号ほど問題になる。
- CM放射:ケーブル全体が同位相で帯電し、モノポールアンテナとして動作する。たった数μAのコモンモード電流でもCISPR限度値を超えることがあって、EMC試験不合格の8割はこっちが原因というのが現場の実感だ。
えっ、数μAのコモンモード電流でNGになるんですか? そんなに微小な電流で?
そうなんだ。例えば長さ1mのケーブルに5μAのコモンモード電流が流れると、100 MHzで約40 dBμV/mの電界強度が3m距離で発生する。CISPR 32 Class Bの限度値が30 dBμV/mだから、余裕で超えてしまう。だからコモンモード電流のパスを正確にモデル化することがシミュレーションの成否を分けるんだ。
支配方程式と遠方界変換
放射エミッション解析の出発点はマクスウェル方程式である。
近傍界から遠方界への変換には、等価電磁流を用いた遠方界変換(Far-Field Transformation)が用いられる。閉曲面 $S$ 上の電界 $\mathbf{E}_s$ と磁界 $\mathbf{H}_s$ から、距離 $r$ の遠方界電界 $\mathbf{E}_{far}$ を次式で計算する。
ここで $k = 2\pi/\lambda$ は波数、$\eta_0 = 377\,\Omega$ は自由空間インピーダンス、$\hat{n}$ は面の法線ベクトルである。この変換により、筐体近傍の小さな計算領域で解を求めた後、任意の測定距離での電界強度を高速に算出できる。
ホイヘンス等価原理(Huygens Equivalent Source)
ホイヘンス等価原理って、多段階解析のどこで使うんですか?
まさに「段階をつなぐ接着剤」だよ。PCBレベルの解析で得られた近傍界を、筐体レベルの解析の励振源として入力するときに使う。具体的には、PCBを囲む閉曲面上の電界と磁界を「等価電流源」に変換する。
ホイヘンス面 $S_H$ 上の等価電流源は次のように定義される。
$\mathbf{J}_s$ と $\mathbf{M}_s$ は面上のあらゆる点で定義され、この等価源のみで閉曲面外部の電磁界を完全に再現できる。これが等価定理(Love's Equivalence Theorem)である。多段階解析では、内側の解析で得た近傍界データをホイヘンス面上の等価源に変換し、外側の解析ドメインへ渡す。
ケーブルコモンモード放射モデル
さっき「コモンモード電流がEMC試験不合格の主原因」って言ってましたよね。具体的な放射モデルってどうなるんですか?
Clayton Paul のモデルが古典的で実用的だ。長さ $L$ のケーブルにコモンモード電流 $I_{CM}$ が流れた場合、測定距離 $d$ での電界強度は次式で近似できる。
dBμV/m に変換すると、
ここで $f$ は周波数 [Hz]、$L$ はケーブル長 [m]、$I_{CM}$ はコモンモード電流 [A]、$c$ は光速、$d$ は測定距離 [m] である。ケーブル長が半波長の整数倍 $L = n\lambda/2$ のとき共振が発生し、放射が極大になる。
なるほど! ケーブル長と周波数の関係で放射が増減するんですね。じゃあケーブルを短くすれば有利?
