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バイオメカニクス

フィックの原理による心拍出量シミュレーター

心臓が1分間に送り出す血液量=心拍出量を、酸素を体内のトレーサーとして使う「フィックの原理」で求めるツールです。酸素消費量・動脈血と静脈血の酸素含量・心拍数を変えると、心拍出量・1回拍出量・心係数・酸素抽出率がリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
酸素消費量 V̇O₂
mL/min
体が1分間に取り込む酸素量。安静時の成人で約 250 mL/min
動脈血の酸素含量 Ca
mL/L
肺で酸素を受け取った動脈血1リットル中の酸素量
混合静脈血の酸素含量 Cv
mL/L
組織に酸素を渡して心臓に戻る静脈血1リットル中の酸素量
心拍数 HR
bpm
1分間あたりの拍動回数。1回拍出量の計算に使用
計算結果
動静脈酸素較差 (mL/L)
心拍出量 CO (L/min)
1回拍出量 SV (mL)
心係数 (L/min/m²)
酸素抽出率 (%)
心拍出量の判定
循環ループ図 — 血流と酸素の受け渡し

心臓から肺(酸素を受け取り明るい動脈血に)と全身の組織(酸素を渡し暗い静脈血に)へ血液が循環します。色は酸素含量、矢印は血流の向きを表します。

心拍出量 vs 動静脈酸素較差
1回拍出量 vs 心拍数
理論・主要公式

$$CO=\frac{\dot V_{O_2}}{C_{a}-C_{v}},\qquad SV=\frac{CO}{HR}$$

心拍出量 CO = 酸素消費量 V̇O₂ ÷ 動静脈酸素較差(Ca−Cv)。フィックの原理は酸素をトレーサーとした質量保存則で、(Ca−Cv)は血液1リットルが組織に渡す酸素量です。1回拍出量 SV は CO を心拍数 HR で割って求めます。

$$CI=\frac{CO}{BSA},\qquad ERO_2=\frac{C_a-C_v}{C_a}\times100$$

心係数 CI は心拍出量を体表面積 BSA(本ツールでは 1.8 m² と仮定)で正規化した値。酸素抽出率 ERO₂ は運ばれた酸素のうち組織が取り込んだ割合です。

フィックの原理と心拍出量とは

🙋
「心拍出量」って言葉、生理学の授業で出てきたんですけど、要するに何の量なんですか?
🎓
ざっくり言うと「心臓が1分間に送り出す血液の量」だね。心臓の一番の仕事は血液をポンプで押し出すことで、その送り出す速さ=心拍出量(CO)は、生理学でも臨床医学でも一番大事な数字のひとつなんだ。安静時の成人でだいたい 5 L/min くらい。でも困ったことに、心臓に流量計を直接つけて測るわけにはいかないよね。
🙋
たしかに…じゃあ、どうやって測るんですか?心臓を開けるわけにもいかないですよね。
🎓
そこで登場するのが1870年にドイツの生理学者アドルフ・フィックが考えた「フィックの原理」だ。アイデアは天才的にシンプルで、要は質量保存則。体の中を流れる何かトレーサー(目印)になる物質を選んで、その出入りを数えれば流量が逆算できる、という発想なんだ。そして体には完璧な天然のトレーサーがある。酸素だよ。
🙋
酸素をトレーサーに?どういう理屈で心拍出量が出てくるんですか?
🎓
こう考える。体全体が酸素を取り込む速さ(=肺で1分間に取り込む酸素量、酸素消費量 V̇O₂)は測れる。その酸素はぜんぶ血液が組織まで運ぶ。だから「酸素が運ばれる速さ」は、心拍出量 × 血液1リットルが組織に渡す酸素量、に等しいはずだ。この「1リットルが渡す量」が動静脈酸素較差——肺帰りの明るい動脈血と、組織帰りの暗い静脈血の酸素含量の差だね。式を CO について解けば、CO = 酸素消費量 ÷ 動静脈酸素較差。左のスライダーで Ca と Cv を近づけると、較差が小さくなって CO が跳ね上がるのが見えるよ。
🙋
なるほど!心拍出量が出ると、1回拍出量とか心係数も計算できるんですね。
🎓
そう。心拍出量は「1分あたり」の量だから、それを心拍数で割れば「1拍あたり」の量=1回拍出量 SV になる。さらに心拍出量を体表面積で割って体格をそろえたのが心係数 CI。これで小柄な人と大柄な人を公平に比べられる。同じ質量保存のロジックは、酸素のかわりに色素や「冷たさ」をトレーサーに使う色素希釈法・熱希釈法にもそのまま生きているんだ。なお、これは工学・生理学の教育用ツールで、医療機器でも医療アドバイスでもない点は念のため覚えておいてね。

