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熱力学シミュレーター

ファンデルワールス状態方程式 シミュレーター — 実在気体の圧縮率因子

温度・圧力・分子間引力 a・排除体積 b から実在気体のモル体積 V_m と圧縮率因子 Z をリアルタイムに計算。P-V_m 等温線で理想気体との差、Z-P 曲線で Z=1 からのズレを可視化し、臨界点 T_c・P_c も同時に表示します。

パラメータ設定
温度 T
K
圧力 P
atm
分子間引力 a
L²·atm/mol²
排除体積 b
L/mol

気体定数 R = 0.08206 L·atm/(mol·K)。V_m は Newton 法で f(V_m) = (P + a/V_m²)(V_m - b) − RT = 0 を解いて求めます。デフォルト値は N₂ 相当 (a≈1.36, b≈0.0387) です。

計算結果
モル体積 V_m
圧縮率因子 Z
臨界温度 T_c
臨界圧力 P_c
P-V_m 等温線

青線=van der Waals 等温線(温度 T)/灰線=理想気体 PV=RT/橙線=臨界等温線 T=T_c/黄丸=現在の動作点 (V_m, P)

Z-P 圧縮率因子曲線

縦軸=Z = PV_m/(RT)/横軸=P (atm)/青線=van der Waals/灰点線=Z=1 (理想気体)/黄丸=現在の P での Z

理論・主要公式

ファンデルワールス状態方程式は、理想気体の式に分子間引力 (a/V_m²) と排除体積 (b) の補正を加えた実在気体モデルです:

$$\left(P + \frac{a}{V_m^2}\right)(V_m - b) = R\,T$$

圧縮率因子は理想気体からのズレを示す無次元数:

$$Z = \frac{P\,V_m}{R\,T}$$

臨界点(dP/dV_m = d²P/dV_m² = 0)からは:

$$T_c = \frac{8a}{27\,R\,b}, \qquad P_c = \frac{a}{27\,b^2}, \qquad V_c = 3b$$

V_m は陰関数のため Newton 法で数値的に解きます。初期値は理想気体値 V_m_0 = RT/P。R = 0.08206 L·atm/(mol·K)。

ファンデルワールス状態方程式 シミュレーターとは

🙋
高校で習った PV=nRT って、実際の気体だと外れるって聞いたんですけど、どれくらいズレるんですか?
🎓
それを見せるためのシミュレーターだ。デフォルトは窒素相当(a=1.35, b=0.039)、T=300 K、P=50 atm。すると V_m ≈ 0.480 L/mol、Z = PV_m/(RT) ≈ 0.974 と出る。理想気体なら V_m = RT/P = 0.492 L/mol、Z=1 ちょうど。つまり実在の N₂ は 3% 弱『圧縮されやすい』方向にズレているわけだ。
🙋
Z<1 は引力が効いてるって書いてありましたが、どういう意味ですか?
🎓
a/V_m² の項が分子同士の引力を表していて、その分だけ気体は『内側に引っ張られて』理想気体より小さい体積で済む。だから Z<1 になる。逆に高圧で分子同士がぎゅうぎゅうになると、b(排除体積)の効果で『これ以上縮めない』ことが効いてきて Z>1 になる。P スライダーを 200 atm まで上げてみると、Z が 1 を超えてくのが見えるはずだ。
🙋
右のスタットに『臨界温度 T_c ≈ 125 K』と出てます。これって何ですか?
🎓
臨界温度は『これより上では何 atm かけても液化できない』温度だ。窒素は 126 K(−147°C)。だから常温では窒素を圧縮しても気体のままで、液体窒素を作るには 100 K 以下まで冷やすしかない。一方 CO₂ は T_c = 304 K で、室温よりちょっと上。だから室温で 70 気圧くらいかければ液化する。スーパーで売ってる炭酸ガスボンベの中身がまさにそれだ。
🙋
左のグラフ、T を T_c より低くするとうねうねした曲線になりますね。これは何ですか?
🎓
T を 100 K にしてみて。van der Waals 線が『山と谷』のあるカーブになる。これは数学的な等温線で、物理的には Maxwell の構成則で『水平な線で結ぶ』ことで気液共存域を表現する。山の左側が液体、谷の右側が気体、中間は不安定領域。van der Waals の偉いところは、たった 2 つのパラメータ a, b でこの気液共存をある程度説明できることなんだ。

