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RC構造設計シミュレーター

ストラット-タイモデル — D領域の剛塑性解析

コーベル等のD領域を圧縮材(ストラット)と引張材(タイ)の単純トラスで表現。突出長・有効高さ・荷重を変えて、ストラット角度・部材力・必要鉄筋量がどう変わるかを学べます。

パラメータ設定
集中荷重 P
kN
突出長 a
mm
有効高さ d
mm
ストラット強度 f_cd
MPa

内部レバーアーム z ≈ 0.85·d、タイ降伏強度 f_yd = 500 MPa、ストラット有効厚 b = 300 mm を仮定しています。

計算結果
ストラット角度 θ
タイ引張力 T
ストラット圧縮力 C
必要タイ鉄筋 A_s
コーベルのストラット-タイモデル

青実線=タイ(引張材)/赤実線=ストラット(圧縮材)/黒丸=節点/下向き矢印=荷重 P

理論・主要公式

コーベル(短梁)に集中荷重 P が作用するとき、上面の引張材 T と斜め下方向の圧縮材 C からなる単純トラスで力流れを表す。

内部レバーアーム z(簡略式、d は有効高さ):

$$z \approx 0.85\,d$$

ストラット角度 θ(a は突出長):

$$\theta = \arctan\!\left(\frac{z}{a}\right)$$

節点平衡から、タイ引張力 T とストラット圧縮力 C:

$$T = \frac{P\,a}{z} = P\cot\theta, \qquad C = \frac{P}{\sin\theta}$$

必要タイ鉄筋量 A_s と必要ストラット幅 b_strut(厚さ b 一定、f_yd・f_cd は設計強度):

$$A_s = \frac{T}{f_{yd}}, \qquad b_\text{strut} = \frac{C}{f_{cd}\,b}$$

ストラット-タイモデルシミュレーターとは

🙋
RC設計の本に「D領域はストラット-タイモデルで設計する」って書いてあったんですけど、そもそもD領域って何ですか?
🎓
D は Discontinuity(不連続)の D だ。ざっくり言うと、梁理論の「平面保持の仮定」が成り立たない領域のこと。集中荷重点・支点・コーベル・梁柱接合部・開口部の周りなんかがそうだね。経験則として「断面高さ h くらいの範囲」がD領域とされる。逆に、それ以外の素直な部分が B 領域(Bernoulli領域)だ。
🙋
なるほど。じゃあD領域では梁理論が使えないんですか?
🎓
そう、$M = \sigma\cdot Z$ みたいな式では設計できない。代わりに使うのが上のシミュレーターで描いてるストラット-タイモデル(STM)だ。荷重と支点の間に「合理的なトラス」を仮想して、圧縮材(ストラット、赤)と引張材(タイ、青)に分けて節点で力をつり合わせる。コンクリートが圧縮材を、鉄筋が引張材を担当するイメージだよ。
🙋
突出長 a を変えると、ストラット角度 θ がぐいぐい変わりますね。a を大きくすると角度が寝てくる。
🎓
そこがコーベル設計の肝なんだ。a が大きい(突出が長い)と θ が小さくなる。すると $T = P\cot\theta$ だから、タイの引張力が急速に増える——同じ荷重でも必要な鉄筋量がどんどん増えるんだ。逆に a が小さい深いコーベルなら、θ が立って T が小さく済む。実務でも「コーベルはなるべく寸法を深くして突出を抑える」のはこの式から来ている。
🙋
じゃあストラット圧縮力 C はどうなるんですか?
🎓
$C = P/\sin\theta$ だから、θ が小さくなるとこっちも急増する。タイは鉄筋を増やせばどうにでもなるけど、ストラットは「コンクリートの局所圧縮強度」が天井になる。だから STM では「タイの鉄筋量」と「ストラット幅(節点圧縮)」の両方をチェックする。シミュレーターで f_cd を下げて a を伸ばすと、必要なストラット幅が断面厚を超えていく——それは設計NG という意味だ。

