サーモサイフォンの解析
理論:蒸発・凝縮・重力で熱を運ぶ
概要
発熱する機器の熱を、少し離れた放熱器まで運びたいです。銅の棒では足りないと言われました。
そういうときに使われるのがサーモサイフォンだ。密閉した管に水を少し入れて、下を温め、上を冷やす。下で水が蒸発して、蒸気が上で凝縮するときに熱を放ち、液は重力で下に戻る。蒸発熱を使って熱を運ぶから、銅の棒よりけた違いに多くの熱を小さな温度差で運べる。ただし、液を戻すのは重力だけなので、加熱する側を下に置く必要がある。解析で大事なのは、どこまで熱を運べるか(限界)と、温度差がどれくらいになるか(熱抵抗)の2つだ。
フラッディング限界
上に向かう蒸気の流れが速くなると、管の壁を下に流れる液膜を押し戻し、液が蒸発部に戻れなくなる。これがフラッディング(対向流)限界で、サーモサイフォンの代表的な限界だ。Wallisの形の式で、$A$ は管の断面積、$D$ は内径。蒸気の密度 $\rho_v$ が大きいほど、同じ熱量でも蒸気の速度が遅くなるので、限界は高くなる。
凝縮部の熱伝達
凝縮部の内面では、液膜の中の熱伝導が熱抵抗になる。ヌセルトの膜状凝縮の式で熱伝達率を求め、蒸発部の熱伝達率と合わせて全体の温度差を出す。
永久凍土を守る管
サーモサイフォンの大規模な利用例として知られるのが、1970年代に建設されたアラスカ縦断石油パイプラインだ。永久凍土の上に建てた支柱が、温かい石油や夏の熱で地盤を解かして沈まないよう、支柱の中に数万本のサーモサイフォンが入れられた。冬、地上の空気が地中より冷たいときだけ働き、地中の熱を空気へ逃がして凍土を冷やし続ける。夏は上が温かくなるので自動的に止まる。動力も制御もいらない、重力とサーモサイフォンの一方向性を生かした設計だ。
計算例:水のサーモサイフォン
例1:フラッディング限界
| 内径 | 40 °C | 60 °C | 80 °C | 100 °C |
|---|---|---|---|---|
| 10 mm | 188 W | 281 W | 393 W | 521 W |
| 20 mm | 1,066 W | 1,592 W | 2,225 W | 2,945 W |
同じ管なのに、40 ℃と100 ℃で2.8倍も違うんですね。
水の蒸気の密度は、40 ℃で0.051 kg/m³、100 ℃で0.60 kg/m³と、12倍も違う。蒸気が薄いと、同じ熱を運ぶのに速い流れが要り、液を押し戻しやすいんだ。だから低い温度で使うサーモサイフォンは、同じ太さでも運べる熱が少ない。管径を2倍にすると断面積が4倍、式の $\sqrt{D}$ も効いて約5.7倍になる。使う温度と必要な熱量から管径を決めるのが基本だよ。
例2:熱抵抗と銅棒との比較
内径10 mm、蒸発部0.15 m・断熱部0.2 m・凝縮部0.15 m、60 ℃で100 Wを運ぶ場合を計算した。凝縮部はヌセルトの式、蒸発部の熱伝達率は5,000 W/m²Kと仮定した。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 凝縮部の熱伝達率 | 14,929 W/m²K |
| 凝縮部の温度差(熱抵抗) | 1.42 K (0.014 K/W) |
| 蒸発部の温度差(熱抵抗) | 4.24 K (0.042 K/W) |
| 全体の温度差 | 5.67 K |
| 有効な熱伝導率 | 約79,000 W/mK(銅の約200倍) |
| 同じ太さ・温度差の銅棒 | 0.51 W |
熱抵抗の大部分は蒸発部にあり、管の中を蒸気が流れる部分の温度差はごく小さい。そのため、長さを伸ばしても温度差はほとんど増えない。性能を上げたいなら、蒸発部の熱伝達(内面の加工、液量)を改善するのが効く。
設計の進め方
- 運ぶ熱量、使う温度、蒸発部と凝縮部の位置関係(加熱部が下か)を確かめる。
- 作動液を選ぶ(常温〜200 ℃なら水、低温ならアンモニアやフロン系など)。
- フラッディング限界から管径を決め、余裕を持たせる。
- 蒸発部・凝縮部の熱伝達から温度差を見積もる。
- 封入する液量を決める(少なすぎると乾き、多すぎると突沸や性能低下)。
「傾けたら冷えなくなった」
装置の中でサーモサイフォンを水平に近い角度で取り付けたら、試作では冷えていたのに、実機ではほとんど熱を運ばなかった——という例がある。試作は縦置き、実機は筐体の形の都合で傾きが小さくなっていた。サーモサイフォンは重力で液を戻すため、傾きが小さいと液の戻りが遅くなり、蒸発部が乾いてしまう。さらに、加熱部が少しでも上になると、まったく働かない。水平や上向きに熱を運ぶ必要があるなら、ウィックを持つヒートパイプを選ぶ必要がある。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 低い温度で高温と同じ限界を想定 | フラッディングで性能低下 | 使用温度の物性で計算 |
| 傾きを考えない | 液が戻らず乾く | 加熱部を下に |
| 液量を適当に決める | 乾き・突沸 | 液量を変えて試験 |
| 不凝縮ガスの混入 | 凝縮部が働かない | 脱気・封止の管理 |
| 熱抵抗を管の長さで見積もる | 本当の原因を見落とす | 蒸発・凝縮部を評価 |
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