よくある質問

代表的な気体の van der Waals 定数(単位: a は L²·atm/mol²、b は L/mol)の目安は、He: a=0.034, b=0.024/H₂: a=0.247, b=0.027/N₂: a=1.36, b=0.0387/O₂: a=1.36, b=0.0319/CO₂: a=3.59, b=0.0427/H₂O: a=5.46, b=0.0305/NH₃: a=4.17, b=0.0371 などです。本ツールのデフォルトは N₂ 相当に設定しています。a が大きいほど引力が強く(液化しやすい)、b が大きいほど分子サイズが大きいことを表します。
T < T_c で van der Waals 式は V_m について 3 つの実根を持ち、最大根が気相、最小根が液相、中央根は物理的に不安定です。本ツールは Newton 法で気相の根(最大根)を狙って収束させており、気液二相が共存する圧力域でも気相の体積を返します。厳密な気液平衡(Maxwell 等面積則)は表示していませんので、T_c より十分高い温度(超臨界域)での教育用途を想定してください。実際の蒸気圧計算には Soave-Redlich-Kwong (SRK) や Peng-Robinson 式がより適しています。
van der Waals 式を T_r = T/T_c, P_r = P/P_c, V_r = V_m/V_c と無次元化すると、a, b に依存しない普遍的な式 (P_r + 3/V_r²)(V_r - 1/3) = 8T_r/3 が得られます。これは『どの気体も T_r, P_r が同じなら Z はほぼ同じ』という対応状態原理の理論的根拠です。圧縮率因子線図 Z(T_r, P_r) はこの原理を利用して、未知物質の状態量を予測するエンジニアリングツールとして広く使われています。
van der Waals 式は実在気体の挙動を定性的に正しく説明する最初の式で、ボイル温度・臨界点・気液共存などの本質を捉えています。しかし定量的には、臨界点での Z_c = PV/RT が常に 3/8 = 0.375 になってしまう(実際は 0.27〜0.29)など、誤差は 10〜30% に達することがあります。実用設計では Redlich-Kwong (1949)、Soave-Redlich-Kwong (1972)、Peng-Robinson (1976) などの改良式が使われ、特に Peng-Robinson は石油・天然ガス産業で標準的に使われています。

実世界での応用

天然ガスパイプライン設計:天然ガスを高圧(70〜100 atm)でパイプライン輸送する際、PV=nRT で計算すると体積を 5〜10% 過大評価してしまいます。これは設備容量や圧縮機選定で致命的な誤差となるため、van der Waals あるいはより精度の高い Peng-Robinson 式で Z を求めて補正します。本ツールで P=100 atm に設定すると Z が 1 を上回り、実在気体は理想気体より『縮みにくい』ことが確認できます。

液化天然ガス(LNG)プラント設計:メタンを液化するには T_c = 191 K より低い温度に冷却し、適切な圧力をかける必要があります。van der Waals 式の T_c, P_c は、各成分(メタン、エタン、プロパン等)の臨界点を与え、混合則と組み合わせて液化条件を予測します。これにより液化サイクル(Joule-Thomson 膨張、混合冷媒サイクル等)の効率設計が可能になります。

超臨界 CO₂ 抽出:CO₂ の臨界点(T_c=304 K, P_c=73 atm)は室温近傍にあるため、わずかに加熱・加圧するだけで『気体のような拡散性と液体のような溶解性を併せ持つ超臨界流体』が得られます。コーヒー豆からのカフェイン除去、ホップエキスの抽出、化学反応溶媒として広く実用化されており、設計には van der Waals 型の状態方程式が不可欠です。

低温工学(クライオジェニクス):液体窒素(77 K)・液体ヘリウム(4.2 K)の製造、超伝導磁石冷却、宇宙ロケットの液体水素タンク設計など、低温での気体挙動予測には実在気体方程式が必須です。低温では分子間引力が強く効くため、van der Waals の a パラメータが特に重要となり、ヘリウムのような a が非常に小さい気体は液化が極めて困難になります。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、『van der Waals 式は厳密な状態方程式』と思い込むことです。van der Waals 式は実在気体の挙動を定性的に正しく説明する最初の本格的なモデルですが、定量精度は限定的で、臨界点近傍や気液共存域では誤差が 10〜30% に達します。実用設計では Peng-Robinson や SRK 式、さらに精度を求めるなら多項式フィット(GERG-2008 等)や量子化学計算が使われます。本ツールは教育・概念理解用と割り切ってください。

次に多いのが、『Z=1 なら理想気体として扱える』と早合点することです。Z=1 は瞬間的な比 PV/RT の話で、内部エネルギー U(T,V) や熱容量 C_v(T,V) は実在気体では体積に依存します。Joule-Thomson 係数、断熱膨張の温度変化、エンタルピー H(T,P) などは Z=1 でも理想気体と異なります。実在気体の熱力学量を扱うときは、状態方程式から導出される偏微分関係も含めて慎重に評価してください。

もう一つの注意点は、パラメータ a, b の温度依存性を忘れることです。van der Waals 式は a, b を定数として扱いますが、実際には a は温度の弱い関数で、これを取り入れたのが Soave-Redlich-Kwong(SRK)式です。広い温度範囲を扱うときは、a(T) として温度補正項(α(T) 関数)を入れた SRK や Peng-Robinson 式を使うのが標準です。本ツールの a, b は『その温度域での代表値』と理解して使ってください。