パッチアンテナ設計と電磁界シミュレーション
理論と物理
パッチアンテナとは
パッチアンテナってスマホの中にも入ってるんですか?
GPSアンテナがまさにパッチアンテナだよ。薄い金属パッチを誘電体基板上に形成するだけで、低姿勢・低コスト・量産しやすい。5GのミリWave帯ではフェーズドアレイにして使うんだ。
え、あの薄い板みたいなのがアンテナなんですか? ダイポールアンテナみたいな棒状のイメージだったんですけど……
ざっくり言うと、グランドプレーン(接地導体)の上に誘電体基板を置いて、その上に半波長くらいの金属パッチを貼り付けたものだ。構造がシンプルだから、PCB(プリント基板)のエッチング工程でそのまま作れる。GPS受信機、Wi-Fiアクセスポイント、車載レーダー、衛星通信端末など、あらゆるところで使われているよ。
なるほど! でもそんなに薄いと、性能面でデメリットもあるんじゃないですか?
いいところに気づいたね。パッチアンテナの最大の弱点は帯域幅が狭いこと。典型的な矩形パッチだと比帯域幅が1〜5%程度しかない。あとは利得もせいぜい6〜9dBi程度で、パラボラアンテナのような高利得は得られない。でも薄さ・軽さ・コスト・量産性というメリットが圧倒的で、帯域幅の問題は設計テクニックやアレイ化で対処するのが実務の常套手段だ。
共振周波数とフリンジング効果
パッチの大きさでアンテナの周波数が決まるんですよね? どういう計算式になるんですか?
矩形パッチアンテナの基本モード(TM₁₀)の共振周波数は、まず有効誘電率を計算するところから始める。パッチ幅 $W$ に対して:
ここで $\varepsilon_r$ は基板の比誘電率、$h$ は基板厚。パッチの端部では電界が基板の外にはみ出す(フリンジング効果)ため、電気的なパッチ長は物理的な長さ $L$ より長くなる。この延長量 $\Delta L$ はHammerstadの式で近似できる:
これを使って有効パッチ長と共振周波数を求める:
$\Delta L$ って実際にどのくらいの大きさなんですか? 無視できるレベル?
全然無視できない。例えば FR-4基板($\varepsilon_r = 4.4$、$h = 1.6$ mm)で2.45GHz Wi-Fiアンテナを設計すると、$\Delta L$ は約0.7mmくらいになる。パッチ長が約29mmのところに両端で合計1.4mmの補正だから、共振周波数が約5%ずれる計算だ。GHz帯では5%のずれは致命的だから、フリンジングの補正を入れないと話にならない。
入力インピーダンスとキャビティモデル
パッチアンテナの入力インピーダンスってどう計算するんですか? 50Ωに合わせないといけないですよね?
キャビティモデルという考え方がある。パッチとグランドプレーンの間を「壁のない薄い共振器」とみなすんだ。上下は金属壁(PEC)、側面は開放端(磁壁PMC近似)。パッチ端($x = 0$ と $x = L$)の2つのスロットが放射源として機能する。
パッチ端部の放射コンダクタンス $G_1$ は:
2つのスロット間の相互コンダクタンス $G_{12}$ を含めると、パッチ端での入力インピーダンス(抵抗分)は:
この値は通常150〜300Ωと高い。50Ω系に整合するには、給電点をパッチの中心方向に移動させる(インセット給電)。インセット距離 $y_0$ での入力抵抗は:
おお、$\cos^2$ で変わるんですね! じゃあ $y_0$ を適切に選べば50Ωピッタリにできると。
その通り。例えば $R_{\text{in}}(\text{edge}) = 200$Ωなら、$\cos^2(\pi y_0 / L) = 50/200 = 0.25$ だから $y_0 / L \approx 0.33$ となる。実務では伝送線路モデルやキャビティモデルで初期値を求めて、最終調整はフルウェーブシミュレーションでやる。フリンジング、表面波、給電構造の影響は解析式だけでは捉えきれないからね。
放射パターンと指向性
パッチアンテナの放射パターンってどんな形になるんですか?
基本モード(TM₁₀)の矩形パッチは、ブロードサイド方向(基板に垂直な方向)に最大放射する。グランドプレーンがあるから裏面にはほとんど放射しない。E面(パッチ長方向)とH面(パッチ幅方向)で形が違う:
E面($\phi = 0$)の放射パターン:
H面($\phi = 90°$)の放射パターン:
指向性は概算で:
パッチ幅を広げれば指向性が上がるんですか?
