渦励起振動(VIV)

カテゴリ: 流体解析・流体構造連成 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for viv theory - technical simulation diagram
渦励起振動(VIV)

理論:渦の周波数と構造の固有振動数

概要

🙋

煙突や海中のパイプが、風や潮の流れで揺れることがあると聞きました。

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円柱の後ろには、左右交互に渦が放出される。そのたびに横向きの力が交互にかかるので、渦の周波数が構造の固有振動数に近いと共振して大きく揺れる。これが渦励起振動だ。いったん揺れ始めると、渦の放出が構造の振動に引き込まれ、流速が少し変わっても周波数がそろったままになる。これをロックインと呼ぶ。設計ではまず危険な流速を求め、次に振幅を見積もり、必要なら減衰や形状で対策する。

渦の周波数と換算流速

$$ f_s = \frac{St\,U}{D},\qquad U_r = \frac{U}{f_n D},\qquad U_{cr} = \frac{f_n D}{St} $$

St はストローハル数で、円柱では広い範囲で約0.2。換算流速 Ur が4〜8の範囲で振動が大きくなり、5付近(U = Ucr)が最大になる。

振幅の見積もり

$$ S_G = \frac{2\pi^3 St^2\, m\,\zeta}{\rho D^2},\qquad \frac{A}{D} = \frac{1.29}{(1 + 0.43\,S_G)^{3.35}},\qquad m^* = \frac{m}{\rho \pi D^2/4} $$

m は長さ1 mあたりの質量、ζ は減衰比、ρ は流体の密度。S_G が大きいほど振幅は小さい。m* は質量比で、水中の構造では小さくなり、振動が起きる流速の範囲も広がる。

Coffee Break よもやま話

タコマナローズ橋は渦励起振動ではない

1940年に風で崩れ落ちたアメリカのタコマナローズ橋は、渦励起振動の例として紹介されることがある。しかし現在では、崩壊を起こしたのはねじれのフラッター(空力的な自励振動)と考えられている。渦励起振動は振幅がある大きさで頭打ちになるのに対し、フラッターは風速が限界を超えると振幅が増え続ける。両者は対策も解析方法も違うので、区別することが大切だ。一方、渦励起振動そのものは煙突、送電線、海洋のライザー管などで今も実際に問題になっている。

計算例

例1:鋼製煙突(直径2 m・固有振動数1 Hz)

条件S_GA/D振幅
1,000 kg/m・減衰比0.5%2.60.1060.21 m
2,000 kg/m・減衰比0.5%5.20.02651 mm
1,000 kg/m・減衰比2%10.30.0049 mm

危険な風速は 1×2/0.2 = 10 m/s(このときレイノルズ数は約1.3×10⁶)。風速5 m/sでは換算流速2.5で共振せず、15 m/sでは7.5でロックインの範囲の端にあたる。質量比は約265と大きい。

例2:海中のライザー管(直径0.3 m・固有振動数0.5 Hz)

潮流渦の周波数換算流速
0.5 m/s0.33 Hz3.3
1.0 m/s0.67 Hz6.7
1.5 m/s1.00 Hz10.0

1 mあたり150 kg・減衰比2%として、質量比は約2.1、S_G は0.08、振幅は A/D 1.15(約0.35 m)。危険な流速は0.75 m/s。

🙋

同じ減衰比2%なのに、煙突は9 mmでライザー管は直径と同じくらい揺れるんですね。

🎓

違いは流体の密度だ。空気は水の約850分の1しかないので、煙突の重さに比べて空気の力はとても小さく、少し減衰があれば振動は抑えられる。水中では管の重さと周りの水の重さが同程度になり、減衰で抑えるのが難しい。さらに質量比が小さいとロックインする流速の範囲が広がり、換算流速10の1.5 m/sでもまだ揺れ続けることがある。このため海洋ではらせん状のストレーキ(ひれ)やフェアリングで渦の放出そのものを乱す対策が使われる。一方、揺れ続けると疲労で壊れるので、振幅だけでなく繰り返し回数も評価する。

CFDでの扱い

  1. まず St と換算流速で危険な流速を求め、計算する流速を絞る。
  2. 時間刻みは放出周期の1/100程度(煙突なら0.01秒、ライザー管なら0.015秒)。
  3. 2次元は傾向をつかむ用途に限り、定量評価は軸方向に3〜4D以上の3次元で行う。
  4. 構造は質量・ばね・減衰でモデル化し、流体と双方向に連成させる。
  5. 流速を少しずつ上げ下げし、ロックインの範囲と履歴を確かめる。
Coffee Break よもやま話

「計算では揺れなかった」

ある工場の排気筒で、完成後に風速10 m/s前後のときだけ大きく揺れる現象が起きた。設計時のCFDでは、風速15 m/sと20 m/sの強風条件だけを計算しており、そこでは振動は小さかった。渦励起振動は強い風ではなく、固有振動数と渦の周波数が合う特定の風速で起きるので、その風速を計算していなかったのが原因だった。最終的にらせん状のストレーキを取り付けて揺れは収まった。計算条件を決める前に、危険な風速を手計算で求めておくことが大切だ。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
強風条件だけを計算危険な流速を見逃すUcr を先に求める
2次元で振幅を評価揚力を過大評価3次元・十分な軸長
時間刻みが粗い渦の放出がずれる周期の1/100
付加質量を無視固有振動数を誤る水中の固有値を使う
フラッターと混同対策を誤る振幅の頭打ちを確認
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