Trombe ウォール パッシブソーラーシミュレーター 戻る
パッシブ建築・太陽熱

Trombe ウォール パッシブソーラーシミュレーター

南向きの厚い蓄熱壁と二重ガラスで太陽の熱をため込み、夜間にゆっくり室内へ放熱する Trombe ウォールの暖房性能を試算します。壁材・壁厚・ガラス・空気層・日射・外気温を変えると、純暖房量と太陽熱貢献率(Solar Fraction)が即座に更新されます。

パラメータ設定
壁面積
壁厚
cm
25〜40 cm で時間遅れ 6〜12 時間が得られる
蓄熱材
密度・比熱・熱伝導率・日射吸収率を自動設定
ガラス
U値(熱貫流率)を自動設定
空気層
mm
壁とガラスの空気層厚(対流ベント効率)
日射
W/m²
外気温
°C
室内設定
°C
ガラス透過率
%
計算結果
壁熱容量 (MJ/K)
日射取得 (kWh/日)
室内供給熱 (W)
ガラス損失 (W)
純暖房 (kWh/日)
太陽熱貢献率 (%)
Trombe ウォール 断面アニメーション

南向きガラスの内側に厚い蓄熱壁。日射が壁を温め、上下のベントで対流(thermosyphon)が起き、夜間は壁から室内へ放熱します。

室温変動 vs 時刻(24h)
蓄熱材別 熱容量比較
理論・主要公式

$$Q_{net} = G \cdot A \cdot \eta \cdot \alpha - U_g A (T_i - T_o),\quad \tau = \frac{\rho c_p V}{hA}$$

G:日射 (W/m²)、η:ガラス透過率、α:壁の日射吸収率、U_g:ガラス熱貫流率 (W/m²K)、τ:壁の時間定数(熱マス/対流熱伝達)。

Trombe ウォール パッシブソーラー暖房 — 蓄熱・対流

🙋
「Trombe ウォール」って初めて聞きました。要するに壁で太陽の熱をためる、ってことですか?
🎓
そう、ざっくり言うと「南向きの分厚いコンクリート壁+外側に二重ガラス」だけのシステムだよ。1957 年にフランスの物理学者 Felix Trombe と建築家 Jacques Michel が発表して、1967 年にピレネー山中の Saint-Félix-de-l'Aude で初めて実用化された。電気もポンプも使わない、純粋なパッシブシステムなんだ。
🙋
電気を使わずに暖房できる仕組みがイメージできなくて…どうやって熱が室内に届くんですか?
🎓
仕組みは2段階。まず日中、ガラスを通った日射が壁の表面を 50〜70°C まで温める。コンクリートは熱容量が大きいから、その熱はゆっくりと壁の内側に伝わる。これが「thermal lag(時間遅れ)」で、本ツールの τ ですね。壁厚 30 cm のコンクリートだとだいたい 6〜12 時間遅れて、ちょうど夜に内側が温かくなる。同時に、壁の上下に開けたベント(小さな穴)から対流(thermosyphon)が起きて、温まった空気が部屋に流れ込むんだ。
🙋
水タンクを選んだら数値が一気に良くなりました。水って蓄熱材として優秀なんですね。
🎓
水の比熱は 4186 J/kg/K でコンクリートの約 5 倍。同じ体積で約 4 倍の蓄熱が可能なんだ。1970 年代の米国 NREL(国立再生可能エネルギー研究所)や Sandia National Lab のテストハウスでは、200 L のドラム缶を壁面に並べた "Water Wall" が試された。ただし水は漏れ・腐食・カビが課題で、商業ベースで普及したのはコンクリートやレンガの方だね。アドベ(土レンガ)も伝統的に強くて、China loess plateau や米 Southwest の Anasazi pueblo では西暦 1000 年頃から同じ原理の sun-tempered design が使われているよ。
🙋
ガラスを単板から複層に変えると損失が半分以下になりました。これって寒冷地ほど効きますよね?
🎓
その通り。Q_loss = U_g · A · ΔT だから、外気温が低い(ΔT が大きい)ほどガラスの U 値が効く。単板(U=5.8)のままだと、北日本や北欧では夜間の放熱が日中の取得を上回って「逆暖房」になる。複層(U=2.8)が現実的なベースラインで、Passivhaus 規格を狙うなら三層 Low-E(U=1.0)にして窓側損失をほぼ排除する。本ツールでこの違いをスライダーで体感してみて。
🙋
CO2 削減量も出ますね。年間 1000 kg 超は結構大きい数字に見えます。
🎓
既定条件(25 m² 壁、コンクリート 30 cm、複層ガラス、外気 0°C)だと純暖房 30.7 kWh/日、年間 5500 kWh で CO2 約 1188 kg 削減になる。これは中型乗用車で 5000〜6000 km 走ったのと同等。Passivhaus、LEED v4.1、JIS の環境設計指針でも Trombe ウォールは評価対象で、Modified Trombe(Sankey Trombe や selective surface 付き)にすれば効率を 30% 上乗せできる。日本では沖縄を除けば多くの地域で有効だよ。