H面のビーム幅が狭くなるから指向性は上がる。ただし $W$ を大きくしすぎると高次モード(TM₀₂など)が励振されてパターンが乱れる。実務では $W \approx \lambda_0 / (2\sqrt{\varepsilon_r}) \times 1.0 \sim 1.5$ の範囲に収めることが多い。それ以上の利得が必要ならアレイ化するのが定石だね。
帯域幅の推定
パッチアンテナの帯域幅が狭いのは分かったんですが、どのくらい狭いか事前に見積もれますか?
VSWR $\leq 2$ 基準の比帯域幅は、キャビティモデルのQ値から推定できる。全体のQ値 $Q_T$ は放射Q値 $Q_r$、導体損Q値 $Q_c$、誘電体損Q値 $Q_d$ の調和平均だ:
放射Q値の概算:
比帯域幅(VSWR $\leq 2$):
つまり基板を厚くすれば $Q_r$ が下がって帯域が広がるってことですね?
正解。基板厚 $h$ を増やすとQ値が下がって帯域は広がる。でもトレードオフがある。基板が厚くなると表面波モード(TM₀、TE₁等)が励振されて、放射効率が落ちたりアレイでの素子間結合が増えたりする。目安として $h < 0.02 \lambda_0$ なら表面波の影響は軽微。低誘電率基板($\varepsilon_r \leq 2.5$)を使うのも帯域拡大のセオリーだね。
GPS受信アンテナがパッチアンテナである理由
カーナビやスマートフォンのGPS受信機に搭載されているアンテナは、ほぼ全てパッチアンテナだ。理由は薄くて平たく、基板に直接プリントできるから。GPS衛星信号(L1帯 1.575GHz)を受信するには右旋円偏波(RHCP)特性が必要で、正方形パッチの対角を微妙にカット(隅切り)するか給電点を2点にすることで円偏波を実現する。「ほんの少しの非対称性」で円偏波が生まれる設計の妙は解析なしには直感的に理解しにくいが、シミュレーションで電流分布のアニメーションを見ると回転する電流ベクトルが一目瞭然だ。
キャビティモデルの物理的イメージ
- パッチ = 蓋のない共振箱:パッチとグランドプレーンの間の空間を薄い共振器とみなす。上下面はPEC(完全導体)、4つの側面は開放(磁壁PMC近似)。側面から電磁波が漏れ出て放射する。
- TM₁₀モード:パッチ長方向($L$方向)に半波長の定在波が立つ基本共振モード。両端のスロット(開放端)から同位相で放射するため、ブロードサイド方向に強め合う。
- フリンジング = 電界のはみ出し:パッチ端部の電界は物理的なエッジで急に終わるのではなく、基板の外にじわっとはみ出す。このため電気的なパッチ長は物理寸法より $2\Delta L$ だけ長くなる。
- 等価放射スロット:$x = 0$ と $x = L$ の開放端を幅 $W$、長さ $h$ の磁流スロットと等価に扱う。2つのスロットが $L_{\text{eff}}$ だけ離れたアレイとして放射パターンを計算できる。
パッチアンテナ設計パラメータ一覧
| パラメータ | 記号 | 典型値(2.45GHz Wi-Fi) | 影響 |
|---|---|---|---|
| パッチ長 | $L$ | 約29 mm | 共振周波数を決定 |
| パッチ幅 | $W$ | 約36 mm | 放射効率・インピーダンスに影響 |
| 基板厚 | $h$ | 1.6 mm | 帯域幅と効率のトレードオフ |
| 比誘電率 | $\varepsilon_r$ | 4.4(FR-4) | 小型化 vs 帯域幅 |
| 誘電正接 | $\tan\delta$ | 0.02(FR-4) | 誘電体損失・効率低下 |
| 導体厚 | $t$ | 35 μm(1 oz銅) | 導体損(高周波で重要) |
| インセット距離 | $y_0$ | 約10 mm | 入力インピーダンス整合 |
数値解法と実装
FEM(周波数領域)
パッチアンテナをシミュレーションするとき、どの手法を使うのが一般的なんですか?
