ホーンアンテナ — 理論・ゲイン計算・最適設計・CAEシミュレーション

カテゴリ: 電磁場解析 | 2026-09-30 改稿
Pyramidal horn antenna gain and radiation pattern simulation with aperture phase error visualization
ピラミダルホーンアンテナの開口面電界分布とゲイン計算の概念図

理論:導波管の口を広げる

概要

🙋

アンテナの測定室に、ラッパのような形のアンテナが基準として置いてありました。なぜホーンが基準に使われるんですか?

🎓

構造が単純で、利得が寸法からかなり正確に計算できるからだよ。ホーンは導波管の口を少しずつ広げて、電波を空間へなめらかに送り出す。共振を使うアンテナと違って広い周波数で使えて、反射も小さい。だから「標準利得ホーン」として、ほかのアンテナの利得を比べて決める基準に使われるんだ。

利得と開口効率

$$ G = e_{ap}\,\frac{4\pi A}{\lambda^2}, \qquad A = a_1 b_1 $$

$A$ は開口の面積、$e_{ap}$ は開口効率。開口面の電界が一様で位相もそろっていれば効率は1になるが、実際のホーンでは次の2つの理由で下がる。

  • 振幅の分布:導波管の基本モード(TE10)の電界は、H面方向に余弦状に分布する。これだけで効率は $8/\pi^2 \approx 0.81$ になる。
  • 位相のずれ:ホーンの頂点から開口までの距離は、中央より端のほうが長い。その分だけ開口の端で位相が遅れ、正面方向で電界が打ち消し合う。

位相誤差と最適ホーン

$$ s = \frac{W^2}{8\lambda\rho}, \qquad s_H = \frac{3}{8},\quad s_E = \frac{1}{4} \;\;(\text{optimum}) $$

$W$ は開口の幅、$\rho$ は頂点から開口までの距離、$s$ は開口の端での位相の遅れを波長単位で表したもの。決まった長さのまま開口を広げると、面積は増えるが $s$ も増え、あるところで利得が最大になる。その条件が H面で $s = 3/8$、E面で $s = 1/4$ で、寸法は次のようになる。

$$ a_1 \approx \sqrt{3\lambda\rho_h}, \qquad b_1 \approx \sqrt{2\lambda\rho_e} $$
Coffee Break よもやま話

マイクロ波の時代を開いたホーン

ホーンアンテナの研究が本格化したのは1930年代で、米国のベル研究所などで導波管の実験とともに発展した。1965年、ベル研究所のペンジアスとウィルソンは、衛星通信用の大型ホーンアンテナで、どの方向から来るかわからない弱い雑音を見つけた。原因を探して鳩の巣まで掃除したが消えず、それが宇宙の始まりの名残である宇宙マイクロ波背景放射だった。雑音が小さく特性が計算できるホーンだったからこそ、わずかな余分の雑音に気づけたのである。

計算例

開口面の数値積分で効率を確かめる

開口面の電界を、H面は余弦分布、E面は一様分布とし、両方向に2次の位相誤差をつけて数値積分した。位相誤差なしでは効率0.811($8/\pi^2$)、最適ホーンの条件では0.514で、よく知られた「約51%」が得られた。同じ開口のままホーンの長さを変えたときの利得の変化は次のとおり。

ホーンの長さ(最適比)開口効率利得の変化
2倍0.723+1.48 dB
1.33倍0.627+0.86 dB
最適(1倍)0.5140 dB
0.67倍0.295−2.42 dB
0.5倍0.140−5.64 dB
🎓

「最適ホーン」は長さを決めたときに利得が最大になる形であって、効率が最大の形ではないんだ。長さに余裕があれば、開口を変えずに長くするだけで1 dB 以上利得が上がる。逆に、筐体に収めるために短くすると急に利得が落ちる。設計では、まず許される長さを決めて、それに合う開口を選ぶ順番になる。

10 GHz・20 dBi のホーンを設計する

波長 $\lambda = 30$ mm、目標利得100倍(20 dBi)、開口効率0.514 とすると、必要な開口面積は約0.0139 m²。最適ホーンの縦横比(E面の幅が H面の約0.81倍)とすると、開口は約13.1 cm × 10.6 cm。頂点から開口までの距離は H面・E面とも約19 cm となり、両方がほぼそろうので実際に作れる形になる。

$$ R_{ff} = \frac{2D^2}{\lambda} $$

このホーンの遠方界の目安距離は約1.2 m。利得を測るときは、送受のアンテナをこれ以上離さないと、近傍の位相の影響で利得が小さく測られる。

電磁界解析と測定

解析の設定

  • 励振:導波管の端に導波管ポートを置き、基本モード(TE10)で励振する。ポートの手前に導波管の直線部分を少し残すと、高次モードが減衰してから開口に向かう。
  • 対称面:TE10 で励振する角錐ホーンは、2つの対称面をもつ。電界に垂直な面を完全電気導体、平行な面を完全磁気導体として1/4モデルにすると、計算量が4分の1になる。
  • 放射境界:開口から吸収境界(PMLなど)までは少なくとも1/4波長以上離す。遠方界はこの内側の面での近傍界から変換して求める。
  • メッシュ:要素の大きさは波長の1/10〜1/20程度。開口の縁や給電部の段差は細かくする。

検証

解析の利得が、上の開口効率の式で計算した値と0.5 dB 程度以内で合えば、モデルはおおむね妥当。ずれが大きいときは、ポートのモードの指定、放射境界の近さ、遠方界変換の面の位置を疑う。測定では、2つの同じホーンを向かい合わせて受信電力から利得を求める2アンテナ法や、標準利得ホーンと比べる利得比較法が使われる。

Coffee Break よもやま話

ホーンの中の「くし」

衛星通信や電波望遠鏡のホーンの内側をのぞくと、細かい溝がずらりと並んでいることがある。コルゲートホーンと呼ばれ、溝の深さを約1/4波長にすると、壁の近くで電界が小さくなり、E面とH面の放射パターンがそろう。交差偏波も小さくなるので、反射鏡の一次放射器として使うと効率が上がる。単純な角錐ホーンの解析に慣れたら、溝の深さを変えてパターンがどう変わるかを解析してみると、周期構造の面白さがよくわかる。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
開口効率を1として計算利得を約3 dB 高く見積もる最適ホーンなら約0.51を使う
開口だけ広げて長さを変えない位相誤差で利得が下がる長さと開口を一緒に決める
遠方界より近い距離で測る利得を小さく測る$2D^2/\lambda$ 以上離す
吸収境界が開口に近すぎるパターンと利得がずれる1/4波長以上離す
導波管の高次モードを無視パターンが非対称になる給電部の直線部分を確保
🙋

周波数や大きさを変えて試してみたいです。

🎓

アンテナ利得シミュレーターで開口と利得の関係、アンテナ放射パターンシミュレーターで放射パターンを確かめられるよ。通信距離の見積もりはフリスの伝達公式シミュレーターとリンクバジェット計算。利得と指向性の違いはアンテナの利得と指向性、さらに大きな利得が必要なときの反射鏡はパラボラアンテナの記事にまとめてある。

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