パラメータ設定
M_2 を掃引
リセット
完全気体・等エントロピー・1次元を仮定しています。M_1 ≥ 1 かつ M_2 ≥ M_1 のとき物理的な膨張になります。
膨張ファンの模式図
壁面の凸角から扇状にマッハ線が広がります。流れは上流(青・低マッハ)から下流(赤紫・高マッハ)へ加速され θ だけ偏向します。
プラントル・マイヤー関数 ν(M)
横軸=マッハ数 M、縦軸=ν(M) [°]。黄色マーカーは現在の M_1 と M_2、矢印が θ = ν_2 − ν_1 を示します。
理論・主要公式
プラントル・マイヤー膨張は、超音速流れが凸角を回るときに生じる、無数のマッハ線が連続的に並ぶ等エントロピーな膨張過程です。M ≥ 1 で定義されるプラントル・マイヤー関数:
$$\nu(M) = \sqrt{\frac{\gamma+1}{\gamma-1}}\,\arctan\!\sqrt{\frac{\gamma-1}{\gamma+1}(M^2-1)} - \arctan\!\sqrt{M^2-1}$$
流れの偏向角 θ は ν の差として表されます:
$$\theta = \nu(M_2) - \nu(M_1)$$
膨張は等エントロピーなので、上流・下流の静温・静圧比は等エントロピー流の関係式から:
$$\frac{T_2}{T_1} = \frac{1 + \tfrac{\gamma-1}{2}M_1^2}{1 + \tfrac{\gamma-1}{2}M_2^2}, \qquad \frac{P_2}{P_1} = \left(\frac{T_2}{T_1}\right)^{\gamma/(\gamma-1)}$$
M_2 \gt M_1 のとき θ \gt 0(膨張・加速)、総圧 P_0 と総温 T_0 は保存されます。γ = 1.4 では ν の上限は M → ∞ で約 130.45°です。
プラントル・マイヤー膨張 シミュレーターとは
🙋
超音速のジェット機が急に外側に折れた角を曲がっていくとき、衝撃波って立つんですか?それとも何か別のことが起きるんですか?
🎓
壁が流れから「離れる」向きに折れる凸角だと、衝撃波じゃなくて膨張ファンが立つんだ。これがプラントル・マイヤー膨張で、無数のマッハ線が扇のように並んで、流れを少しずつ滑らかに加速し、向きを変える。シミュレーターで M_1 = 2.0、M_2 = 2.6 にすると、偏向角 θ が 15.06° と表示されるはずだよ。
🙋
えっ、衝撃波と違って加速するんですか?じゃあ圧力はどうなるんですか?
🎓
そう、加速=マッハ数増加だから、流れにとってはエネルギー的に「楽な」方向。静圧と静温は下がる。さっきの設定だと P_2/P_1 ≈ 0.39 で、上流 100 kPa が下流で 39.2 kPa まで落ちる。重要なのは、これが等エントロピー過程だってこと。衝撃波は不可逆で総圧 P_0 を必ず食うけど、膨張ファンは可逆だから総圧も総温も完全に保存される。これが超音速翼の下面で膨張ファンが「美味しい」と言われる理由なんだ。
🙋
プラントル・マイヤー関数 ν(M) っていう謎の関数が出てきますが、これは何を表してるんですか?
🎓
ν(M) は「マッハ 1 の流れを滑らかに膨張させて、現在の M に到達させるのに必要な、累積の壁折れ角」と思えばいい。だから M_1 = 2.0 の流れは M = 1 から 26.38° 折れた状態、M_2 = 2.6 は 41.44° 折れた状態に相当する。実際の偏向はその差で θ = 41.44 − 26.38 = 15.06°。グラフの黄色の縦矢印が、この差を視覚化してるよ。
🙋
ν(M) って M を増やすとどこまでも上がるんですか?
🎓
いや、上限がある。γ = 1.4 だと M → ∞ で ν → ν_max = (π/2)·(√6 − 1) ≈ 130.45° に漸近する。これは「真空に向かって膨張する流れでも、最大 130.45° までしか曲げられない」という物理的な意味になる。それ以上の凸角を持つ壁では流れが付着できず剥離が起きる。エンジン排気プルームが極端に膨張する時の上限角もこの値で決まるんだ。
よくある質問
M_2 を M_1 より小さくしたら何が起きますか?
θ = ν(M_2) − ν(M_1) なので、M_2 \lt M_1 のときは θ \lt 0 となり、形式的には「圧縮側」の偏向(流れが加速ではなく減速する向き)に対応します。しかし、現実の超音速流れで連続的に減速・加圧する等エントロピー過程は不安定で、有限の偏向では必ず斜め衝撃波(不連続な圧縮)に縮退します。膨張ファンは加速方向(M_2 \gt M_1)にのみ物理的に意味を持つことに注意してください。シミュレーターは θ \lt 0 でも値を表示しますが、これは数式上の出力であり実流場ではありません。
マッハ角 μ と偏向角 θ の違いは何ですか?
マッハ角 μ = arcsin(1/M) は、マッハ数 M の流れに対するマッハ線(微小擾乱の伝播波面)と流れ方向のなす角です。膨張ファン内では先頭マッハ線の傾きが μ_1、末尾マッハ線が μ_2 で、ファンの広がり角はこの差から決まります。一方、偏向角 θ = ν(M_2) − ν(M_1) は流れ自体の方向変化です。したがって μ は「波の傾き」、θ は「流れの曲がり」という、別物の角度です。M_1 = 2 で μ_1 ≈ 30°、M_2 = 2.6 で μ_2 ≈ 22.6° のように、加速すると μ は小さくなり波頭は流れに寝ていきます。
超音速翼で膨張ファンはどこに現れますか?
