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溶接工学

炭素当量と溶接性(CE_IIW・Pcm)シミュレーター

鋼材の化学成分(C・Mn・Cr+Mo+V・Ni+Cu・Si)から、国際標準の炭素当量 CE_IIW と低炭素鋼向けの割れ感受性指数 Pcm を計算し、推奨予熱温度と低温割れリスクをリアルタイムで判定します。溶接施工要領書(WPS)の入力チェックや、鋼材選定時の溶接性検討に使えます。

パラメータ設定
炭素 %C
%
最も強力な硬化元素。CE への寄与が最大
マンガン %Mn
%
強度と焼入性を高める主要合金元素
%Cr + %Mo + %V
%
高張力鋼・耐熱鋼に多い焼入性元素群
%Ni + %Cu
%
靭性向上・耐候性。寄与は弱め(1/15)
ケイ素 %Si
%
脱酸元素。Pcm にのみ寄与(CE_IIW には含めない)
計算結果
炭素当量 CE_IIW
溶接割れ指数 Pcm
炭素の CE 寄与率 (%)
溶接性の評価
推奨予熱温度 (°C)
低温割れリスク
CE_IIW 寄与の積み上げと閾値

各合金グループ(C/Mn/6/(Cr+Mo+V)/5/(Ni+Cu)/15)の積み上げ棒で CE_IIW を構成し、0.40 / 0.50 / 0.60 の3閾値(緑・橙・赤)と現在値・Pcm を重ねて表示します。

各元素の CE 寄与
CE_IIW vs 炭素含量 %C
理論・主要公式

$$CE_{IIW}=C+\tfrac{Mn}{6}+\tfrac{Cr+Mo+V}{5}+\tfrac{Ni+Cu}{15},\quad Pcm=C+\tfrac{Si}{30}+\tfrac{Mn}{20}+\tfrac{Cr+Mo+V}{20}+\tfrac{Ni+Cu}{60}$$

国際溶接学会 IIW の炭素当量 CE_IIW と、伊藤・別所の溶接割れ感受性指数 Pcm。いずれも質量百分率(%)の合成値で、無次元の「実効炭素」を表します。経験則として CE_IIW > 0.50 は予熱必須、Pcm > 0.30 は深刻な低温割れリスクの目安です。

炭素当量と溶接性

🙋
鋼材のミルシートに「CE = 0.42」とか書いてあるんですけど、これって何なんですか?数字が大きいと何が困るんでしょう?
🎓
いい質問だ。CE は「炭素当量(Carbon Equivalent)」の略で、鋼を溶接したときの「割れやすさ」を一つの数字に丸めたものなんだ。鋼を溶接すると、ビードのすぐ脇の HAZ(熱影響部)が一瞬で 1300℃ 以上まで加熱されて、そのあと数秒で常温に戻る。この急冷でマルテンサイトという硬くて脆い組織ができると、水素と引張残留応力が組み合わさって、溶接後ほったらかしの数時間〜数日のうちに「水素誘起割れ(低温割れ)」が起きる。これが一番怖い欠陥なんだよ。
🙋
数日経ってから割れるんですか…?それは検査しても見つけられないですよね。なんで炭素の量だけで判断するんですか?
🎓
そう、組み立て直後はピカピカでも、お客さんの現場で割れたという事故が昔から多くてね。割れやすさを決めるのは「焼入性(hardenability)」、つまり急冷でどれだけ硬くなるかで、これは炭素が圧倒的に効くんだ。ただし Mn・Cr・Mo・V・Ni・Cu なんかも程度の差はあるけど焼入性を上げる方向に働く。そこで「炭素以外の元素も、効き目に応じて炭素に換算してから足し合わせよう」というのが炭素当量の発想だよ。一番有名なのが IIW(国際溶接学会)の式で、CE_IIW = C + Mn/6 + (Cr+Mo+V)/5 + (Ni+Cu)/15。Mn は炭素の1/6、Cr+Mo+V は1/5、Ni+Cu は1/15 ぶんしか効かない、というイメージだね。
🙋
なるほど、係数が「効き目」なんですね。じゃあ CE_IIW の値で予熱が要るか要らないかが分かるってことですか?
🎓
そう、ざっくり言うとこんな感じだ。CE_IIW < 0.40 なら無処理で普通に溶接できる。0.40〜0.50 ならちょっと注意して、低水素系の溶接棒を使うとかゆっくり冷ます工夫が要る。0.50〜0.60 で予熱必須で、母材を 100〜200℃ に温めてから溶接する。0.60 を超えると、予熱 200〜300℃ + 低水素溶接棒 + 場合によっては溶接後熱処理(PWHT)まで揃えないと安全じゃない。橋梁、圧力容器、造船、原子力配管──溶接施工要領書(WPS)の世界では、まずミルシートで CE を読んで、それから施工条件を決めるのが鉄則なんだ。
🙋
じゃあ Pcm っていうのは何ですか?このシミュレーターでも一緒に出てきますけど。
🎓
Pcm は「割れ感受性指数(Cracking Parameter for Material)」で、日本の伊藤・別所が低炭素高張力鋼(HT780 とか)向けに作った式だよ。Pcm = C + Si/30 + Mn/20 + (Cr+Mo+V)/20 + (Ni+Cu)/60 で、係数が CE_IIW より小さい。炭素が 0.10〜0.16% くらいの低炭素鋼では CE_IIW が鈍感になりすぎるので、Pcm のほうが低温割れの実態をよく捉える。Pcm > 0.30 なら深刻な割れリスクと判定する。一般的には「一般構造用なら CE_IIW、高張力鋼なら Pcm」と使い分けるイメージだね。両方が緑なら安心、片方でも赤ならその溶接施工は要注意ということだ。
🙋
なるほど!じゃあ低温割れを防ぐには、予熱以外にどんな手があるんですか?
🎓
低温割れには「マルテンサイト硬化」「拡散性水素」「引張残留応力」の3条件が必要だから、どれか一つを切れば防げる。予熱と直後熱(Post-Heat)で冷却速度を遅くするのが一番王道。次に、低水素系溶接棒(吸湿管理した E7016 とか E7018)で水素源を断つ。あとは入熱量を上げて冷却を遅くする、開先角度や拘束度を下げて残留応力を抑える、というのもセオリーだ。逆にいうと、予熱だけしっかりやっても、雨に濡れた溶接棒を使ったら一発で割れる。CE_IIW と Pcm は「どこまで対策が要るか」の物差しで、対策の組み合わせは現場の知恵で決めるんだよ。