よくある質問

Trombe ウォールは 1957 年に Felix Trombe と Jacques Michel が提案した壁式蓄熱型パッシブソーラー暖房システムです。南向き(北半球)の外壁にコンクリート・レンガ・アドベ・水タンクなどの大きな熱マスを置き、その外側に二重ガラスを設けて太陽放射を捕捉します。日中は壁が日射を蓄え、夜間に thermal lag(時間遅れ)で室内に放熱、上下のベントで対流(thermosyphon)を誘導することで暖房負荷の 30〜60% をカバーします。
もっとも一般的なのはコンクリート(ρ=2300 kg/m³, cp=880 J/kg/K, k=1.7 W/m/K)で、入手性と蓄熱性能のバランスが良好です。アドベ(土)は China loess plateau や米 Southwest pueblo で千年以上使われた伝統素材で、cp が大きく軽量です。水タンクは比熱 cp=4186 J/kg/K と非常に大きく、同体積で約 4 倍の蓄熱量が得られ、Sankey Trombe 改良型などで使われます。レンガは中間的な性能と熱貫流バランスを持ちます。
壁厚 25〜40 cm の範囲で、時間遅れ(thermal lag)が 6〜12 時間程度となり、日中の蓄熱を夜間の暖房に変換するのに最適です。壁が薄すぎると日中に過熱して夜間の蓄熱が残らず、厚すぎると逆に熱が室内に届きません。コンクリート 30 cm が標準的な設計値で、本ツールの既定値もこれに合わせています。
Trombe ウォールでは日射取得とガラス損失のバランスが重要です。単板ガラス(U=5.8 W/m²K)は安価ですが夜間損失が大きく、寒冷地では純暖房が逆転する可能性があります。複層ガラス(U=2.8 W/m²K)が現実的な標準で、本ツールの既定値です。三層 Low-E(U=1.0 W/m²K)は Passivhaus などの超高断熱住宅向けで、夜間損失をほぼ排除できますが透過率がやや低下します。

実世界での応用

戸建住宅の暖房補助:南向き 20〜40 m² の Trombe ウォールを設置することで、寒冷地(外気 0°C 程度)でも 1000〜2000 W 程度の室内供給熱が得られ、典型的な高断熱住宅の暖房負荷の 30〜60% をカバーできます。本ツールで自宅の南面壁面積と外気温を入れると、ヒートポンプ電力の削減量と CO2 削減効果を試算できます。

Passivhaus・LEED 認証住宅:欧米の Passivhaus 規格や米国 LEED v4.1 では Trombe ウォールがエネルギー削減の有力手段として評価対象になっています。三層 Low-E ガラス+セレクティブ表面(low-e coating)の壁を組み合わせると、夜間損失をほぼゼロにできるため、超高断熱住宅と相性が良好です。

伝統建築への現代的応用:China loess plateau の窰洞(やおどん)や米 Southwest の Anasazi pueblo(西暦 1000 年頃)は、Trombe の名前が付く前から同じ「南向き厚い土壁+日射取得」原理を使ってきました。現代のアドベ住宅(米ニューメキシコ州、メキシコ)では本ツールのような解析で伝統素材の性能を定量化し、近代設備と組み合わせる動きがあります。

研究施設・農業用温室:米 NREL、PNNL、Sandia National Lab は 1970〜1990 年代に Trombe ウォールの広範な実測研究を行い、Solar Air Heater(Sankey Trombe)など多くの改良型を生み出しました。農業用温室では夜間の保温源として水タンク式 Trombe ウォールが普及しており、燃料費を 40〜70% 削減できます。

よくある誤解と注意点

最大の落とし穴は「夏期のオーバーヒート」です。Trombe ウォールは冬に最適化されていますが、夏も同じように日射を捕捉してしまうため、何も対策しないと室内が 35°C 以上になることがあります。実際の設計では、夏季は壁の前に外付けのオーニング(庇)や巻き上げ式シェードを設置し、上下ベントを閉じて対流を止めるか、ベントを建物外に向けてバイパスさせます。日本の関東以南では特に対策が必須で、本ツールの試算は冬期前提なので注意してください。

次に、「壁厚さえ厚くすれば良い」という誤解。壁厚 60 cm のコンクリートでは時間遅れが 24 時間超になり、せっかくの日射が壁内部に閉じ込められて室内に届きません。最適厚は 25〜40 cm で、これを超えると性能が頭打ち、もしくは低下します。本ツールで壁厚を 60 cm にして純暖房量を確認すると、必ずしも改善しないことが分かります。蓄熱材の熱拡散率 α=k/(ρcp) によって最適厚は変わり、水タンクなら 15〜20 cm でも十分です。

最後に、「太陽熱貢献率 100% を狙わない」こと。Solar Fraction を 80% 以上にしようとすると、過剰な壁面積(建物南面の大半)と巨大な蓄熱量が必要になり、コストと建築自由度が大きく犠牲になります。実務的には Solar Fraction 30〜60% を狙い、残りはヒートポンプや高効率ガスで補うハイブリッド設計がコストパフォーマンス最良です。曇天や寒波の連続日にはバックアップ熱源が必ず必要になります。

使い方ガイド

  1. 蓄熱壁の面積(m²)と厚さ(cm)を入力します。コンクリート壁を想定し、通常は厚さ20~30cmで設計します。
  2. ガラス面とコンクリート壁間の空気層厚さ(mm)を設定します。自然対流による熱伝達効率が変わるため、50~100mmの範囲で検討してください。
  3. 設置地点の日射量(W/m²)を入力し、シミュレーション実行ボタンを押すと、壁熱容量・日射取得量・室内供給熱・ガラス放射損失・純暖房エネルギー・太陽熱貢献率が即座に算出されます。

具体的な計算例

南向きコンクリート蓄熱壁(密度2400kg/m³、比熱0.92kJ/kg・K、厚さ25cm、面積10m²、空気層80mm)に、冬至時の平均日射量600W/m²が12時間入射する場合:壁熱容量は5.5MJ/Kとなり、日射取得は72kWh/日に達します。ガラス面の放射率0.1と想定したとき、ガラス損失は約180W、室内供給熱は約450W、24時間の純暖房エネルギーは約10.8kWh/日、太陽熱貢献率は約65%と評価されます。

実務での注意点