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医工学・心電図

心電図 ST 部分析シミュレーター

心電図 (ECG) の ST セグメントは、心筋の虚血・梗塞を見つけ出すための「窓」です。ST 偏移量・誘導・性別・年齢・心拍数を変えると、第4次 UDMI 2018 基準で STEMI/NSTEMI/正常の判定、QTc 補正、緊急度スコアがリアルタイムに更新され、虚血の重症度を可視化できます。

パラメータ設定
ST 偏移
mm
J 点 +60~80 ms における基線からの偏移。正=上昇、負=低下
解析誘導
誘導により STEMI 閾値が異なる (前壁中隔は厳しめ)
心拍数 HR
BPM
QRS 幅
ms
>120 ms で脚ブロック疑い (STEMI 判定困難)
J 点オフセット
ms
ST 測定位置 (J 点から後方へのオフセット)
年齢層
若年男性は V2-V3 で閾値が高くなる (早期再分極が多いため)
性別
女性は V2-V3 STEMI 閾値が 1.5 mm
計算結果
ST 偏移 (mm)
STEMI 閾値 (mm)
判定
RR 間隔 (ms)
QTc 推定 (ms)
緊急度スコア
ECG 波形 — P-QRS-ST-T と J 点

緑:基線 (TP)/黄:J 点/赤:ST 測定点 (J+60~80 ms)。ST 偏移の大きさと符号がリアルタイムで反映されます。

12 誘導 ECG 模式波形
誘導別 STEMI 閾値 (現在の性別・年齢)
理論・主要公式

$$\Delta ST = V_{ST\,segment} - V_{TP\,baseline},\quad \text{STEMI iff} \quad \Delta ST \geq T_{lead,sex,age}$$

ΔST = ST 偏移 (J 点 +60~80 ms 位置の電位 − TP 基線電位)、単位 mm。Tlead,sex,age = 第4次 UDMI 2018 による性別・年齢・誘導別の STEMI 閾値 (mm)。

$$QTc = \frac{QT}{\sqrt{RR}} \approx \frac{470}{\sqrt{HR/60}}\ \text{ms}, \qquad RR = \frac{60000}{HR}\ \text{ms}$$

Bazett 補正 QT 間隔と RR 間隔。HR=BPM、RR=ms。QTc>450 ms (男)/>460 ms (女) で延長と評価する。

$$\text{Acuity} = 10\,|\Delta ST| + 5\,[HR\gt 100] + 10\,[QRS\gt 120]$$

緊急度スコア (教育用)。ST 偏移の絶対値・頻脈・QRS 拡大をペナルティ加算した独自指標。

心電図 (ECG) の ST 部分析 — 虚血・梗塞診断

🙋
心電図ってよく見ますけど、「ST が上がってる!STEMI だ!」って医療ドラマで叫んでるあれ、何を見て言ってるんですか?
🎓
いいところに気づいたね。ECG の1拍は P 波 → QRS 波 → T 波と並ぶんだけど、QRS が終わった点を「J 点」と呼んで、そこから T 波が始まるまでの平らな区間が「ST セグメント」だ。ここは心筋が脱分極を終えて再分極の準備をしている時間で、本来は心電図の基線 (TP セグメント) と同じ高さにあるはず。それが上がっていたら、心筋の壁全層が虚血しているサイン——これが STEMI、ST 上昇型心筋梗塞の核心なんだよ。
🙋
じゃあ「1 mm 上がってたらアウト」みたいに決まってるんですか?左の「ST 偏移」を 1 mm にしても判定が変わらないんですけど…
🎓
そこが大事なポイント。閾値は誘導と性別・年齢で変わるんだ。第4次 UDMI 2018 では、男性 40 歳以上は V2-V3 で 2.0 mm、他の誘導で 1.0 mm。男性でも 40 歳未満は V2-V3 で 2.5 mm まで許される——これは健常若年男性に「早期再分極」という正常変異が多いから。女性は逆に V2-V3 でも 1.5 mm と低めに設定されている。左の「誘導」を V2 に切り替えて性別を女性にしてみて、判定が一気にシビアになるのが分かるはずだ。
🙋
ST が下がってるパターンもあるって聞きました。これは STEMI じゃないんですか?
🎓
いい質問。ST 低下は心筋の「内側」だけの虚血を示すんだ。冠動脈の血流は外膜側 (外側) から心内膜側 (内側) に向かって流れるから、血流が悪くなると内膜下が真っ先に酸欠になる。これが ST 低下=NSTEMI (非 ST 上昇型) や不安定狭心症のサインだ。STEMI が「24 時間以内に PCI で詰まりを開けろ」という緊急コースなのに対し、NSTEMI はトロポニン値で確定診断してから 24~72 時間以内に冠動脈造影、というのが原則だよ。本ツールでも ST≤−0.5 mm で「ST 低下」と表示するようになっている。
🙋
QRS 幅を広げるとなんで警告が出るんですか?心拍数とは別の指標ですよね?
🎓
QRS が 120 ms を超えると「脚ブロック (LBBB/RBBB)」が疑われる。脚ブロックがあると、二次性に ST-T 部分も変化してしまうから、純粋な虚血による ST 上昇と区別がつきにくくなるんだ。LBBB がある患者で AMI を疑う場合は、Sgarbossa 基準という別の判定式を使う。だから本ツールでも QRS>120 ms は緊急度スコアにペナルティを加算して、「単純な ST 閾値判定が使えないかも」と注意喚起している。
🙋
最後に、これって ICU や救急車でも使われてるんですよね?AI の解析って結局どこまで進んでるんですか?
🎓
12 誘導 ECG は AED や除細動器、ICU モニタ、Holter (24 時間記録)、最近は Apple Watch のような Wearable まで搭載されている。AI 側では FDA 認可済の AliveCor KardiaAI や、ディープラーニングで AF・LBBB・PVC を 95%以上の感度で検出する CDx (Computer-aided Diagnosis) が次々と承認されているよ。ただし「ST 上昇 = STEMI」の最終判断は今でも循環器内科医が形態 (凹型 vs 凸型)・臨床症状・トロポニン値を見て下す。AI はトリアージ加速と一次スクリーニングが主役、というのが 2026 年時点の合意だ。