最も広く使われているのは周波数領域FEM(有限要素法)だ。Ansys HFSSが代表格で、周波数ごとに定常状態の電磁界を解く。マクスウェル方程式を時間調和形に変換して、ベクトル波動方程式を解く:
ここで $k_0 = \omega/c$ は自由空間波数、$\mathbf{J}_s$ は励振源の電流密度。この方程式を弱形式に変換し、辺要素(Nedelec要素)で離散化すると、以下の連立方程式が得られる:
$[S]$ はカール-カール行列、$[T]$ は質量行列、$\{b\}$ は励振ベクトル。各周波数点で複素行列方程式を解く必要がある。
周波数ごとに行列を解くって、計算コストが高そうですね……
その通り。例えば S₁₁特性を200点の周波数で計算するなら、行列方程式を200回解くことになる。HFSSはアダプティブメッシュ(自動メッシュ細分化)と高速周波数掃引(ALPS: Adaptive Lanczos-Pade Sweep)を組み合わせて効率化している。単体パッチなら数分で終わるけど、64素子のフェーズドアレイだと数時間かかることもあるよ。
FDTD(時間領域)
FDTDってFEMと何が違うんですか?
FDTD(有限差分時間領域法)はYeeセルという直交格子上でマクスウェル方程式を時間ステップで直接解く。ガウスパルスのような広帯域信号を1回の計算で入力して、時間応答をFFTすれば一気に広帯域の周波数特性が取れるのが最大の強みだ。
Yeeアルゴリズムの更新式($E_x$成分の例):
安定条件(Courant条件):
直交格子ってことは、パッチの斜めの形状とか曲面は苦手なんですか?
鋭い指摘だね。矩形パッチなら直交格子と相性抜群だけど、円形パッチやEスロットのような形状はステアケース近似(階段状の近似)になって精度が落ちる。CST Studio SuiteのPBA(Perfect Boundary Approximation)やサブグリッド技術でかなり改善されてるけど、原理的にはFEMの方が曲面形状には有利だ。
MoM(モーメント法)
もう一つ、MoMっていう手法も聞いたことがあるんですけど……
MoM(モーメント法)は積分方程式法とも呼ばれる。導体表面の電流分布だけを未知数にするから、3D体積メッシュが不要で自由空間が自動的に考慮される。大規模なアレイアンテナや航空機搭載アンテナのように開放空間が広い問題で特に有効だ。
電界積分方程式(EFIE):
ここで $G(\mathbf{r},\mathbf{r}') = e^{-jk_0|\mathbf{r}-\mathbf{r}'|}/(4\pi|\mathbf{r}-\mathbf{r}'|)$ は自由空間グリーン関数。RWG(Rao-Wilton-Glisson)基底関数で離散化する。
でもMoMだと誘電体基板の影響はどう扱うんですか?
いい質問だ。多層基板の場合は空間グリーン関数の代わりに層状媒質のグリーン関数を使う。ソモーフェルト積分が必要になって計算が面倒だけど、Momentumなどのソフトでは内部で自動処理してくれる。FEMやFDTDと違って空気領域のメッシュが不要だから、薄い基板上のパッチアンテナには非常に効率的だよ。
辺要素とスプリアスモード
辺要素ってわざわざ使う理由があるんですか? 普通の節点要素じゃダメなんですか?
電磁場のFEMでは辺要素(Nedelec要素)が必須だ。節点要素でベクトル場を扱うと、$\nabla \cdot \mathbf{E} = 0$ の条件が自動的に満たされないため、物理的に存在しない「スプリアスモード」(偽の共振モード)が大量に現れる。辺要素は電界の接線成分の連続性を自然に保証し、スプリアス解を排除できるんだ。
吸収境界条件
アンテナは空間に放射するのに、計算領域は有限ですよね? 端っこはどう処理するんですか?
これはアンテナ解析の核心的な問題だね。主に2つの方法がある:
- PML(Perfectly Matched Layer):計算領域の外側に「電磁波を完全に吸収する仮想的な層」を置く。FEMでもFDTDでも使える。現在の標準手法で、反射を$-40$dB以下に抑えられる。
- ABC(Absorbing Boundary Condition):境界面に放射条件を直接課す。Mur条件やSilver-Muller条件が代表的。PMLより精度は劣るがメモリ消費が少ない。
PMLの層をケチると何が起きるんですか?
