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加工技術

レーザー切断速度の見積もりシミュレーター

板金加工のレーザー切断で「この出力・この板厚なら何 m/min で切れるか?」を、エネルギーバランス式から即座に見積もるツールです。出力・板厚・結合効率を動かすと、切断速度と1mあたりの所要時間がリアルタイムで更新され、加工条件の当たりづけや見積もりに使えます。

パラメータ設定
レーザー出力 P
kW
ファイバー1〜6kW、高出力で10kW級が一般的
材料厚さ t
mm
材料密度 ρ
kg/m³
鋼7850、アルミ2700、SUS304 8000、銅8960
溶融エンタルピー H_m
kJ/kg
室温から溶融まで必要な比エネルギー
カーフ幅 w
mm
ファイバー薄板 0.1〜0.2、厚板 0.3〜0.4
結合効率 ε
酸素+鋼 0.25-0.40、窒素+SUS 0.05-0.15
計算結果
有効パワー (W)
質量除去率 (kg/s)
体積除去率 (mm³/s)
切断速度 (mm/s)
切断速度 (m/min)
1mあたり切断時間 (s)
レーザー切断の俯瞰アニメーション

レーザーヘッドが鋼板の上をスキャンし、ビーム直下でメルトプールが生まれ、アシストガスがカーフから溶融金属を吹き飛ばします。ヘッド速度は計算した切断速度に比例します。

切断速度 vs 材料厚さ t(1/t 曲線)
切断速度 vs レーザー出力 P(線形)
理論・主要公式

$$v_{cut} = \frac{\varepsilon \, P}{\rho \, H_m \, w \, t}$$

レーザー切断速度のエネルギーバランス式。P:レーザー出力 [W]、ε:結合効率(吸収+有効利用の比、0〜1)、ρ:材料密度 [kg/m³]、H_m:溶融エンタルピー [J/kg]、w:カーフ幅 [m]、t:板厚 [m]、v_cut:切断速度 [m/s]。

$$\dot{m} = \frac{\varepsilon\,P}{H_m}, \qquad \dot{V} = \frac{\dot{m}}{\rho}, \qquad v_{cut} = \frac{\dot{V}}{w\,t}$$

質量除去率 ṁ → 体積除去率 V̇ → 速度。ε は光学吸収・熱伝導損失・アシストガス吹き飛ばし効率の総合補正項で、ファイバーレーザー+鋼で 0.15〜0.40 が代表値です。

レーザー切断速度の見積もり

🙋
レーザー加工って「鉄をパッと切れる」イメージなんですけど、何 m/min くらいで切れるんですか?単純にレーザー出力が大きいほど速い?
🎓
いい質問。たとえば 4kW ファイバーレーザーで 5mm 軟鋼を切ると、現場値で 4〜6 m/min くらいだ。デフォルト値(P=4kW、t=5mm、ε=0.30、酸素アシスト相当)で右上の「切断速度」を見てごらん。だいたい 11 m/min と出るはずだ。これは「100% うまく溶かして吹き飛ばせたら」の理論上限で、実機はアシストガスの非定常性・エッジ品質要求・スパッタ抑制で半分くらいに落ちる。だから 5〜6 m/min が実用解、というのが感覚と合うんだ。
🙋
なるほど!じゃあ右の「結合効率 ε」って何なんですか?0.30 って中途半端な数字に見えるんですけど。
🎓
これがレーザー切断の急所。ε は「投入したレーザー出力のうち、実際に材料を溶かすのに使えた割合」だ。残りは鋼板表面で反射、カーフ壁面への熱伝導、プルームによる吸収、溶融金属のオーバーヒート(蒸発)に逃げる。ファイバーは波長 1µm 付近で鋼の吸収率が高いから ε≈0.3、CO₂ は波長 10.6µm で鋼への吸収が弱く ε≈0.1〜0.15 にとどまる。さらに酸素アシストだと Fe + 1/2 O₂ → FeO の燃焼熱が加算されるから ε が実質 0.4 まで上がる。窒素+ステンレスは燃焼熱なしなので ε≈0.10 まで下がる。だからガス種でツールの ε を変えるのが正しい使い方なんだ。
🙋
じゃあ板厚を倍にしたら速度は半分ってこと?式に t が分母にあるから…。
🎓
そう、その通り。下の「切断速度 vs 板厚」グラフを見ると、t を 5→10mm にすると速度が半分、5→2.5mm にすると倍になる、見事な 1/t 曲線になる。実は実機の切断速度カタログもおおむねこのトレンドに従う。ただし注意点が一つ。板厚 15mm を超えると、カーフ壁面への熱伝導損失が無視できなくなって、ε が実質的に小さくなる。だからこのツールでも厚板領域では「実機より楽観的な見積もり」になる傾向がある。15mm を超える厚物は、メーカーの切断条件表で確認するのが鉄則だよ。
🙋
最後にもう一つ。1mあたり切断時間ってどう使うんですか?
🎓
見積もりに直結する数字だね。たとえばパーツの切断パス長が合計 12m あれば、1mあたり 5.2秒 × 12 = 約62秒で「正味切断時間」が出る。これに位置決め・パージ・ピアシング(穴あけ)時間を加えれば1パーツのサイクル時間になる。製造原価を 1秒あたりのレートで掛ければ加工費の概算が出るから、ロット見積もりの最初のステップで使うんだ。「切断速度 m/min」と「1mあたり秒」は同じ情報の裏表だけど、生産技術の現場では後者の方が話が早い、という違いがあるよ。

