渦励起振動(VIV)
理論:渦の周波数と構造の固有振動数
概要
煙突や海中のパイプが、風や潮の流れで揺れることがあると聞きました。
円柱の後ろには、左右交互に渦が放出される。そのたびに横向きの力が交互にかかるので、渦の周波数が構造の固有振動数に近いと共振して大きく揺れる。これが渦励起振動だ。いったん揺れ始めると、渦の放出が構造の振動に引き込まれ、流速が少し変わっても周波数がそろったままになる。これをロックインと呼ぶ。設計ではまず危険な流速を求め、次に振幅を見積もり、必要なら減衰や形状で対策する。
渦の周波数と換算流速
St はストローハル数で、円柱では広い範囲で約0.2。換算流速 Ur が4〜8の範囲で振動が大きくなり、5付近(U = Ucr)が最大になる。
振幅の見積もり
m は長さ1 mあたりの質量、ζ は減衰比、ρ は流体の密度。S_G が大きいほど振幅は小さい。m* は質量比で、水中の構造では小さくなり、振動が起きる流速の範囲も広がる。
タコマナローズ橋は渦励起振動ではない
1940年に風で崩れ落ちたアメリカのタコマナローズ橋は、渦励起振動の例として紹介されることがある。しかし現在では、崩壊を起こしたのはねじれのフラッター(空力的な自励振動)と考えられている。渦励起振動は振幅がある大きさで頭打ちになるのに対し、フラッターは風速が限界を超えると振幅が増え続ける。両者は対策も解析方法も違うので、区別することが大切だ。一方、渦励起振動そのものは煙突、送電線、海洋のライザー管などで今も実際に問題になっている。
計算例
例1:鋼製煙突(直径2 m・固有振動数1 Hz)
| 条件 | S_G | A/D | 振幅 |
|---|---|---|---|
| 1,000 kg/m・減衰比0.5% | 2.6 | 0.106 | 0.21 m |
| 2,000 kg/m・減衰比0.5% | 5.2 | 0.026 | 51 mm |
| 1,000 kg/m・減衰比2% | 10.3 | 0.004 | 9 mm |
危険な風速は 1×2/0.2 = 10 m/s(このときレイノルズ数は約1.3×10⁶)。風速5 m/sでは換算流速2.5で共振せず、15 m/sでは7.5でロックインの範囲の端にあたる。質量比は約265と大きい。
例2:海中のライザー管(直径0.3 m・固有振動数0.5 Hz)
| 潮流 | 渦の周波数 | 換算流速 |
|---|---|---|
| 0.5 m/s | 0.33 Hz | 3.3 |
| 1.0 m/s | 0.67 Hz | 6.7 |
| 1.5 m/s | 1.00 Hz | 10.0 |
1 mあたり150 kg・減衰比2%として、質量比は約2.1、S_G は0.08、振幅は A/D 1.15(約0.35 m)。危険な流速は0.75 m/s。
同じ減衰比2%なのに、煙突は9 mmでライザー管は直径と同じくらい揺れるんですね。
違いは流体の密度だ。空気は水の約850分の1しかないので、煙突の重さに比べて空気の力はとても小さく、少し減衰があれば振動は抑えられる。水中では管の重さと周りの水の重さが同程度になり、減衰で抑えるのが難しい。さらに質量比が小さいとロックインする流速の範囲が広がり、換算流速10の1.5 m/sでもまだ揺れ続けることがある。このため海洋ではらせん状のストレーキ(ひれ)やフェアリングで渦の放出そのものを乱す対策が使われる。一方、揺れ続けると疲労で壊れるので、振幅だけでなく繰り返し回数も評価する。
CFDでの扱い
- まず St と換算流速で危険な流速を求め、計算する流速を絞る。
- 時間刻みは放出周期の1/100程度(煙突なら0.01秒、ライザー管なら0.015秒)。
- 2次元は傾向をつかむ用途に限り、定量評価は軸方向に3〜4D以上の3次元で行う。
- 構造は質量・ばね・減衰でモデル化し、流体と双方向に連成させる。
- 流速を少しずつ上げ下げし、ロックインの範囲と履歴を確かめる。
「計算では揺れなかった」
ある工場の排気筒で、完成後に風速10 m/s前後のときだけ大きく揺れる現象が起きた。設計時のCFDでは、風速15 m/sと20 m/sの強風条件だけを計算しており、そこでは振動は小さかった。渦励起振動は強い風ではなく、固有振動数と渦の周波数が合う特定の風速で起きるので、その風速を計算していなかったのが原因だった。最終的にらせん状のストレーキを取り付けて揺れは収まった。計算条件を決める前に、危険な風速を手計算で求めておくことが大切だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 強風条件だけを計算 | 危険な流速を見逃す | Ucr を先に求める |
| 2次元で振幅を評価 | 揚力を過大評価 | 3次元・十分な軸長 |
| 時間刻みが粗い | 渦の放出がずれる | 周期の1/100 |
| 付加質量を無視 | 固有振動数を誤る | 水中の固有値を使う |
| フラッターと混同 | 対策を誤る | 振幅の頭打ちを確認 |
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