PML層が薄すぎたり、パッチから近すぎると、放射波が壁で反射してパッチに戻ってきてS₁₁が歪む。最低でもパッチから$\lambda/4$以上離すのが目安。FDTDでは8〜12層のPMLセルが推奨されることが多い。HFSSではRadiation Boundary(放射境界条件)を使うことが多くて、これも$\lambda/4$の距離が必要だね。
3手法の使い分け
| 手法 | 得意な場面 | 苦手な場面 | 代表ツール |
|---|---|---|---|
| FEM(周波数領域) | 単体パッチの精密設計、不均質材料 | 超広帯域特性の取得 | Ansys HFSS, COMSOL |
| FDTD(時間領域) | 広帯域特性、過渡応答、非線形デバイス | 曲面形状、電気的に小さい構造 | CST Studio Suite |
| MoM(積分方程式) | 大規模アレイ、薄い多層基板 | 不均質体積構造 | FEKO, Momentum (Keysight) |
実践ガイド
設計フロー
実際にパッチアンテナを設計するとき、最初の一歩は何からですか?
パッチアンテナの設計フローは大きく4ステップだ:
- 仕様の確定:中心周波数、帯域幅、利得、偏波、VSWRの目標値を明確にする
- 解析式で初期寸法を算出:先ほどの共振周波数の式から $L$、$W$ を求め、インセット距離 $y_0$ を計算。基板材料($\varepsilon_r$、$\tan\delta$、$h$)を選定
- フルウェーブシミュレーション:初期寸法でモデルを作り、S₁₁、放射パターン、利得を確認。パラメトリックスイープで寸法を微調整
- 試作・実測・フィードバック:シミュレーション結果をもとに試作し、ネットワークアナライザで実測。乖離があればモデルを修正して再シミュレーション
ステップ2の解析式でだいたい合うんですか? いきなりシミュレーションに飛ばしちゃダメですか?
解析式で出る初期値は実際の共振周波数から5〜10%くらいずれることもある。でも初期値なしにシミュレーションを始めると、パラメータ空間が広すぎて最適解に到達するまでに何十回も回すハメになる。解析式で「だいたいこの辺り」を絞り込んでからシミュレーションで仕上げるのが最も効率的だよ。
メッシュ戦略
パッチアンテナのメッシュで特に気をつけるポイントってどこですか?
パッチアンテナ特有のメッシュ戦略があるよ:
- パッチ端部(放射スロット):フリンジング電界の変化が激しいので最も細かくする。端部から$\lambda/50$程度の要素サイズ
- 基板厚方向:基板が薄い($h \ll \lambda$)のでアスペクト比に注意。厚さ方向に最低3〜4層の要素が必要
- 給電点近傍:同軸プローブ給電の場合、プローブ周囲に電流が集中するため局所細分化
- 空気領域:パッチから$\lambda/4$以上離れた場所は粗いメッシュでOK。近傍場と遠方場の遷移領域では$\lambda/10$が目安
HFSSのアダプティブメッシュに全部任せちゃっていいですか?
HFSSのアダプティブメッシュは優秀だけど、鵜呑みは危険。初期メッシュが粗すぎると基板厚方向に要素が1層しかなくて、そこからアダプティブに細分化しても正しい場の分布に収束しないことがある。特に薄い基板では、最初から厚さ方向の分割数を指定(Mesh Operationで "Length Based" を設定)するのがベストプラクティスだ。S₁₁の収束基準は $\Delta S < 0.02$ を推奨するよ。
給電モデリング
マイクロストリップ給電と同軸プローブ給電でモデルの作り方って変わりますか?
大きく変わる。主な給電方式のモデリングポイントはこうだ:
| 給電方式 | モデリング要点 | 注意事項 |
|---|---|---|
| マイクロストリップ線路(インセット給電) | Wave Port をストリップ線路の端面に設定 | インセットのギャップ幅がインピーダンスに影響 |
| 同軸プローブ | 基板を貫通するピンを Lumped Port で励振 | プローブのインダクタンス成分が周波数で変化 |
| アパーチャ結合 | グランド面のスロットを介して裏面ストリップから給電 | スロット寸法の最適化が必要、広帯域化に有利 |
| 近接結合 | 中間層のストリップがパッチと電磁結合 | 多層基板モデルが必要、高い帯域幅が得られる |
結果の検証
シミュレーション結果が正しいかどうか、どうやって確認するんですか?
