von Mises応力 — CAE用語解説
von Mises応力
先生、構造解析の結果でvon Mises応力のコンター図をよく見るんですけど、なんで普通の応力じゃなくてvon Mises応力を見るんですか?
理論と物理
von Mises応力の定義と目的
von Mises応力って、解析結果でよく見るけど、単純な引張り応力や圧縮応力とは何が違うんですか?
根本的な違いは、von Mises応力は「スカラー量」だということです。材料内のある点には、3方向の垂直応力と3つのせん断応力、計6成分の応力テンソルが存在します。von Mises応力は、これら6つの成分をひとつの数値に換算した「等価応力」で、主に延性材料の降伏を予測するために使われます。式で書くとこうなります。
ここでσ₁, σ₂, σ₃は主応力です。
なぜそんな複雑な組み合わせで計算する必要があるんですか?一番大きい主応力σ₁だけを見ればダメなんでしょうか。
ダメなケースがあります。例えば、静水圧状態、つまり三方から均等に圧縮されている場合を考えてみましょう。σ₁=σ₂=σ₃=-100MPaだとします。最大主応力は-100MPaですが、von Mises応力を計算すると0MPaになります。実際、静水圧下では鋼材は降伏せず、非常に高い圧力に耐えられます。von Misesの式は、せん断ひずみエネルギーに基づいており、形状変化を引き起こす「偏差応力」の大きさを評価しているからです。
偏差応力?形状変化?つまり、材料が「変形」する駆動力を見ているってことですか?
その通りです。応力テンソルは、体積変化を引き起こす「静水圧成分」と、形状変化(=せん断変形)を引き起こす「偏差応力成分」に分解できます。von Mises応力は後者の大きさを代表する値です。単純な一軸引張試験では、降伏応力が$$ \sigma_Y $$だとすると、どんな複雑な応力状態でも、$$ \sigma_{v} < \sigma_Y $$ならば降伏しない、と予測するのがvon Misesの降伏条件です。
数値解法と実装
FEMでの計算と出力
FEMソルバーは、全体の剛性方程式$$ \mathbf{K} \mathbf{u} = \mathbf{F} $$を解いて変位uを求めますよね。そこからvon Mises応力はどうやって計算されるんですか?
大まかな流れはこうです。まず、節点変位uから要素内部のひずみ$$ \boldsymbol{\epsilon} $$を形状関数の微分(Bマトリクス)で計算します:$$ \boldsymbol{\epsilon} = \mathbf{B} \mathbf{u} $$。次に、構成則(フックの法則)で応力$$ \boldsymbol{\sigma} $$を求めます:$$ \boldsymbol{\sigma} = \mathbf{D} \boldsymbol{\epsilon} $$。この応力テンソル$$ \boldsymbol{\sigma} $$(6成分)がガウス積分点などで求まったら、そこから主応力を計算し、先ほどのvon Misesの式に代入するのです。
なるほど。でも、結果を見ると節点で値が表示されています。積分点の値がどうやって節点に来るんですか?
良い着眼点です。これは「応力平滑化」または「外挿・平均化」という処理です。要素内部の複数の積分点で求めた応力を、形状関数を使って要素の節点位置に外挿します。そして、ある節点に接続する全ての要素から来る外挿値を平均して、その節点の応力値とします。この処理をしないと、要素間で応力が不連続になり、結果の解釈が難しくなるからです。Ansysではこの操作はデフォルトで行われます。
平均化すると、実際より応力が低く見積もられたりしませんか?特に応力集中部では。
その懸念は正しいです。特にメッシュが粗い場合、平均化によってピーク応力が過小評価される「平滑化誤差」が生じます。そのため、信頼性の高いピーク応力を得るには、応力集中部でメッシュを十分に細かくする必要があります。また、Abaqusなどのソフトでは、平均化処理をオフにして「要素ごとの値」を確認するオプションがあり、平均化前の、より厳しい値を評価材料とすることもあります。
実践ガイド
結果評価のワークフロー
解析が終わってvon Mises応力のコンター図が出てきました。最大値が材料の降伏応力350MPaを超える400MPaになっています。これは即座に「危険」と判断していいですか?
即断は禁物です。まず確認すべきは、その最大応力が「どのような場所」で発生しているかです。もし、シャープな角やボルト穴縁などの応力集中部の「一点」だけが400MPaで、その周囲はすぐに200MPa以下に減衰しているなら、それは局所的な弾塑性挙動であり、全体の破損には直結しない可能性が高い。逆に、広い領域で350MPaを超えているなら、構造全体が降伏している危険性が高い。
応力集中部の一点が高い場合、どう評価すればいいですか?
実務ではいくつかのアプローチがあります。第一に、メッシュを細かくして解の収束性を確認します。メッシュを細かくしても最大応力が際限なく上がり続けるなら、それは理論上の特異点であり、現実の材料では塑性変形で応力が緩和されます。第二に、評価線(パス)を引いて、表面から少し内部に入ったところの応力を見ます。JIS B 8265(圧力容器構造)などの規格では、板厚の1/4や1/2の位置の応力を評価する「ストレスライン分類」を規定しています。一点のピークは無視する場合もあるのです。
材料の降伏応力は、引張試験から得た値だと思いますが、解析で使う値はそのまま使っていいんですか?