その通り。ケーブル長を短くするのはEMC対策の基本だ。ただし共振周波数がずれるだけなので、広帯域で見ると別の周波数でピークが出ることもある。根本対策はコモンモード電流そのものを抑制することで、フェライトコアの挿入やケーブル引き出し口のシールド処理が有効だ。
遠方界変換の各項の物理的意味
- $e^{-jkr}/r$ 項:球面波の伝搬を表す。距離 $r$ に反比例して電界が減衰し、位相が回転する。3m法と10m法で約10 dBの差が生じるのはこの項による。
- $\hat{n} \times \mathbf{E}_s$(等価磁流):ホイヘンス面上の電界の接線成分。スロットやアパーチャからの放射を記述する。筐体の開口部が主な漏洩経路となる理由がここにある。
- $\hat{n} \times \mathbf{H}_s$(等価電流):ホイヘンス面上の磁界の接線成分。PCB上のループ電流やケーブルのコモンモード電流からの放射を記述する。
- $e^{jk\hat{r}\cdot\mathbf{r}'}$(位相項):面上の各点から観測点への位相遅延。遠方界パターン(指向性)を決定する。スロットの寸法が波長に比べて大きくなると、強い指向性が現れる。
仮定条件と適用限界
- 遠方界条件:観測距離 $r > 2D^2/\lambda$ ($D$ はアンテナ最大寸法)を満たす必要がある。30 MHzでケーブル長1mの場合、20m以上が厳密な遠方界条件だが、3m法ではその補正を含んでいる
- 線形媒質仮定:材料の透磁率・誘電率が電界強度に依存しない。フェライトコアの飽和特性を扱うには非線形モデルが必要
- 完全導体近似:筐体の有限導電率による損失を無視。薄板の場合は表皮効果厚と板厚の関係で透過波の考慮が必要
- ケーブルの細線近似:ケーブル断面寸法が波長に比べて十分小さい場合に有効。GHz帯では太いケーブルバンドルに対してこの近似が破綻する
次元解析と単位系
| 物理量 | SI単位 | EMC実務での表記 |
|---|---|---|
| 電界強度 $E$ | V/m | dBμV/m(1μV/m = 0 dBμV/m) |
| 磁界強度 $H$ | A/m | dBμA/m |
| コモンモード電流 $I_{CM}$ | A | dBμA(1μA = 0 dBμA) |
| 自由空間インピーダンス $\eta_0$ | Ω | 377 Ω(= 120π Ω) |
| 波数 $k$ | rad/m | $k = 2\pi f/c$ |
| 表皮深さ $\delta$ | m | $\delta = 1/\sqrt{\pi f \mu \sigma}$ |
数値解法と実装
多段階解析アプローチ
多段階アプローチって、具体的にどう「段階」を分けるんですか?
典型的には3段階だ。
- Stage 1 — PCB近傍界解析:回路シミュレータ(SPICE等)やフルウェーブ2.5D解析(Ansys SIwave、Cadence Sigrity等)でPCBのパターン電流分布を求め、基板直上の近傍界を取得する。
- Stage 2 — 筐体レベル解析:Stage 1の近傍界をホイヘンス等価源として筐体モデルに入力。FDTDまたはMoMで筐体スロット・ケーブル引出口からの漏洩を計算する。
- Stage 3 — 遠方界変換:筐体外面のホイヘンス面データから遠方界変換を行い、3m/10m距離での電界強度を算出。CISPR限度値との比較を行う。
段階間のデータ受け渡しで精度が落ちたりしませんか?
いい着眼点だ。ホイヘンス面上のサンプリング密度が不十分だと高周波成分が失われる。目安としてλ/10以下の間隔でサンプリングしないと精度が劣化する。1 GHzなら30mm間隔、3 GHzなら10mm間隔が必要だ。CST Studio Suiteでは段階間の受け渡しを自動化する「System Assembly and Modeling(SAM)」機能があって、実務ではこれが広く使われている。
FDTD法(時間領域有限差分法)
FDTD法はYeeセル上で電界と磁界を時間的・空間的に半ステップずらして計算する。放射エミッション解析において、1回の計算で広帯域(30 MHz〜数GHz)のスペクトルを取得できる点が最大の利点である。
安定条件(CFL条件):
| パラメータ | 推奨値 | 備考 |
|---|---|---|
| セルサイズ | ≤ λmin/20 | 最高周波数の波長基準 |
| 吸収境界条件 | CPML(8〜12層) | PMLより広帯域で安定 |
| 励振源 | ガウスパルス / 変調正弦波 | 解析帯域に合わせて選択 |
