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電磁気シミュレーター

アンペールの法則 シミュレーター — 直線電流とソレノイドの磁場

無限長直線電流が距離 r に作る磁場 $B = \mu_0 I/(2\pi r)$ と、ソレノイド内部の一様磁場 $B = \mu_0 n I$、平行電流間の単位長あたりの力をアンペール則から実時間に計算します。円形磁力線・ソレノイド断面・対数プロットで同時に可視化。

パラメータ設定
電流 I
A
直線電流からの距離 r
cm
ソレノイド巻数密度 n
/cm
平行電流間距離 d
cm

真空透磁率 μ₀ = 4π × 10⁻⁷ T·m/A を使用。直線電流の磁場は右ねじ則による円形磁力線、ソレノイドは内部で軸方向に一様。

計算結果
直線電流の B(距離 r)
ソレノイド内部 B
平行電流間の力 F/L
B_sol / B_wire
直線電流の磁力線とソレノイド断面

左:直線電流(赤●=紙面外向き)周囲の同心円形磁力線/黄破線=距離 r の観測円/橙矢印=磁場方向。右:ソレノイド断面(青楕円=巻線、内部の橙矢印=一様磁場 B = μ₀nI、外部はほぼゼロ)。

直線電流の B(r) プロファイル(両対数)

横軸=距離 r [cm](0.1〜100、log10)/縦軸=磁束密度 B [T](log10)/青線=B(r) = μ₀I/(2πr)(傾き −1)/黄点=現在の (r, B_wire)/橙破線=ソレノイド内部 B = μ₀nI の参照ライン。

理論・主要公式

アンペールの法則は、磁束密度 $\boldsymbol{B}$ の閉曲線 $C$ 周回積分が、$C$ で囲まれた面を貫く電流に比例することを示します:

$$\oint_C \boldsymbol{B} \cdot d\boldsymbol{\ell} = \mu_0\,I_{\mathrm{enc}}$$

無限長直線電流(電流 $I$)が距離 $r$ に作る磁束密度:

$$B_{\mathrm{wire}}(r) = \frac{\mu_0\,I}{2\pi\,r}$$

無限長ソレノイド(単位長あたり巻数 $n$)の内部磁場:

$$B_{\mathrm{sol}} = \mu_0\,n\,I$$

平行電流間(電流 $I$、距離 $d$)の単位長あたりの力:

$$\frac{F}{L} = \frac{\mu_0\,I^2}{2\pi\,d}$$

$\mu_0 = 4\pi \times 10^{-7}$ T·m/A は真空透磁率、$I$ は電流 [A]、$r$ は導線中心からの距離 [m]、$n$ は単位長さ巻数 [turns/m]、$d$ は平行導線間距離 [m]。

