シャルピー衝撃試験 戻る
解析ツール

シャルピー衝撃試験シミュレーター
延性-脆性遷移温度 (DBTT)

CVN衝撃エネルギー対温度曲線(tanh近似)をリアルタイム描画。DBTT・USE・LSEのパラメータ調整、照射脆化シフト、溶接HAZ曲線を可視化。

材料プリセット
試験条件
20 °C
20 kg
150 °

一時停止中はスライダーを動かすと結果が即座に更新されます。

シャルピー振り子衝撃試験(リアルタイム)
ライブ計測値
初期角 θ₁
初期高さ h₁ (m)
最終角 θ₂
最終高さ h₂ (m)
吸収エネルギー E (J)
現在角 θ
ハンマー速度 (m/s)
破壊様式
理論・主要公式
$$E = m\,g\,(h_1 - h_2),\qquad h = L\,(1-\cos\theta)$$

吸収エネルギーはハンマーの位置エネルギー差(振り上げ高さ h₁ と振り上がり高さ h₂ の差)で求まります。

破壊様式は延性-脆性遷移曲線に従います:$E_{CVN}(T) = \frac{USE+LSE}{2}+\frac{USE-LSE}{2}\tanh\!\left(\frac{T-DBTT}{C}\right)$

検証例:m=20 kg, θ₁=150°, L=0.8 m → h₁≈1.49 m, 位置エネルギー≈293 J。

シャルピー衝撃試験と延性-脆性遷移曲線とは

🙋
このシミュレーターで描かれるS字カーブって、何を表しているんですか?
🎓
大まかに言うと、鋼が「延性(粘い)」から「脆性(もろい)」に変わる温度範囲だね。左のスライダーで「上部棚エネルギー(USE)」を上げてみて。曲線の上の平らな部分が高くなるでしょ?これが高温側での最大の衝撃吸収エネルギーだ。実務では、自動車の衝突安全部品や橋梁の鋼材が、想定使用温度でこの「上部棚」の性能を発揮できるかが重要になるんだ。
🙋
え、そうなんですか!じゃあ真ん中にある「DBTT」って何ですか?この温度を境に急にエネルギーが下がってますね。
🎓
その通り!DBTT(延性-脆性遷移温度)は、材料の性質が大きく変わる目安の温度だ。シミュレーターで「DBTT」の値を左右に動かすと、S字カーブ全体が横にスライドするのがわかるかな?例えば、寒冷地用の構造物を設計する時は、このDBTTが最低使用温度より十分に低い材料を選ばないと、想定外の脆性的な破壊が起きるリスクがあるんだ。
🙋
「照射脆化シフト ΔT」ってパラメータもありますね。これは何に使うんですか?
🎓
良いところに気が付いたね!これは原子炉の圧力容器のように、長期間中性子にさらされる鋼材で起こる現象を再現するためのパラメータだ。ΔTをプラスにすると、DBTTが高温側にシフトする(曲線が右に移動する)のが見えるよね。現場では、このシフト量を監視して、原子炉の運転温度限界を安全側に評価し直すんだ。シミュレーターでΔTを大きくすると、もともと安全だった温度域が脆性領域に入ってしまう危険性がよく理解できるよ。

よくある質問

DBTTは曲線の変曲点(S字の中心)を左右に移動させるパラメータです。傾きや上下の棚エネルギーは別のパラメータ(C、USE、LSE)で制御されるため、DBTTのみ変更しても曲線の形は変わらず、平行移動します。
照射脆化シフトを設定すると、元の曲線が高温側に平行移動します。これは照射による材料の脆化を模擬しており、DBTTが上昇(右シフト)し、同じ温度での吸収エネルギーが低下した状態を可視化します。
溶接HAZ(熱影響部)曲線は、溶接による熱履歴で材料特性が変化した領域を模擬した曲線です。母材とは異なるDBTTやUSEを持つため、溶接継手の脆化評価や、実構造物の安全解析で母材と比較する際に使用します。
Cを小さくしすぎると、遷移領域が極端に急峻になり、ほぼステップ状の曲線になります。現実の材料ではこのような急激な遷移は稀であり、物理的妥当性を保つためには、構造用鋼では概ね15〜40のCを初期範囲として、実測データに基づき調整することを推奨します。
USEは延性破壊が支配的な高温域での吸収エネルギーで、材料の靭性の上限値を示します。LSEは脆性破壊が支配的な低温域での最小値です。実測データに基づいた適切な範囲(本ツールではUSE 10〜300、構造用鋼では概ね15〜40のC)で設定することを推奨します。
はい、大きく異なります。Vノッチ試験片(ISO 148-1)はノッチ角45°・ルート半径0.25mmで応力集中が高く脆化に敏感なため国際的に標準として使われます。Uノッチは底半径5mmと緩やかで同じ材料でも吸収エネルギーが高く出る傾向があります。本シミュレーターはVノッチのtanh近似に基づいており、Uノッチデータと直接比較する際は補正係数を考慮してください。
同一鋼材でも試験片採取位置(圧延方向・厚み位置)や溶接熱履歴により吸収エネルギーがばらつきます。本シミュレーターでDBTT・C・USE・LSEを個別に設定し、照射後ケースやHAZケースを順に表示して比較評価することができます。
液体窒素温度(−196°C)は多くの構造鋼のLSE付近かそれ以下に対応します。LSEを実測の最低値(例:5J)に設定すると、グラフ左端(約−150°C)で曲線が下部棚へ収束する様子を確認できます。

