応力-ひずみ曲線 — CAE用語解説
応力-ひずみ曲線
FEMで材料データを入力するとき「応力-ひずみ曲線」のテーブルを求められるんですけど、これって引張試験の結果そのものですか?
理論と物理
応力-ひずみ曲線の基本
応力-ひずみ曲線って、引張試験の結果のグラフですよね? でも、CAEで材料モデルを設定する時に、この曲線の「どの部分」を使っているんですか? 全部使うんですか?
いい質問だ。CAEで最も基本的な線形弾性解析では、曲線の「初期の傾き」、つまり弾性域のごく一部しか使いません。この傾きがヤング率Eです。例えば、構造用鋼S45Cなら、JIS G 4051で規定されるEは約205 GPa。応力-ひずみ曲線の最初の直線部分の傾きを測定して、この値を決定します。塑性解析になると、降伏点以降の曲線全体が重要になってくる。
降伏点って、曲線上で明確に折れ曲がる点ですよね? アルミニウムA5056みたいな材料だと、はっきりした折れ曲がりが見えないと聞いたことがあります。CAEではどう扱うんですか?
その通り。多くの非鉄金属や加工硬化する鋼は、明確な降伏点を示しません。その場合は「0.2%耐力」という規格化された定義を使う。つまり、塑性ひずみ0.2%の点に対応する応力を降伏応力と見なす。CAEソフトの材料入力では、Yield Stressの欄にこの0.2%耐力の値、例えばA5056なら約130 MPaを入力し、その後の硬化則を別途定義するんだ。
硬化則? 降伏した後の曲線の形を数式で表すものですか? 具体的にはどんな式があるんですか?
そうだ。最も一般的なのは「べき乗硬化則」だ。塑性域での応力と塑性ひずみの関係を、
引張試験では、試験片がくびれて破断しますが、あの「くびれ」が始まる点は応力-ひずみ曲線上で分かるんですか? CAEでは破断を予測できますか?
曲線上では「最大応力点」がそれに相当する。それ以降は公称応力は下がるが、実際はくびれ部の断面積が急激に減少するので「真応力」は上昇し続ける。CAEで破断を予測するには、真応力-真ひずみ曲線を使い、さらに「破壊ひずみ」などの破壊基準が必要だ。例えば、AbaqusのDuctile Damageモデルでは、塑性ひずみや応力状態(応力三軸度)に基づいて損傷の進展を計算する。
数値解法と実装
FEMでの材料非線形性の扱い
線形解析の支配方程式は
見かけの形は同じだが、中身が全く異なる。材料が非線形になると、剛性マトリクス
「少しずつ増やす」というのは、応力-ひずみ曲線を階段状に近似するイメージですか? そのステップ幅はどう決めるんですか?
まさにそのイメージだ。ソフトウェアは曲線を多数の直線セグメントで近似する。ステップ幅(増分サイズ)は自動制御されることが多い。例えば、Ansys Mechanicalでは、塑性ひずみの増分が大きすぎると収束しないので、ソルバーが自動的にステップサイズを小さく切り戻して再試行する。初期ステップサイズは0.01〜0.1程度の無次元時間で設定するのが一般的だ。
CAEソフトに応力-ひずみデータを入力する時、よく「公称」と「真」を選べますが、どちらを入力すべきですか? 変換は自動でしてくれるんですか?
塑性解析の本質は体積変化を伴わない塑性ひずみの計算なので、「真応力-真ひずみ」データを入力するのが原則だ。公称値で入力すると、大変形領域で誤差が大きくなる。多くのソフト(Abaqus, LS-DYNA等)は、公称値で入力しても内部で真値に変換するオプションを持つが、変換式(
データポイントはたくさんあるほど精度が上がるんですか? 10点と100点で結果は大きく変わりますか?
降伏点付近や曲率が大きく変化する領域は細かく点を取る必要がある。しかし、単調に硬化する領域では、あまりに多くの点を入力すると、数値計算上の問題(例えば、隣接点間の傾きが逆転する)を引き起こす可能性もある。実務的には、曲線の特徴を捉えるのに必要な最小限の点数、例えば15点から20点程度で十分なことが多い。ソフトウェアはその点を補間して使用する。
実践ガイド
解析ワークフローと検証
実際のプロジェクトで材料データを入手するには、どうするのが一般的ですか? 毎回引張試験をしますか?
新規材料でなければ、まず材料メーカーのデータシートを探す。例えば、ThyssenKruppの鋼板や、Kobe Steelのアルミニウム合金なら、技術資料に0.2%耐力、引張強さ、伸びの最低保証値が記載されている。ただし、CAE用には曲線全体が必要なので、公開データベース(如きJAHM, MatWeb)や、過去の社内試験データを参照する。どうしてもない場合は試験を外注するが、費用は1試料あたり5〜10万円程度かかる。
入手したデータをCAEソフトに入力する前に行うべき、データのチェック項目はありますか?
最低3点は確認する。第一に、初期勾配(ヤング率)が材料種別として妥当か(鋼で200 GPa前後など)。第二に、降伏後の曲線が単調増加しているか(応力が下がる点がないか)。第三に、最大応力(引張強さ)と破断点のひずみが、データシートの公称値と大きく外れていないか。特に、真ひずみ1.0を超えるような異常に大きなデータがないか要注意だ。
材料モデルを設定した後、その設定が正しいかどうかを簡単に検証する方法はありますか?
最も有効なのは「単軸引張解析」のベンチマークだ。CAEソフト内で、試験片と同じ形状(例えばJIS 13B試験片)のモデルを作成し、入力した材料モデルを適用して引張解析を実行する。出力された反力-変位曲線を、実験データから計算した公称応力-公称ひずみ曲線と比較する。これで、降伏点、加工硬化の傾向、引張強さが再現されているかを定量的に確認できる。
複雑な製品解析では、部品ごとに異なる材料が使われています。全ての材料の非線形データを用意する必要がありますか?