| 計算打ち切り | 残留エネルギー −30 dB | 不十分だと低周波で誤差 |
MoM(モーメント法)
MoMってFDTDと何が違うんですか? 使い分けはどうするんでしょう。
MoMは導体表面だけを離散化するから、ケーブルや筐体のような開放空間の問題に向いている。体積メッシュが不要なので、空間が大きい問題で計算量が大幅に減る。ただし非均質材料(誘電体充填など)が入ると不得意だ。Altair Fekoが代表的なMoMソルバーで、ケーブルハーネスのコモンモード放射予測に強い。
MoMの基本定式(EFIE:電界積分方程式):
ここで $G(\mathbf{r},\mathbf{r}') = e^{-jk|\mathbf{r}-\mathbf{r}'|} / (4\pi|\mathbf{r}-\mathbf{r}'|)$ はグリーン関数である。MoMではこの積分方程式をRWG(Rao-Wilton-Glisson)基底関数で展開し、密行列方程式を得る。大規模問題では多重極展開法(MLFMM)により $O(N \log N)$ に計算量を削減する。
高周波FEM
FEMは複雑な形状や非均質材料を扱える柔軟性が特徴で、Ansys HFSSが代表的なソルバーである。辺要素(Nedelec要素)を用いてベクトルヘルムホルツ方程式を離散化する。
| 手法 | 得意分野 | 弱点 | 代表ツール |
|---|---|---|---|
| FDTD | 広帯域、過渡解析 | 曲面形状の離散化、共振構造 | CST Studio Suite |
| MoM | ケーブル放射、開放問題 | 誘電体、体積問題 | Altair Feko |
| FEM | 複雑形状、マルチフィジクス | 広帯域の計算コスト | Ansys HFSS |
メッシュ要件と計算コスト
放射エミッション解析のメッシュって、構造解析とは基準が違いますよね?
全然違う。構造解析では応力集中部を細かくすればいいけど、電磁界解析では最高周波数の波長が基準になる。6 GHzまで解析するなら波長50mm——これの1/20で2.5mm以下のセルサイズが必要だ。筐体が300mm×200mm×100mmだとすると、120×80×40 = 約40万セル。さらにPMLの領域を加えると70万セル近くになる。
それだけで70万セル……PCBのパターンまで入れたら大変なことになりそう。
だからこそ多段階アプローチが必要なんだ。PCBのパターンは0.1mm級の細かさだから、そこまで含めると数十億セルになって現実的じゃない。PCBは2.5Dソルバーで別計算して、等価源で渡すのが定石だよ。
FDTD vs FEM のたとえ
FDTD法は「写真を連続撮影する動画カメラ」——時間を追って電磁波の伝搬を逐次計算し、1回の実行で全周波数の情報が得られる。一方FEMは「特定の周波数にチューニングしたラジオ」——1つの周波数で精密な解を求める。広帯域EMC試験(30MHz〜6GHz)のスクリーニングにはFDTDが有利だが、特定の共振周波数での詳細解析にはFEMが向いている。
実践ガイド
解析フロー
実際に放射エミッションのシミュレーションをやるとしたら、最初の一歩は何ですか?
手順はこうだ。
- ノイズ源の特定:クロック周波数とその高調波、スイッチング電源のリプル周波数を洗い出す。CISPR規格の限度値と照合して、問題になりそうな周波数帯を絞り込む。
- PCB近傍界の取得:回路シミュレーション or 2.5D電磁界解析でPCBの電流分布を求める。近傍界スキャナの測定データがあれば、それを使う方がモデル誤差が小さい。
- 筐体+ケーブルモデルの構築:CADから筐体形状をインポート。スロット、通気口、コネクタ開口部を忠実にモデル化する。ケーブルは細線近似でモデル化。
- FDTD/MoM解析の実行:ホイヘンス等価源をPCB位置に配置して筐体全体を解く。
- 遠方界変換+CISPR比較:3m/10m距離の電界強度を算出し、規格限度値との比較グラフを作成。マージンが6dB未満の周波数を対策候補としてリストアップ。
PCB近傍界解析
PCBの近傍界って、シミュレーションで出すのと実測で出すのと、どっちがいいんですか?
理想は両方やることだけど、設計初期はシミュレーション、試作後は実測が現実的だ。近傍界スキャナ(EMSCAN RFR、Detectus等)で基板上10mmの磁界分布を測定して、それをホイヘンス等価源として筐体解析に入力する方法は、コリレーション精度が高い。シミュレーションだけだと、部品の寄生パラメータやPCBの製造ばらつきが反映されないからね。
近傍界スキャナって高いですよね? 代替手段はありますか?
