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水理シミュレーター

堰の流量シミュレーター — 矩形堰と三角堰

開水路の代表的な流量計測装置である矩形堰(Rehbock 式)と三角堰(Thomson 式)の越流流量を可視化。越流水深・堰幅・堰高・ノッチ角を変えて、水深から流量を求める原理を学べます。

パラメータ設定
越流水深 h
m
矩形堰幅 b
m
上流堰高 P
m
三角堰ノッチ角 θ
°

Rehbock 式の係数 C_d は h/P によって変化し、Thomson 式は C_d ≈ 0.585(90°ノッチ)を採用しています。g = 9.81 m/s²。

計算結果
矩形堰流量 Q_rect
三角堰流量 Q_tri
矩形堰流量係数 C_d
Q_rect / Q_tri
矩形堰と三角堰の断面図

左=矩形堰断面(水深 h、堰高 P、幅 b)/右=三角堰断面(ノッチ角 θ、水深 h)/青矢印=越流流れ

理論・主要公式

堰は開水路の中に設置する障害物で、水位を上げて越流させ、その水深から流量を求める装置です。代表的なものに矩形堰と三角堰があります。

矩形堰(Rehbock 式)。b は堰幅、h は越流水深、g は重力加速度、C_d は流量係数:

$$Q_\text{rect} = C_d\,b\,\sqrt{2g}\,\frac{2}{3}\,h^{3/2}$$

Rehbock 補正による流量係数(P は上流堰高):

$$C_d \approx 0.602 + 0.083\,\frac{h}{P}$$

三角堰(Thomson 式)。θ はノッチの全開角:

$$Q_\text{tri} = C_d\,\frac{8}{15}\,\sqrt{2g}\,\tan\!\left(\frac{\theta}{2}\right)\,h^{5/2}$$

矩形堰では Q ∝ h^(3/2)、三角堰では Q ∝ h^(5/2) と、水深に対する依存指数が異なります。三角堰のほうが小流量域で感度が高くなります。

堰の流量シミュレーターとは

🙋
川や水路に板を立てて水位を測ってるのを見たことあるんですけど、あれって何のためにあるんですか?
🎓
あれが「堰(せき)」と呼ばれる流量計測装置だ。ざっくり言うと、水路の中に板(堰板)を立てて水をあえて堰き止めて、その上を越えて流れる水の深さ(越流水深 h)から流量を逆算するんだ。直接「何 L/s 流れてるか」を測るのは難しいけど、水深なら定規一本で測れる。上のシミュレーターで「越流水深 h」を動かしてみると、流量カードが大きく変わるのが分かるよ。
🙋
矩形堰と三角堰、どっちが「いい」堰なんですか?
🎓
用途次第だね。大流量を測るなら矩形堰、小流量を精度よく測るなら三角堰。理由は流量と水深の関係にあるんだ。矩形堰は $Q \propto h^{3/2}$、三角堰は $Q \propto h^{5/2}$。指数が大きい三角堰のほうが、少しの流量変化でも水深がはっきり変わってくれる。実験室の循環ポンプの流量測定では 90°V ノッチがほぼ標準だよ。
🙋
シミュレーターで「堰幅 b」を動かすと矩形堰の流量だけ変わるんですね。三角堰は影響受けない?
🎓
そう。三角堰の流量は θ(ノッチ角)と h だけで決まるから、堰幅 b は無関係。逆に「θ」のスライダーを動かすと三角堰の流量だけ変わって、矩形堰は変わらない。それぞれの式が何に依存しているか、スライダーを動かしながら確認するとイメージが固まるよ。
🙋
「上流堰高 P」って何ですか? Rehbock 式に出てきますけど。
🎓
上流側の水路の底から堰板の頂上までの高さだよ。これが小さいと、堰の上流側で水が速く流れるから、越流流量がちょっと増える。この「接近流速の影響」を補正したのが Rehbock 式の $C_d \approx 0.602 + 0.083 \cdot (h/P)$ という項。シミュレーターで P を小さくすると C_d カードが大きくなって、それに連動して Q_rect も増えるのが見えるはずだ。h/P が 0.5 のとき C_d は約 0.635 になる。

