粒子・媒質条件
プリセット
沈着機構: —
粒径 0.01〜100 μm の Stokes 沈降速度(対数スケール)。● が現在の設定。
粒径範囲ごとの支配的な沈着機構(拡散・重力沈降・慣性衝突)の相対的な強さ。
現在の粒径に対する温度(10〜80°C)変化による沈降速度・拡散係数の変化。
理論・主要公式
Stokes 沈降速度(Cunningham補正あり):
\(v_s = \frac{d^2(\rho_p - \rho_f)g}{18\mu} \cdot C_c\)
Cunningham 補正係数(Knudsen数 \(Kn = 2\lambda/d\)):
\(C_c = 1 + Kn\left(1.257 + 0.4\exp\!\left(\frac{-1.1}{Kn}\right)\right)\)
Einstein 拡散係数(ブラウン運動):
\(D = \frac{k_B T C_c}{3\pi\mu d}\)
粒子緩和時間(慣性応答時間):
\(\tau = \frac{\rho_p d^2 C_c}{18\mu}, \quad Stk = \frac{\tau U}{L}\)
エアロゾル工学の基礎 — 会話で理解する
🎓空気中に浮遊する微小な固体粒子や液滴の総称だ。霧(fog)は液滴エアロゾルの一種。タバコの煙(固体粒子+液滴)も、黄砂(固体)も、医療用吸入器から出る霧も全部エアロゾル。工学的には粒径 1nm〜100μm が主な対象で、大気汚染・クリーンルーム・吸入薬・フィルタ設計などに深く関係している。
🙋粒径によって落ちる速さが大きく異なるんですか?小さい粒子ほど浮いていられるのはなぜ?
🎓Stokes の沈降速度は vs = d²(ρp-ρf)g/(18μ) で粒径の2乗に比例する。10μm の粒子は 1μm の粒子の100倍速く落ちる。小さい粒子は自重が非常に小さいから空気の粘性力で支えられて、ブラウン運動(熱擾乱)の影響も受けるため、なかなか沈降しないんだ。PM2.5(2.5μm以下)が大気中に長時間漂う理由でもある。
🙋Cunningham補正係数って何ですか?なぜ補正が必要なんですか?
🎓Stokesの法則は流体を「連続体」として扱っているけど、粒径が空気分子の平均自由行程(常温常圧で約65nm)に近づくと、その仮定が崩れてくる。100nm以下の粒子は空気分子との「すべり流れ(slip flow)」が起きて、実際の抵抗が Stokes 則より小さくなる。Cunningham 補正係数 Cc ≥ 1 を掛けることで、より速い沈降速度・大きな拡散係数が得られる。
🙋吸入薬では粒径が非常に重要らしいですが、なぜですか?
🎓肺の中での沈着場所が粒径によって大きく変わるからだ。10μm以上は鼻腔・口腔で捕捉される。5〜10μm は気管支。1〜5μm(MMAD、マス中央空気動力学径)は気管支末端から肺胞に到達できる。吸入薬はこの 1〜5μm がターゲットだ。0.5μm以下は肺胞に到達するけど呼気で排出されやすく効率が下がる。だから定量噴霧式吸入器(MDI)の設計は非常に精密な粒径制御が必要なんだ。
🙋クリーンルームで重要な「Stokes数」って何ですか?
🎓Stokes数 Stk = τU/L(τ:粒子緩和時間、U:気流速度、L:特性長)は、粒子が曲がる気流に追随できるかどうかの指標だ。Stk >> 1 だと粒子は気流が曲がっても直進して壁に衝突する(慣性衝突沈着)。Stk << 1 だと流れに乗って表面を通過する。クリーンルームのフィルタはこの慣性衝突・拡散・遮断・静電引力などを組み合わせて粒子を捕捉している。
🙋CFDでエアロゾル沈着をシミュレーションするにはどうするんですか?