安価な方法としては、ハンドメイドの近傍界プローブ(同軸ケーブルの先端を加工)とスペアナの組み合わせがある。定量精度は劣るが、ノイズ源の場所の特定には十分だ。あとはOSSのOpenEMSでPCBの2D電流分布を計算して、その結果をCSTに渡すワークフローも論文では報告されている。
筐体シールド効果の評価
金属筐体のシールド効果(SE)は、開口部がなければ極めて高い。しかし実際の筐体にはスロット、通気口、コネクタ開口があり、これらがシールド効果を大幅に劣化させる。
スロットの大きさとシールド効果の関係って、何か目安はありますか?
古典的な目安がある。スロット長が波長の半分に達すると共振して、シールド効果がほぼゼロになる。例えば300 MHzなら波長1m——つまり50cmのスロットがあると完全に漏洩する。実務ではスロット長を最高周波数の波長の1/20以下に抑えるのが設計指針だ。3 GHzまで対応するなら、スロット長は5mm以下にする必要がある。
もう一つ重要なのが、複数のスロットの配列効果だ。通気口のように多数のスロットが並ぶと、単独スロットより放射が増大することがある。シミュレーションではスロットの正確な寸法と配置をモデルに反映しないと、実測と合わなくなるよ。
3m法・10m法との測定コリレーション
シミュレーション結果と実測の「コリレーション」って、どうやって評価するんですか? ±6dBって言ってましたけど。
一般的にはFSV(Feature Selective Validation)という手法で定量評価する。IEEEの標準にもなっている(IEEE 1597.1)。ただ実務では、周波数ごとのピーク値の差が±6dB以内、かつスペクトルの包絡線の形状が一致していれば「良好なコリレーション」とみなすことが多い。
コリレーションが悪い主な原因はこんな感じだ。
- ケーブルの配線経路の不一致:実機のケーブルの這わせ方とモデルが違うと、コモンモード電流のパスが変わって結果が合わない。これが最大の誤差要因。
- 筐体の接触インピーダンス:カバーとシャーシのネジ止め部の接触抵抗をモデルに反映していない。
- グラウンドプレーンの影響:3m法の半電波暗室では金属グラウンドプレーンの反射波が加算される。モデルにグラウンドプレーンを入れないと30〜200 MHzで大きく乖離する。
- アンテナファクターの較正誤差:測定用アンテナのAF(アンテナファクター)の較正精度自体が±2dBある。
よくある失敗と対策
| 症状 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 低周波(30〜200 MHz)で10dB以上の乖離 | グラウンドプレーンの反射波を未考慮 | 半電波暗室モデルにグラウンドプレーンを追加 |
| 特定周波数で20dB以上のピーク差 | ケーブル共振がモデルと実機で不一致 | ケーブル長・配線経路をCADレベルで正確にモデル化 |
| 1 GHz以上でシミュレーションが過小評価 | FDTDセルサイズが粗い / スロット未モデル化 | セルサイズをλ/20以下に、スロット寸法を正確に反映 |
| 全帯域でシミュレーションが過大評価 | ケーブルフェライトやシールド処理が未考慮 | フェライトのインピーダンス特性をモデルに追加 |
| FDTD計算が不安定化 | CFL条件違反 / 微小セルによる時間刻み激減 | 局所メッシュ細分化(subcell)を活用 |
「試験場で落ちたら3ヶ月遅れ」——設計段階シミュレーションの経済的価値
EMC試験は外部認証試験場で行うことが多く、予約は数週間〜数ヶ月先になることも珍しくない。量産直前のEMC試験で放射エミッションがNG——筐体設計変更→金型修正→再試験のコンボで3ヶ月以上のスケジュール遅延は珍しくない。ある大手家電メーカーの試算では、EMC再試験1回あたりの損失額は「試験費用200万円+金型修正500万円+機会損失3,000万円」で約4,000万円。設計段階のシミュレーションにかかるコスト(ライセンス+工数)は数百万円だから、投資対効果は10倍以上になる。
PML(吸収境界条件)設定の勘所
FDTDで放射エミッション解析を行う際、PML(Perfectly Matched Layer)の設定は結果に直結する。PMLが薄すぎると反射波が計算領域に戻ってきて、あたかも「見えない壁で電磁波が跳ね返される」状態になる。CPML(Convolutional PML)を8〜12層で設定するのが安全。また、PMLから放射源までの距離はλ/4以上確保する。近すぎるとエバネッセント波の影響で精度が劣化する。
ソフトウェア比較
主要ツール比較
放射エミッションのシミュレーションをやるなら、どのソフトがいいですか?