よくある質問

フィックの原理は、トレーサー物質に対する質量保存則を循環系に当てはめたものです。体が酸素を取り込む速度(酸素消費量 VO₂)は、心拍出量 CO と、血液1リットルが組織に渡す酸素量(動静脈酸素較差 Ca−Cv)の積に等しい、というのが原理の中身です。これを CO について解くと CO = VO₂/(Ca−Cv) となり、難しい血流量の直接測定を、測れる3つの量(酸素消費量・動脈血の酸素含量・混合静脈血の酸素含量)に置き換えられます。
心拍出量 CO は心臓が1分間に送り出す血液量(L/min)で、循環系の最重要指標です。1回拍出量 SV は1回の心拍で送り出される血液量(mL)で、SV = CO×1000/心拍数 の関係にあります。心係数 CI は心拍出量を体格(体表面積)で割って正規化した値(L/min/m²)で、体格の異なる人どうしを公平に比較できます。本ツールでは体表面積を標準的な 1.8 m² と仮定しています。
動静脈酸素較差(Ca−Cv)は、血液1リットルが体を一周する間に組織へ渡す酸素量(mL/L)です。安静時はおよそ 40〜50 mL/L が目安です。酸素抽出率は、運ばれてきた酸素のうち組織が実際に取り込んだ割合(=(Ca−Cv)/Ca×100%)で、安静時はおよそ 25% です。運動時は組織の酸素需要が高まり、心拍出量の増加とともに酸素抽出率も大きく上がります。
いいえ。本ツールは工学・生理学の教育を目的としたシミュレーターであり、医療機器でも医療アドバイスでもありません。実際の心拍出量測定は、フィック法のほか色素希釈法や熱希釈法などで医療従事者が行います。表示される判定や数値はあくまで原理を体験的に理解するためのもので、診断・治療の判断には使用しないでください。

実世界での応用

循環生理学の教育:心拍出量・1回拍出量・心係数・動静脈酸素較差は、医学部・看護学・スポーツ科学の循環生理学で必ず学ぶ基本量です。フィックの原理は「測れない量を、測れる量の組み合わせに置き換える」という工学的発想の好例で、質量保存則の応用として教科書に必ず登場します。本ツールはスライダーで各量を変えながら、式の中の比例・反比例関係を直感的に体験する教材として使えます。

運動生理学・心肺機能の理解:運動を始めると組織の酸素需要が急増し、心拍出量は安静時の 5 L/min から鍛えられた人で 20〜25 L/min まで増えます。このとき心拍数の増加だけでなく、動静脈酸素較差も拡大して酸素抽出率が上がります。フィックの式 CO = V̇O₂/(Ca−Cv) を見れば、最大酸素摂取量(V̇O₂max)が「最大心拍出量 × 最大動静脈酸素較差」で決まることが分かり、持久力トレーニングの効果を理解する枠組みになります。

計測原理としての希釈法:フィックの原理と同じ「トレーサーの保存」の考え方は、色素希釈法(色素を注入し下流の濃度時間曲線から流量を求める)や熱希釈法(冷たい生理食塩水を注入し温度変化を追う)の基礎でもあります。トレーサーが酸素か、色素か、熱量かが違うだけで、保存則を使って流量を逆算する骨格は共通です。本ツールは、その最も古典的な形である酸素法を扱っています。

生体ポンプのモデル化:心臓を周期的な流量源としてとらえる見方は、血行動態の数値シミュレーション(0次元の集中定数モデルや1次元の波動モデル)の出発点になります。心拍出量・1回拍出量・心拍数の関係は、こうしたモデルの境界条件・入力条件を設定する際の基本パラメータであり、CAE的な循環器モデリングの入口としても役立ちます。

よくある誤解と注意点

まず多い誤解が、「酸素含量と酸素飽和度(SpO₂)を混同する」ことです。本ツールで入力する Ca・Cv は血液1リットルあたりに含まれる酸素の体積(mL/L)で、飽和度(%)とは別物です。酸素含量はおおまかに「ヘモグロビン濃度 × 飽和度 × 1.34」で決まるため、貧血でヘモグロビンが少なければ飽和度が 100% でも酸素含量は低くなります。フィックの式に入るのは飽和度ではなく含量である点を取り違えると、計算がまるで合わなくなります。

次に、「動静脈酸素較差をゼロに近づけられる」と思い込むこと。式の上では Ca と Cv を限りなく近づければ心拍出量は無限大に発散します。しかし生体では、組織は必ずいくらかの酸素を消費するため Cv が Ca に一致することはありません。本ツールは Ca > Cv を満たすよう入力範囲を制限し、較差がゼロや負になる非物理的な状態を避けています。極端な値を入れたときに数値が発散しないのは、この物理的な制約を反映しているためです。

最後に、これは教育用のシミュレーターであり、医療機器でも医療アドバイスでもないという点です。実際の心拍出量測定は、肺胞気・血液ガス分析や熱希釈用カテーテルなどを用いて医療従事者が行うもので、安静の徹底や測定誤差の管理など多くの前提条件があります。本ツールの体表面積 1.8 m² や材料定数は代表値であり、特定の個人にあてはまる保証はありません。表示される「判定」も原理の理解を助けるための目安にすぎず、診断・治療の判断には決して使用しないでください。

使い方ガイド

  1. 酸素消費量(VO2)を入力します。安静時は3.5mL/kg/min、運動時は20mL/kg/min程度の値を設定してください
  2. 動脈血酸素含量(CaO2)と静脈血酸素含量(CvO2)を入力します。通常CaO2は20mL/L、CvO2は15mL/Lが目安です
  3. 心拍数(HR)を入力すると、フィックの原理(CO=VO2÷(CaO2-CvO2))により心拍出量・1回拍出量が自動計算されます

具体的な計算例

70kg男性の安静時測定:VO2=245mL/min、CaO2=20mL/L、CvO2=15mL/Lの場合、動静脈酸素較差は5mL/Lです。心拍出量CO=245÷5=4.9L/minとなります。心拍数70bpmで1回拍出量SV=4900÷70=70mLが得られます。同じ被験者が運動負荷(VO2=1400mL/min)を受けると、CaO2-CvO2が8mL/Lに拡大し、CO=1400÷8=175L/min、HR=140bpmでSV=125mLに増加します

実務での注意点