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流体・大気工学

エアロゾル粒子沈降シミュレーター

気道(管)モデルを流れる粒子の沈着をリアルタイムにアニメーション。大粒子は慣性衝突・重力沈降で、微粒子はブラウン拡散で壁に沈着する様子を可視化し、沈着効率の U字曲線・各機構の寄与・沈着率を動的に計算します。大気汚染解析・クリーンルーム設計・吸入薬開発に。

粒子・媒質条件

対数スライダー:0.01〜100 μm
沈着機構: —

一時停止中はスライダーを動かすと結果が即座に更新されます。

計算結果
総沈着率 (%)
慣性衝突寄与 (%)
重力沈降寄与 (%)
拡散寄与 (%)
Stokes沈降速度 vs (mm/s)
Cunningham補正 Cc
拡散係数 D (m²/s)
Stokes数 Stk
緩和時間 τ (ms)
沈着アニメーション — 気道(管)モデル

左から流入した粒子が管内を進み、慣性衝突(オレンジ)・重力沈降(青)・ブラウン拡散(緑)の各機構で壁に沈着します。下のバーが流入粒子に対する累積沈着率です。粒径 d を変えると沈着の主役が切り替わります。

沈着効率 vs 粒径(U字曲線)

粒径 0.01〜100 μm の総沈着効率。微粒子は拡散、大粒子は衝突・沈降が支配し、中間(約 0.2〜0.5 μm)に最小(最透過粒子径 MPPS)が現れます。● が現在の設定。

理論・主要公式

Stokes 沈降速度(Cunningham補正あり):

\(v_s = \dfrac{d^2(\rho_p - \rho_f)g}{18\mu} \cdot C_c\) — 終端沈降速度 [m/s]

Cunningham 補正係数(Knudsen数 \(Kn = 2\lambda/d\)):

\(C_c = 1 + Kn\left(1.257 + 0.4\,e^{-1.1/Kn}\right)\) — すべり流れ補正(\(d\lesssim1\,\mu\)mで効く)

Stokes-Einstein 拡散係数・緩和時間・Stokes数:

\(D = \dfrac{k_B T C_c}{3\pi\mu d},\quad \tau = \dfrac{\rho_p d^2 C_c}{18\mu},\quad Stk = \dfrac{\tau U}{R}\)

各機構の沈着効率を確率合成して総沈着率を求める:

\(\eta_\text{tot} = 1-(1-\eta_\text{imp})(1-\eta_\text{sed})(1-\eta_\text{dif})\) — \(\eta_\text{imp}=\frac{Stk}{Stk+0.4}\), \(\eta_\text{sed}=1-e^{-4v_sL/\pi U R}\), \(\eta_\text{dif}=1-e^{-4\sqrt{\Delta/\pi}}\), \(\Delta=DL/UR^2\)

エアロゾル工学の基礎 — 会話で理解する

🙋
「エアロゾル」って何ですか?霧と同じですか?
🎓
空気中に浮遊する微小な固体粒子や液滴の総称だ。霧(fog)は液滴エアロゾルの一種。タバコの煙(固体粒子+液滴)も、黄砂(固体)も、医療用吸入器から出る霧も全部エアロゾル。工学的には粒径 1nm〜100μm が主な対象で、大気汚染・クリーンルーム・吸入薬・フィルタ設計などに深く関係している。
🙋
このアニメーション、大きい粒子はすぐ壁に当たるのに、小さい粒子はフラフラ動いてますね。なぜですか?
🎓
それが沈着メカニズムの違いそのものだ。大粒子は質量が大きく慣性が強いから、気流が曲がっても直進して壁に衝突する(慣性衝突)。さらに自重で下に落ちる(重力沈降)。一方、小さい粒子は熱運動する空気分子に絶えず叩かれてランダムに揺れ(ブラウン運動)、その揺れで壁にぶつかって沈着する(拡散沈着)。アニメで微粒子がジグザグに動くのはこのためだ。
🙋
右の U字曲線、中間の 0.3μm くらいで沈着率が最小になってますね。なぜ谷ができるんですか?
🎓
拡散は粒径が小さいほど強く、衝突・沈降は粒径が大きいほど強い。だから両端が高く、その中間(だいたい 0.1〜0.5μm)でどちらも効きにくい「谷」ができる。これが HEPA フィルタで最も捕集しにくい最透過粒子径(MPPS, 約0.3μm)の正体だ。逆に言えば、この谷の粒子が一番長く空気中を漂い、肺の奥にも届きやすい。
🙋
Cunningham補正係数って何ですか?なぜ補正が必要なんですか?
🎓
Stokesの法則は流体を「連続体」として扱っているけど、粒径が空気分子の平均自由行程(常温常圧で約65nm)に近づくと、その仮定が崩れてくる。100nm以下の粒子は空気分子との「すべり流れ(slip flow)」が起きて、実際の抵抗が Stokes 則より小さくなる。Cunningham 補正係数 Cc ≥ 1 を掛けることで、より速い沈降速度・大きな拡散係数が得られる。アニメで微粒子を密度や温度を変えながら見ると、補正の効きが沈着率に反映されるよ。
🙋
吸入薬では粒径が非常に重要らしいですが、なぜですか?
🎓
肺の中での沈着場所が粒径によって大きく変わるからだ。10μm以上は鼻腔・口腔で慣性衝突して捕捉される。5〜10μm は気管支。1〜5μm(MMAD、マス中央空気動力学径)は気管支末端から肺胞に到達できる。吸入薬はこの 1〜5μm がターゲットだ。0.5μm以下は拡散で壁に取られにくく呼気で排出されやすいので効率が下がる。だから定量噴霧式吸入器(MDI)の設計は非常に精密な粒径制御が必要なんだ。
🙋
クリーンルームで重要な「Stokes数」って何ですか?
🎓
Stokes数 Stk = τU/R(τ:粒子緩和時間、U:気流速度、R:特性長)は、粒子が曲がる気流に追随できるかどうかの指標だ。Stk ≫ 1 だと粒子は気流が曲がっても直進して壁に衝突する(慣性衝突沈着)。Stk ≪ 1 だと流れに乗って表面を通過する。このツールの U字曲線の右肩上がりは、まさに Stk が大きくなって慣性衝突が効いてくる領域だよ。
🙋
CFDでエアロゾル沈着をシミュレーションするにはどうするんですか?
🎓
主に2つのアプローチがある。① ラグランジュ粒子追跡(DPM: Discrete Phase Model): 個々の粒子軌跡を追跡する。慣性衝突・重力沈降の精度が高い。② オイラー方法(対流拡散方程式を解く): 粒子を連続体として扱い濃度分布を計算する。拡散沈着に向く。OpenFOAM の lagrangianParticle や Fluent の DPM モデルが実用で使われている。このツールのアニメは①の超簡略版だと思ってくれればいい。