実世界での応用

原子炉圧力容器の健全性評価:中性子照射による脆化シフト(ΔT)を定量的に評価するために不可欠です。ASME規格では、運転履歴に基づいてDBTTのシフトを計算し、緊急時の冷却(加圧熱衝撃: PTS)事象においても脆性破壊が起きないことを確認します。

船舶・海洋構造物の材料選定:北極海航路の砕氷船や低温海域での海洋プラットフォームでは、想定される最低海水温を大きく下回るDBTTを持つ鋼材(高靭性鋼)の採用が求められます。USEとLSEの値は設計上の重要な材料定数です。

自動車・鉄道車両の衝突安全性:衝撃吸収部品に使用される鋼材が、冬季の低温環境下でも十分な延性(高い衝撃エネルギー吸収能力)を保つことを確認するために試験が行われます。FEMを用いた衝突シミュレーションでは、温度依存の材料データとしてこの曲線が入力されます。

溶接部の評価:溶接熱影響部(HAZ)は組織が変化し、母材よりもDBTTが上昇(脆化)することがあります。シミュレーターの「溶接HAZ曲線」機能は、この局部脆化を考慮した構造物の健全性評価に活用されます。

よくある誤解と注意点

「シャルピー衝撃試験では、延性-脆性遷移温度(DBTT)が一意に決まる」と思いがちですが、実際にはDBTTは試験片の採取位置や試験速度、切欠き形状に依存し、さらにtanh近似によるフィッティングの範囲や基準エネルギー(例:41J、0.9mmラテラルエクスパンション)によって定義が異なるため、複数のDBTT値が存在し得ます。注意点として、照射脆化シフト量は材料の化学成分や中性子フルエンスに強く依存するため、単一のシフト値で全温度域の挙動を代表させることはできません。また、溶接HAZ曲線は母材と異なる微視組織を持つため、同一のUSE(上部棚エネルギー)や遷移挙動を仮定すると誤った評価につながります。

使い方ガイド

  1. USEスライダー(上部棚エネルギー)を10〜300Jの範囲で設定し、高温域の吸収エネルギーを決めます
  2. LSEスライダー(下部棚エネルギー)を2〜150Jの範囲で調整し、低温域の脆性レベルを入力します
  3. DBTTスライダーで延性-脆性遷移温度を-200〜+50°Cの範囲で設定し、S字曲線の中心位置を決めます
  4. 傾きパラメータC(10〜60)で遷移域の急峻さを、照射脆化シフトΔT(0〜100°C)で照射後のDBTT上昇を与えます
  5. -40°Cおよび0°C時点でのCVN値がリアルタイム表示され、FATT(Fracture Appearance Transition Temperature:50%せん断破面率温度)も併示されます

具体的な計算例

API X65パイプライン鋼(降伏強度450MPa)のシャルピー試験を想定:USE=280J、LSE=20J、DBTT=+15°C、傾きC=30を入力すると、-40°C時のCVN値は約26J、0°C時は約90Jと算出されます。照射脆化シフトΔT=+50°Cを与えると照射後DBTTは+65°Cへ移行し、-40°C時のCVNは約20Jまで低下します。このように使用温度がDBTTを下回る条件では吸収エネルギーが急減するため、低温環境で使う場合は材料選定の見直しが必要と判断できます。

実務での注意点