動的メッシュ(メッシュ変形)

カテゴリ: 流体解析・メッシュ | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for mesh motion theory - technical simulation diagram
動的メッシュ(メッシュ変形)

理論:変位を内部へ広げる

概要

🙋

弁が開閉する流れを計算したいのですが、格子はどう動かせばいいですか?

🎓

一番手軽なのは、格子点のつながりを変えずに位置だけを動かすメッシュ変形だ。物体の表面の動きを境界条件にして、内部の格子点の動きをなめらかに決める。よく使うのがラプラス方程式で変位を拡散させる方法で、計算は軽い。ただし動きが大きくなると、どこかのセルが押しつぶされ、最後には裏返って計算が止まる。どこまで動かせるかは、拡散係数の分布と、物体と壁の間にどれだけセルがあるかで決まる。限界を超えるなら、途中で格子を作り直すか、重合格子のように格子ごと動かす方法を使う。

ラプラス方程式による変位の拡散

$$ \nabla\cdot\left(\gamma\,\nabla \mathbf{D}\right) = 0,\qquad \mathbf{D} = \mathbf{d}_{body}\ \text{on body},\qquad \mathbf{D} = 0\ \text{on outer wall} $$

拡散係数の選び方

$$ \gamma = 1,\qquad \gamma = \frac{1}{r},\qquad \gamma = \frac{1}{r^2}\qquad (r:\ \text{distance from body}) $$

γ が大きい場所ほど変位が一様になり、格子は形を保ったまま動く(硬い)。γ が小さい場所に変形が集まる。

Coffee Break よもやま話

ALE法と動く格子

流体の計算で格子を動かす考え方は、1970年代のALE(任意ラグランジュ・オイラー)法にさかのぼる。流体と一緒に動くラグランジュ的な見方と、空間に固定したオイラー的な見方の中間として、格子を自由に動かせるようにした。格子が動くと、セルの体積の変化がそれ自体で流れを作ってしまわないよう、幾何学的保存則(GCL)を満たすことが必要になる。これを守らないと、静止した一様な流れでも、格子を動かすだけで速度や圧力が乱れる。

計算例

例:一辺2の物体を上へ動かす

10×10の正方形領域、格子幅0.25(41×41点)。中央に一辺2の正方形の物体があり、上へ d だけ動かす。外壁は固定で、物体の上面から外壁までの間隔は4(16セル)。各セルの面積を元の面積と比べ、最も小さいものを評価した。

拡散係数d = 1 の最小面積比20%を下回る移動量裏返る移動量最もつぶれる場所
一様0.461.501.90物体の角
1/r0.612.102.60外壁の近く
1/r²0.381.301.65外壁の近く
拡散係数物体のすぐ上のセルの変位物体と外壁の中間の変位
一様0.90 d0.38 d
1/r0.98 d0.65 d
1/r²1.00 d0.82 d
🙋

物体の近くを硬くするほど良いと思っていましたが、1/r² だと一様より早く裏返るんですね。

🎓

動かす量そのものは変わらないので、どこかで吸収しなければならない。一様だと物体の角のすぐそばに変形が集まってつぶれる。1/r にすると物体の周りが一緒に動き、変形が間隔全体に分散するので、限界が1.9から2.6に延びた。ところが 1/r² では物体の近くが硬すぎて、物体と外壁の中間でもまだ0.82 d 動いている。その結果、最後に残った外壁のそばの数セルが全部の動きを引き受けてつぶれる。硬くするのは、物体の近くの細かい境界層の格子を守るためで、強すぎると反対側に問題を移すだけになる。実際の計算では、一番つぶれるセルの場所を必ず確かめるとよい。

方法の選び方

  1. 動きが小さい(間隔の数割以内)ならメッシュ変形で足りる。
  2. 拡散係数は 1/r 程度から始め、最もつぶれるセルの位置と面積比を監視する。
  3. 面積比が閾値(例えば0.2)を下回ったらリメッシュする。
  4. 大きな並進・回転には重合格子やスライディングメッシュを使う。
  5. 幾何学的保存則を満たしているか、一様流が乱れないことで確かめる。
Coffee Break よもやま話

「弁が閉じる直前に止まる計算」

ある逆止弁の開閉の計算で、弁体が弁座に近づくと毎回計算が止まった。弁体と弁座のすきまにあった数セルが、メッシュ変形で押しつぶされて裏返っていた。すきまが0になる閉止の瞬間は、格子の変形だけでは原理的に表せない。最小すきまを0.1 mm残して、その位置で格子を作り直すように変え、すきまの流れは別に抵抗として扱うことで、開閉の全行程を計算できるようになった。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
拡散係数が一様物体近くがつぶれる1/r 程度にする
硬くしすぎる外壁側がつぶれる最悪セルの位置を見る
すきまを0にする必ず裏返る最小すきまを残す
幾何学的保存則を無視一様流が乱れるGCL対応の離散化
大きな回転を変形で扱う格子がねじれるスライディング・重合
🙋

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