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化学熱力学シミュレーター

ギブズ自由エネルギー シミュレーター — 反応の自発性と平衡定数

ΔG = ΔH − TΔS により、エンタルピー変化 ΔH・エントロピー変化 ΔS・温度 T・ΔS の効果倍率から、ギブズ自由エネルギー変化 ΔG、TΔS、自発性判定、平衡定数 K = exp(−ΔG/RT) を実時間に計算します。ΔG-T 線図と van't Hoff 直線(1/T vs log K)で温度依存の自発性転移を可視化します。

パラメータ設定
エンタルピー変化 ΔH
kJ/mol
エントロピー変化 ΔS
J/(mol·K)
温度 T
°C
ΔS の効果倍率
×

既定値は ΔH=−50 kJ/mol、ΔS=100 J/(mol·K)、T=25°C(298.15 K)、scale=1.0。R = 8.314×10⁻³ kJ/(mol·K) を使用し、ΔS は内部で kJ/(mol·K) に変換します。実効的に ΔS_eff = ΔS × scale として ΔG = ΔH − T·ΔS_eff を計算します。物理的に正しい値は scale=1.0 です。

計算結果
ΔG
TΔS
自発性
平衡定数 K
ΔG-T 線図

横軸=温度 T(°C)/縦軸=ΔG(kJ/mol)/青=ΔG(T) = ΔH − T·ΔS_eff の直線/赤水平線=ΔG=0(自発/非自発の境界)/黄縦線=現在の T

van't Hoff 直線(1/T vs log₁₀ K)

横軸=1/T(1/K)/縦軸=log₁₀ K/青=van't Hoff 直線(傾き −ΔH/(R·ln10)、切片 ΔS/(R·ln10))/黄マーカー=現在の (1/T, log₁₀ K)

理論・主要公式

ギブズ自由エネルギー変化は、定温・定圧条件で反応の自発性を判定する熱力学関数です:

$$\Delta G = \Delta H - T\,\Delta S$$

$\Delta H$ はエンタルピー変化(kJ/mol、反応熱)、$\Delta S$ はエントロピー変化(J/(mol·K)、乱雑さ)、$T$ は絶対温度(K)。$\Delta G < 0$ なら自発、$\Delta G > 0$ なら非自発、$\Delta G = 0$ なら平衡です。標準状態での平衡定数 $K$ は次式で結ばれます:

$$K = \exp\!\left(-\frac{\Delta G^{\circ}}{R\,T}\right)$$

$R = 8.314\times 10^{-3}$ kJ/(mol·K)。van't Hoff の式は温度依存性を直線にプロットするのに有用です:

$$\ln K = -\frac{\Delta H^{\circ}}{R\,T} + \frac{\Delta S^{\circ}}{R}$$

$1/T$ に対する $\ln K$ のプロットは傾き $-\Delta H/R$、切片 $\Delta S/R$ の直線になります。本ツールでは log₁₀ K を縦軸に表示します。

