フィックの原理は、トレーサー物質に対する質量保存則を循環系に当てはめたものです。体が酸素を取り込む速度(酸素消費量 VO₂)は、心拍出量 CO と、血液1リットルが組織に渡す酸素量(動静脈酸素較差 Ca−Cv)の積に等しい、というのが原理の中身です。これを CO について解くと CO = VO₂/(Ca−Cv) となり、難しい血流量の直接測定を、測れる3つの量(酸素消費量・動脈血の酸素含量・混合静脈血の酸素含量)に置き換えられます。
心拍出量 CO は心臓が1分間に送り出す血液量(L/min)で、循環系の最重要指標です。1回拍出量 SV は1回の心拍で送り出される血液量(mL)で、SV = CO×1000/心拍数 の関係にあります。心係数 CI は心拍出量を体格(体表面積)で割って正規化した値(L/min/m²)で、体格の異なる人どうしを公平に比較できます。本ツールでは体表面積を標準的な 1.8 m² と仮定しています。
次に、「動静脈酸素較差をゼロに近づけられる」と思い込むこと。式の上では Ca と Cv を限りなく近づければ心拍出量は無限大に発散します。しかし生体では、組織は必ずいくらかの酸素を消費するため Cv が Ca に一致することはありません。本ツールは Ca > Cv を満たすよう入力範囲を制限し、較差がゼロや負になる非物理的な状態を避けています。極端な値を入れたときに数値が発散しないのは、この物理的な制約を反映しているためです。
最後に、これは教育用のシミュレーターであり、医療機器でも医療アドバイスでもないという点です。実際の心拍出量測定は、肺胞気・血液ガス分析や熱希釈用カテーテルなどを用いて医療従事者が行うもので、安静の徹底や測定誤差の管理など多くの前提条件があります。本ツールの体表面積 1.8 m² や材料定数は代表値であり、特定の個人にあてはまる保証はありません。表示される「判定」も原理の理解を助けるための目安にすぎず、診断・治療の判断には決して使用しないでください。