主要な選択肢は4つある。それぞれ得意分野が違うから、用途に応じて選ぶ必要がある。
| ツール | 開発元 | 主要手法 | 強み | EMC特有機能 |
|---|---|---|---|---|
| CST Studio Suite | Dassault Systemes SIMULIA | FDTD + FEM + MoM | 多ソルバー統合、SAM機能 | EMCテンプレート、ケーブルモデル自動生成 |
| Ansys HFSS | Ansys Inc. | FEM(アダプティブメッシュ) | 高精度、SIwaveとの連携 | 近傍界→遠方界変換、CISPR比較ポスト処理 |
| Altair Feko | Altair Engineering | MoM + MLFMM | ケーブル放射、大規模システム | ケーブルハーネスソルバー、車載EMC |
| Keysight EMPro | Keysight Technologies | FEM + FDTD | ADS連携、回路協調 | PCBインポート、回路-電磁界協調 |
OSSで放射エミッション解析ってできますか?
OpenEMS(FDTDベース)がオープンソースで使える。MATLABまたはOctaveからモデルを定義して解析実行できる。精度は商用ツールに引けを取らないが、GUIがないのでプリプロセッシングに時間がかかる。学生の研究用途や、特定のシンプルな問題の検証には十分使えるよ。あとgprMax(GPR解析用だが汎用FDTD)もEMC用途で使われることがある。
選定の指針
結局どれを選べばいいんですか? 予算が限られているときは?
選定のポイントはこの3つだ。
- モデルの複雑さ:筐体のスロット・通気口が多いならFDTD(CST)、ケーブルハーネスが支配的ならMoM(Feko)、複雑な誘電体構造があるならFEM(HFSS)。
- 既存のワークフロー:Ansysの構造/熱解析を既に使っているならHFSSとの連携が楽。3DEXPERIENCE環境ならCST一択。PCB設計がCadenceならSigrityからの連携が自然。
- コスト:商用ツールは年間数百万〜1,000万円。小規模企業や研究室ならOpenEMS+近傍界スキャナの実測ベースの方が現実的かもしれない。
CSTの歴史 — ドイツの小さなベンチャーが業界標準に
CST(Computer Simulation Technology)は1992年にドイツ・ダルムシュタットで設立された。FDTDベースの「Microwave Studio」がアンテナ・EMC分野で急速にシェアを拡大し、2016年にDassault Systemes(CATIA/SOLIDWORKSの親会社)に買収された。買収額は非公開だが、推定3億ユーロ以上とされる。現在はSIMULIA製品群に統合され、Abaqus(構造)やPowerFLOW(流体)との連成解析も可能になった。EMCシミュレーション市場ではCST Studio Suiteのシェアが最も高い。
先端技術
機械学習によるEMC予測
最近流行りのAI/機械学習って、放射エミッション解析にも使えるんですか?
使える、というか既に研究が活発だ。代表的なアプローチは2つある。
- サロゲートモデル:FDTDの計算結果を教師データとして、PCBレイアウトパラメータ→放射スペクトルを予測するニューラルネットワークを構築する。学習後は数秒で予測できるから、設計探索やマージン評価の高速化に使える。
- PINN(Physics-Informed Neural Network):マクスウェル方程式を損失関数に組み込んだニューラルネットワーク。教師データが少なくても物理的に妥当な予測ができるのが利点。ただし現時点では3D広帯域の放射問題に適用した実用例は限られている。
じゃあ将来はFDTDを回さなくてもEMC予測ができるようになる?
