動解析(Dynamic Analysis) — CAE用語解説
動解析とは
動解析って静解析と何が違うんですか? 静解析でも荷重を掛けて変形を見てますよね?
静解析は「荷重がゆっくり載って、加速度がゼロ」という前提だ。つまり質量×加速度の慣性力を無視してる。でも実際の構造物には振動や衝撃が加わるよね? そのときは慣性力が無視できなくなる。それを扱うのが動解析だよ。
具体的にどんな場面で使うんですか?
例えば自動車の衝突試験、ビルの地震応答、電子機器の落下衝撃、エンジンの回転振動——こういった「時間とともに荷重が変わる」問題はぜんぶ動解析の守備範囲だ。実務では「その荷重、本当に静的でいいの?」と問われたときに動解析が必要になる。
支配方程式
動解析の基本式ってどうなるんですか?
構造動解析の根幹は、次の運動方程式だ。
$$\mathbf{M}\ddot{\mathbf{u}} + \mathbf{C}\dot{\mathbf{u}} + \mathbf{K}\mathbf{u} = \mathbf{F}(t)$$
$\mathbf{M}$、$\mathbf{C}$、$\mathbf{K}$ って何ですか?
$\mathbf{M}$ は質量マトリクス(慣性の大きさ)、$\mathbf{C}$ は減衰マトリクス(エネルギーの散逸)、$\mathbf{K}$ は剛性マトリクス(ばねの硬さ)だ。右辺の $\mathbf{F}(t)$ が時間変動する外力。静解析は $\mathbf{M}\ddot{\mathbf{u}}$ と $\mathbf{C}\dot{\mathbf{u}}$ をゼロにした特殊ケースだと思えばいい。
減衰 $\mathbf{C}$ って実際どう決めるんですか? 材料物性表には載ってませんよね。
いい質問だね。実務ではRayleigh減衰 $\mathbf{C} = \alpha\mathbf{M} + \beta\mathbf{K}$ がよく使われる。$\alpha$ と $\beta$ は、対象周波数帯での減衰比(鉄鋼なら1〜2%、ゴムなら5〜10%くらい)から逆算するんだ。実験データがないと決められない部分だから、減衰の設定はけっこう悩みどころだよ。
モーダル解析(固有値解析)
モーダル解析って何を求める解析なんですか?
外力ゼロ・減衰ゼロにして $\mathbf{M}\ddot{\mathbf{u}} + \mathbf{K}\mathbf{u} = \mathbf{0}$ を解くことで、固有振動数(何Hzで共振するか)とモード形状(そのとき構造がどう揺れるか)を求める解析だよ。いわば構造物の「振動の指紋」を調べる作業だ。
固有値問題は次のように定式化される:
$$(\mathbf{K} - \omega_i^2\mathbf{M})\boldsymbol{\phi}_i = \mathbf{0}$$
ここで $\omega_i$ は第 $i$ モードの固有角振動数、$\boldsymbol{\phi}_i$ がモード形状ベクトルである。固有振動数は $f_i = \omega_i / (2\pi)$ [Hz] で表す。
実務ではどう使うんですか? 固有振動数がわかったら何がうれしいんでしょう。
例えばエンジンの回転数が3000rpmなら加振周波数は50Hz。もし構造の1次固有振動数が50Hzに近かったら共振して壊れる。だからモーダル解析で「この周波数帯には固有振動数がないか?」を確認するのが設計の基本だ。自動車、航空機、家電——どの業界でも最初にやる動解析はモーダル解析だよ。
モード形状って何に使えるんですか?
どこが大きく揺れるかがわかるから、補強すべき場所の特定に直結する。例えば車のダッシュボードがブルブル振動する場合、モード形状を見て「この部分が大きく変形してるな」とわかったら、そこにリブを入れて剛性を上げる、という対策が打てるわけだ。
周波数応答解析(ハーモニック応答)
周波数応答解析って、モーダル解析とどう違うんですか?
モーダル解析は「外力なし」で固有振動数を調べるだけ。周波数応答解析(Harmonic Response Analysis)は「正弦波の外力 $\mathbf{F}(t) = \mathbf{F}_0 e^{i\omega t}$ を掛けたとき、各周波数でどれだけ応答するか」を求める。つまり入力と出力の関係、伝達関数を計算する解析だよ。
モード重ね合わせ法と直接法があると聞いたんですが……
モード重ね合わせ法(Modal Superposition)は、まずモーダル解析で求めたモードを使って方程式を非連成化してから解く。計算が速いけど、モード打ち切りによる近似誤差がある。直接法(Direct Method)は元の連立方程式を各周波数ステップで直接解く。精度は高いけど計算コストが大きい。実務では周波数範囲が広いならモード法、局所的な詳細を見たいなら直接法、という使い分けが多いよ。
具体的にどういう場面で使うんですか?
回転機械のアンバランス応答が典型例だね。タービンやモーターの回転数を掃引して「何rpmで振動が最大になるか」「軸受部の振幅は許容値以内か」を評価する。NVH(Noise, Vibration, Harshness)解析で車室内の音圧を周波数ごとに見るのも周波数応答解析だ。
過渡応答解析(トランジェント)
過渡応答解析はどういう問題を扱うんですか?
