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電気・通信

スペクトラム拡散の処理利得シミュレーター

直接拡散方式(DSSS)の通信リンクを設計するツールです。チップレートとデータレートを変えると、処理利得・占有帯域幅・ジャミングマージンがリアルタイムで分かり、妨害波の下でも通信が成立する条件を探せます。

パラメータ設定
チップレート R_chip
Mcps
拡散符号のチップ速度。占有帯域幅を決める
データレート R_data
kbps
拡散前の情報ビット速度
妨害波電力(信号に対する比)
dB
希望波に対する妨害波の強さ(J/S)
復調に必要な Eb/N0
dB
目標 BER を満たす最小 Eb/N0
システム損失 L_sys
dB
実装損失・符号非理想・同期誤差など
計算結果
処理利得 PG (倍)
処理利得 PG (dB)
拡散率(チップ/ビット)
占有帯域幅 (MHz)
対妨害余裕(ジャミングマージン)(dB)
妨害下での判定
スペクトラム拡散・逆拡散 — 周波数スペクトルの変化

狭帯域のデータ信号がチップ符号で広帯域に拡散され(雑音フロア以下まで低く)、受信側で同じ符号により狭帯域へ逆拡散されます。同時に妨害波は逆拡散で拡散・減衰します。

処理利得 vs チップレート
ジャミングマージン vs データレート
理論・主要公式

$$\text{PG}=\frac{R_{chip}}{R_{data}},\qquad \text{PG}_{dB}=10\log_{10}\text{PG}$$

処理利得 PG は、チップレート R_chip をデータレート R_data で割った比。データ1ビットあたりのチップ数(拡散率)に等しい無次元数で、デシベルでは PG_dB。

$$M_J=\text{PG}_{dB}-\left(\tfrac{E_b}{N_0}\right)_{req}-L_{sys}$$

ジャミングマージン M_J [dB]。希望波より何 dB 強い妨害波まで耐えられるかを表す。必要 Eb/N0 とシステム損失 L_sys を差し引いた残りが余裕となる。

処理利得は本質的に「拡散後の帯域幅」÷「データの帯域幅」という帯域幅の比であり、帯域を広げるほど妨害への耐性が増す。

スペクトラム拡散とは

🙋
「スペクトラム拡散」って、わざと信号を広い帯域にバラまく方式ですよね?せっかくの電波を広げたら、かえって効率が悪くなりそうなんですが…なんでそんなことをするんですか?
🎓
いい質問だね。一見「無駄づかい」に見えるんだけど、これがすごく強い技なんだ。データそのものは狭い帯域でいいんだけど、送信前に、ずっと速い擬似乱数の「チップ符号」を掛け算する。すると信号のエネルギーが広い帯域に薄〜く塗り広げられて、送信波は雑音フロアより低くなることさえある。つまり「あるかどうかも分からない」くらい目立たなくなるんだ。
🙋
え、雑音より低い信号なんて、受信側で拾えるんですか?埋もれて消えちゃいそうですけど。
🎓
そこがミソでね。受信側で「同じチップ符号」をもう一度掛けると、希望波だけが狭い帯域にギュッと戻って、強い1本の線になる。これを逆拡散と呼ぶ。一方、敵の妨害波は送信時にその符号を掛けられていないから、受信側で逆拡散すると逆に広くバラけて弱くなる。つまり同じ操作で、味方は強く・敵は弱く——この非対称性が効くんだ。
🙋
なるほど!その「強くなる比」が処理利得なんですね。左で妨害波電力を上げていくと、判定が赤くなりました。
🎓
そう、処理利得 PG は「拡散後の広い帯域」÷「データの狭い帯域」、つまり R_chip / R_data だ。デフォルトだと 10 Mcps ÷ 100 kbps で 100 倍、デシベルで 20 dB。この 20 dB から、復調に必要な Eb/N0 とシステム損失を引いた残りがジャミングマージン。これが「希望波より何 dB 強い妨害まで耐えられるか」の数字になる。デフォルトでは 11 dB しかないのに妨害波は 20 dB だから、負けてしまうわけだ。
🙋
じゃあ妨害に勝つには、処理利得をもっと上げればいいんですね。チップレートを上げればいいんですか?
🎓
手は2つある。チップレートを上げるか、データレートを下げるか。チップレートを上げると占有帯域幅も広がるから、使える帯域に上限があると頭打ちになる。データレートを下げれば、同じ帯域のまま 1 ビットあたりのチップ数が増えて処理利得が稼げる——ただし当然スループットは落ちる。下のグラフで両方動かしてみると、データレートを下げたときにマージンがぐっと伸びるのが見えるよ。
🙋
この仕組み、実際にはどこで使われているんですか?
🎓
身近なところだと GPS がまさにこれ。衛星からの信号は地表では雑音以下なのに、正しい符号で逆拡散して取り出している。ほかにも携帯の CDMA 方式、初期の WiFi の DSSS モード、そして軍用の対妨害(アンチジャム)通信。さらに、ユーザーごとに直交する符号を割り当てれば、同じ帯域を多人数で共有する「多元接続」もできる。1つのアイデアから妨害耐性・低被傍受性・多元接続が全部出てくる、とても強力な考え方なんだ。