アンペールの法則 シミュレーターとは

🙋
「アンペールの法則」って $\oint \boldsymbol{B} \cdot d\boldsymbol{\ell} = \mu_0 I_{\mathrm{enc}}$ って習ったんですけど、この周回積分って何が嬉しいんですか? 普通にビオ・サバール則で積分すれば良くないですか?
🎓
ガウスの法則と同じで、対称性が高い問題ではアンペール則のほうが圧倒的に楽だね。例えば無限長直線電流の場合、磁場は導線を中心とする円に沿って一定の大きさになるから、半径 r の円を周回路に取れば $\oint B\,d\ell = B \cdot 2\pi r = \mu_0 I$ で即座に $B = \mu_0 I/(2\pi r)$ が出る。ビオ・サバールで全長を積分するのに比べて1秒で終わる。本シミュレーターの左キャンバスがまさにこの円形磁力線を描いている。
🙋
既定値(I=10A, r=5cm)で B = 40 μT になってますけど、これって地磁気と同じくらいですよね。意外と弱いんですね?
🎓
そう、地磁気が約30〜60 μT だから本当に同じオーダー。実は10 A って結構大きい電流(家庭のドライヤーくらい)なのに、5 cm 離れただけで地磁気と同じレベルまで落ちる。1/r で減衰するから、距離 1 m まで離れると 2 μT、10 m で 0.2 μT。だから家屋の屋内配線が出す磁場は問題にならない。逆にソレノイドのほうを見ると、同じ I=10A でも内部に 126 mT—地磁気の3000倍以上の磁場が出てる。スライダーで両者を比べてみて。
🙋
ソレノイドの式 $B = \mu_0 n I$ には半径も長さも入ってませんよね? 太いソレノイドと細いソレノイドで内部磁場は同じなんですか?
🎓
無限長近似ではその通り、内部の場所にも半径にも依らず一様。理由はアンペール周回路として「内部に長辺・外部に長辺」を持つ長方形を選んだとき、外部の磁場をゼロと仮定すれば $B \cdot L = \mu_0 (n L) I$ になり、L が両辺で消えるから。ただし現実には「無限長」ではないので、長さ/直径の比が10倍未満だと中央でも数%減、両端では半分(端効果)になる。MRI コイルが極端に細長い設計なのは、この端効果を撮像領域から押し出すため。
🙋
「平行電流間の力」って初耳です。これって日常で意識したことある場面ありますか?
🎓
普段の家電だと 0.20 mN/m(既定値)なんてミリ未満で気付かない。でも雷の落雷電流(数十kA)が空中の2本の経路に同時に流れたら、$F/L \propto I^2$ で爆発的な引力(または斥力)が働く。実用例だと、変電所のバスバー(太い導体)は短絡時に数十 kA の電流が流れるので、機械的に固定しないと吹っ飛ぶ。電力業界で「短絡時の電磁機械力」と呼ばれる設計項目。本ツールで I を 100 A、d を 0.1 cm にしてみると、F/L が約 2 N/m まで増えるのが分かる。

よくある質問

この発散は「無限に細い線電流」という理想化に由来する数学的な特異点で、現実の導線では発生しません。実際の導線は有限の半径 a を持ち、内部は電流密度 J が一様(あるいはラディアル分布)と仮定すると、内部の磁場は B = μ₀ I r / (2π a²) という r に比例して増える形になり、表面 r = a で B = μ₀ I/(2π a) の最大値、それより外では本ツールの 1/r 則に戻ります。本シミュレーターは r を 0.1 cm 以上に制限しており、典型的な配線(直径 mm 級)では十分な外部領域を扱っていることになります。
対称性が高い問題(無限長直線、無限長ソレノイド、トロイダルコイル、無限平面電流シート)ではアンペール則が圧倒的に有利で、1〜2行で答えが出ます。逆に対称性のない有限長コイル、円電流ループの軸外、有限長導線の任意点、複雑な3次元配線などはビオ・サバール則の積分(数値積分含む)が必要です。実務では「対称性が見つかればアンペール、なければビオ・サバール」という棲み分けが基本で、本サイトの円電流ループツールはビオ・サバール側、本ツールはアンペール側のサンプルになっています。
空芯ソレノイドの式 B = μ₀nI の μ₀ を、鉄心の透磁率 μ = μ_r μ₀ に置き換えるだけで近似できます。比透磁率 μ_r は軟鉄で 5,000〜10,000、ケイ素鋼板で 5,000〜40,000 程度なので、磁場が桁違いに増えます。これがリレー、トランス、ソレノイドバルブなど実用電磁機器に必ず鉄心が使われる理由です。ただし鉄心は飽和磁束密度(B_sat ≈ 1.5〜2.2 T)を超えると比透磁率が急減するため、強磁場用途では超伝導線材+空芯(MRI、加速器電磁石)に切り替わります。本ツールは空芯ケースを扱っています。
マクスウェルが1865年に追加した補正項で、∮ B · dℓ = μ₀(I_enc + ε₀ ∂Φ_E/∂t) という形になります。第二項の ε₀ ∂Φ_E/∂t が変位電流で、時間変化する電場が磁場を作ることを意味します。この補正により電磁波(光・電波)の存在が予言されました。本ツールが扱う直流・準静的状況では変位電流は無視できますが、コンデンサの充放電や高周波回路、アンテナでは無視できません。本シミュレーターは時間変化のない定常電流のみを対象としています。