よくある質問

国際溶接学会 IIW の式では CE_IIW = C + Mn/6 + (Cr+Mo+V)/5 + (Ni+Cu)/15 で計算します。C はそのまま、Mn は1/6、Cr+Mo+V は1/5、Ni+Cu は1/15 の重みで合算した「実効炭素」が CE_IIW です。経験則として CE_IIW < 0.40% なら無処理で溶接可能、0.40〜0.50% は注意、0.50〜0.60% は予熱(100〜200℃)必須、0.60% 超では強い予熱と低水素溶接棒・PWHT が要求されます。
CE_IIW は炭素 0.18% 以上の一般構造用炭素鋼・低合金鋼に適し、HAZ の硬化度合いから予熱温度を判定する目的に使います。Pcm(Ito-Bessyo の割れ感受性指数)は炭素 0.16% 以下の低炭素高張力鋼向けに考案された式で、Si の寄与を含み、低温割れの発生確率をより鋭敏に評価できます。Pcm > 0.30% は高い低温割れリスクの目安で、HT780 などの高張力鋼の溶接施工で広く使われます。
低温割れ(水素誘起割れ)は、(1) HAZ のマルテンサイト硬化、(2) 拡散性水素、(3) 引張残留応力の3条件が揃ったときに溶接後数時間〜数日で発生します。母材を 100〜200℃ に予熱すると、溶接後の冷却速度が緩やかになり、HAZ のマルテンサイト生成が抑えられて硬さが下がります。同時に高温保持時間が延びて拡散性水素が大気中へ抜けやすくなります。結果として3条件のうち2つを同時に緩和でき、割れの発生確率が劇的に下がります。
JIS や EN 規格に準拠した鋼材のミルシート(鋼材検査証明書、Mill Test Certificate)には、化学成分の表の右側または下段に CE / CEV / CET / Pcm などの欄が設けられています。例えば SM490A や SM570 のような溶接構造用鋼は規格上 CE の上限値が定められており、購入仕様でも CE 値を指定することが一般的です。溶接施工要領書(WPS)の作成時には、必ずミルシートの実測 CE 値を読み、適切な予熱温度・溶接棒・入熱量を決めてください。

実世界での応用

橋梁・鉄骨構造の溶接:SM400・SM490・SM570 などの溶接構造用鋼は、JIS G 3106 で CE_IIW の上限が規定されています。橋梁の主桁や鉄塔の主柱では、現場溶接の入熱量と予熱温度をミルシートの CE 値から決定します。CE が 0.44% を超える鋼板では、JASS 6 などの施工基準で予熱 50〜100℃ が要求され、寒冷地での冬季溶接ではさらに厳しい温度管理が必要です。