時間領域で運動方程式をステップバイステップで積分して、「時刻 $t$ での変位・速度・加速度・応力」を直接求める解析だ。衝撃荷重、パルス荷重、地震波のように正弦波では表せない任意の時刻歴荷重を扱えるのが強み。
時間刻み $\Delta t$ ってどう決めるんですか? 小さすぎると計算時間が爆発しそうですけど。
一般的な目安として、対象とする最高周波数 $f_{max}$ の周期 $T = 1/f_{max}$ に対して $\Delta t \le T/20$ 程度。たとえば1000Hzまで追いたいなら $\Delta t \le 0.05\,\text{ms}$。陽解法の場合はクーラン条件でさらに小さくなることもある。現場では荷重波形のピークが潰れていないか、結果を確認しながら調整するのが普通だよ。
例えば落下衝撃って過渡応答解析で扱うんですか?
そうだね。スマホの落下試験とか、自動車の衝突シミュレーションとか、典型的な過渡応答解析だ。衝突のような数ミリ秒の現象では陽解法を使い、地震のような数十秒の現象では陰解法を使う。これが次の話題だよ。
ランダム振動解析
ランダム振動解析って名前からして難しそうですけど、どういうものですか?
荷重の時刻歴が確定的でなくて、統計的にしか記述できない場合に使う。入力をPSD(パワースペクトル密度)で定義して、出力もRMS値(実効値)として得る。例えば輸送中のトラック荷台の振動、ロケットのリフトオフ振動、航空機の乱気流——こういう「いつ・どんな波形が来るか予測できない」荷重環境の評価に最適だ。
出力がRMS値だと、最大値はどう評価するんですか?
ガウス分布を仮定して3σ値(RMSの3倍)を最大値の目安にするのが業界標準だよ。これで99.7%の確率で収まる範囲をカバーできる。MIL規格やJAXAの環境試験基準でもこの考え方が使われている。Miles方程式を使えば1自由度系の簡易推定もできるけど、多自由度系はちゃんとFEMで解く必要がある。
陽解法と陰解法
陽解法(Explicit)と陰解法(Implicit)の違いがわかりません。どう使い分ければいいんですか?
ざっくり言うと、こういう違いだ:
| 項目 | 陽解法 (Explicit) | 陰解法 (Implicit) |
|---|---|---|
| 代表的ソルバー | LS-DYNA, Abaqus/Explicit, PAM-CRASH | Nastran, Abaqus/Standard, ANSYS Mechanical |
| 時間刻み | 非常に小さい(クーラン条件 $\Delta t \le L_{min}/c$) | 比較的大きくできる(無条件安定) |
| 1ステップのコスト | 軽い(連立方程式を解かない) | 重い(連立方程式を毎ステップ解く) |
| 得意な現象 | 衝突・爆発・貫通(~ms) | 振動・地震・熱過渡(~s以上) |
| 安定性 | 条件付き安定 | 無条件安定(Newmark-β等) |
クーラン条件って何ですか?
陽解法の安定条件で、時間刻みがメッシュの最小要素サイズ $L_{min}$ を音速 $c$ で割った値以下でなければならない、というルールだ。
$$\Delta t \le \frac{L_{min}}{c}, \qquad c = \sqrt{\frac{E}{\rho}}$$
鋼だと $c \approx 5000\,\text{m/s}$ で、要素サイズ1mmなら $\Delta t \le 0.2\,\mu\text{s}$ ですか…… めちゃくちゃ小さいですね。
そう。だから陽解法で長時間の現象を解くと、ステップ数が天文学的になって現実的じゃない。逆に衝突みたいに10ms程度の解析なら、50,000ステップくらいで終わるから問題ない。「現象の時間スケール」と「必要な時間刻み」のバランスで、陽か陰かが決まるんだよ。
Newmark-β法ってよく聞きますけど、どんなアルゴリズムですか?
陰解法の代表的な時間積分スキームだね。パラメータ $\beta$ と $\gamma$ の選び方で特性が変わる。$\beta = 1/4$, $\gamma = 1/2$ で平均加速度法(無条件安定・2次精度)、$\beta = 1/6$, $\gamma = 1/2$ で線形加速度法になる。Nastranでも内部的にNewmark系を使ってるよ。
実務での使い分けまとめ
結局、どの動解析をいつ使えばいいか、ざっくりまとめてもらえますか?
こんな感じで判断するといい:
- 「共振しないか確認したい」 → モーダル解析
- 「一定周波数の加振にどう応答するか知りたい」 → 周波数応答解析
- 「衝撃や地震の時刻歴をそのまま入力したい」 → 過渡応答解析
- 「統計的な振動環境を評価したい」 → ランダム振動解析
- 「衝突・爆発・数ms以下の超高速現象」 → 陽解法の過渡応答
- 「振動・地震・数秒以上の現象」 → 陰解法の過渡応答
まずはモーダル解析から始めて、必要に応じて他の動解析に進む、という流れですね。
その通り。モーダル解析は動解析の土台だし、計算コストも小さい。ここで固有振動数とモード形状を把握してから、周波数応答やランダム振動に進むのが正攻法だ。いきなり過渡応答解析に飛びつくと、結果の解釈が難しくなるから気をつけてね。
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