よくある質問

もっとも簡便なのはエネルギーバランス式 v_cut = ε·P / (ρ·H_m·w·t) です。P はレーザー出力、ε は結合効率(吸収+有効利用の比)、ρ は材料密度、H_m は溶融エンタルピー、w はカーフ幅、t は板厚です。物理的な意味は「単位時間あたりに溶かしてアシストガスで吹き飛ばせる体積を、カーフ断面で割れば前進速度になる」ということ。詳細な CFD・熱伝導モデルの前段として、加工条件の当たりづけに広く使われます。
代表値はファイバーレーザー+酸素アシストで軟鋼を切る場合に ε≈0.25〜0.40(酸素の燃焼熱が加算されるため高め)、窒素アシストでステンレスを切る場合に ε≈0.05〜0.15、薄板+圧縮空気で ε≈0.15〜0.25 です。CO₂レーザーは光学吸収が低いため鋼材では ε≈0.10〜0.20 にとどまります。実機データがある場合は、その条件で逆算した ε を使うのが最も精度の高い方法です。
もっとも効くのは出力 P(v に比例)と板厚 t(v に反比例)です。例えば 4kW から 6kW に増やすと速度は1.5倍、板厚を5mmから3mmに減らすと約1.67倍。次にカーフ幅 w を絞ること(高品質光学・短焦点距離レンズ)で 1.3〜2 倍が狙えます。結合効率 ε はガス種・焦点位置・ノズル設計の最適化で改善しますが、改善幅は1.2〜1.5倍が現実的な上限です。
ε を実測で校正すれば、薄〜中板(≤10mm)で実測値と±20% 程度には合うことが多いです。厚板になるほどカーフ壁面への熱伝導損失、溶融金属の二次的な再凝固、アシストガスの粘性損失が支配的になり、単純なエネルギーバランスでは合いません。15〜25mm 以上の厚板を真剣に評価する場合は、メーカー切断条件表または CFD連成解析を使ってください。本ツールは加工条件初期検討用の一次推定に位置付けてください。

実世界での応用

板金加工・薄板量産:家電筐体、サーバーラック、ロッカー、自販機の側板など、1〜3mm の薄板鋼板や SUS の量産で、レーザー切断は打抜き・タレットパンチに代わる主力工法です。1部品あたりの切断パス長と本ツールで出した 1m あたり秒を掛けると、見積もりに直結する正味加工時間が即座に得られます。設備能力(kW級)の選定でも、目標サイクルタイムから逆算して必要出力を決めるのに使えます。

