周波数応答解析(Frequency Response Analysis) — CAE用語解説
周波数応答解析とは
周波数応答解析って、ざっくり言うとどんな解析ですか? 振動解析の一種だとは聞いたんですけど。
ざっくり言うと、構造物に正弦波の力を「周波数を少しずつ変えながら」加えて、各周波数でどれくらい揺れるか(振幅)と、力に対してどれだけ遅れるか(位相)を求める解析だ。英語では Frequency Response Analysis、略して FRA と呼ぶ。
なるほど。でも実際の荷重って正弦波じゃないですよね? エンジン振動とか、もっとグチャグチャした波形じゃないですか?
いい質問だね。フーリエ変換を使えば、どんな複雑な波形でも正弦波の重ね合わせに分解できる。だから各周波数での応答がわかれば、それらを足し合わせて実際の時刻歴応答を再構築できるんだ。これが周波数応答解析の強みだよ。
定義と運動方程式
運動方程式としてはどういう形になるんですか?
基本となる運動方程式はこれだ:
ここで $\mathbf{M}$ は質量行列、$\mathbf{C}$ は減衰行列、$\mathbf{K}$ は剛性行列。調和外力 $\mathbf{F}(t)=\mathbf{F}_0 e^{i\omega t}$ を仮定すると、応答も $\mathbf{u}(t)=\mathbf{U}(\omega)e^{i\omega t}$ の形になって、周波数領域では:
$$\left[-\omega^2 \mathbf{M} + i\omega \mathbf{C} + \mathbf{K}\right]\mathbf{U}(\omega) = \mathbf{F}_0$$この左辺のカッコ内を動的剛性行列と呼ぶ。各周波数 $\omega$ でこの連立方程式を解けば、振幅と位相が求まるというわけだ。
FRF(周波数応答関数)
FRF(Frequency Response Function)って論文や実験レポートでよく見るんですけど、具体的に何を表してるんですか?
FRFは入力(力)と出力(変位・速度・加速度)の比を周波数の関数で表したものだ。1自由度系なら:
出力が変位なら コンプライアンス(receptance)、速度なら モビリティ、加速度なら イナータンス(accelerance)と呼び分ける。縦軸をdBスケール、横軸を対数周波数で描くとBode線図になるよ。
なるほど、FRFの種類って出力の物理量で変わるんですね。実験ではどれを使うことが多いんですか?
加振試験では加速度ピックアップを使うことが多いから、イナータンスが一番よく使われる。インパルスハンマで叩いて、加速度センサで拾う。それを $H(\omega) = A(\omega)/F(\omega)$ として FFT アナライザが自動計算してくれる。自動車のNVH(騒音振動ハーシュネス)開発では毎日のように取得するデータだね。
モーダル法と直接法
CAEソフトで周波数応答をやると、「モーダル法」と「直接法」の選択肢がありますよね。どう違うんですか?
モーダル法(Modal Frequency Response)は、まず固有値解析でモード形状と固有振動数を求めて、応答をモードの重ね合わせとして計算する方法だ。物理座標 $\mathbf{u}$ をモード行列 $\mathbf{\Phi}$ で変換して:
とすると、各モードが独立な1自由度系になるから計算が非常に速い。
じゃあモーダル法だけ使えばいいんじゃないですか? 速いならそっちの方がいいですよね。
そう簡単にはいかない。モーダル法には制約がある。まず、打ち切りモード数の問題。解析周波数範囲の上限の1.5〜2倍までモードを抽出しないと精度が落ちる。次に、周波数依存の減衰(粘弾性材料など)を正確に扱えない。さらに非対称行列(流体連成など)もモーダル法では厳しい。
なるほど、そういうときは直接法を使うんですね。
その通り。直接法(Direct Frequency Response)は動的剛性行列 $\mathbf{D}(\omega) = -\omega^2\mathbf{M}+i\omega\mathbf{C}+\mathbf{K}$ を各周波数ステップごとに組み立てて、連立方程式を直接解く。モード打ち切りの誤差がないし、周波数依存材料もそのまま扱える。ただし自由度数が数十万〜数百万だと、各周波数で大規模な複素連立方程式を解くことになるから、計算コストはモーダル法の何倍にもなる。例えば自動車のボディの振動解析だと、モーダル法なら数時間で終わるけど、直接法だと丸一日かかることもある。
ハーフパワーバンド幅法
実験データからFRFを取ったあと、減衰比を求める方法として「ハーフパワーバンド幅法」があるって聞きました。どんな方法ですか?