よくある質問

第4次 Universal Definition of Myocardial Infarction (UDMI 2018) に従って、ST 上昇の閾値を性別・年齢・誘導別に変えます。男性 40 歳以上では V2-V3 で 2.0 mm 以上、他の誘導で 1.0 mm 以上。男性 40 歳未満では V2-V3 で 2.5 mm 以上。女性は V2-V3 で 1.5 mm 以上、他の誘導で 1.0 mm 以上。本シミュレーターはこの閾値を自動選択し、ST 偏移 (J 点から 60~80 ms 後で測定) と比較して STEMI 該当性を判定します。
ST 上昇は心筋全層の虚血 (透壁性) を示し、STEMI として 24 時間以内の PCI (経皮的冠動脈形成術) が推奨されます。一方 ST 低下 (≥ 0.5 mm) は心内膜下の虚血を示し、NSTEMI または不安定狭心症が疑われます。NSTEMI ではトロポニン上昇を確認したうえで、抗血栓療法と早期 (24~72 時間以内) の冠動脈造影を検討します。本ツールは ST≤−0.5 mm で「ST 低下 (虚血・NSTEMI 疑い)」と表示します。
J 点は QRS 終了直後の点で、ST 偏移はその 60~80 ms 後の電位で測定します。早すぎる測定は QRS の影響を、遅すぎると T 波の影響を受けます。QTc は Bazett 式 QTc = QT/√RR で心拍数補正した QT 間隔で、>450 ms (男) / >460 ms (女) で延長と評価し、torsades de pointes のリスクを示します。緊急度スコアは ST 偏移絶対値・頻脈・QRS 拡大を合算した独自指標で、トリアージや教育目的の目安値です。
起こります。鑑別すべき主な原因は (1) 早期再分極 (健常若年男性に多く凹型 ST 上昇)、(2) 急性心膜炎 (広範な誘導で凹型 ST 上昇 + PR 低下)、(3) 左室肥大 (LVH) や左脚ブロック (LBBB) による二次性 ST 変化、(4) Brugada 症候群 (V1-V3 のサドルバック型)、(5) 高カリウム血症・低体温 (Osborn 波) など。本シミュレーターは数値上の閾値判定のみで、形態・臨床経過・トロポニン値とあわせて専門医が総合判断します。教育・概念学習目的でご利用ください。

実世界での応用

救急・カテーテル室での STEMI トリアージ:胸痛で救急搬送された患者では、第一処置として 10 分以内に 12 誘導 ECG を取り、ST 上昇があれば「Door-to-Balloon 90 分」を目標に直接カテ室へ送ります。本ツールが示すような「誘導 × 性別 × 年齢」の閾値判定は、若手研修医の判断を支援するためのチェックリストにそのまま組み込まれています。閾値を満たさない胸痛では一旦 CCU 入室+トロポニン経時測定で NSTEMI/UA を鑑別します。