よくある質問

粒子 Reynolds 数 Re = ρf × vs × d / μ < 1 の範囲(Stokes 流れ域)で有効です。d < 50μm(空気中、標準密度粒子)はほぼ適用可能。Re > 1 になると気流剥離が生じ、Stokes 則は過大評価になります。大きな粒子では Schiller-Naumann 等の補正抗力係数モデルを使用します。
PM10(粒径 < 10μm)は鼻腔〜気管支で沈着。PM2.5(< 2.5μm)は細気管支・肺胞まで到達でき、血液中に侵入する可能性があります。WHO ガイドライン(2021年改訂): PM2.5 は年平均 5μg/m³、日平均 15μg/m³。PM10 は年平均 15μg/m³。日本の環境基準はPM2.5 が年平均 15μg/m³ 以下・日平均 35μg/m³ 以下です。
HEPA フィルタの捕集機構は拡散(小粒子)・遮断・慣性衝突(大粒子)の3つです。拡散は粒径が小さいほど効果的、慣性衝突は大きいほど効果的、その中間の約 0.3μm が最も捕集しにくい「最透過粒子径(MPPS)」です。HEPA 規格(JIS)はこの 0.3μm での捕集効率 99.97% 以上を要求しています。本ツールの U字曲線の谷がこの MPPS に対応します。
発生源近傍でのフード設計では、粒径別の Stokes 沈降速度から「自然沈降の前にフードで捕捉できる最小フード面積速度(face velocity)」を計算できます。10μm 以上は素早く沈降するので低面積速度でも捕集できますが、1μm 以下はブラウン拡散が支配的で排気フローに乗らせることが重要です。このツールの沈降速度と Stokes 数を参考に設計してください。
帯電した粒子が電場によって表面に引き寄せられる機構です。空気中の粒子は自然に帯電することが多く、Boltzmann 荷電分布に従います。静電集塵機(ESP)はこれを意図的に活用し高電圧で粒子を帯電させて収集電極に沈着させます。クリーンルームの防塵や煙突排煙処理に使われています。このシミュレーターでは静電沈着は計算していませんが、実際の設計では重要な考慮事項です。
上気道(鼻腔〜気管)の CT データを基にしたリアリスティック形状の CFD 解析が広く行われています。気流は LES(Large Eddy Simulation)で計算し、粒子はラグランジュ法で追跡します。吸入薬のデバイス設計・製薬規制申請(FDA/EMA ガイダンス)での in silico 評価に活用されています。0.5〜5μm の肺深部到達効率の最適化が中心的な研究テーマです。