圧力容器・配管の建設:火力・原子力プラントの圧力容器(SA516, SA537)や、石油精製・化学プラントの高温配管(Cr-Mo 鋼の SA335 P22, P91)では、CE_IIW と Pcm の両方を参照して予熱・パス間温度・PWHT を決めます。特に2.25Cr-1Mo(P22)や9Cr-1Mo-V(P91)のような Cr+Mo+V が高い鋼種は CE が 0.7〜0.9 に達し、強い予熱(150〜250℃)と長時間の PWHT(700〜760℃ × 数時間)が必須です。

造船・海洋構造物:船級規定(NK・LR・ABS など)では、TMCP 高張力鋼(YP47 級など)に対して Pcm の上限値が設けられています。低温割れは溶接後すぐには発見できず、外洋で運航中に板厚方向の亀裂として表面化することがあるため、造船所では Pcm 0.20〜0.24% を目安に管理し、入熱・冷却制御を徹底します。

高張力ボルト・建機ブームの製造:SCM440・S45C のような高炭素・高合金鋼を溶接するときは、CE_IIW が 0.6〜0.8 に達することが多く、予熱なしで溶接すると HAZ がほぼ確実に水素割れを起こします。建機メーカーや車軸メーカーは、CE 値から予熱炉の温度・保持時間を決め、溶接後の徐冷シートで冷却速度を制御するなど、製造ライン全体で CE を起点にした標準を組んでいます。

よくある誤解と注意点

まず多いのが、「CE が許容値内だから予熱しなくていい」という思い込みです。CE_IIW は「マルテンサイト硬化のしやすさ」を表すだけで、低温割れの3条件のうち1つを示すにすぎません。低水素溶接棒を吸湿管理せずに使ったり、板厚が厚くて冷却速度が予想以上に速かったり、拘束度が高くて残留応力が大きい構造だったりすると、CE が低くても割れます。実務では CE に加えて板厚・継手形状・水素量・拘束条件を見て、Yurioka の冷却時間 t8/5 計算や水素割れ感受性式(CET, Pw)も併用するのが正攻法です。

次に、「炭素当量の式はどれを使っても同じ」という誤解。CE_IIW のほかに、AWS の CE、Yurioka の CEN、ドイツ DIN の CET、Pcm など、用途・鋼種・炭素含量によって複数の式が併用されています。低炭素高張力鋼に CE_IIW を当てはめると「OK」と判定されるのに、Pcm では「危険」と出るケースは珍しくありません。鋼材規格・施工規定・船級規則のどれに従うのかを最初に確認し、規定された式を使うことが鉄則です。本ツールは IIW と Pcm の2式を併記しますが、実務では適用規格に従ってください。

最後に、「CE 値は化学成分から計算すれば十分」と思いがちですが、実際の低温割れ感受性はミクロ偏析・介在物・板厚(質量効果)・前歴熱処理にも左右されます。同じ CE の鋼板でも、連鋳ままと焼ならし済みでは HAZ 硬さが大きく違うことがあります。重要構造物では CE 計算で予熱条件を決めた後、必ず実材を使った溶接施工試験(PQR)と硬さ測定(HV350 以下が目安)、可能なら y 形溶接割れ試験(JIS Z 3158)で施工要領を確定してください。計算は出発点であって、ゴールではありません。

使い方ガイド

  1. 鋼材の化学成分を質量パーセント (%) で入力します。炭素 (C)、マンガン (Mn)、クロム+モリブデン+バナジウム (Cr+Mo+V)、ニッケル+銅 (Ni+Cu)、珪素 (Si) の5項目を数値またはスライダーで設定してください
  2. 計算ボタンをクリックすると、IIW式 CE_IIW および Pcm 溶接割れ指数が自動算出されます。CE_IIW = C + (Mn/6) + (Cr+Mo+V)/5 + (Ni+Cu)/15、Pcm = C + (Si/30) + (Mn/20) + (Cu/20) + (Ni/60) + (Mo/10) + (V/10) + (Cr/20) - 0.01×Si×Mn の公式を適用
  3. 出力される溶接性評価 (優秀・良好・注意・危険) と推奨予熱温度、低温割れリスク判定から、実際の溶接施工条件 (予熱、入熱、層間温度) を決定します

具体的な計算例

高張力鋼 HT590 (C=0.15%, Mn=1.40%, Cr+Mo+V=0.30%, Ni+Cu=0.05%, Si=0.25%) の場合、CE_IIW = 0.15 + 0.233 + 0.060 + 0.003 = 0.446、Pcm = 0.15 + 0.008 + 0.070 + 0.003 + 0.001 + 0.030 + 0.013 + 0.015 - 0.001 = 0.289 となり、溶接性は「良好」で予熱温度 50~100°C、低温割れリスク「中程度」と判定されます。建築用 SN490B 相当では、通常の電気溶接で十分対応可能です

実務での注意点