ICU モニタと不整脈管理:ICU の床頭モニタは II 誘導と V5 誘導を連続表示し、ST セグメントの 0.1 mV (1 mm) ずれを自動アラートする「ST トレンド」機能を持ちます。心臓手術後・PCI 後の患者では、再閉塞の早期発見に直結するため、誘導別の閾値設定 (本ツール相当のロジック) が看護師の介入トリガーになります。

遠隔医療・Wearable・AI 心電図:Apple Watch、AliveCor KardiaMobile、Withings ScanWatch のような家庭用デバイスは単誘導 ECG を 30 秒記録します。これらは AF (心房細動) 検出に FDA 認可を得ていますが、ST 解析は未だ承認領域が限定的です。Mayo Clinic AI-ECG や Cardiologs (Philips) のような商用 AI は、ResNet 系のディープラーニングで Anterior STEMI を>95%の感度で検出し、救急搬送前トリアージへの実装が進んでいます。

運動負荷試験 (トレッドミル・エルゴメーター):狭心症の診断ではトレッドミル運動負荷中の ST 低下を観察します。J 点 +80 ms で 1 mm 以上の水平または下行型 ST 低下が出れば陽性、上行型は偽陽性が多いと判定します。負荷量・心拍数・年齢を組み合わせた本ツールの感度設定は、運動負荷 ECG 教育のサンドボックスとしても使えます。

よくある誤解と注意点

まず多いのが、「ST 上昇 = 即 STEMI」という早合点です。健常若年男性の 30~80% に「早期再分極 (BER)」が存在し、II・V2-V5 で 1~4 mm の ST 上昇を示します。STEMI と BER の鑑別ポイントは「形」で、STEMI は時間とともに上昇が増悪し凸型 (tombstone 型) になるのに対し、BER は凹型で経時的変化がありません。本ツールの数値判定はあくまで閾値比較で、波形形態・経時変化・症状・トロポニン値を合わせなければ最終診断はできません。臨床現場でも 12 誘導 ECG を 15 分後に再検する「経時 ECG」が STEMI 確定の鍵です。

次に、「J 点の測定位置を一定にしない」こと。日本の自動解析装置の多くは J 点 +20 ms で ST を測るのに対し、欧米ガイドラインは J 点 +60 または +80 ms を推奨しています。早く取りすぎると QRS の終末成分を拾って ST が高めに、遅く取りすぎると T 波の上行を拾って同様に高めに出ます。施設・装置間で測定基準が違うと、同じ患者の ECG が機種違いで「STEMI 該当」と「非該当」に分かれる事故が起こります。本シミュレーターでは「J 点オフセット」スライダーでこの感度を体感できるようにしてあります。

最後に、「LBBB のある患者でも UDMI 閾値をそのまま使う」誤り。左脚ブロック (QRS≥120 ms) があると ST-T は二次性に変化し、純粋な虚血起源と区別できません。LBBB + AMI 疑いの場合は Sgarbossa 基準 (QRS と同方向の ST 上昇≥1 mm/反対方向の ST 上昇≥5 mm/QRS と反対方向の ST 低下≥1 mm の3項目を点数化) を使います。本ツールは QRS>120 ms で警告を出しますが、Sgarbossa 計算機ではない点に注意してください。心室ペーシング中の患者にも同様の制限があります。

使い方ガイド

  1. ST偏移値を-3〜+5mmの範囲で設定し、前壁・下壁・側壁など該当誘導を選択します
  2. 心拍数(40〜180 bpm)、QRS幅(80〜150 ms)、J点オフセット(-2〜+3 mm)を入力します
  3. 第4次UDMI基準に基づきSTEMI判定(男性前壁≥2.5 mm、女性前壁≥2.0 mm、他誘導≥1.0 mm)を実行し、QTc補正値とRR間隔から緊急度スコアを算出します

具体的な計算例

45歳男性、心拍数78 bpm(RR間隔=769 ms)、前壁ST偏移+3.2 mm、QRS幅95 ms、J点+0.5 mmの場合:ST偏移が閾値2.5 mmを超過しSTEMI判定となります。QTc=√(RR間隔)×QT間隔で推定され、約420 msと算出。緊急度スコア=8/10で直ちに心臓カテーテル室への搬送対象となります。一方、同条件でST偏移+1.8 mmであればNSTEMI(閾値未満)と判定されます。

実務での注意点