薄い菱形(ダイヤモンド)翼や対称二重楔翼を AOA = 0 で考えると、上面・下面とも前縁の凹角で斜め衝撃波が立ち、中央の最厚部から後縁にかけての凸角でプラントル・マイヤー膨張ファンが立ちます。AOA を増やすと上面の前縁衝撃波は弱くなり、代わりに前縁から膨張ファンが出るようになります。後縁では再び圧縮波(斜め衝撃波)で外気と整合します。揚力と抗力(造波抗力)の解析は、衝撃波と膨張ファンの組み合わせとして体系化されています。
壁折れ角を ν_max より大きくしたら物理的に何が起きますか?
γ = 1.4 のとき ν_max ≈ 130.45° です。仮に上流が M_1 = 1 で 130.45° の凸角を回ろうとすると、M_2 → ∞、P_2 → 0、T_2 → 0 という非物理的な極限になります。実際にはそれより手前で粘性・実在気体効果(凝縮、解離、振動緩和)が支配的になり、流れは壁から剥離して大規模な再循環域や自由膨張ジェットに移行します。ロケット排気が真空中で 90° 以上に大きく膨張する一方、機械的に有意な推力は減衰していくのも、この上限と関連した現象です。
実世界での応用
超音速・極超音速翼型の設計: 菱形翼や二重楔翼など超音速向け薄翼では、上面の凸面・後縁・コントロールサーフェスの折れ角でプラントル・マイヤー膨張ファンが立ちます。膨張ファンは等エントロピーで総圧損失がないため、揚力に大きく寄与する一方、Ackeret 線形理論を超えた厳密な圧力係数の評価には ν(M) の関係が不可欠です。コンコルドや SR-71 のオージーバル翼、X-43 などの極超音速研究機の翼型設計にも、衝撃波と膨張ファンの組み合わせ解析が使われました。
ノズル排気プルーム(オーバー・アンダー膨張): ロケットや超音速ジェットノズルの出口で、外気圧と排気圧が一致しないとき(オーバー膨張・アンダー膨張)、出口縁から膨張ファンや斜め衝撃波が交互に発生し、ショックダイヤモンド(マッハディスク列)を形成します。アンダー膨張ジェットでは出口で外向きにプラントル・マイヤー膨張が起き、流れは壁外で加速しながら方向を変え、その後反射衝撃波で再収束します。設計圧力比からのずれの影響を予測するには ν(M) の累積角度評価が必要です。
超音速インテーク: 外部圧縮インテークでは入口前方の楔・コーンで斜め衝撃波を立てて減速しますが、亜音速ディフューザーの入口直前ではしばしば膨張ファンが利用され、流れを再加速して衝撃波の足元の境界層剥離を抑えます。SR-71 のスパイク式インテークや、ラムジェット・スクラムジェットの可変ジオメトリインテークの内部流路設計では、膨張ファンと衝撃波の交差点での総圧回復率の最大化が中心課題で、プラントル・マイヤー関係が標準ツールとして使われます。
超音速風洞・自由ジェット試験: 超音速ノズルで M = 2〜5 程度の試験気流を作る際、ノズル出口から試験部に至る自由ジェット境界では膨張ファンと圧縮波が形成されます。理想的な試験条件を維持するため、ノズル設計では「特性曲線法(method of characteristics)」が使われ、各マッハ線の挙動はプラントル・マイヤー関係そのものに基づいて計算されます。試験部の有効領域(ダイヤモンド領域)の大きさも、この膨張ファンと反射波の幾何学から決まります。
よくある誤解と注意点
最も多い誤解は、「膨張ファンも衝撃波と同じく総圧が下がる」と考えてしまう ことです。プラントル・マイヤー膨張は無限に薄いマッハ線が連続的に並ぶ等エントロピー過程なので、エントロピーは厳密に保存され、総圧 P_0 と総温 T_0 はファン前後で完全に同じです。下がるのは静圧 P と静温 T のみ。シミュレーターで P_2/P_1 = 0.39 と表示されますが、これは静圧の話で、総圧損失はゼロです。この性質ゆえに、超音速翼下面で膨張ファンによる「ただの圧力低下」を利用できるのです。
次に多いのが、偏向角 θ とマッハ角 μ を混同する ことです。θ = ν(M_2) − ν(M_1) は流れ自体の向きの変化ですが、μ = arcsin(1/M) は「マッハ波が流れ方向となす角」で別物です。膨張ファンの先頭マッハ線は上流流れに対して μ_1 だけ傾き、末尾マッハ線は下流流れに対して μ_2 だけ傾く、というのが正しい見方です。M = 2 では μ = 30°、M = 2.6 では μ ≈ 22.6° なので、加速にしたがって波頭は流れ方向に寝ていきます。
もう一つ重要なのが、「ν(M) には上限がある」 という事実です。γ = 1.4 では ν_max = (π/2)·(√6 − 1) ≈ 130.45°で、M → ∞ でこの値に漸近します。つまり、有限の超音速気流に対してプラントル・マイヤー膨張で実現できる総偏向角には上限があり、それ以上の凸角の壁面では流れが付着しきれず剥離・自由膨張ジェットに移行します。シミュレーターで M_2 を 8 まで上げてみると ν(8) ≈ 95° 程度、γ を小さくすると ν_max がさらに大きくなる(高温極限に近づく)こともわかります。