パッチアンテナの検証チェックリストをまとめるとこうなる:
- 共振周波数:解析式(伝送線路モデル)の値と5%以内で一致するか
- 入力インピーダンス:共振時にリアクタンスがゼロを横切り、抵抗分が50Ω付近か。スミスチャートでループが原点近くを通るか
- 放射パターン:E面・H面ともにブロードサイド方向にメインローブがあるか。裏面放射がグランドプレーンで十分抑制されているか
- 効率:FR-4基板の場合60〜80%、低損失基板(Rogers等)では90%以上が目安
- メッシュ収束:メッシュを1段階細かくしてS₁₁が変わらないこと
スマートフォンの中のパッチアンテナ
最新のスマートフォンには驚くほど多くのアンテナが詰め込まれている。Wi-Fi 2.4/5/6GHz、Bluetooth、GPS、4G LTE、5G Sub-6GHz、5Gミリ波(mmWave)......これらの一部がパッチやスロットの形式で基板に実装され、合計10本を超えることも珍しくない。特に5Gミリ波向けには端末の側面にフェーズドアレイパッチモジュール(4x1や2x2配列)が配置され、手で持ったときにどの向きでもビームが確保できるよう設計される。全素子の相互結合と人体近傍でのパターン劣化を同時にシミュレーションするのが現代のアンテナ設計の現場だ。
初心者の落とし穴:空気領域のサイズ
「放射境界をパッチのすぐ外に置いたら、S₁₁が全然合わなくて半日悩んだ」という話は実務でしょっちゅう聞く。パッチアンテナのシミュレーションでは、パッチの周囲に十分な空気領域(最低$\lambda/4$、できれば$\lambda/2$)を確保し、その外側にPMLや放射境界条件を置く必要がある。空気領域が狭いと放射波が壁で反射してパッチに戻り、共振周波数やインピーダンスが大きく狂う。
ソフトウェア比較
主要ツール比較
パッチアンテナの設計に使えるソフトって、結局どれがいいんですか?
アンテナ設計で使われる主要ツールを比較してみよう。それぞれ得意な解法が異なるんだ:
| ツール | 開発元 | 主要解法 | 強み | パッチアンテナ向き |
|---|---|---|---|---|
| Ansys HFSS | Ansys Inc. | FEM(周波数領域) | アダプティブメッシュ、精度 | 単体〜中規模アレイ |
| CST Studio Suite | Dassault Systemes | FDTD + FEM + MoM | 広帯域解析、多手法切替 | 広帯域・過渡応答 |
| COMSOL(RF Module) | COMSOL AB | FEM | マルチフィジクス連成 | 熱・構造連成が必要な場合 |
| FEKO | Altair | MoM + MLFMM | 大規模アレイ、搭載解析 | 大規模アレイ・プラットフォーム |
| Keysight Momentum | Keysight | MoM(2.5D) | 多層基板の高速解析 | プレーナ構造に特化 |
予算がなくてもパッチアンテナのシミュレーションができる方法ってありますか?
オープンソース選択肢
学生や個人なら無料で使えるツールもあるよ:
- openEMS:C++/MATLAB/Octave対応のFDTDソルバー。パッチアンテナのチュートリアルが充実していて、入門に最適
- NEC2/xnec2c:ワイヤーアンテナ向けのMoMソルバー。パッチには不向きだが基礎学習に使える
- MEEP(MIT):Python対応のFDTDライブラリ。研究用途で柔軟性が高い
- Elmer FEM:汎用FEMソルバーに電磁場モジュールあり。低周波向きだが学習には使える
openEMSって実用レベルの精度出るんですか?
単体パッチの設計なら十分実用レベルだよ。HFSSの結果と共振周波数が1%以内で一致した報告も多い。ただしGUIがなくスクリプトベースだから、初心者にはとっつきにくい。あとアダプティブメッシュがないからメッシュの品質は自分で管理する必要がある。
選定の指針
結局、最初にどれを選べばいいですか?
