溶接条件
固定パラメータ
周囲温度 T₀ = 25 °C
熱伝導率 k = 45 W/(m·K)(鋼)
熱拡散率 α = 1.25×10⁻⁵ m²/s
理論・主要公式
入熱:$$Q = \eta \cdot V \cdot I$$
線入熱:$$q = Q / v$$
冷却時間(厚板):$$t_{8/5}=\frac{q}{2\pi k}\left(\frac{1}{T_5-T_0}-\frac{1}{T_8-T_0}\right)$$
HAZ 幅(簡易):$$w_{HAZ}\approx 0.5\sqrt{\alpha\,t_{8/5}}$$
$V$=電圧 [V], $I$=電流 [A], $v$=溶接速度 [m/s], $\eta$=アーク効率, $k$=熱伝導率, $\alpha$=熱拡散率, $T_8=800^\circ$C, $T_5=500^\circ$C, $T_0$=周囲温度
ローゼンタール解シミュレーターとは
🙋
「ローゼンタール解」って何ですか? 溶接で温度を計算したい時に、いきなりFEMじゃ大変ですよね。
🎓
そう、その通り!ローゼンタール解は、移動する点熱源のまわりに「準定常」な温度場ができるという仮定で、無限大の厚板や薄板で温度分布を閉じた形で解いた古典解析だよ。FEMを回す前に、入熱を 1.5kJ/mm にすると t8/5 はどのくらい? ってサクッと見積るのに便利だ。このシミュレーターでは「電圧」「電流」「速度」「アーク効率」を動かすと、入熱 Q と線入熱 q がリアルタイムで更新されるよ。
🙋
え、そうなんですか!「t8/5」っていう値が出てますが、これは何ですか? なんで 800 と 500 なんだろう。
🎓
炭素鋼や低合金鋼が冷えるとき、800℃から500℃を通過する時間が組織変態(マルテンサイト/ベイナイト/フェライト)を決めるんだ。だから「t8/5」が現場で一番使われる指標になっている。例えば SM490 などでは t8/5 が短すぎるとマルテンサイト主体で硬く脆くなり、長すぎると粗粒化する。本ツールでは厚板のローゼンタール解から $t_{8/5} = q/(2\pi k)\cdot[1/(T_5-T_0)-1/(T_8-T_0)]$ で評価しているよ。
🙋
なるほど!じゃあ溶接速度を上げると、線入熱 q が下がるから t8/5 も下がるんですよね? 「速度スイープ」ボタンで試せますか?
🎓
そう、その通り!速度 v を 50 mm/min から 1000 mm/min までスイープすると、$q=Q/v$ が反比例で減るから、t8/5 と HAZ 幅もキレイに小さくなっていく。逆に低水素鋼で冷却が速すぎる場合は、予熱を入れて T₀ を上げるか、速度を落とす(=q を上げる)のが定番だ。ツールで q が 700 J/mm を割ったら危ない、みたいな初期感覚を体で覚えるのにちょうど良いよ。
物理モデルと主要な数式
溶接アーク熱源の入熱は $Q=\eta V I$、これを進行速度で割った線入熱は $q=Q/v$ です。ローゼンタールの三次元(厚板)解では、点熱源とともに進む座標で準定常解が得られ、特定の温度を通過する時間が線入熱 q に比例する形になります。本ツールでは t8/5 を $t_{8/5}=q/(2\pi k)\cdot[1/(T_5-T_0)-1/(T_8-T_0)]$ で評価し、簡易に HAZ 幅を $w_{HAZ}\approx 0.5\sqrt{\alpha\,t_{8/5}}$ で見積もります(α=k/(ρc) ≈ 1.25×10⁻⁵ m²/s, k=45 W/(m·K), 鋼)。
実世界での応用
低水素系鋼の溶接管理:SM490Y や HT780 などでは t8/5 の管理範囲が母材グレードごとに定められています。本ツールで「電流+速度+アーク効率」を動かして、許容範囲に t8/5 が収まる入熱条件を素早く探せます。
溶接施工要領書(WPS)作成:パス間温度や予熱条件と合わせて、線入熱 q の上下限を WPS に書き込みます。本ツールは入熱の感度を可視化する初期検討に向きます。
HAZ 幅の影響評価:溶接継手の疲労強度や脆性破壊では HAZ 幅と硬さが効きます。q を増減した時の HAZ 幅変化を、本ツールの側面図で直感的に確認できます。
レーザ・電子ビーム溶接:これらの高エネルギー密度プロセスは線熱源(薄板)解に近づきますが、入熱 Q と速度 v の積感度を見る目的なら本ツールの厚板近似でも傾向を掴めます。
よくある誤解と注意点
第一に、ローゼンタール解は「絶対値ではなく傾向値」として使うのが正解です。融池近傍は対流・潜熱を無視しているため温度は過大評価になり、しかし t8/5 のように冷却過程の積分量はそれなりの精度で当たります。本ツールも t8/5 や HAZ 幅は定性的な傾向を読む道具と割り切ってください。
第二に、アーク効率 η はプロセスで大きく変わります。SMAW なら 0.75〜0.85、SAW なら 0.95、GTAW は 0.5〜0.7 と幅があります。本ツールの既定値 η=0.80 は SMAW/GMAW の中庸値ですが、TIG 細目では 0.60 まで落として再計算しないと、線入熱を 20〜30% 過大評価する恐れがあります。
第三に、本ツールは厚板(3D)解を仮定しています。薄板(2D)解では t8/5 が $q^2$ に比例する別式になり、薄板領域では本ツールの予測は安全側に外れます。実機の板厚と入熱から決まる「厚板/薄板」判定(無次元板厚)も別途確認してください。
よくある質問
はい。線入熱 q = Q/v なので、速度 v を上げると q が下がり、ローゼンタールの厚板解では t8/5 が q に比例して短くなります。本ツールで速度スイープを実行すると、t8/5 と HAZ 幅が同時に減るのが確認できます。
本ツールでは T₀ を 25℃ 固定にしていますが、式の (1/(T5−T0)−1/(T8−T0)) は T₀ を上げると大きくなり、t8/5 が長く(冷却がゆっくり)なります。低水素鋼の現場では予熱で硬さを抑える基本がここから来ています。
w_HAZ ≈ 0.5·√(α·t8/5) という拡散長スケールの簡易式です。α は熱拡散率で、鋼の代表値 1.25×10⁻⁵ m²/s を使用。実機では局所組織変態の閾値温度や入熱密度で補正が要りますが、傾向を素早く掴むのに有効です。
アルミの熱伝導率 k と熱拡散率 α は鋼の数倍大きいため、t8/5 は短くなります。本ツールは鋼を想定して k=45 W/(m·K), α=1.25×10⁻⁵ m²/s を固定していますが、別材料での粗評価には係数を別途読み替えてください。