ギブズ自由エネルギー シミュレーターとは

🙋
化学の授業で「ΔG が負だと反応が自発的に進む」って習ったんですけど、なんでエンタルピー ΔH じゃなくてエントロピー ΔS まで足し算するんですか?発熱反応なら勝手に進むはずじゃないですか?
🎓
いい疑問だ。実は「発熱だから進む」は半分正解で半分間違い。例えば氷が室温で溶けるのは吸熱反応(ΔH > 0)だが自発的に進む。これはエントロピー増加(ΔS > 0)が温度 T を介して効いているからだ。ΔG = ΔH − TΔS で、TΔS の項が大きければ ΔH が正でも ΔG < 0 になり得る。本ツールで既定値(ΔH=−50、ΔS=100、T=25°C)のまま見ると、ΔG ≈ −79.82 kJ/mol、TΔS ≈ 29.82 kJ/mol、自発、平衡定数 K ≈ 9.62×10¹³ と出る。
🙋
温度 T を上げたり下げたりすると、自発性が逆転することってあるんですか?
🎓
あるとも、それが ΔG = ΔH − TΔS の最も面白いところだ。ΔH と ΔS の符号で 4 つの領域がある:(1) ΔH<0, ΔS>0 はあらゆる温度で自発、(2) ΔH>0, ΔS<0 はあらゆる温度で非自発、(3) ΔH<0, ΔS<0 は低温だけ自発、(4) ΔH>0, ΔS>0 は高温だけ自発だ。本ツールで ΔH=+100、ΔS=+150 にして温度スイープを動かすと、約 400°C 付近で ΔG=0 をクロスするのが見える。CaCO₃ の熱分解(石灰焼成)がまさに (4) の例で、高温で初めて自発進行する。
🙋
「平衡定数 K」って ΔG と関係あるんですよね?でも、なんで指数関数で計算するんですか?
🎓
熱力学と統計力学を繋ぐ最重要関係式 ΔG° = −RT ln K だ。整理すれば K = exp(−ΔG°/RT)。指数関数なのは、Boltzmann 分布(状態 i にいる確率 ∝ exp(−E_i/kT))が背後にあるためだ。ΔG が ±10 kJ/mol 違うだけで、室温では K が 100〜0.02 と約 5000 倍変わる。既定値の ΔG=−79.82 では K ≈ 9.62×10¹³、ほぼ完全に右に進む反応。逆に ΔG=+10 kJ/mol なら K ≈ 0.018、ほとんど進まない。van't Hoff の式 d(ln K)/d(1/T) = −ΔH/R はこの温度依存性を直線にする手法で、本ツールの 2 つ目のグラフで可視化している。
🙋
最後に、ΔS の効果倍率(scale)って何ですか?普通は調整しちゃダメな気がしますけど…
🎓
正しい疑問だ。scale は教育用のパラメータで、エントロピー項 TΔS が ΔG にどれだけ寄与するかを直感的に体感するために用意してある。物理的に正しいのは scale=1.0 で、定量解析には必ずこの値を使う。scale=0.5 にすると TΔS の効果が半減し、scale=2.0 にすると 2 倍になる。例えば既定値のまま scale を 0.5〜2.0 にスイープすると、ΔG が −64.9〜−109.6 kJ/mol まで動き、エントロピー項の重要さが体感できる。実務的には ΔS_eff = ΔS × scale という形で「気体分子数の増減」「溶媒和エントロピー」などの補正係数を表す場面もある。

よくある質問

ギブズ自由エネルギー G は、定温・定圧条件で系から外界に取り出せる「最大有効仕事」を表す熱力学関数です。反応の自由エネルギー変化 ΔG = ΔH − TΔS は、エンタルピー変化 ΔH(反応熱)とエントロピー変化 ΔS(乱雑さの増減)の競合で決まります。ΔG < 0 なら反応は自発的(発エルゴン)、ΔG > 0 なら非自発的(吸エルゴン)、ΔG = 0 なら平衡です。本ツールの既定値(ΔH=−50 kJ/mol、ΔS=100 J/(mol·K)、T=25°C)では ΔG ≈ −79.82 kJ/mol、TΔS ≈ 29.82 kJ/mol、自発、K ≈ 9.62×10¹³ となります。
ΔG = ΔH − TΔS の右辺で、エンタルピー項 ΔH は温度によらず一定(近似的に)ですが、エントロピー項 −TΔS は温度 T に比例します。したがって ΔH と ΔS の符号によって 4 つの領域に分かれます:(1) ΔH<0, ΔS>0 はあらゆる温度で ΔG<0(常に自発)、(2) ΔH>0, ΔS<0 はあらゆる温度で ΔG>0(常に非自発)、(3) ΔH<0, ΔS<0 は低温でのみ自発(T < ΔH/ΔS)、(4) ΔH>0, ΔS>0 は高温でのみ自発(T > ΔH/ΔS)。氷の融解 (4)、CaCO₃ の熱分解 (4) などが代表例です。本ツールで T を −50〜1500°C で動かして自発性の転移を観察できます。
標準状態での平衡定数 K は ΔG° = −RT ln K で結ばれます。すなわち K = exp(−ΔG°/RT) であり、ΔG が大きく負であるほど K は指数的に巨大になり、反応は完全に進みます。R = 8.314×10⁻³ kJ/(mol·K)、T はケルビン温度です。既定値の ΔG ≈ −79.82 kJ/mol、T=298.15 K では K = exp(79.82/(8.314e-3·298.15)) = exp(32.20) ≈ 9.62×10¹³ と、ほぼ完全に右に進む反応です。逆に ΔG=+10 kJ/mol なら K ≈ 0.018 とほとんど進みません。van't Hoff の式 d(ln K)/d(1/T) = −ΔH°/R から、ΔH の符号で K の温度依存性が決まります。
ΔS の効果倍率は、エントロピー項 TΔS のスケーリングを直感的に体感するためのチューニング用パラメータです。実効的に ΔS_eff = ΔS × scale として計算され、scale=1.0 が物理的に正しい値です。教育用途では scale を 0.5〜2.0 の範囲で動かすことで、エントロピー項が ΔG に与える寄与の大きさを可視化できます。例えば気体分子数が増える反応(ΔS が大きく正)と凝縮反応(ΔS が大きく負)の挙動の違いを、ΔS のスライダーを動かさずに「効果」だけを変えて比較できます。実務的な定量解析では必ず scale=1.0 で使用してください。