よくある質問

堰板から十分上流側(おおよそ 3〜4h 以上離れた位置)の水面と、堰頂レベルの差を測ります。堰のすぐ近くは水面が落ち込み始めているため、ここで測ると h を過小評価して流量も小さく出てしまいます。実務では堰の上流側に「静水井(still well)」を設置し、その中の水位をスケールやセンサで読み取るのが標準です。
下流側の水位が堰頂を超えると「潜没(drowned / submerged)」状態になり、Rehbock 式や Thomson 式は適用できなくなります。流量係数が下流水位の影響で減少し、別の補正式が必要です。流量計測としては精度が大きく落ちるため、堰下流に十分な落差を確保して「完全越流(free overflow)」状態を保つことが基本です。シミュレーターは完全越流を仮定しています。
あります。標準は 90°ですが、非常に小さい流量を測りたい場合は 30°や 45°のノッチも使われます。ノッチ角が小さいほど同じ流量でも水深 h が大きくなり、水位の読み取り精度が上がるためです。一方で 120°など広いノッチは、矩形堰と三角堰の中間的な特性を持ちます。シミュレーターでは θ を 10〜120°の範囲で変えられます。
マニング式は、長い水路を一様な水深で流れる「定常等流」の流量を推定する式です。一方、堰の式は局所的な障害物を水が越流する瞬間の流量を求める式で、エネルギー保存(ベルヌーイの式)から導かれます。マニング式は粗度係数の推定が難しく、絶対値の精度は低めですが、堰式は形状が決まれば高精度(数%以内)で流量を求められます。流量計測には堰、流況解析には等流計算と、目的で使い分けます。

実世界での応用

実験室の循環水路:大学や研究機関の水理実験室では、循環ポンプから流れてくる流量を正確に測るために、水槽の出口に 90°V ノッチ三角堰を設置するのが定番です。ノッチ角と水深さえ正確に測れば 1% 程度の精度で流量を決められるため、模型実験の前後の流量校正に重宝されます。

農業用水・潅漑水路:幹線水路から支線、圃場へと水を分配する潅漑システムでは、各分岐点に矩形堰やパーシャルフリュームを設置して配水量を管理します。受益面積に応じた水量を公平に配分する根拠データになるため、農業土木では基本中の基本の構造物です。

下水処理場・上水処理場:処理工程の各槽の流入流量・流出流量を測るのに、矩形堰や三角堰が使われます。電子流量計(電磁流量計や超音波流量計)と組み合わせることも多く、堰は装置の校正基準や予備計測として常に重要な位置を占めます。

河川観測と水文計測:小規模な渓流や山地河川の連続流量観測には、コンクリート製の常設堰(観測堰)が使われます。水位計を堰の上流に設置し、水位データから連続的に流量を推算することで、長期間の流出特性や洪水時のピーク流量を捉えます。河川管理や水資源計画の基盤データになります。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「水深 h を 2 倍にすれば流量も 2 倍になる」と考えてしまうことです。矩形堰では $Q \propto h^{3/2}$ なので、h を 2 倍にすると流量は 2^1.5 ≈ 2.83 倍。三角堰では $Q \propto h^{5/2}$ なので 2^2.5 ≈ 5.66 倍にもなります。シミュレーターで h を 0.20 m から 0.40 m に変えてみると、Q_tri は約 5.7 倍に跳ね上がるのが体感できます。「水深と流量は線形」という直感は、堰の世界では成り立たないことを覚えてください。

次に多いのが、堰板を上流側のどこに置いても同じ流量が測れると思い込むことです。実際には、堰のすぐ上流(数 h 以内)では水面が堰に向かって落ち込み始めており、ここで水深を測ると h を過小評価してしまいます。さらに下流側に十分な落差がないと「潜没」状態になり、Rehbock 式も Thomson 式も成り立ちません。流量計測としての堰は、上流の整流区間・下流の自由落下区間・正しい水位測定位置——この三つが揃って初めて精度よく機能します。

最後に、このシミュレーターが採用している係数は理想化された一例である点に注意してください。Rehbock 式の $C_d = 0.602 + 0.083\,(h/P)$ は h/P が 1 程度までの矩形堰(鋭縁堰)に対する代表的な近似で、堰の厚さ、上流の流れの状態、空気の供給状況などで実際の係数は数% ずれます。Thomson 式の C_d ≈ 0.585 も 90°ノッチでの代表値で、ノッチ角やレイノルズ数(小流量での粘性影響)でわずかに変化します。流量計測の現場では、設置後に実流量との校正を行うのが原則です。