通常、設計では安全率を考慮します。例えば、自動車部品の一般的な静的強度評価では、材料の最低保証値(Min. Yield Strength)に対して安全率1.0~1.2で許容応力を設定します。つまり、降伏応力350MPaの材料なら、許容von Mises応力は約290~350MPaの範囲に設定します。また、疲労を考慮する場合は、完全弾性解析での応力振幅が「疲労限度」以下かどうかを、修正Goodman線図などを使って評価します。
ソフトウェア比較
主要ソフトでの扱い
Ansys MechanicalとAbaqus/CAEで、von Mises応力の表示方法や計算オプションに違いはありますか?
基本的な概念は同じですが、用語や設定場所が異なります。Ansysでは、デフォルトの「Equivalent Stress」がvon Mises応力です。後処理で「Averaged」か「Unaveraged」を選べます。一方、Abaqusでは「S, Mises」という出力変数名です。平均化の制御は、「Visualization」モジュールの「Result Options」で「Averaging threshold」を設定したり、「Compute values」で「At integration points」を選択して要素ごとの非平均値を表示できます。
COMSOL Multiphysicsはどうですか?「マルチフィジックス」と謳っていますが、構造解析での扱いは?
COMSOLでは、「固体力学」インターフェースを使用します。後処理では「ストレス」の変数グループの中に「von Mises stress」が用意されています。特徴的なのは、熱応力や圧電効果など、他の物理場と連成させた解析でも、自動的に全応力からvon Mises応力を計算して表示できる点です。また、「派生値」の機能で、任意の点、線、面上のvon Mises応力の最大値・平均値・積分値を簡単に計算できます。
無料や低価格のソフト、例えばFreeCADのFEMワークベンチやCalculiXではどうでしょう?
CalculiX(FreeCADのソルバーとしても利用)は、出力ファイル(.frd)に「ストレスコンポーネント」を書き出し、後処理でvon Mises応力を計算します。FreeCADのFEMポスト処理では「von Mises stress」を選択してコンター表示可能です。ただし、商用ソフトに比べて平均化アルゴリズムの制御や、複雑なパス上の応力評価機能は限定的です。また、ミーゼス応力の表記揺れ(von Mises, Mises, Equivalent Stress)もソフト間で見られます。
トラブルシューティング
よくあるエラーと解釈
解析結果で、荷重をかけた場所や拘束した場所のvon Mises応力が異常に高く、現実ではあり得ない数値(例えば数GPa)が出ることがあります。これはなぜですか?
これは「境界条件特異点」によるものです。点荷重や鋭いエッジでの完全拘束は、理論上、応力が無限大になる特異点を生み出します。FEMは離散化するので無限大にはなりませんが、メッシュを細かくするほど応力値は上昇し続けます。実務的には、この部位の応力は無視します。対策としては、荷重を小さな面に分布させる、拘束は剛体要素(RBE2など)を介して与える、現実的なボルト結合や接触条件でモデル化する、などがあります。
シェル要素や梁要素を使ったモデルでvon Mises応力を評価する時、注意点はありますか?
大きな注意点があります。シェル要素は板厚方向の応力(σ₃)を0と仮定しています(平面応力状態)。したがって、板厚方向に圧縮がかかるような場合(例えば局部座屈が関与する場合)、von Mises応力は実際より過小評価される可能性があります。梁要素では、せん断応力やねじり応力を考慮した「合成等価応力」を計算する場合と、考慮しない場合があります。使用するソフトウェアのマニュアルで、その要素がどの応力成分からvon Mises応力を計算しているかを確認する必要があります。
非線形解析(材料非線形や接触)をした後、von Mises応力が降伏応力を超えている領域があるのに、ソフトは「塑性化しています」と表示します。この矛盾はなぜ?
これは矛盾ではありません。非線形解析の「最終段階」で出力されるvon Mises応力は、その時点での「計算された応力」です。材料が降伏した後、ひずみ硬化則に従って応力が再び上昇することがあります(例えば、線形硬化モデル)。その場合、von Mises応力は降伏応力を超えた値になります。重要なのは、その部位が「降伏した履歴」を持っているかどうかです。Abaqusでは「PEEQ(等価塑性ひずみ)」が0より大きいか、Ansysでは「Plastic Strain」が0より大きいかで、塑性化の有無を判断します。von Mises応力単体では判断できません。
複数の荷重ケース(例えば異なる方向からの荷重)を組み合わせる場合、それぞれのケースのvon Mises応力を足し合わせることはできますか?
絶対にできません。von Mises応力は応力テンソルの非線形関数です。線形系であれば、荷重ケースAの応力テンソル$$ \boldsymbol{\sigma}_A $$とケースBの$$ \boldsymbol{\sigma}_B $$を足し合わせた$$ \boldsymbol{\sigma}_{A+B} $$からvon Mises応力を計算するのと、$$ \sigma_{v}(\boldsymbol{\sigma}_A) + \sigma_{v}(\boldsymbol{\sigma}_B) $$は全く異なります。正しいアプローチは、まず各荷重ケースの応力テンソルを線形重ね合わせ(スーパーポジション)し、その合成された応力テンソルからvon Mises応力を計算することです。多くの前処理ソフトには「荷重ケースの組み合わせ」機能が備わっています。
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