実世界での応用

石灰焼成(CaCO₃ → CaO + CO₂):セメント・製鋼・脱硫剤製造の基幹反応。ΔH ≈ +178 kJ/mol(吸熱)、ΔS ≈ +160 J/(mol·K)(気体 CO₂ 生成で大きく正)の典型例 (4) で、低温では非自発、ΔG=0 となる転移温度は T = ΔH/ΔS ≈ 1113 K(約 840°C)です。本ツールに ΔH=178、ΔS=160 を入れて温度をスイープすると、830°C 付近で ΔG が 0 をクロスする様子が見えます。実際の石灰焼成炉はこの温度を超える必要があり、燃料コストと反応速度の両面から最適温度(900〜1100°C)が決まります。

水素燃焼(H₂ + ½O₂ → H₂O):燃料電池・水素エンジンの基本反応で、ΔH ≈ −286 kJ/mol(強発熱)、ΔS ≈ −163 J/(mol·K)(気体→液体水で減少)の (3) 型。低温で自発、高温では ΔG が小さくなりますが、25°C で ΔG ≈ −237 kJ/mol と非常に大きく負なので K も 10⁴¹ オーダーと事実上完全に進みます。本ツールに ΔH=−286、ΔS=−163 を入れると、25°C での ΔG が ≈ −237 kJ/mol となり、燃料電池の理論最大効率(η = ΔG/ΔH ≈ 83%)の根拠が見えます。

アンモニア合成(N₂ + 3H₂ → 2NH₃、Haber-Bosch 法):世界の食糧生産を支える化学工業の柱。ΔH ≈ −92 kJ/mol(発熱)、ΔS ≈ −198 J/(mol·K)(気体分子数 4→2 で大きく減少)の (3) 型。低温で熱力学的に有利だが反応速度が遅いため、実プロセスは 400〜500°C、200 atm で運転され「Le Chatelier の妥協点」を取ります。本ツールに ΔH=−92、ΔS=−198 を入れて温度を上げると、400°C で ΔG が正に転じる様子(平衡が左に偏る)が確認でき、なぜ高圧が必要かが理解できます。

蛋白質フォールディング・薬剤結合:生化学・創薬研究では ΔG = ΔH − TΔS の分解(等温滴定カロリメトリ ITC)が結合機構の指紋になります。エンタルピー駆動(強い水素結合・静電相互作用、ΔH が大きく負)か、エントロピー駆動(疎水相互作用による水分子の解放、ΔS が大きく正)かを区別することで、創薬リード化合物の最適化方針が決まります。本ツールで ΔH と ΔS の符号と大きさを変えながら、結合の「熱力学的な指紋」を可視化できます。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解が、「ΔG が負なら反応は速く進む」というものです。ΔG は熱力学的な「進行できるかどうか」しか教えてくれず、「どれくらいの速さで進むか」は速度論(活性化エネルギー Ea、Arrhenius 式 k = A exp(−Ea/RT))の領域です。例えばダイヤモンドから黒鉛への変換は ΔG ≈ −3 kJ/mol で熱力学的には自発ですが、地質学的時間でも事実上進みません(活性化エネルギーが非常に大きいため)。本ツールの「自発」表示は「進む方向」を示すのみで、「速さ」とは別物であることに注意してください。

次に多いのが、「ΔG° と ΔG は同じ」という混同です。ΔG° は標準状態(全成分が 1 mol/L または 1 bar)での値で、平衡定数 K = exp(−ΔG°/RT) との関係に使われます。実際の反応条件での ΔG は ΔG = ΔG° + RT ln Q(Q は反応商)で、反応が進むにつれて Q が K に近づき ΔG → 0 になります。本ツールは ΔG° を計算しますが、現場では非標準状態を考慮するため Q を別途評価する必要があります。

最後に、「ΔH と ΔS は温度依存しない」という仮定の限界です。本ツールは ΔH、ΔS を温度によらず一定と仮定する(van't Hoff の基本近似)が、厳密には ΔH(T) = ΔH(T_ref) + ∫ΔCp dT、ΔS(T) = ΔS(T_ref) + ∫(ΔCp/T) dT で熱容量 ΔCp の積分項が効きます。温度範囲が広い(500°C 以上)場合や精密な相転移温度の予測には、Kirchhoff の法則と熱容量データの引用が必要です。本ツールは ΔH、ΔS が温度によらず一定と仮定した教育用近似であり、精密な工学設計には NIST-JANAF 表や HSC Chemistry などの精密データベースを参照してください。