実世界での応用

MRI(磁気共鳴画像)装置の主磁場:医療用 MRI の主磁場(1.5 T 〜 7 T)は、超伝導ソレノイドコイルが作っています。本ツールの式 $B = \mu_0 n I$ で逆算すると、例えば 3 T を作るには nI = 2.4 × 10⁶ A·turns/m が必要—巻数密度 1000 巻/cm(n = 100,000 turns/m)で電流 24 A、または巻数密度 100 巻/cm で電流 240 A を流す必要があります。実際には超伝導線で 100 A 級の電流を巻数 1000 turns/cm 級で巻いて永久電流モードで運用し、1 T 以上の安定磁場を実現しています。

電磁石(リレー・ソレノイドバルブ):自動車のスターターモーター、洗濯機の給水弁、工場の空圧弁などはすべて「電流を流すと鉄心入りソレノイドが磁場を発生し、可動鉄片を引き寄せる」というアンペール則の応用です。本ツールで n=100巻/cm, I=10A の空芯ソレノイドが内部 126 mT を作るのに対し、鉄心(μ_r ≈ 5000)を入れれば 600 T と非現実な値になりますが、実際は B_sat ≈ 1.5〜2 T で飽和し、その値で吸引力 F ∝ B²A/(2μ₀) を発生させます。

送電線の周囲磁場と人体影響評価:架空送電線(22 kV〜500 kV)の電流値は 100〜2000 A、地上から 10〜30 m の高さに張られています。本ツールで I=1000 A, r=10 m を入れると B ≈ 20 μT が得られ、これは地磁気の半分程度。WHO の長期暴露ガイドライン(100 μT 以下)と比べても余裕があり、これが「送電線下の磁場曝露は問題にならない」とされる科学的根拠の一つです。屋内配線(10 A、距離 50 cm 級)も 4 μT 程度で、家電は問題になりません。

レールガン・電磁加速器:2本の平行レールに大電流を流し、可動アーマチュアを電磁力で加速する装置で、本ツールの「平行電流間の力」がそのまま推進力になります。米海軍の試験装置では 5 MA 級の電流を流し、F/L ∝ I² でメガニュートン級の加速力を得てプラズマ弾を 7 km/s まで加速できることが実証されました。本ツールで I を 100 A、d を 1 cm にすると F/L が 0.2 N/m となり、現実のレールガンが I を 50,000 倍にして F/L を 25 億倍にしているスケールが直感できます。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「ソレノイドの内部磁場は中心軸上だけ」と思い込むことです。理想的な無限長ソレノイドでは内部のどこでも(中心軸上、軸から離れた点、両端付近を除く)B = μ₀nI で一定です。これは円電流ループ(軸上のみ B(z) が定義される)と本質的に異なり、ソレノイドが MRI や電磁石の主磁場発生源として選ばれる最大の理由です。本ツールの右半分の橙矢印が複数本描かれているのは、この一様性を表しています。

次に多いのが、「アンペール周回路の選び方は1つに決まる」と勘違いするケースです。アンペール則 $\oint B \cdot d\ell = \mu_0 I_{\mathrm{enc}}$ はどんな閉曲線でも成り立ちますが、磁場 B を単独で取り出すには「対称性に合った周回路」を選ぶ必要があります。直線電流なら同心円、ソレノイドなら長方形、トロイドなら円。対称性のない問題(有限長ソレノイド等)では、アンペール則は依然成り立つが、1本の式から B を解けないので使い物にならず、ビオ・サバールの数値積分が必要になります。

最後に、「平行電流の力は接触距離 d=0 で無限大になるから危険」と早合点する誤りです。式 F/L = μ₀I²/(2πd) は導線を「無限に細い線」とした理想化の結果で、実際の導線が直径 a を持つときは中心間距離が d、表面間距離が d−a となり、d → a で式が発散する前に物理的に接触します。実際の電力工学では「導体の機械強度を超える短絡電磁力」が問題になり、それは d ≈ 数 mm〜数 cm、I ≈ 数十 kA で計算され、本ツールのスケール(d ≥ 1 mm、I ≤ 100 A)の延長線上にあります。