建機・産業機械の中厚板:建設機械のブームやアーム、鉄道車両のフレーム、産業機械のベースプレートには 6〜20mm の中厚板が使われます。この領域では酸素アシスト+ファイバーが主役で、ε≈0.30〜0.40 を入れると実機速度と良く合います。厚さ別の切断速度カーブを引いて、板厚ごとの最適出力を選定する初期検討に使えます。

ステンレス・アルミの精密加工:食品・医療機器のステンレス筐体、航空機部品のアルミ、リチウム電池のタブ材など、酸化させたくない用途は窒素アシストで切ります。ε が 0.05〜0.15 と低く、軟鋼比で速度が 1/3 程度になる感覚はこのツールでも再現できます。窒素消費量と切断速度のトレードオフを見ながら、ガス代込みの加工原価を概算するのに使います。

加工条件最適化の事前検討:新材料・新厚さの試切前に、本ツールで「だいたい何 m/min から試せばよいか」のスタート値を出します。試切1回目を理論値の80%、2回目を最適値探索、というように DOE(実験計画)を進めると、試材消費を最小化できます。条件最適化後は実測 v_cut から ε を逆算して、社内の条件表に記録しておくと次回以降の精度が上がります。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「カタログ ε の使い回し」です。教科書に「酸素アシストで ε=0.4」と書いてあっても、実機ではノズル形状、焦点位置、レンズ汚れ、板表面の酸化・防錆油の有無で ε は容易に半分になります。1台の加工機で1材料1ガスごとに、実測値から逆算した ε を持っておくべきです。理論値をそのまま信じて「カタログ通り出ない」と悩むより、自社条件で校正した ε で再計算するほうが圧倒的に精度が出ます。

次に、「アシストガスの圧力・流量を無視した推定」。エネルギーバランス式はレーザーが溶かす速度だけを扱い、「溶けた金属を吹き飛ばす速度」を考慮しません。実際にはアシストガスのジェット運動量がメルトプールを排出できなければ、いくらレーザー出力が大きくても切断速度は頭打ちになります。厚板で速度を上げると、底面に再凝固したドロスがびっしり付いて切断品質が崩壊する——これがガス不足のサインです。出力アップと同時にノズル径・ガス圧の見直しが必要です。

最後に、「速度だけを最適化してエッジ品質を落とす」こと。理論最大速度の80%付近では、メルトプールが進行方向に十分排出されきらないため、切断面に縞模様(カーフライン)や粗さが発生します。精密部品では理論最大の50〜70% に意図的に落とし、エッジ品質を確保するのが定石です。本ツールが出す速度はあくまで「物理的な上限」であり、量産で使う「品質を満たす速度」はその7割前後である、という前提で読んでください。

使い方ガイド

  1. レーザー出力(W)を入力します。例えばCO2レーザー1500W、ファイバーレーザー2000Wなどの機種仕様値を設定してください
  2. 加工対象材料の板厚(mm)を入力します。軟鋼0.5~3mm、ステンレス鋼1~5mm、アルミニウム0.8~4mmの範囲が一般的です
  3. 材料密度(kg/m³)と融解潜熱(J/kg)を確認します。軟鋼は密度7850kg/m³・融解潜熱260kJ/kg、アルミニウムは密度2700kg/m³・融解潜熱390kJ/kgです
  4. シミュレーション実行すると、質量除去率と体積除去率から切断速度(m/min)と1mあたりの加工時間が算出されます

具体的な計算例

CO2レーザー1500W出力で軟鋼板厚2.0mmを切断する場合:有効パワー1200W(光学効率80%)、材料密度7850kg/m³、融解潜熱260kJ/kgを入力すると、質量除去率0.00923kg/s、体積除去率3450mm³/sが算出されます。この条件では切断速度が1725mm/s(103.5m/min)となり、1mの切断には約0.58秒を要します。ステンレス鋼SUS304同板厚では熱伝導率が低いため同一出力で150m/minまで加速可能です

実務での注意点