よくある質問

STMは下界定理に基づくため、平衡条件さえ満たせば「どんなトラス」も安全側の解になります。ただし実用上は、弾性応力解析の主応力流線に沿うトラスを選ぶと、ひび割れ幅などの使用性が良好になります。コーベルでは「タイは上面に、ストラットは荷重から支点までを直結」が標準形です。複雑な開口部などでは複数案を比較し、部材力が小さくなるものを選びます。
ストラットを横切る直交引張ひずみ(タイによる)が、コンクリート圧縮強度を低下させる「ひび割れ軟化(cracked concrete)」が起こるためです。ACI 318 ではストラット効率係数 β_s = 0.4〜1.0、Eurocode 2 では ν′係数(横引張がある場合 0.6 程度)で低減します。また節点タイプ(CCC=3面圧縮節点、CCT=2面圧縮+1面引張、CTT)でも許容圧縮応力が変わります。
タイ鉄筋は両端の節点を「完全に通り過ぎた位置」で定着長を確保する必要があります。コーベルでは外側端部で水平方向に折り曲げる・溶接プレートで定着する・U字フックを使うなどの工夫が必要です。定着長不足はSTM設計で最も多い実務トラブルで、計算上はOKでも現場でひび割れ・抜け出しが起こります。
深梁(a/d ≦ 2)では主荷重伝達は直接ストラットによるので、せん断補強筋(スターラップ)の効果は限定的です。ただし規準では最小せん断補強筋とひび割れ制御のための「分散鉄筋(水平・鉛直の格子状鉄筋)」が要求されます。これは破壊モードを脆性的なストラット圧壊から延性的な挙動に変える役割と、使用時のひび割れ幅制御の役割を持ちます。

実世界での応用

コーベル・ブラケット設計:プレキャスト梁を柱に載せるコーベル、クレーンランウェイのブラケット、橋梁の支承台座など、典型的なD領域を持つ部材はSTMで設計されます。荷重直下の局部支圧、タイ鉄筋の引張、斜めストラットによる柱へのせん断伝達——これらを一つのトラスモデルで統合的に扱えるのがSTMの強みです。

深梁・トランスファー梁:建築物の低層階で柱を上層と異なる位置に配置する際に使うトランスファー梁、地下構造物の基礎梁、橋梁の橋脚頂部の壁梁などはせん断スパン比が小さい深梁で、STMが必須の設計法です。集中荷重から支点までを直結する圧縮ストラットと、下端の主筋によるタイのシンプルなモデルで設計できます。

梁柱接合部・開口部:地震時に大きなせん断力が作用する梁柱接合部は、ACI 318 や日本のRC基準でSTMの適用例として詳細に規定されています。また梁の中央に開口部を設ける場合、開口部周りはD領域となり、開口を迂回する圧縮・引張流れをトラスで表現します。

プレストレストコンクリートの定着部:PC鋼材の定着端では、巨大な集中圧縮力が局所的に作用し、その背後で横方向に膨張する力(バースティング力)が発生します。これも典型的なD領域で、STMにより支圧プレート背後のバースティング筋(タイ)を設計します。Eurocode 2 にも詳細な規定があります。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「STMで計算した部材力さえ満たせば安全」と考えてしまうことです。STMは下界定理に基づく剛塑性解析なので、強度(終局限界状態)は保証されますが、使用性(ひび割れ・たわみ)は別の検討が必要です。特に弾性応力流線から大きく外れたトラスを選ぶと、終局耐力はOKでも使用時に大きなひび割れが発生します。実務では「弾性解析の主応力流線に沿うトラスを選ぶ」のが鉄則です。

次に多いのが、ストラット強度を素のコンクリート強度 f_c で評価してしまうこと。実際には、ストラットを横切るタイ鉄筋による直交引張ひずみで、コンクリートの圧縮強度は最大で40〜60%まで低下します。ACI 318 の β_s 係数や Eurocode 2 の ν′係数はこの軟化を考慮したものです。シミュレーターで f_cd を下げ、a を大きく取ると、必要なストラット幅が急に大きくなるのが分かります——これがストラット軟化の影響を反映した結果です。

最後に、「タイ鉄筋を入れさえすれば降伏前にコーベルは壊れない」と思い込む点に注意してください。実際には、タイ鉄筋の定着不足によって、計算上の引張耐力に達する前にコーベル外側端で「抜け出し破壊」が起こることがあります。STM設計では部材力の計算だけでなく、両端節点での定着長確保、節点内の応力チェック、そして節点圧縮強度の検証——この3つをセットで行うことが必須です。本シミュレーターは部材力と必要鉄筋量を示しますが、実設計ではこれらの定着・節点設計も忘れずに行ってください。