粒径 0.01〜100 μm の Stokes 沈降速度(対数スケール)。● が現在の設定。
粒径範囲ごとの支配的な沈着機構(拡散・重力沈降・慣性衝突)の相対的な強さ。
現在の粒径に対する温度(10〜80°C)変化による沈降速度・拡散係数の変化。
エアロゾル工学の基礎 — 会話で理解する
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「エアロゾル」って何ですか?霧と同じですか?
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空気中に浮遊する微小な固体粒子や液滴の総称だ。霧(fog)は液滴エアロゾルの一種。タバコの煙(固体粒子+液滴)も、黄砂(固体)も、医療用吸入器から出る霧も全部エアロゾル。工学的には粒径 1nm〜100μm が主な対象で、大気汚染・クリーンルーム・吸入薬・フィルタ設計などに深く関係している。
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粒径によって落ちる速さが全然違うんですか?小さい粒子ほど浮いていられるのはなぜ?
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Stokes の沈降速度は vs = d²(ρp-ρf)g/(18μ) で粒径の2乗に比例する。10μm の粒子は 1μm の粒子の100倍速く落ちる。小さい粒子は自重が非常に小さいから空気の粘性力で支えられて、ブラウン運動(熱擾乱)の影響も受けるため、なかなか沈降しないんだ。PM2.5(2.5μm以下)が大気中に長時間漂う理由でもある。
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Cunningham補正係数って何ですか?なぜ補正が必要なんですか?
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Stokesの法則は流体を「連続体」として扱っているけど、粒径が空気分子の平均自由行程(常温常圧で約65nm)に近づくと、その仮定が崩れてくる。100nm以下の粒子は空気分子との「すべり流れ(slip flow)」が起きて、実際の抵抗が Stokes 則より小さくなる。Cunningham 補正係数 Cc ≥ 1 を掛けることで、より速い沈降速度・大きな拡散係数が得られる。
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吸入薬では粒径がすごく重要らしいですが、なぜですか?
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肺の中での沈着場所が粒径によって大きく変わるからだ。10μm以上は鼻腔・口腔で捕捉される。5〜10μm は気管支。1〜5μm(MMAD、マス中央空気動力学径)は気管支末端から肺胞に到達できる。吸入薬はこの 1〜5μm がターゲットだ。0.5μm以下は肺胞に到達するけど呼気で排出されやすく効率が下がる。だから定量噴霧式吸入器(MDI)の設計は非常に精密な粒径制御が必要なんだ。
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クリーンルームで重要な「Stokes数」って何ですか?
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Stokes数 Stk = τU/L(τ:粒子緩和時間、U:気流速度、L:特性長)は、粒子が曲がる気流に追随できるかどうかの指標だ。Stk >> 1 だと粒子は気流が曲がっても直進して壁に衝突する(慣性衝突沈着)。Stk << 1 だと流れに乗って表面を通過する。クリーンルームのフィルタはこの慣性衝突・拡散・遮断・静電引力などを組み合わせて粒子を捕捉している。
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CFDでエアロゾル沈着をシミュレーションするにはどうするんですか?
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主に2つのアプローチがある。① ラグランジュ粒子追跡(DPM: Discrete Phase Model): 個々の粒子軌跡を追跡する。慣性衝突・重力沈降の精度が高い。② オイラー方法(対流拡散方程式を解く): 粒子を連続体として扱い濃度分布を計算する。拡散沈着に向く。OpenFOAM の lagrangianParticle や Fluent の DPM モデルが実用で使われている。吸気気道・工場ダクト・クリーンルームの粒子沈着予測に応用されているよ。
理論メモ — エアロゾル粒子の主要パラメータ
Stokes 沈降速度(Cunningham補正あり):
\[v_s = \frac{d^2(\rho_p - \rho_f)g}{18\mu} \cdot C_c\]
Cunningham 補正係数(Knudsen数 \(Kn = 2\lambda/d\)):
\[C_c = 1 + Kn\left(1.257 + 0.4\exp\!\left(\frac{-1.1}{Kn}\right)\right)\]
Einstein 拡散係数(ブラウン運動):
\[D = \frac{k_B T C_c}{3\pi\mu d}\]
粒子緩和時間(慣性応答時間):
\[\tau = \frac{\rho_p d^2 C_c}{18\mu}, \quad Stk = \frac{\tau U}{L}\]
よくある質問
粒子 Reynolds 数 Re = ρf × vs × d / μ < 1 の範囲(Stokes 流れ域)で有効です。d < 50μm(空気中、標準密度粒子)はほぼ適用可能。Re > 1 になると気流剥離が生じ、Stokes 則は過大評価になります。大きな粒子では Schiller-Naumann 等の補正抗力係数モデルを使用します。
PM10(粒径 < 10μm)は鼻腔〜気管支で沈着。PM2.5(< 2.5μm)は細気管支・肺胞まで到達でき、血液中に侵入する可能性があります。WHO ガイドライン(2021年改訂): PM2.5 は年平均 5μg/m³、日平均 15μg/m³。PM10 は年平均 15μg/m³。日本の環境基準はPM2.5 が年平均 15μg/m³ 以下・日平均 35μg/m³ 以下です。
HEPA フィルタの捕集機構は拡散(小粒子)・遮断・慣性衝突(大粒子)の3つです。拡散は粒径が小さいほど効果的、慣性衝突は大きいほど効果的、その中間の約 0.3μm が最も捕集しにくい「最透過粒子径(MPPS)」です。HEPA 規格(JIS)はこの 0.3μm での捕集効率 99.97% 以上を要求しています。
発生源近傍でのフード設計では、粒径別の Stokes 沈降速度から「自然沈降の前にフードで捕捉できる最小フード面積速度(face velocity)」を計算できます。10μm 以上は素早く沈降するので低面積速度でも捕集できますが、1μm 以下はブラウン拡散が支配的で排気フローに乗らせることが重要です。このツールの沈降速度と Stokes 数を参考に設計してください。
帯電した粒子が電場によって表面に引き寄せられる機構です。空気中の粒子は自然に帯電することが多く、Boltzmann 荷電分布に従います。静電集塵機(ESP)はこれを意図的に活用し高電圧で粒子を帯電させて収集電極に沈着させます。クリーンルームの防塵や煙突排煙処理に使われています。このシミュレーターでは静電沈着は計算していませんが、実際の設計では重要な考慮事項です。
上気道(鼻腔〜気管)の CT データを基にしたリアリスティック形状の CFD 解析が広く行われています。気流は LES(Large Eddy Simulation)で計算し、粒子はラグランジュ法で追跡します。吸入薬のデバイス設計・製薬規制申請(FDA/EMA ガイダンス)での in silico 評価に活用されています。0.5〜5μm の肺深部到達効率の最適化が中心的な研究テーマです。