部分的にはそうなるだろう。特に「過去の設計の類似品」に対しては、サロゲートモデルで数分でGo/NoGoの判断ができるようになる。ただし全く新しい筐体形状や未知の放射メカニズムに対しては、やはり物理ベースのフルウェーブ解析が必要だ。ML=スクリーニング、フルウェーブ=最終確認という使い分けが現実的だろうね。
デジタルツインとリアルタイムEMC
自動車や航空機では、システム全体のEMC適合性を設計段階で保証する「EMCデジタルツイン」の構築が進んでいる。車載ECU数十個+ワイヤーハーネス数km分の放射エミッションを、階層的マルチスケールモデルで予測する。CST Studio SuiteのSAM(System Assembly and Modeling)やAnsys EMC Plusがこの用途に対応している。
また、5G/ミリ波帯(24〜40 GHz)の普及により、従来のEMC規格がカバーしていなかった周波数帯での放射エミッション評価が必要になってきている。ミリ波帯ではPCBのビアやパッケージの共振が新たな放射源となるため、パッケージレベルの電磁界解析の重要性が増している。
トラブルシューティング
よくあるエラーと対策
放射エミッション解析で「やっちゃいがち」な失敗って何ですか?
EMC特有のトラップがいくつかある。構造解析や流体解析とは全然違うポイントで躓くから、リストアップしておこう。
1. FDTD計算の不安定化(数値発散)
症状:時間ステップが進むにつれて電界値が指数的に増大し、計算が異常終了する。
原因:CFL条件を満たさない時間刻み、またはPML内の数値不安定。微小なスロットをモデル化するために局所的にセルサイズを極端に小さくすると、CFL条件で要求される時間刻みが全体に対して過小になり、計算時間が爆発的に増大する。
対策:サブセルテクニック(Thin Sheet Approximation等)を活用して、セルサイズを均一に保ちつつ微小構造を表現する。CSTでは「Thin Panel」設定がこれに相当する。
2. コモンモード電流の過小評価
症状:シミュレーションでは規格合格だが、実機EMC試験で不合格。特にケーブル接続時に悪化。
原因:ケーブルのコモンモードインピーダンスとPCBのグラウンド構造の接続が不正確。コネクタのピン割り当てやシールドの接地処理がモデルに反映されていない。
対策:コネクタ部の3D形状を省略せず、シールド接続部のインピーダンスを明示的にモデル化する。MoMベースのケーブルモデル(Feko等)で感度を確認する。
3. 近傍界→遠方界変換での位相誤差
症状:遠方界パターンの形状が実測と大きく異なる(レベルではなくパターン形状の不一致)。
原因:ホイヘンス面のサンプリング密度不足、またはホイヘンス面が放射源に近すぎてエバネッセント波の影響を受けている。
対策:ホイヘンス面を放射源からλ/4以上離し、面上のサンプリング間隔をλ/10以下にする。
4. 半電波暗室の床面反射の未考慮
症状:30〜200 MHzで実測との乖離が大きい(±10 dB以上)。
原因:3m法の半電波暗室ではグラウンドプレーン(金属床)からの反射波が直接波と干渉する。自由空間で計算すると全く異なる結果になる。
対策:モデルにPEC(完全導体)の無限地板を追加する。CSTでは「Electric Boundary」設定、HFSSでは「Infinite Ground Plane」で実装。
うわ、床の反射まで考えないといけないんですか……。自由空間で計算してOKと思ったら危ないですね。
そう、EMC試験の「3m法」は半電波暗室が前提だから、シミュレーションも同じ試験環境を再現しないと意味がない。逆に言えば、自由空間のシミュレーション結果を「3m法の予測」として使うのは誤りだ。試験規格を読み込んで、測定条件を忠実にモデル化することが、コリレーション精度を上げる最も確実な方法だよ。
「解析が合わない」と思ったら——最小再現ケースを作れ
実機の筐体モデルで結果が合わない場合、いきなりパラメータをいじり回すのは最悪の手だ。まず単純な箱(直方体筐体+1本のスロット+1本のケーブル)の最小再現モデルを作り、理論解や既知のベンチマーク(IEC 61967-2のIC EMCテストボード等)と照合する。最小モデルで合えば、実機モデルの構造要素を1つずつ追加して、どの要素が乖離の原因かを特定できる。デバッグは「引き算」で行うのが鉄則だ。
なった
詳しく
報告