それが現実的な課題だ。通常は「主要なエネルギー吸収部品」や「大きく変形する部位」の材料にのみ、詳細な非線形データを適用する。例えば、自動車の衝突解析では、ボディ骨格(高張力鋼)は非線形データ必須だが、剛性が高くほとんど変形しないブラケット(鋳鉄)などは線形弾性(ヤング率とポアソン比のみ)で十分な場合が多い。解析目的とコストのバランスを考えて材料モデルの詳細度を決めるのがエンジニアの腕の見せ所だ。
ソフトウェア比較
主要ソフトの材料モデル入力
Ansys MechanicalとAbaqus/CAEでは、応力-ひずみ曲線の入力方法に違いはありますか?
根本的な考え方は同じだが、インターフェースと用語が異なる。Ansysでは、Engineering Dataソースで「Multilinear Isotropic Hardening (MISO)」や「Bilinear Isotropic Hardening (BISO)」といった硬化モデルを選択し、テーブルに応力-塑性ひずみのペアを入力する。一方、Abaqusでは、材料プロパティに「Plastic」を追加し、「Yield Stress」と「Plastic Strain」の列を持つテーブルを直接定義する。Abaqusは最初の点が降伏点(塑性ひずみ0)であることを暗黙に仮定する点に注意だ。
COMSOL Multiphysicsは「材料ライブラリ」が充実していると聞きますが、そこにある曲線はそのまま使っていいんですか?
COMSOLのビルトイン材料ライブラリは、線形弾性パラメータ(E, ν)については信頼できるが、非線形の応力-ひずみ曲線データは限定的だ。また、それはある特定のグレード・調質状態の「一例」に過ぎない。例えば、「Structural Steel」の非線形データを使っても、それがSS400なのかSM490なのか不明だ。実設計では、自社の調質条件に合ったデータを独自に入力するのが原則で、ライブラリデータはあくまで学習や初期検討用と考えるべきだ。
LS-DYNAのような陽解法ソルバーでは、入力の仕方が違いますか? 特に、ひずみ速度の影響を考慮する場合。
大きな違いがある。LS-DYNAでは、材料モデル(MAT_)を数字で選択する。例えば、弾塑性なら「MAT_024 (Piecewise Linear Plasticity)」を使う。ここに応力-ひずみ曲線を入力するが、衝突解析では「ひずみ速度依存性」が無視できない。MAT_024では、異なるひずみ速度(例: 0.001/s, 1/s, 100/s)に対する複数の応力-ひずみ曲線を入力できる。鋼材では、ひずみ速度が10倍になると降伏応力が5〜10%上昇するといった効果をこれで表現する。
無料のCAEソフト(CalculiX, Code_Asterなど)では、高度な材料モデルの入力は難しいですか?
機能としては商用ソフトに引けを取らないが、インターフェースの敷居が高い。CalculiXやCode_Asterは入力ファイル(.inp, .comm)を直接編集する必要がある。例えば、Code_Asterで多直線硬化則を定義するには、TRACTIONキーワードの下に、ひずみと応力のリストを決められたフォーマットで記述する。GUIがないので、データの可視化や間違いの発見が難しく、商用ソフトで設定を確認してから移植するのが現実的だ。
トラブルシューティング
よくある収束問題と対策
非線形材料を使った解析で、荷重ステップが途中で進まなくなり、「収束しない」というエラーが出ます。最初に疑うべき原因は何ですか?
まず「材料モデルの入力ミス」を疑え。特に、応力-ひずみデータの最初の点(降伏点)の応力値が低すぎたり、あるいは降伏後の曲線で応力が一時的に下がる「ソフトニング」を含んでいないか確認する。多くのソルバーは、降伏後の応力が降伏応力を下回ると物理的に不安定になり、収束しなくなる。データをグラフ化して、単調増加していることを目視確認するのが第一歩だ。
材料データは単調増加なのに収束しない場合、次に何をチェックしますか?
次は「メッシュ」と「要素タイプ」だ。大きな塑性変形が生じる領域で、要素形状が極端に歪むと計算が破綻する。特に一次要素(四面体、六面体の線形要素)は体積ロックを起こしやすい。塑性解析では、二次要素の使用、または一次要素でも減積分要素(AbaqusのC3D8Rなど)の使用を推奨する。また、局所的にひずみが集中する部分のメッシュを細かくするのも有効だ。
「体積ロック」とは具体的にどういう現象で、結果にどんな影響を与えますか?
材料が非圧縮性(ポアソン比ν=0.5)に近い塑性変形をする時、完全積分の一次要素は、体積変化を許さない拘束条件を過剰に課してしまう。その結果、要素が極端に剛性が高くなり、変形が阻害される。これが体積ロックだ。結果として、部品が異常に硬く計算され、反力が実際より大きく出たり、収束性が悪化したりする。対策として、先述の減積分要素や、Abaqus/Standardの「ハイブリッド要素」(C3D8Hなど)が使われる。
材料データをべき乗硬化則(数式)で定義した場合と、多点でテーブル入力した場合で、収束性に差は出ますか?
出る可能性がある。数式(硬化則)で定義すると、応力のひずみに対する微分(接線剛性)が連続的に計算されるため、ニュートン法の収束性が良い傾向がある。一方、多点テーブル入力では、点間を線形補間するため、接線剛性が点の前後で不連続に変化する。これが収束の妨げになる場合、特に反復計算中にその不連続点を跨ぐ時に問題が起きる。対策として、Ansysの「MISO」モデルでは「スムージング」オプションがあり、接線剛性を滑らかに補間できる。
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