よくある質問

処理利得 PG は、拡散後の広い帯域幅をデータの狭い帯域幅で割った比で、PG = R_chip / R_data で求めます。これはデータ1ビットに何個のチップ(拡散符号)を掛けたかという「拡散率」と等しい無次元数です。デシベルでは PG_dB = 10·log10(PG)。受信側で逆拡散すると、希望波は狭帯域に戻って強くなり、符号の合わない妨害波は逆に拡散されて弱まります。この強弱の比がそのまま PG であり、妨害への強さ(ジャミングマージン)になります。
ジャミングマージン M_J は、処理利得から復調に必要な Eb/N0 とシステム損失を引いた値で、M_J = PG_dB − (Eb/N0)_req − L_sys [dB] です。これは「希望波より何 dB 強い妨害波まで通信が成立するか」を表します。例えば PG_dB=20 dB、必要 Eb/N0=7 dB、システム損失=2 dB なら M_J=11 dB。妨害波が希望波より 11 dB 以下に収まっていればリンクは生き残り、それを超えると通信が切れます。
処理利得 PG = R_chip / R_data なので、チップレートを上げるか、データレートを下げると PG が上がります。チップレートを上げると占有帯域幅(約 2×チップレート)も広がるため、使える帯域に上限があります。データレートを下げると 1 ビットあたりのチップ数が増え、同じ帯域のまま処理利得が稼げますが、当然スループットは落ちます。実務では「割り当て帯域の上限」と「必要なデータレート」の両方を満たす範囲で PG を最大化します。
送信側は狭帯域のデータ信号を高速な擬似乱数チップ符号で掛け算し、エネルギーを広い帯域に薄く広げます。このため信号は雑音に埋もれるほど低くなり、符号を知らない第三者には傍受も解読も困難です(低被傍受性)。受信側は同じ符号でもう一度掛け算して逆拡散し、希望波だけを狭帯域の強い信号に戻します。一方、符号の合わない妨害波は逆拡散でかえって広く拡散され弱まります。この非対称性こそが、スペクトラム拡散が妨害・傍受・マルチパスに強い理由です。

実世界での応用

GPS・衛星測位:GPS 衛星から届く信号は、地表ではアンテナ雑音より弱く、スペクトラムアナライザでは雑音と区別できません。それでも受信機は、衛星ごとに割り当てられた C/A 符号で逆拡散することで、雑音に埋もれた信号を取り出して測位します。処理利得が大きいほど、弱い衛星信号や都市部のマルチパス環境でも測位を維持できます。