目的別に整理するとこうなる:
- 業務でパッチアンテナの設計を頻繁にやる → Ansys HFSS(精度・信頼性でデファクト)
- 広帯域やUWBアンテナも扱う → CST Studio Suite(FDTD + FEM切替が便利)
- アンテナ + 筐体の統合解析 → FEKO(MLFMMで大規模対応)
- 熱設計も同時にやりたい → COMSOL(マルチフィジクス連成)
- PCB上のアンテナ、SIと一緒に → Keysight Momentum(回路シミュレータとの連携)
- 学習・研究用途で無料 → openEMS(FDTD、チュートリアル豊富)
トラブルシューティング
共振が見つからない
S₁₁をプロットしたんですけど、共振のディップがどこにも見当たらないんです……
よくある原因と対処法をまとめるよ:
- 周波数範囲が狭すぎる:解析式で計算した共振周波数の$\pm 30$%くらいをカバーすること。基板パラメータの誤差で大きくずれることがある
- 基板の誘電率が間違っている:FR-4の$\varepsilon_r$は4.2〜4.8で、周波数依存性もある。データシートの値(通常1MHz測定)をGHz帯に使うと10%以上ずれることがある
- ポートの設定ミス:Wave Portの大きさが不適切(マイクロストリップ幅の8〜10倍が必要)、またはLumped Portの方向が間違っている
- グランドプレーンの接続忘れ:3Dモデルでパッチとグランドが電気的に接続されていない(浮いている)
反射損失が改善しない(S₁₁ > -10dB)
共振は見つかったんですけど、S₁₁が-8dBくらいまでしか下がらなくて……
インピーダンス整合が不十分ということだ。以下を確認してみて:
- インセット距離の調整:$y_0$ を変えてスミスチャートでインピーダンス軌跡を確認。$R_{\text{in}} = 50\Omega$ になる位置を探す
- 同軸プローブの位置:プローブ給電の場合、プローブのインダクタンスが整合を崩すことがある。プローブ径やパッチ上の位置を微調整
- 給電線路のインピーダンス:マイクロストリップ線路自体が50Ωになっているか確認。基板厚と線路幅の関係を再計算
- 基板損失の影響:FR-4のような高損失基板では、損失がQ値を下げて広帯域にはなるが、効率低下でS₁₁のディップが浅くなることがある
放射パターンの異常
放射パターンがブロードサイドに向かないで、変な方向に最大放射してるんです。
いくつかの可能性がある:
- 高次モードの励振:パッチ寸法が大きすぎてTM₁₀以外のモード(TM₀₂、TM₂₀等)が共振している可能性。電流分布のアニメーションで確認
- グランドプレーンのサイズ:有限グランドプレーンの端部回折でパターンが歪む。グランドをパッチの各辺から$\lambda/2$以上は延長すること
- 表面波の影響:厚い基板や高誘電率基板では表面波がグランド端で散乱してサイドローブが増大する
- 計算領域の問題:PMLまたは放射境界が近すぎると反射で放射パターンが歪む
シミュレーションと実測の乖離
シミュレーションではバッチリだったのに、試作したら共振周波数が100MHzもずれました……
これは実務で最もよくある問題だ。原因の大部分は以下の5つ:
| 原因 | 典型的なずれ | 対策 |
|---|---|---|
| 基板誘電率の誤差 | 2〜5%の周波数ずれ | 高周波測定値を使用、Split-post法で実測 |
| 製造公差(エッチング精度) | 50〜100μmの寸法誤差 | 公差解析をシミュレーションで実施 |
| SMAコネクタの影響 | インピーダンス劣化 | コネクタまでモデルに含める |
| はんだの影響 | プローブ径の変化 | はんだフィレットをモデルに反映 |
| 測定ケーブルの放射 | パターン歪み | フェライトチョークをケーブルに装着 |
特にFR-4基板は$\varepsilon_r$のロット間ばらつきが大きくて、4.2と表記されていても4.0〜4.6の範囲で変動する。高精度が必要な場合はRogers RT/duroid($\varepsilon_r$公差$\pm 0.04$以内)のような高周波基板を使うか、試作前に基板の誘電率を実測するのが鉄則だ。
「解析が合わない」と思ったら
- まず電流分布を見る:パッチ上の電流分布アニメーションを確認。TM₁₀モードが正しく励振されているかが一目で分かる
- 最小モデルで再現する:スロットや切り欠きを全て外した最もシンプルな矩形パッチで、理論値と合うか確認する
- 1つだけ変えて再実行:基板厚、誘電率、給電位置......一度に複数変えると何が効いたか分からなくなる
- 別の解法で検算する:FEMの結果をFDTDやMoMで検証。複数手法で一致すれば信頼性が高い
なった
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