🎓主に2つのアプローチがある。① ラグランジュ粒子追跡(DPM: Discrete Phase Model): 個々の粒子軌跡を追跡する。慣性衝突・重力沈降の精度が高い。② オイラー方法(対流拡散方程式を解く): 粒子を連続体として扱い濃度分布を計算する。拡散沈着に向く。OpenFOAM の lagrangianParticle や Fluent の DPM モデルが実用で使われている。吸気気道・工場ダクト・クリーンルームの粒子沈着予測に応用されているよ。
よくある質問
粒子 Reynolds 数 Re = ρf × vs × d / μ < 1 の範囲(Stokes 流れ域)で有効です。d < 50μm(空気中、標準密度粒子)はほぼ適用可能。Re > 1 になると気流剥離が生じ、Stokes 則は過大評価になります。大きな粒子では Schiller-Naumann 等の補正抗力係数モデルを使用します。
PM10(粒径 < 10μm)は鼻腔〜気管支で沈着。PM2.5(< 2.5μm)は細気管支・肺胞まで到達でき、血液中に侵入する可能性があります。WHO ガイドライン(2021年改訂): PM2.5 は年平均 5μg/m³、日平均 15μg/m³。PM10 は年平均 15μg/m³。日本の環境基準はPM2.5 が年平均 15μg/m³ 以下・日平均 35μg/m³ 以下です。
HEPA フィルタの捕集機構は拡散(小粒子)・遮断・慣性衝突(大粒子)の3つです。拡散は粒径が小さいほど効果的、慣性衝突は大きいほど効果的、その中間の約 0.3μm が最も捕集しにくい「最透過粒子径(MPPS)」です。HEPA 規格(JIS)はこの 0.3μm での捕集効率 99.97% 以上を要求しています。
発生源近傍でのフード設計では、粒径別の Stokes 沈降速度から「自然沈降の前にフードで捕捉できる最小フード面積速度(face velocity)」を計算できます。10μm 以上は素早く沈降するので低面積速度でも捕集できますが、1μm 以下はブラウン拡散が支配的で排気フローに乗らせることが重要です。このツールの沈降速度と Stokes 数を参考に設計してください。
帯電した粒子が電場によって表面に引き寄せられる機構です。空気中の粒子は自然に帯電することが多く、Boltzmann 荷電分布に従います。静電集塵機(ESP)はこれを意図的に活用し高電圧で粒子を帯電させて収集電極に沈着させます。クリーンルームの防塵や煙突排煙処理に使われています。このシミュレーターでは静電沈着は計算していませんが、実際の設計では重要な考慮事項です。
上気道(鼻腔〜気管)の CT データを基にしたリアリスティック形状の CFD 解析が広く行われています。気流は LES(Large Eddy Simulation)で計算し、粒子はラグランジュ法で追跡します。吸入薬のデバイス設計・製薬規制申請(FDA/EMA ガイダンス)での in silico 評価に活用されています。0.5〜5μm の肺深部到達効率の最適化が中心的な研究テーマです。
エアロゾル粒子沈降シミュレーターとは
本シミュレーターの物理モデルは、重力沈降とブラウン拡散の競合を統合的に扱う。まず、粒子の終端沈降速度 \(v_s\) は、Cunningham 補正係数 \(C_c\) を導入した Stokes 則により次式で与えられる。
$$
v_s = \frac{\rho_p d_p^2 g C_c}{18 \mu}
$$
ここで \(\rho_p\) は粒子密度、\(d_p\) は粒径、\(\mu\) は流体粘度、\(g\) は重力加速度である。\(C_c\) は気体分子のすべり効果を補正し、特に 1 µm 以下の微粒子で顕著となる。一方、ブラウン拡散係数 \(D\) は Stokes-Einstein 関係式
$$
D = \frac{k_B T C_c}{3 \pi \mu d_p}
$$
により算出される(\(k_B\):ボルツマン定数、\(T\):絶対温度)。これらの競合を評価する無次元数として、重力沈降と拡散の比を表す Stokes 数 \(St = v_s \cdot t_{res} / L\)(\(t_{res}\):滞留時間、\(L\):代表長さ)をリアルタイムで計算する。粒径が大きいほど重力沈降が、小さいほどブラウン拡散が支配的となり、遷移領域では両者の寄与が拮抗する。本モデルにより、大気汚染粒子の沈着挙動やクリーンルーム内の微粒子除去効率、吸入薬の肺胞到達性を定量的に予測可能である。
実世界での応用
産業での実際の使用例
半導体製造業界では、クリーンルーム内の微粒子管理に本シミュレーターが活用されています。例えば、東京エレクトロン株式会社の成膜装置設計において、粒径0.1〜1μmのシリコン微粒子の沈降挙動を解析し、エアフィルター配置や気流設計の最適化に貢献。また、製薬業界では、アステラス製薬が吸入粉末薬剤の開発時に、粒子密度と温度変化による肺胞への沈着効率を予測し、製剤設計の効率化を実現しています。
研究・教育での活用
大学の環境工学やエアロゾル科学の講義で、学生が粒径・密度を変化させながらStokes数やブラウン拡散係数をリアルタイムに確認できる教材として利用。東京大学の大気環境研究室では、PM2.5の大気中沈降メカニズムを可視化し、支配的な沈着メカニズムの遷移を理解する演習に採用されています。
CAE解析との連携や実務での位置付け
本シミュレーターは、流体解析(CFD)の前処理ツールとして位置付けられます。例えば、自動車のキャビン内空調設計では、本ツールで算出したCunningham補正係数や沈降速度をANSYS Fluentの境界条件として入力し、粒子挙動の高精度予測を実現。実務では、実験コスト削減と設計サイクル短縮に寄与し、クリーンルーム認証や医薬品承認申請時のエビデンスとしても活用されています。
よくある誤解と注意点
「粒径が小さいほど重力でゆっくり沈むため、空気中に長く留まる」と思いがちですが、実際には粒径が0.1 µm以下の領域ではブラウン拡散が支配的になり、粒子は気流の乱れや分子衝突によって予想以上に壁面や肺胞へ高速で沈着します。そのため、クリーンルーム設計では重力沈降だけでなく拡散沈着の寄与も必ず考慮する必要があります。
「Cunningham補正係数は大きな粒子にのみ影響する」と思いがちですが、実際には粒径が1 µm以下になると補正係数が急増し、特に0.1 µm未満ではStokes沈降速度が数倍から数十倍に跳ね上がります。この補正を怠ると、医療吸入薬の肺内沈着率を過小評価する危険性があるため注意が必要です。
「温度を上げると空気粘性が下がるので沈降速度が増す」と思いがちですが、実際には温度上昇により空気の平均自由行程が長くなりCunningham補正係数が増加する一方、粘性係数自体は増加するため、両者のトレードオフが発生します。シミュレーションでは温度変化による粘性と補正係数の両方を同時に更新しないと、誤った沈降傾向を導く可能性がある点に注意が必要です。