エアロゾル粒子沈降シミュレーターとは

本シミュレーターの物理モデルは、重力沈降・慣性衝突・ブラウン拡散の競合を統合的に扱う。まず、粒子の終端沈降速度 \(v_s\) は、Cunningham 補正係数 \(C_c\) を導入した Stokes 則により次式で与えられる。 $$ v_s = \frac{\rho_p d_p^2 g C_c}{18 \mu} $$ ここで \(\rho_p\) は粒子密度、\(d_p\) は粒径、\(\mu\) は流体粘度、\(g\) は重力加速度である。\(C_c\) は気体分子のすべり効果を補正し、特に 1 µm 以下の微粒子で顕著となる。一方、ブラウン拡散係数 \(D\) は Stokes-Einstein 関係式 $$ D = \frac{k_B T C_c}{3 \pi \mu d_p} $$ により算出される(\(k_B\):ボルツマン定数、\(T\):絶対温度)。慣性の指標である Stokes 数 \(Stk = \tau U / R\)(\(\tau\):緩和時間、\(U\):気流速度、\(R\):代表長さ)をリアルタイムで計算し、単一の気道(管)セグメントに対する沈着効率を機構別に評価して確率合成する。粒径が大きいほど慣性衝突と重力沈降が、小さいほどブラウン拡散が支配的となり、約 0.2〜0.5 µm の遷移領域で沈着効率が最小となる U字特性が現れる。本モデルにより、大気汚染粒子の沈着挙動やクリーンルーム内の微粒子除去効率、吸入薬の肺胞到達性を定量的に予測可能である。

実世界での応用

産業での実際の使用例
半導体製造業界では、クリーンルーム内の微粒子管理に本シミュレーターが活用されています。例えば、東京エレクトロン株式会社の成膜装置設計において、粒径0.1〜1μmのシリコン微粒子の沈降挙動を解析し、エアフィルター配置や気流設計の最適化に貢献。また、製薬業界では、アステラス製薬が吸入粉末薬剤の開発時に、粒子密度と温度変化による肺胞への沈着効率を予測し、製剤設計の効率化を実現しています。

研究・教育での活用
大学の環境工学やエアロゾル科学の講義で、学生が粒径・密度を変化させながらStokes数やブラウン拡散係数、沈着の U字曲線をリアルタイムに確認できる教材として利用。東京大学の大気環境研究室では、PM2.5の大気中沈降メカニズムを可視化し、支配的な沈着メカニズムの遷移を理解する演習に採用されています。

CAE解析との連携や実務での位置付け
本シミュレーターは、流体解析(CFD)の前処理ツールとして位置付けられます。例えば、自動車のキャビン内空調設計では、本ツールで算出したCunningham補正係数や沈降速度をANSYS Fluentの境界条件として入力し、粒子挙動の高精度予測を実現。実務では、実験コスト削減と設計サイクル短縮に寄与し、クリーンルーム認証や医薬品承認申請時のエビデンスとしても活用されています。

よくある誤解と注意点

「粒径が小さいほど重力でゆっくり沈むため、空気中に長く留まる」と思いがちですが、実際には粒径が0.1 µm以下の領域ではブラウン拡散が支配的になり、粒子は気流の乱れや分子衝突によって予想以上に壁面や肺胞へ高速で沈着します。そのため、クリーンルーム設計では重力沈降だけでなく拡散沈着の寄与も必ず考慮する必要があります。

「Cunningham補正係数は大きな粒子にのみ影響する」と思いがちですが、実際には粒径が1 µm以下になると補正係数が急増し、特に0.1 µm未満ではStokes沈降速度が数倍から数十倍に跳ね上がります。この補正を怠ると、医療吸入薬の肺内沈着率を過小評価する危険性があるため注意が必要です。

「温度を上げると空気粘性が下がるので沈降速度が増す」と思いがちですが、実際には温度上昇により空気の平均自由行程が長くなりCunningham補正係数が増加する一方、粘性係数自体は増加するため、両者のトレードオフが発生します。シミュレーションでは温度変化による粘性と補正係数の両方を同時に更新しないと、誤った沈降傾向を導く可能性がある点に注意が必要です。

使い方ガイド

  1. 粒径dを0.01~100 μmの範囲で入力します。クリーンルーム管理では0.5 μm、吸入薬開発では5~10 μmが一般的です
  2. 粒子密度ρpを100~10000 kg/m³の範囲で設定します
  3. 気体温度Tを-10~100℃の範囲で入力します
  4. 気流速度U(m/s)と管半径R(mm)を設定します。空気粘度はSutherland式で温度から自動計算されるため、粘度の手動入力はありません
  5. 入力を変更すると総沈着率・各機構の寄与・Stokes沈降速度・Cunningham補正係数Cc・拡散係数・Stokes数が自動更新され、アニメーションとU字曲線が連動します

具体的な計算例

粒径5 μm、密度1300 kg/m³、温度23℃の乳糖粒子では、Cunningham補正なしのStokes基礎式で沈降速度は約0.97 mm/sです。Cunningham補正係数はCc≈1.03で、補正後のStokes沈降速度は約1.00 mm/sになります。クリーンルーム気流0.45 m/sに対して沈降は遅く、拡散や気流輸送の影響が相対的に大きくなります。一方、粒径0.3μm付近では沈着効率が最小(MPPS)となり、最も壁に取られにくく長く浮遊します。

実務での注意点