CDMA 携帯電話:第3世代携帯(W-CDMA・cdma2000)では、すべてのユーザーが同じ周波数帯を同時に使い、ユーザーごとに直交する拡散符号で区別します。処理利得は他ユーザーの信号を「広く薄い干渉」に変えて平均化し、限られた周波数資源を多人数で共有する多元接続(CDMA)を実現します。

軍用・対妨害通信:敵の妨害(ジャミング)に対し、スペクトラム拡散はジャミングマージンの分だけ耐えます。重要な通信では、直接拡散に周波数ホッピングを組み合わせ、妨害が追従しにくいようにします。本ツールのジャミングマージン計算は、対妨害リンクが「どれだけ強い妨害まで生き残るか」の一次見積りに使えます。

WiFi・Bluetooth・IoT:初期の IEEE 802.11(11 Mbps まで)は DSSS を採用し、Bluetooth や多くの IoT 無線は周波数ホッピング型のスペクトラム拡散を使います。免許不要の ISM バンドでは多数の機器が混信するため、拡散による干渉耐性と、低い送信スペクトル密度による「他機器への迷惑の少なさ」が重要になります。

よくある誤解と注意点

まず多い誤解が、「処理利得があれば SN 比そのものが改善する」というものです。処理利得は、受信機の中で希望波と干渉波の比を改善する量であって、空中を伝わる電波の絶対的な信号対雑音比を魔法のように上げるわけではありません。白色雑音(熱雑音)に対しては、拡散しても 1 ビットあたりのエネルギー Eb は変わらないため、Eb/N0 は基本的に改善しません。処理利得が効くのは、あくまで「狭帯域の妨害波・干渉波」や「多元接続の他ユーザー」に対してです。広帯域の白色雑音そのものには利得が出ない、という点を取り違えないでください。

次に、「占有帯域幅はチップレートそのものだ」という思い込み。直接拡散信号のメインローブの帯域幅(ヌル間)は、おおむねチップレートの 2 倍になります(本ツールも 2×チップレートで近似)。実装によってはローブの取り方やフィルタの定義で 1 倍と数えることもあり、「処理利得は帯域幅比だから 2 倍で計算する流儀もある」など、定義の流派が複数あります。文献やツールの数値を比較するときは、帯域幅と処理利得の定義(ヌル間か、3 dB 帯域か、R_chip/R_data か)を必ず揃えてください。

最後に、「ジャミングマージンが正なら絶対に安全」という油断です。本ツールの M_J は定常的・平均的な妨害を前提にした一次計算です。実際の妨害には、希望波の符号に近いスペクトルを狙う「部分帯域妨害」や「パルス妨害」「リピータ妨害」など、平均電力だけでは捉えきれない巧妙な手法があります。また同期がずれれば逆拡散の利得そのものが大きく目減りします。マージンはあくまで設計の出発点であり、最悪ケースの妨害シナリオ・同期マージン・誤り訂正符号との組み合わせで、実際の耐性を別途検証する必要があります。

使い方ガイド

  1. チップレート(MHz)を設定します。例:2.048 MHzから10.24 MHzの範囲で選択。直接拡散通信のスプレッディング周波数を決定します
  2. データレート(kbps)を入力します。例:9.6 kbps、19.2 kbps、64 kbpsなど。チップレートとの比率で拡散率が自動計算されます
  3. ジャマー電力レベル(dBm)を設定し、要求Eb/N0(dB)を指定してシミュレーション実行。処理利得・占有帯域幅・妨害余裕がリアルタイム出力されます

具体的な計算例

チップレート3.84 MHz、データレート384 kbpsの直接拡散システムでは、拡散率=3840/384=10チップ/ビット、処理利得PG=10(10 dB)、占有帯域幅=3.84 MHz。受信機要求Eb/N0=7 dBの場合、ジャマー電力-40 dBmで妨害余裕は12 dBとなり、限界マージン6 dB以上を確保した安定運用が可能です。衛星通信規格(ITU-R M.1229)に準拠した設計値です

実務での注意点