応力拡大係数 シミュレーター 戻る
破壊力学シミュレーター

応力拡大係数 シミュレーター — 線形破壊力学

モードI応力拡大係数 K_I=Yσ√(πa) をリアルタイム計算。形状因子・名目応力・亀裂長さ・破壊靭性をスライダーで操作して、安全係数・許容亀裂長さ・破壊伝播応力を亀裂模式図とK_I-a線図で可視化します。

材料・形状プリセット

計算結果
応力拡大係数 K_I
安全係数 SF
許容亀裂長さ a_crit
破壊伝播応力 σ_crit
亀裂モデル模式図(応力集中の可視化)
K_I vs 亀裂長さ a — 破壊靭性線との交点が a_crit
理論・主要公式

$$K_I = Y\,\sigma\,\sqrt{\pi a}$$

Y は形状因子(中央貫通亀裂で 1.0、端部亀裂で 1.12)、σ は名目応力 (MPa)、a は亀裂長さ (m)。

$$\mathrm{SF} = \frac{K_{IC}}{K_I},\quad a_{crit} = \frac{1}{\pi}\left(\frac{K_{IC}}{Y\,\sigma}\right)^2,\quad \sigma_{crit} = \frac{K_{IC}}{Y\sqrt{\pi a}}$$

K_I ≥ K_IC のとき不安定破壊。SF<1 は即時破壊、a_crit は現条件で破壊に至る亀裂長さ、σ_crit は現亀裂長さで破壊に至る応力です。

応力拡大係数 シミュレーターとは

🙋
応力拡大係数って何ですか?普通の応力(σ)とどう違うんですか?亀裂があると単純に応力集中で済まないって聞きました。
🎓
いい質問だ。亀裂の先端では理論上、弾性解で応力が「無限大」になるんだ。だから σ で評価できない。代わりに、無限大の度合いを「強さの係数」として取り出したのが K_I だよ。式は K_I = Yσ√(πa)。a は亀裂長さ、Y は形状因子。ツールで a を 5mm → 10mm に動かしてみて。K_I が約 28 → 40 MPa·√m に跳ね上がるのが見えるはずだ。
🙋
なるほど。じゃあ「破壊靭性 K_IC」を超えたら割れるってことですか?シミュレーターの SF が 1 を切ったら危険?
🎓
その通り。K_I ≥ K_IC で不安定破壊(ピシッと一気に割れる)が起きる。SF = K_IC/K_I が安全係数だ。実務では SF=1 ギリギリは怖いから、2〜3 を見込む。ツールで σ を 200 → 300 MPa にすると、SF が 1.78 → 1.19 まで下がる。「同じ亀裂でも応力次第で危険度が変わる」のが体感できる。
🙋
「許容亀裂長さ a_crit」って何ですか?検査で見つけたヒビが何mmまでセーフか、ってことですか?
🎓
まさにそれだ。a_crit = (K_IC/(Yσ))²/π は「現在の応力でいつ折れるか」を示す亀裂長さ。デフォルトの 200MPa・Y=1.12 で約 15.9mm が破断境界。実務では検査周期と合わせ「次回検査までに伸びても a_crit/2 を超えない」を目安にする。グラフで右の赤い水平線(K_IC)と青い K_I 曲線の交点を見れば、それが a_crit になっているのが分かるよ。
🙋
形状因子 Y は端部亀裂で 1.12、中央亀裂で 1.0 ですが、なぜ端部の方が大きいんですか?
🎓
自由表面(端部)があると、亀裂先端に応力を逃がす経路が片側にしかなく、応力場がより強く立つからだ。これを「自由表面補正」と呼んで、半無限平板の端部亀裂で Y≈1.1215 と古典解が知られている。プレス品の角や溶接ビード端は実質的に端部亀裂と見なすことが多く、設計では Y=1.12 を使うのが現実的な安全側評価になる。

よくある質問

理論上は SF≥1 で破壊しない判定ですが、実機では荷重変動・温度・腐食・材料ばらつき・亀裂検出精度の不確実性があるため、設計安全係数として SF≥2〜3 を要求するのが一般的です。圧力容器コード(ASME、JIS B 8265)でも SF=3 が標準的に採用されます。
ASTM E399 や JIS Z 2284 でコンパクト試験片(CT)や 3 点曲げ試験片を用い、平面ひずみ条件下で K_IC を測定します。試験片が薄いと塑性域が広がって K_C 値が大きく見えますが、十分厚い場合の収束値が K_IC(平面ひずみ破壊靭性)です。設計では薄板にはより保守的な値を用います。
本ツールは線形破壊力学(LEFM)に基づき、亀裂先端の塑性域が亀裂長さ a に対して十分小さいことを仮定しています。塑性域が a/50 を大きく超える場合は Irwin 補正(実効亀裂長さ a+r_y)や、より厳密には J 積分(弾塑性破壊力学)の評価が必要です。
Tada/Paris/Irwin の "Stress Analysis of Cracks Handbook" や、BS 7910、NASGRO 等のデータベースに各種試験片形状・亀裂位置の Y(a/W) 解が網羅されています。簡便には、不明な場合は安全側として Y=1.5 程度を取るか、有限要素法で K_I を直接計算する方法もあります。

実世界での応用

圧力容器・配管の健全性評価:定期検査で検出された欠陥(溶接欠陥・SCC・腐食ピット)について、運転圧力下の K_I を計算し、規格 K_IC との比較で次回検査までの安全性を判定します。LEFM が ASME BPVC Section XI の基本評価フレームです。

航空機構造の損傷許容設計:翼や胴体スキンの「想定欠陥(initial flaw size)」から K_I を見積もり、許容亀裂長さに達するまでの飛行回数を Paris 則と組み合わせて算定。検査間隔をその 1/2 に設定します。

原子力プラントの低温脆性評価:原子炉圧力容器(RPV)の照射後 K_IC 低下を考慮し、加圧熱衝撃(PTS)時の K_I が低温脆性遷移後の K_IC を超えないことを確認する PTS 解析に用いられます。

橋梁・タンクの維持管理:溶接接合部に発見された疲労亀裂について、現状の K_I と K_IC を比較。SF<2 となった部位は補修(穴開け止め・パッチ補強)対象として優先度を付けます。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は「σ は亀裂先端の応力ではなく、十分遠方の名目応力」という点です。応力集中係数 K_t を掛けた局所応力ではなく、断面全体の平均応力(あるいは無欠陥時の応力)を入れるのが正解です。応力集中と応力拡大は別物。集中は鋭くない切欠き、拡大は鋭い亀裂の話です。

次に「形状因子 Y の選択ミス」。本ツールはスライダーで Y を直接設定しますが、実際の構造では a/W(亀裂長さ/部材幅)に応じて Y が a の関数になります。亀裂が伸びると Y も増加し、K_I は単純な √a 則を超えて急加速します。試験片サイズや有限幅補正を必ず確認してください。

最後に「K_IC は単一の材料定数ではない」こと。温度・板厚・歪み速度・環境(水素・海水)で大きく変動します。例えば低温では脆性遷移温度を下回ると K_IC が急減し、室温で安全だった構造が冬季に破断する事故が過去にあります。本ツールの数値は「室温・大気中・十分厚い平面ひずみ」の値と理解し、運転環境に応じた材料データを使うことが重要です。