FRFの共振ピークに注目する方法だ。ピークの最大値を $|H|_{\max}$ として、そこから $|H|_{\max}/\sqrt{2}$(つまり -3dB)になる周波数を左右2箇所読み取る。それを $f_1$, $f_2$ とすると、減衰比 $\zeta$ は:
ここで $f_n$ は共振周波数。$\sqrt{2}$ で割る理由は、パワー(振幅の2乗)がピークの半分になる点だから「ハーフパワー」と呼ぶんだ。
この方法って精度的にはどうなんですか? 何か注意点はありますか?
注意点は2つある。1つ目は周波数分解能。$\Delta f$ が小さい(低減衰)とピークが鋭くなって、周波数ステップが粗いと $f_1$, $f_2$ を正確に読めない。目安として、共振ピーク幅の中に少なくとも5〜10点は欲しい。2つ目はモードの重なり。隣接する共振が近いと裾野が重なって、-3dB点が正しく読めなくなる。そういう場合はカーブフィット法(最小二乗法で解析的にモードパラメータを同定する方法)に切り替えるのが実務的だ。
伝達関数の物理的意味
伝達関数 $H(\omega)$ の物理的な意味をもう少し掘り下げたいです。共振点で何が起きてるんですか?
1自由度系の $H(\omega)$ をもう一度見てみよう:
$r=1$(加振周波数=固有振動数)のとき分母が $2i\zeta$ だけになって、振幅は $|H| = 1/(2k\zeta)$ に跳ね上がる。減衰比 $\zeta=0.01$(1%)なら静的変位の50倍も揺れるということだ。これが共振の怖さだよ。
50倍! それは設計的にかなりまずいですね。位相の方はどうなりますか?
位相は、共振点でちょうど90度遅れる。低周波側($r \ll 1$)では力と変位がほぼ同相(0度)、高周波側($r \gg 1$)では180度遅れ、つまり力と逆方向に動く。この「共振点で90度」というのは実験でも非常に明確に観察できるから、共振周波数の同定に位相情報が使われることも多いんだ。Bode線図で振幅と位相を並べて見ると、共振点がひと目でわかるよ。
実務での注意点
CAEで周波数応答解析をやるとき、実務で気をつけるべきポイントはありますか?
大きく3つある。まず周波数ステップの設定。等間隔だと共振ピークを見逃すことがある。だからピーク付近を自動で細かくする「適応的周波数ステップ」機能を使うか、固有振動数の±10%は手動で細かく刻むのが安全だ。
2つ目は?
減衰モデルの選択だ。Rayleigh減衰($\mathbf{C}=\alpha\mathbf{M}+\beta\mathbf{K}$)は2つの周波数でしかフィットしないから、広帯域解析だと高周波側で減衰が過大になりやすい。構造減衰(ヒステリシス減衰、損失係数 $\eta$)を使うと周波数に依存しない一定の減衰比が得られるから、広帯域では便利だよ。ただし構造減衰は数学的には因果律を厳密には満たさないので、時刻歴に戻すときには注意が必要だ。
3つ目は何ですか?
残余モード補正だ。モーダル法で上限周波数以上のモードを切り捨てると、高次モードの静的寄与分が抜け落ちる。Nastranの RESVEC(residual vector)やAbaqusの residual mode などの機能を使って補正すると、低いモード数でもかなり精度が上がる。特に荷重点と応答点が近い場合(ポイントFRF)ほど影響が大きいから、忘れずに設定しよう。
関連用語
固有振動数(Natural Frequency)、モード形状(Mode Shape)、減衰比(Damping Ratio)、FRF(Frequency Response Function)、Bode線図、コンプライアンス(Receptance)、モビリティ(Mobility)、イナータンス(Accelerance)、伝達関数(Transfer Function)、Rayleigh減衰、構造減衰(Hysteretic Damping)、モーダル重ね合わせ法、残余ベクトル(Residual Vector)
CAE用語の正確な理解は、チーム内のコミュニケーションの基盤です。 — Project NovaSolverは実務者の学習支援も視野に入れています。
周波数応答解析の実務で感じる課題を教えてください
Project NovaSolverは、CAEエンジニアが日々直面する課題——セットアップの煩雑さ、計算コスト、結果の解釈——の解決を目指しています。あなたの実務経験が、より良いツール開発の原動力になります。
お問い合わせ(準備中)関連トピック
なった
詳しく
報告